《記事小説》小川未明読書感想文通 7通目


ショコさんからの手紙がくるスピードは、とんでもなく早い。

昨日、手紙を送ったら、明後日には、手紙の返信がくるぐらい早いのだ。

速達で送っていないから、ショコさんは私の近くに住んでいるみたいだ。

もしかすると、どこかで会っているのかもしれない。

ショコさんらしき人が、私にはなしかけてくるのを想像してみる。
きっと、落とし物をひろってくれるに違いない。私はよく落とし物をするから。

よく落とすのは帽子だ。外食をしたあと店に帽子を置き忘れることなど、日常茶飯事である。

あと、傘もよくなくす。折り畳み傘も、普通の傘も、だいたい同じ本数くらい、あわせて百本はなくしたのではないだろうか。

だれだって苦手なことはあるが、限度がある。
そう、ショコさんが苦手とする読書感想文でも読んで、少し気を晴らそう。


青い草を読んだわ。

義坊とお父さんがメインのおはなしだったわね。

家族が離れて暮らすのって、さびしいけれど、しょうがないことなのかもしれないわね。

でも、お父さんが都会に残ったのはどうしてなのかしら?

田舎に帰っても迷惑をかけるだけだから、遠慮をしたのかもしれないわね。
それに、田舎で尺八をふいても、お金をめぐんでくれる人は、いなさそうだわ。なら、いっそのこと都会でと考えたのかもしれないわね。

義坊がいたから、お父さんも都会で生きていけるのかもしれないわね。

大事な人がそばにいるって、とても素晴らしいことよね。

海ちゃんには、そういう人いるかしら?
私は、いるわよ。ときどき、うっとおしく思うこともあるけど、それは贅沢な悩みよね。



ショコさんの読書感想文は、とてもあたたかみがあって、私は好きだ。

苦手なりにも、がんばって書こうとしている。きっと、私の落としもの癖も、ショコさんの読書感想文のように、ちょっとずつなおるかもしれない。そう思いたいだけではあるが。

ショコさんには大事な人がいるみたいだ。

家族だろうか? 恋人だろうか? 気になるといえば気になるけれど、きくのはためらわれる。

でも、ショコさんは出会ったものなら、すべてふところに入れて、優しく見守るんじゃないだろうか。

私みたいな筆まめじゃない人間と、文通をつづけるなんて、忍耐力はかなりありそうだからだ。

なんだか、いつも返事が遅くなっていることが、申し訳なくなってきた。

今日中には手紙を完成できそうにないが、なるべく早く送ろう。



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