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アメリカの戦争に協力するニューヨークタイムズ紙


 
 ガザ戦争に反対する作家たち(かつての「ベトナム戦争に反対する作家たち」をモデルに結成された、パレスチナ人の解放を目指し、パレスチナ人と連帯する文化団体)
 Mondoweiss, 2024年4月27日

 3月14日の朝、数百人の抗議者がマンハッタンのニューヨークタイムズ本社のロビーへなだれ込んだ。我々は覆面とケフィエ(訳注:これはパレスチナ「抵抗」の象徴の意味となっている)を身に着け、たくさんのプラカードを掲げた:「ボイコット、投資引き揚げ、購読中止」をクロスワード式に書いたプラカード、ニューヨークタイムズのロゴの「タイムズ」に赤色マジックでペケ印を入れ、代わって「ウォー・クライムズ(戦争犯罪)という韻を踏ませた語句に置き換えたプラカードなど。やがて、スローガンを詠唱した。「フリー、フリー、フリーパレスチナ」とみんなが一斉に詠唱した。
 数フィート離れたところではまったく異なるシーンが展開していた。その日は年次恒例の「ステート・オブ・ザ・タイムズ」(タイムズの現状)があり、世間から尊敬を集めている編集者や取締り役員が集まっていた。ニューヨークタイムズ発行人で会長であるA.G.サルツバーカーが同紙の一年間の活動(及びそれに対する批判)を振り返って演説する日であった。
 「わが紙に対する批判が大きく高まっている現在、何故我々がそれほど注目されるのか、我々自身が自覚しなければならない」と、たぶん抗議者たちの詠唱への反応として、会長は言った。つまり、国民がわが紙を呼んでいる。国民がわが紙を信頼している。国民が我々に多くを期待している。国民が我々が大切だということを大切だと信じるからである。だから、ニューヨークタイムズが注目されるのだ、と会長は言いたかったのだろう。
 ニューヨークタイムズ本社ロビー座り込み ― ニューヨーク市警によって一斉検挙され逮捕されたが ― は同紙のシオニスト国家によるガザ虐殺の報道の仕方に抗議する集団行動の一つであった。本社の外でも、市の5つの区すべてで、我々は「新聞配達少年」となって、我々「ガザ戦争に反対する作家たち」が月に二回発行する『ニューヨーク・ウォー・クライムズ』の最新版を配る活動をやった。その日の早朝、別の一団がクィーンズ区のカレッジ・;ポイントにあるニューヨークタイムズの印刷工場をピケで封鎖して、その日の朝刊の発行を大きく制限した。さらに、ウェブサイトを新設して、ニューヨークタイムズを徹底的に批判した。

 ジェームズ・ボールウィンが1972年に「王国は暴力権力だけでは自らを維持できない」と書いたが、そのとおりで、すべの王国は民衆の同意を必要とする。その同意は、王国の支配を正当化する歴史的談話という神話で形成される。民衆を見下げ、王族の利己的利益中心で、反対者を流血弾圧してきた現実の歴史は、権力の持続可能な談話にならない。
 本当の米帝国の醜い歴史 ― 無法な戦争、極秘に進めたクーデター、ナパーム弾、地獄の責め苦の拷問(fire and brimstone)、暴力的企業統治の押し付け等々 ― を隠して、人当たりのよい話に変えなければならない。19世紀、20世紀にヨーロッパの帝国諸国がアジア・アフリカ・ラテンアメリカ世界を野蛮な暗黒世界から救いあげる慈悲深い救世主を装ったように、米国も目に余る力の行使を正当化しなければならない。
 では、政府は誰にその仕事を依頼するのであろうか。誰に犯罪ロンダーリングを依頼するのであろうか。
 残酷なイラク侵攻のための嘘の口実を政府に忠実にでっち上げたのは誰か? リビアを破壊すべきという無茶苦茶な談話を作り出したのは誰か? 国際社会からサディスティックな戦争を批判されているシオニスト国家が心の支えと支援を求めて元気づく相手は誰か?それは、ホワイトハウスのお気に入りの共犯者、いわゆる指定広告新聞であるニューヨークタイムズである。


 ニューヨークタイムズは単なる悪い一報道機関ではない。それは民衆の文化意識の中で特別な地位を占めている。サルツバーカーの言葉を使うと、一般国民がニューヨークタイムズを読み、ニューヨークタイムズを必要としているのだ。ニューヨークタイムズがサダム・フセインが大量破壊兵器を所有してそれを使おうとしていると第一面に書くと、民衆はそれを読んで、本当だと思ったのである。ニューヨークタイムズはニュースを伝えるのでなく、ニュースをでっち上げたのである。ニューヨークタイムズを購読していない人々もニューヨークタイムズの編集者の選択に影響された新聞を読み、同じように影響される。
ラシッド・ハリディの言葉を引用する:「それはグレー・レディ(白髪の老女。ニューヨークタイムズのニックネーム)である。政府の広報新聞である。自分のことを非常に尊大に語り、非常に多くの読者に依存する新聞である。私の関心事 ― 中東問題 ― に関する限り、まったく信頼できない、有害な新聞である。ずっと昔からそうであった。」
 しかも、ニューヨークタイムズはどんどんと唯一のジャーナリズムという位置を獲得しつつある。米国では採算のとれる唯一の大新聞である。記者数は何千人といて、世界中に散らばっている。読者数の巨大で、他の大新聞の読者数を合計したよりも多い。
 ドナルド・トランプの選挙に関する報道 ― そのおかげでニューヨークタイムズの購読者数が大きく増えた ― の影響で、多くの人々がニューヨークタイムズを悪徳政治家のスキャンダルを暴露する進歩的ジャーナリズムと見るようになった。一般的に、客観的情報の宝庫、ジャーナリズムの高潔さという理想を示す新聞と見られた。それは、綿密に計算して作り上げた評判、リベラル派のフィクションである。


 この数十年間米帝国の犯罪は、ニューヨークタイムズの超現実主義的レンズで屈折されて国民に伝えられてきた。米国が世界に撒き散らす恐怖でなく、それを慈悲深い指導者、脅威に対する正当な反応、「民主主義的価値観」の促進者という談話となるのである。
 ニューヨークタイムズの紙面では、癒しむべきことに、戦争犯罪が必要悪として表現される。CIAが裏で画策する右翼のクーデターを民主主義を求める大衆運動と報道する。米国関与に反発する民衆の抵抗はまったく報道しない。
 我々の『ニューヨーク・ウォー・クライムズ』はニューヨークタイムズが偏りのない情報の宝庫ではなくて、世故にたけたイデオロギー操作武器であることを、証拠をあげて説明している。ニューヨークタイムズは恥ずべき長い歴史があるが、特にこの7カ月間のガザ報道は酷い。イスラエルのガザ・パレスチナ人に対するジェノサイドを自衛戦争と描いて、イスラエルとそれを支援する米政府にへつらう情けない三文ジャーナリズムに身を落としてしまった。占領軍が病院や学校を攻撃している事実を理屈をつけてカバーし、パレスチナ人虐殺を引き起こしたのはハマスのテロ行為だとハマスを悪者にする。
 ニューヨークタイムズ編集部は元イスラエル諜報将校を雇用してえげつないとしか言いようがないプロパガンダを流し、10月7日のハマスの奇襲についてセンセーショナルな嘘を語るシオニスト評論家にコラムを書かせている。イスラエルは火薬だけでなく、飢えを攻撃武器にしているが、ガザ民衆の飢えについて国際社会が心配しているにも関わらず、ニューヨークタイムズがこの数か月間飢えの問題を取り上げす、取り上げても自然災害のように描き、飢えを引き起こしたイスラエルの役割を見えないようにした。イスラエル占領軍の女性兵士が虐殺行為を行うのを、驚くべきことに、フェミニズムの勝利であるかのごとく報道する。そのイスラエル軍が新聞記者などジャーナリストを標的に殺害しているが、報道の自由の守り神のように気高い主張をしているニューヨークタイムズには、それを伝える記事がまったくない。ウクライナの場合は侵攻への抵抗をもてはやしながら、パレスチナの場合は占領や封鎖やアパルトヘイトへの抵抗の権利を認めないのである。ニューヨークタイムズは、イスラエル占領軍がメディアに対して嘘ばかり言ってきた十分に証明された長い歴史があるにもかかわらず、占領軍の主張をそのまま紙面に無批判に事実報道として載せるのが、典型的なやり方である。この嘘報道のために、例えばイスラエルのアル・シファ病院の攻撃や小麦粉虐殺(訳注:2月29日、パレスチナのビジネスマンが供給しイスラエルが通過を許可した小麦粉を積んだトラックに群がる人々を、イスラエルga軍が発砲して、死者118人、負傷者760人を出した事件。イスラエルは群衆が殺到したために折り重なって倒れた事故と説明したが、現場の人は軍の発砲だと主張。BBCがイスラエル提供のビデオ映像を調べると、軍の発砲場面を削除したらしいフィルム修正の痕跡を見つけた)。などのリアルタイムの戦争犯罪が見えなくされ、あるいは嘘で正当化されるのである。我々は、インターセプトなどと同じように、事実データに基づいて分析するが、その中で明らかに見えるのは、ニューヨークタイムズがハマスの攻撃に関しては非人間的で吐き気を催すような激しい言語で表現し、そしてイスラエルの非倫理的な行動の報道に関しては、極端に偏向して情報を曖昧にしたり、否定したりするのだ。例えば、情報源の引用頻度は、イスラエルや米国の情報源の引用はパレスチナ側の引用より3倍も多い。高官の言葉の引用を調べると、イスラエルや米の高官の引用とパレスチナ人指導者の言葉の引用比率は9対1である。


 10月7日以降我々はニューヨークタイムズのガザ戦争報道の分析する紙新聞を、パレスチナに連帯するフェミニスト・ネットワークと共同して、発行してきた。フェミニスト・ネットワークは、ニューヨークタイムズが騒々しくがなり立てた10・7攻撃でハマスが集団レイプしたという記事は真っ赤な嘘のプロパガンダであることを明らかにした。我々の新聞は、ニューヨークタイムズの紙面では見られないパレスチナ人芸術家、作家、詩人を取り上げた。彼らがガザから直接送ってきた詩や書きものを出版し、彼らに原稿料を支払い、避難費用の資金を集める運動をした。
 ニューヨークタイムズの不正行為は構造的である。我々のニューヨークタイムズのアーカイブの注意深い調査の結果、同紙の醜い過去が明らかになった。米政府が嫌う国や人物を悪魔のように報道し、イラン(1953)、グアテマラ(1954)、ブラジル(1964)、ボリビア(2019)で見られた米国支援のクーデターによる政権交替を、民主主義的解放であるかのように報道した。米国が戦争をするたびに、律儀にそれに対する民意の同意を形成する言論活動を展開した。中でも有名なのはサダム・フセインが核兵器を所有しているというデマと、根拠のない報道でNATOのリビア攻撃を引き起こしたことである。


 ニューヨークタイムズはまたホワイトハウスとCIAと直接協力して、報道すべき事実を隠蔽して正しいメディア活動を破壊した。2004年、ブッシュ政権の圧力で、国民をスパイする大量監視計画の爆弾的ニュースを、ブッシュが再選するまで、棚な上げにして流さなかった。また、1954年には、米が裏で糸を引いたグアテマラのハコボ・アルベンス大統領を追放したクーデターがあったが、クーデターの数日前にニューヨークタイムズは、CIAのアレン・ダレス長官の要請で、記者を全部グアテマラから引き揚げた。
 ニューヨークタイムズはの仮面を剥いで本当の姿を明らかにすることが我々の目標である。リベラル仮面を被った帝国国家の手先であることを明らかにするのだ。
 我々の「ニューヨーク・ウォー・クライムズ」という名は、1980年代にニューヨークタイムズのエイズ危機報道を厳しく批判したACT-UP(訳注:エイズ・パンデミックと闘い、エイズ患者の人権を守る草の根運動Aids Coalition to Unleash Power)が出していた刊行物『ニューヨーク・クライムズ』から借用した。オリジナル「クライムズ」の発行者の一人アヴラム・フィンケルスタインは我々とのインタビューで次のように語った:

  ニューヨークタイムズは資本家が着古した古着だ。それから抜け出す道はない。それなのに、ニューヨークタイムズは「リベラル」紙だと見られている。何度も誤った報道をし、政治的に有害であったにもかかわらず。

 我々が人々に望むことは単純である。ニューヨークタイムズをボイコットし、投資をしていればそれを引き揚げ、購読中止することである。ニューヨークタイムズの情報を信じないこと、彼らの嘘に騙されないようにしてください。ニューヨークタイムズ社で働いていたら、辞めなさい。辞めることができないなら、内部情報をリークしてください。友人や親族にニューヨークタイムズの不正を話してください。お金と時間をニューヨークタイムズから他のメディアに振り替えてください。
 最後に、パレスチナ人詩人で作家の故ガッサン・カナファーニの言葉を引用する:

  帝国主義はその身体を世界に、頭を東アジアに、心臓を中東に置いて、その動脈血はアフリカとラテンアメリカに届いている。だから、あなたがどこで帝国主義に抵抗を仕掛けて損害を与えても、それは世界革命への貢献になるのだ。

 バイデンのシオニスト国家支援を称えるホワイトハウスの記者室や大学キャンパスの反戦運動を弾圧する警察を激励するなど、シオニスト国家への共犯活動はの偽善はますます盛んになった。しかし、イスラエルの談話を支持し再生産するニューヨークタイムズのようなメディアはいつまでも無敵ではいられないであろう。
 我々はニューヨークタイムズを撃つことによって、米帝国の神経系統を撃っているである。米国の肉体を冒す神話を破壊しているのである。

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