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「クリアボイスラボ」第2回・前編:今の民主主義を支えるシステムビルダーとしての対話

私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名もの多種多様な方々に受講していただいています。

私たちは今年から、これまで受講してくださったアラムナイ(同窓生)の方々を応援し、繋ぐ場となる「クリアボイスラボ」を開催することにしました。本イベントでは日本海外問わず、目的を持って人々を巻き込み、活躍している方々をゲストとしてお招きし、それぞれのクリアボイスについてお聞きします。日本社会におけるさまざまな課題を解決するために、デンマークで行われた実践がヒントになればと考えています。

私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名もの多種多様な方々に受講していただいています。

私たちは今年から、これまで受講してくださったアラムナイ(同窓生)の方々を応援し、繋ぐ場となる「クリアボイスラボ」を開催することにしました。本イベントでは日本海外問わず、目的を持って人々を巻き込み、活躍している方々をゲストとしてお招きし、それぞれのクリアボイスについてお聞きします。日本社会におけるさまざまな課題を解決するために、デンマークで行われた実践がヒントになればと考えています。

今回は2023年6月に開催された第2回目より、ゲストスピーカーのウッフェ・エルベック氏による「新しい文化と社会を共創する〜未来の希望を創るシステムビルダーとしての生き方〜」と題した対談の様子を前・後編に分けてお届けします!

●ゲストスピーカーの紹介

Uffe Elbæk(ウッフェ・エルベック)さん
デンマークのユースムーブメント「The Frontrunners」、ビジネスデザインスクール「KAOSPILOT」、コンサル企業「Change the Game」を立ち上げたのち、2011年に政界に進出。2019年まで政党「The Alternative」の代表を務めるなど、教育や政治、さまざまな分野でよりよい未来を創るための活動を行っている。

●インタビュアーの紹介

藤井大輔(ふじい・だいすけ)さん
富山県生まれ。大阪大学経済学部を経て、株式会社リクルートに入社。2004年にはフリーマガジン『R25』を創刊し、編集長として毎週60万部発行する。40歳を機に地元・富山に戻り、高齢者福祉事業を行うかたわら、社会福祉士の国家資格を取得し、地域包括支援センターでも勤務。2019年4月、富山県議会議員に初当選。

●政治家がいかに市民をサポートできるか

※本講義はウッフェ氏の希望で、対談形式での進行となりました。インタビュアーとして富山県議会議員として活躍する藤井大輔氏をお迎えしています。

藤井:
これまで教育・政治・社会を作るシステムビルダーとして活動されてきたウッフェさんに質問させていただくにあたり、まずは日本の現状をお伝えしたいと思います。

日本は今、これまでの急激な人口増から、急激な人口減へと切り替わる過渡期にあります。しかし、私たちを支える社会のシステムは敗戦後に作られたもので、人口減を迎える今、変革が迫られています。しかし、変革は進んでいないというのが現状です。

.現在の日本の人口はちょうど人口増の時代を支えてきた人たち、つまり70歳前後の「団塊世代」と50歳前後の「団塊ジュニア世代」にボリュームゾーンがあり、未来を支える若い世代はその6割程度しかいません。2060年には人口の4割ほどが65歳以上となり、いっぽうで労働力人口は少ないという超高齢化社会が予測されています。

未来を担う若者たちの声が非常に重要になるにもかかわらず、日本の若い世代は政治に無関心で、投票率は非常に低いのが現状です。これでは日本の民主主義は未来を生きる人々の意見が反映しにくい状況になってしまうのではないか、と懸念しています。

いっぽうで、デンマークの社会は若者の投票率が非常に高く、8~9割と聞いています。それほどまでに成熟した社会だからこそ、人々が手を取り合い、共創できるのではないかと思います。ウッフェさんは、デンマークの民主主義の成熟度についてどのように感じますか?

ウッフェ:
デンマークは他国に比べ、民主主義の歴史が非常に長い国です。民主主義の起源は1849年にあり、その年には憲法が制定されました。また、1950年には女性に選挙権が与えられています。また、民主主義的な対話がアクティブに行われてきた文化があり、市民と政治家との間で信頼関係が構築されています。

これはポジティブな側面ですが、いっぽうで課題もあります。確かにデンマーク国民の民主主義への信頼度は高いのですが、実際に政党の一部として活動している市民は3%しかいません。かつては25%の市民が何らかの形で政治と関わっていたのに対し、今は3%まで激減しているのです。これは、政治への関心や信頼が薄くなっている日本と同じ現象だと思います。

藤井:
確かに3%は驚きの数字です。とはいえ、デンマークには投票という行動を通して、自分の意見を社会に反映したいと考える市民が多いのは確かですよね。市民が意見を表明することこそが、新しいシステムを作るときの原動力になるのでは、と思います。

ウッフェ:
世界から見ると確かにデンマークは成熟した民主主義国家だと思います。それでもやはりジレンマを感じることは多いです。そのジレンマの中で私が考えているのは、先ほどお話しした政党の中でアクティブに活動している3%以外の市民、つまり97%の人々をどうしたら政治の世界に巻き込めるかということです。

それにはふたつのやり方があると思います。まず、政党そのものの活動をいきいきとした魅力的なものに見せていくことで、市民とコミュニケートしていくこと。もうひとつは、何らかの形で市民同士が活動するための集会を作ること。このふたつをパラレルで動かしていくことが必要になります。

そのために私たちのような政治家がいかに市民をサポートできるかを考えることが重要です。どうすれば政治における、市民の権威を取り戻せるか。ローカルのコミュニティレベルでもよいので、市民が社会に対してメッセージを発信できるようにサポートしていくことが務めだと思っています。

●デンマーク社会を支える3つのセクター

藤井:
ウッフェさんの取り組もうとされていることは、私が富山で行っていることに似ている部分があって嬉しいです。市民レベルで声を集め、それを原動力として物事を前進させるには、官民連携といった方法があると思います。民間事業と行政が一緒に取り組む際のご経験をお聞かせください。

ウッフェ:
その質問にお答えする前に、まず私たちがデンマークのシステムをどうとらえているかを説明したほうがよいかと思います。私たちはデンマーク社会には、次の3つのセクター(団体や組合、機関)があるととらえています。

①   プライベート・セクター(企業などの民間のセクター)
②   パブリック・セクター(公官庁などの公的なセクター)
③   シビル・セクター(市民によるセクター)

デンマーク社会はこの3つのセクターなしに語ることはできず、また3つのセクター各々が機能せずによい社会を作ることは難しいものです。そして社会課題に対し、セクター間を超えてやり取りをし、互いに得意なことを組み合わせて解決する、いわば「ハイブリッド・ソリューション」を作り出すのがデンマーク社会の特徴です。

今、私たちは国境を超えたさまざまな課題を抱えています。たとえば、気候変動や移民・難民の問題などがありますが、それらはどれかひとつのセクターだけが解決することは難しい。セクター間が連携し、解決策を見出していくこと――私はそれを「フォース・セクター(第4のセクター)」と呼んでいます。それは3つのセクターが統合されたもので、今、世界で求められていると感じているのです。

藤井:
素朴な質問なのですが、ハイブリッド・ソリューションというのはどうしたら実現できるのでしょうか?

ウッフェ:
そうですね……ハイブリッド・ソリューションを実現するには、まずハイブリッド・オーガナイゼーション(組織)を作ることが大切で、そのためにフォース・セクターが必要になってきます。実際にアメリカでも「フォース・セクター・カンパニー」のような新しい組織体が生み出されているんですよ。それは各セクターの“いいとこ取り”をしたカンパニーで、教育、農業、文化など、多く分野で生まれています。働き方もさまざまで、フルタイムもパートタイムもボランティアもいます。

未来の社会を作るうえで、さまざまな社会課題に対応するためにどのような組織を作るのかが、根本的な問いとなるでしょう。その際にフォース・セクターはひとつの解決方法だと思います。

●AIやSNSは民主主義の脅威になり得る

藤井:
今、日本では「ChatGPT」のようなAIの存在が、社会にプラスなのか、はたまたマイナスなのかで議論が巻き起こっています。ウッフェさんはAIによるイノベーションをどうお感じですか?

ウッフェ:
新しい組織や技術には、光と影、両方の側面があると思います。デンマークのみならず、EUの国々の間ではAIに対しては批判的になるべきだととらえる意見が多いです。AIをどのように活用していくかを決める、新しい法律も生まれつつあります。

また、AIだけでなく、Googleのような検索エンジンやMeta(Facebook)、Twitter、InstagramなどのSNSをプライベート・セクター(民間)の人々がどう使うべきか、考えないといけません。何らかのリミットを設けるべきだ、という議論もなされています。

なぜならば、それらメディアに対して、巨大なパワーを持っている企業が存在するからです。民主主義を作るための選挙においても、それらが間違った形で使われることもあるでしょう。また、国が情報操作を行うケースもあります。

私は民主主義の未来を考えると心配になってくるのです。もし市民がSNSなどのメディアからしか情報収集をしなくなったら? そしてその情報自体が操作されたものだったら? と。巧妙に作られすぎて、もはや真偽のほどがわからないほどに操作されていることもあるでしょう。

市民のデジタルライツについて、もっと考えられるべきだと思います。民主主義国家をつくるうえで、AIやSNSは脅威にもなり得るでしょう。

藤井:
貴重なお話をありがとうございました。

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★次回、後編では参加者からの質疑応答の様子をお伝えします。

KAOSPILOTのCreative Leadershipのプログラムは、10月には対面での開催を予定しております。ぜひチェックしてみてください。

Creative Leadershipプログラム開催予定
10月:対面で学ぶコース

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