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希死

いつからか生まれた希死念慮が私から消えない。
ずっと何かと戦っている。それが誰なのかどこにいるのかわからない。
そんな日々をおくっている。
 
私は2007年5月3日福井県敦賀市で産まれた。
幼少期の記憶は殆どなく、よく虫や鳥の死骸を夢中で見ていたと
母から聞いたことがある。母はそれをものすごい形相で見ていたという。
それもそうだ。4歳の娘が友達とも遊ばず、ゲームもせずに夢中で死骸を見ているのだからそうなるのも否めない。

 ふと、思い出すことがある。
子供の頃よく父は東尋坊の海へ連れて行ってくれた。
父は何も喋らず眺めっているだけで、そこは何もなく
ただただ、海が綺麗でさざ波の音が私の鼓膜へ入っていく。
美しい音楽のように鼓動が揺れた。
目を閉じるとそこにはもう一人の私が海に立っていた。
どうして私が海に立っているのか、理解が追いいつかなかった。
笑って私を呼んでいる様な気がして、私は怖くなり父に帰ろうと強請ったのだった。

あの日君は呟いた。
「私はあなたであなたは私でもあるのよ」
意味が分からない。
感情が意思を持ったみたいにコントロールの利かない夜もずっと君はそばにいたんだ。
「大丈夫。大丈夫。」そう言って君は私の手首を切ったよね。
差し伸べてくれた手は冷たく海氷を物語った。

 あの日も君は大丈夫と言って笑っていたのだろうか・・・
そう、きっと私はずっと死にたかったんだ。何故なのかはわからない。
ただずっと生まれてくる希死念慮。
辛い、苦しい、怖い。
自分の部屋で溺れそうになる夜がある。
ずっと助けてほしかった。気づいてほしかった。
誰でもいい。「大丈夫だよ」って言ってほしかった。
そう気づいた時にはもう君は居なかった。
父と見に行った東尋坊の海のさざ波は私にそう言い聞かせてくれてたのかもしれない。
君は居ない。私は私でただそれだけの事。

 私は5月3日にあの場所に行くことにした。もう一度会いたい。
ちゃんと言いたい。
ばいばい、またね。って。


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ここまで読んでいただきありがとうございます。
この短編小説はこれから公開する歌のバックストーリーでもあります。
是非読んでいただいたうえで歌詞を見て聴いていただけると嬉しいです。

希死/星を撫でる




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