《記事小説》小川未明読書感想文通 3通目
ショコさんと文通をするきっかけは、なんだったかは覚えていない。
おたがい、相手を知らないなか文通をしているというのは、なかなかに面白いと思う。
今まで、人とかかわりを持ちたくなかったのに、ショコさんと文通をするようになってから、手紙に書く内容を考える日々だ。
考えるうちに、手紙というものは本当に不思議だと思う。
手紙は格式ばったものであり、厳格なルールがあり、その通りに書かなければならず、私は書き損じというものが一番怖くて、書けずにいた。
はじめて、ショコさんから手紙が届いたとき、驚いたものだ。
季節の挨拶などなく、いきなり務めている仕事の雑談からはじまる。
ショコさんは書き損じの文字をペンで黒く塗って、続きを書くのである。他にも、二重線で消したままの文章もあったりする。
たいがいそういう内容が書かれているのは、ショコさんが不平不満を書いているときだ。だから、仕事の内容なのである。
ただ、ショコさんは散々愚痴を吐いたあと、その倍量の好きなことについて書いてくれるのだ。
とりとめもないことから、楽しいと思うこと、好きなこと、尊敬している人のこと、面白かったこと、くだらないと思うかもしれないけどからはじまるはなし。
ショコさんは多趣味なのだな、いろんな考え方をするのだな、きっと才女なのだろう。女性かどうかはわからないけど。
そうやって、ショコさん像みたいなのができあがっていくのだけど、見た目はあまり考えたことがない。
内面が魅力的なひとは、きっと外面なので勝負しないのだろうと思うから。
そんなショコさんから小川未明の感想文を書かないかともちかけられたとき、私は飛びあがるほど、うれしかったのだ。
そのことを書こうとすると気恥しいので、まだ書けていない。
そして、ショコさんの小川未明の感想文は、また愛についてだった。
愛は不思議なものを読んだわ。
小説だったわね。いちばん初めに小説じゃない愛に就いての問題を読んだから、これがはじめての小説だったわね。
あらすじを乱暴にまとめると、おしずがひたすら坊ちゃんを可愛がる、悲しくて、でも救いのあるおはなしだったわ。
こう、胸を引き裂かれるほどの痛みがあってから、きれいに浄化されたというのかしら、難しいわね…。
小説の感想を書くのって、とっても難しいわ。
でも、おしずが坊ちゃんに愛情をもって接していたのが、痛いほど伝わるのって、本当に素敵ね。
そう、まるで愛に就いての問題を先に読んでいたからかしら、小川未明にとって、愛は不思議なのだと言いたかったのかもしれないわね。
愛って、本当に不思議だもの。
私は坊ちゃんのお母さんが注意するところが、好きだったりするわ。
母親とは優しいだけじゃなく、厳しいもの。厳しさがあってこその母親だものね。
ふふふ。いいわね、小川未明。ますます読みたくなったわ。海ちゃんの感想も面白かったわよ。
文通してくれてありがとうだなんて、とってもうれしいわ。だから、つづけましょうね。でも、無理しちゃダメよ。
まるでショコさんが僕のお母さんになったようである。
とても可愛い人だなあと、いつも思う。
でも、会ってみると違う印象をもつかもしれない。
僕は、もしショコさんと会えるのなら、今は心の準備ができていないと答える自信がある。
せめて、ショコさんみたいに素直な気持ちをつづりたいけど、とっても恥ずかしくてしょうがないのだ。
だから、先延ばしにしてしまう。
でも、もし、ショコさんが本心を手紙につづっているのなら、僕は真摯にこたえたい。
そろそろ小川未明を読もう。そして、手紙を書こう。