【ショートショート】空から落ちた先
生まれ故郷の空は地上よりも偉いと教えられた。
地上へ降りることは禁忌とされていた。
でも、俺は地上を見てみたかった。
地上へ降りる方法は、たったひとつ。
翼を地上に落ちるまで、使わないこと。
俺は地上へ真っ逆さまに落ちていった。
「馬鹿なのかい。あんたは」
落ちた先で、俺は女に拾われた。
とんがった帽子とマントを羽織った女。
とても美しい。
「森の中でじっとしてたら、魔物にみつかるだろ。私が見つけたから、よかったものの」
頭を中心に、擦りむいた腕や脚も、ていねいに泥を落とし、よくわからないものを塗りこんで、布で巻かれる。
「これでよし。当分は動いたらいけないよ。いいね」
なにを言われているかは、わからない。心配されているのは、よくわかった。俺は怪我がなおるまでは、女に世話になることにした。
ある日、女が帰らなかった。
俺は待つしかなかった。
俺の腹が減っても大丈夫なように、女はいつもたくさんの食べ物を用意してから出ていく。
腹は減ったが、あまり食べれない。
ひとりが寂しいなんて、はじめて知った。
ようやく女が帰ってきたとき、女は傷だらけだった。
俺はあくる日から、出かける女にキスをする。
昔に習った、怪我をふせぐおまじないだ。