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共同親権·誰のための法律か?

                                                                          編集部 かわすみかずみ

5月17日に今国会で可決した共同親権を含む民法改正案は、様々な立場から反対されている。1月の法務局家族法制部会での要綱案提出から3カ月というスピード審議だったため、多くの人がよくわからないまま通過させられた。家族のあり方を変えるこの法案について取材した。


家族法制部会が1月30日に提出した要綱案では、共同親権が盛り込まれた。
 これまで親の離婚後は、子どもは単独親権しか選べなかったが、双方の合意があれば共同親権も選べるようになった。ただし双方が合意しなかった場合は裁判所が判断し、DVなど特殊な事情がある場合は、裁判所が単独親権と判断できる。
 養育費については、法定養育費制度を設け、DV家庭や事情がある場合は裁判所を通じて請求できるほか、これまで裁判所の証明がなければ差し押さえができなかったが、公正証書でも証明となるよう条件を緩和された。面会交流については、裁判で係争中でも裁判官が面会交流を促せるようになった。
 この法案に賛成したのは自民、維新、公明などで、反対したのは共産、れいわなどだった。立憲民主は共同親権については必ず双方の合意があった場合のみとするよう要望した。与党はこれを付則に盛り込むことで合意し、衆議院通過となった。
 政府が共同親権を進める背景に、ハーグ条約がある。ハーグ条約とは、国際結婚でできた子どもを離婚によって片親が連れ去ることを防止するもので、締約国では引き渡しができる。また、離婚後に単独親権しか選べない国は日本やトルコなど少数で、多くの国が共同親権を導入している。アメリカやオーストラリアなどが共同親権を導入するよう日本に働きかけていたことも後押しになったようだ。
 だが、諸外国に比べて日本では子どもの人権が確立されていない。諸外国では離婚の際に、子どもに対して自らの権利が伝えられ、子どもの意見表明権がある。日本では裁判所が離婚の際に子どもの意見を聞くとされているが、親権のほうが尊重される傾向にある。
 

DⅤ家庭か否か裁判所は判断不能


日本維新の会は法案を積極的に推進するよう求め、選挙公約に盛り込んだ。共産党は議論が拙速だと批判した上で、子どもの人権を守る観点からの議論が必要と主張し、反対した。れいわ新選組は党として声明を発表し「断固反対」と主張。既存の制度でも対応が可能なことや、DV家庭が虐待者からの被害を継続させられる可能性に言及した。自民・野田聖子議員は単独で反対票を投じ、党から口頭注意を受けている。野田氏はテレビ番組で「子どもの意見を聞く場がなかったことは残念だ」と述べた。
 民間団体では、「親子の面会交流を求める全国ネットワーク」がこの法案に賛成する。同団体は親権がないために面会できない親などが結成したもので、政府機関との勉強会なども行っている。
 一方、「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」はこの法案に反対の立場だ。DV家庭であるかどうかを裁判所が的確に判断できるとは思えない、と主張する。
 全国青年司法書士協会は、会長声明を発表。法制部会では「子どもの最善を考える」と言いながら、子どもの意見表明権導入を見送ったことや、成立の過程で子どもの立場からの審議がなされず、親の立場からの法案になっていると批判した。
 また医療関係者は、緊急手術などの未成年への治療に際し、離婚後の両親の許可を得るのに時間がかかり、適切な治療ができなくなる可能性があると危惧する。治療者の中には、訴訟を恐れて治療を辞める者も出てくるかもしれないという。

「共同親権がないときに離婚してよかった」

大阪府内で児童相談所職員として働くAさんは、2019年に調停で離婚を経験した。
 離婚する4〜5年前から夫は家に寄り付かなくなり、次第に言動が支離滅裂になっていった。それまでパートで働き、夫から生活費を得ていたAさんは、弁護士や家庭裁判所に助けを求めるためにお金がかかり、貯金を切り崩した。夫は生活費を入れなくなり、弁護士を通じて夫に請求。3人の子どもを育てながら調停を進めた。
 当時を振り返り、Aさんは「あのときは本当に疲れていました。友人に相談するとか、法律を調べるとかする余裕があったら、もっと自分の権利を主張できたかもしれません。早く調停を終わらせたいと思い、不本意でも承諾したこともありました」と語る。
 共同親権導入に関しては、「今の制度でも養育費の請求ができ、給与差し押さえまでできます。面会交流も、私の知る限り親権が無くても要求できますし、不許可になることはほとんどありません」という。
 「共同親権導入後、児童相談所の仕事が煩雑になることはあるか」と聞くと、「煩雑になります。養護施設などの入所の際、親権者の許可が必要になりますが、共同親権だと両親の意見が違うときにどうしたらいいかわかりません。子どもに説明するときに辛いですね」と答えた。
 Aさんによれば、離婚後の夫婦では、相手の行為を邪魔しようとする心理が働くこともあり、対応が難しい場合もあるという。Aさんは、「共同親権がないときに離婚してよかったと思います。共同親権だったら子どものことも決められなかった。ひとりで決められたのはよかったと感じますね」と語った。    
           ※冒頭部分は衆院での可決を受け、文章を変更した
                      (2024年5月5日号掲載)

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