悪逆皇帝の友 ~悪逆皇帝の親友に転生しましたので、せっかくだから原作改変して自分好みに推しキャラを幸せにしてやろうと思います!!~ 第1話 『社畜OL、異世界転生す』

■ あらすじ
ラック企業に勤める山下香織の生き甲斐は人気少女漫画『悪逆皇帝の友』である。ある日香織は作者急逝の訃報を聞くとショックのあまり憤死してしまった。次に香織が目覚めると、そこは『悪逆皇帝の友』の世界であり、しかも自分が主人公の悪逆皇帝アルフレッドの親友である騎士レオ・ハットンに転生したことを知る。レオになり推しキャラであるアルフレッドを絶対に幸せにしてやること決意した香織ことレオの孤独な戦いが始まるのであった。

■ シナリオ 本編

■ 大人気少女漫画『悪逆皇帝の友』作品内

 帝国軍と革命軍が平原で睨み合っている。
 悪逆皇帝アルフレッドは馬上で革命軍の陣容を眺めている。
 その傍らには騎士にして親友のレオ・ハットンがいる。

アル「我が騎士レオ・ハットン……いや、ここは我が友レオンと呼ぶべきか」

レオン「何でございましょう、アルフレッド陛下」

アル「二人きりの時は『アル』と呼べと言っているだろう?」無邪気な微笑を浮かべる。

レオン「ああ、分かった。それで何だいアル? もしかして怖気づいたとか?」悪戯な笑みを浮かべる。

アル「止せ止せ。相変わらず卿の冗談は優雅さと面白みにか欠けるな。帝国皇帝である余に恐れるものなどあるわけがなかろう? 何故なら、余には最強の騎士たる卿がついているのだからな」

 レオンとアルは見つめ合うと、噴き出す様に笑い合った。

レオン「それでアル、オレに何か話でもあるのか?」真剣な眼差しでアルを凝視する。

アル「恐らくこれが反乱軍との最後の戦いになるであろう。その前に卿……レオンに伝えておきたいことがあるんだ」

 真剣な眼差しで見つめあるレオンとアル。

アル「レオン、実は聞いてもらいたい話があるんだ。今後、何かあってもいいようにお前にだけ私の秘密を打ち明けておこうと思う」

レオン「戦いの前に不吉なことを言うな。それに秘密って何だよ? 子供の頃から一緒に同じ屋根の下で暮らして来て、兄弟同然のオレ達に秘密なんて何もないはずだぞ?」

アル「レオン。怒らないで聞いてもらいたい。実は私は……」

 その時、何処からか人影が現れる。

暗殺者「悪逆皇帝アルフレッド! 御命頂戴する!」

 それは暗殺者だった。暗殺者はボウガンを構えると、即座に矢をアル目掛けて撃ち放った。

レオン「アル!!!!」

 レオンの反応は一瞬遅れ、暗殺者の放った矢はアルの胸に突き刺さった。
 血を吐き、馬から崩れ落ちるアル。
 レオンの悲痛な絶叫が響き渡る。

N〈悪逆皇帝アルフレッドの運命や如何に!?〉

『次回に続く』のあおりで今週話が締め括られる。

■ 現実世界 電車内 夜 23時

 電車内で座りながらスマホで悪逆皇帝の友の最新話を読んでいる山下香織。
 その表情は相当興奮している様子。

香織「アル様、どうなってしまうの!? ま、まあ、主人公だから死なないとは思うけれども」

 香織は恍惚な表情で嘆息する。

香織「来週が待ちきれないわ。でも、おかげでまた一週間生きられるわね」

 電車が停車すると、香織は立ち上がり電車を降りる。

■ 帰り道 夜

香織〈私の名前は山下香織 (29)。毎日残業続きで過労死寸前である何処にでもいるごく普通の社畜OLだ〉

香織〈私の命を繋ぎ止めているもの。それは大人気少女漫画『悪逆皇帝の友』だ。これがあるから私は生きていられる〉

香織〈中でも主人公である悪逆皇帝アルフレッド様は私のイチオシの推しキャラである。アル様と毎週会えるから私の心臓は辛うじて動き続けていると言っても過言ではないだろう〉

■ 香織の自宅アパート

 香織は疲れ切った笑顔で帰宅する。

香織「わーい、今日は日付が変わる前に帰れたわ」

 ふらついた足取りでテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取るとTVをつける。

香織「明日は一ヶ月ぶりのお休みだし、今日は第一話から悪逆皇帝の友を読み返してみようかしら?」

 その時、TVからニュース速報が流れる。

TV・女子アナ『速報が入って参りました。大人気漫画『悪逆皇帝の友』の作者であるピュアタイガー氏が本日未明、亡くなったことが分かりました。死因は明らかにされておりませんが編集部より作品の打ち切りが決定したとの情報が入り……』

香織「……なんですと?」瞳孔が開く。

 その瞬間、香織の全身は真っ白になると、そのまま勢いよく床に倒れ込んだ。
 
N〈山下香織享年29歳。死因『ショック死』であった〉

■ 暗闇の世界

 香織は暗闇の世界で漂っていた。

香織〈アル様に会えないなら生きていても仕方ない。もうどうなっても構わないわ〉

 香織は瞳を閉じ、暗闇の世界に身を委ねる。
 その時、香織の前に光り輝く謎の存在が現れる。

謎の存在〈世界を改変せよ……!〉

香織〈誰なの? 私に何をしろって……?〉

 次の瞬間、香織の意識は深淵に落ちて行った。

■ 自宅 庭 昼

???「おい、早く起きろ」

香織〈この声は誰? 初めて聞く声だけれども、何故かとてつもなく尊いような気がするわ?〉

 香織は静かに目を開ける。

香織「私、確かあの時倒れて、それから……?」

 香織は頭に鈍痛を覚え、とっさに頭を手で押さえる。

???「おい、レオン、大丈夫か!?」

香織「ふえ? レオン? それって私のこと……!?」

 香織の目の前に少女のような愛らしい顔をした小柄な銀髪の少年の姿があった。
 少年の姿を見て香織は驚愕する。
 何故ならそこに居たのは間違いなく『悪逆皇帝の友』の主人公である悪逆皇帝アルフレッドだったからだ。
 
香織「ああああああああ、アル様!? 何故、どうして、如何にして拙者の前におわすのか!?」顔を真っ赤にし、激しく動揺する。

アル「しっかりしろ、レオン!? 頭でも打ったのか?」

 アルは顔と顔が接触する寸前まで香織に近寄ると、ジッと顔を覗き込んで来る。

香織〈あ、アル様のご尊顔が目の前に!? これは夢? 幻?〉

 アルは香織の頭をさすると、安堵の息を洩らす。

アル「どうやら怪我はしていないようだな? レオン、心配をかけるな。悪ふざけが過ぎるぞ?」呆れたように嘆息すると立ち上がる。

香織「あ、あの、貴方はアル様でお間違いございませんでしょうか???」

アル「おい、レオン。あまりしつこいと温厚な私でもいい加減怒るぞ? ああ、そうだ。私はアルフレッドで、お前は私の永遠の友レオ・ハットンだ。これでいいか?」少し怒ったような表情を浮かべながらも口元は弛緩している。

香織「ふえ? 私がレオ・ハットンですって???」

アル「いいからいい加減立ち上がれ。そろそろエステル姉様が昼食を届けに来てくれる時間だからな」そう言って香織に手を差し伸べる。

 香織は呆然としながらアルの手を取り立ち上がる。
 すると、その時、やけに視界が高いことに気付く。
 
香織〈はれ? 何だか視界が高いような……?〉ふと両手を見る。

 香織は自分の両手を見て驚愕する。それは女性のものではなく明らかに男性の手であった。

香織〈私の両手、いつの間にこんなにごっつくなったの!?〉

エステル「アル! レオン! お待たせ。お昼ご飯を届けに来たわよ?」

 遠くから女性━━アルの実姉エステルの声が聞えて来る。
 香織が声の方向に振り向くと、そこにはアルと同じ銀髪をなびかせた美女の姿が見えた。

香織「え、え、え、エステル御姉様!? ど、どうしてここに!?」

 その時、香織の脳裏に『悪逆皇帝の友』のワンシーンが過る。
 優しく美しいアルの実姉エステルの笑顔。その後、彼女の亡骸を前に泣きじゃくるアルの姿。それはこの後に実際に起こる悲劇の場面だった。
 香織は近づくエステルを呆然と凝視する。

香織〈あの時亡くなったエステル御姉様がどうしてここに? そもそもここは何処なの!?〉

 その時、香織はハッとなり自分の顔を触る。

香織「なんじゃこりゃあ!?」自分の顔に触れ、驚きのあまり思わず声を張り上げる。

 アルとエステルの二人は驚いた様子で香織を呆然と見つめる。

香織「あ、あの、鏡はありませんか?」

エステル「鏡? 手鏡でいいならどうぞ?」不思議そうな顔をしながら香織に手鏡を手渡す。

 香織はエステルから手鏡を受け取ると、恐る恐る手鏡を覗き込んだ。
 手鏡に映し出された自分の素顔を見て香織は驚愕に顔を強張らせた。
 そこには『悪逆皇帝の友』の登場人物であるレオ・ハットンの素顔が映し出されていた。

香織「な、ななな、何でここにレオンの顔が映っているのですかあああああ!?」顔を蒼白させて叫び出す。

 香織の悲鳴の様な叫びを前に、アルとエステルの二人は驚き固まる。

エステル「レオンったらどうしたの? 何だか様子が変よ?」心配そうにレオンを見つめる。

アル「エステル姉様、レオンの優雅さと面白みに欠けたいつもの悪ふざけですよ。さっきからこんな調子なんです」呆れたように嘆息する。

 その時、香織はアルとエステルを見つめながら心の裡で叫んだ。

香織〈私、もしかして悪逆皇帝の友の世界に転生しちゃったんですかああああああ!?〉


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