悪逆皇帝の友 ~悪逆皇帝の親友に転生しましたので、せっかくだから原作改変して自分好みに推しキャラを幸せにしてやろうと思います!!~ 第2話 『香織=レオン』

■ 自宅 庭 昼

 あれから何事も無かったかのようにランチを楽しんでいるレオン香織、アル、エステルの三人。
 しかし、レオンの中にいる香織は相当舞い上がっていた。憧れの『悪逆皇帝の友』の世界に転生したことが嬉しくて仕方ない様子。
 香織はサンドイッチを食べながら恍惚な表情でアルとエステルを眺めていた。

香織〈理由は分からないけれども、私が『悪逆皇帝の友』の世界に転生したことは紛れもない事実なのよね。しかも推しキャラのアル様、ではなく親友のレオン君に転生したのはポイントが高すぎるわ〉

 香織はジッとアルを見つめる。

香織〈何故なら、レオン君は脳筋でちょっとおつむが残念な子だけれども、作中最強キャラの肩書を持ち、しかもアル様の唯一無二の親友という設定だから、常にアル様のお傍にいられるんですもの! こんな幸せなことってないわ!!!〉

 香織の脳裏に自分が死んだ時の光景が過る。

香織〈へッ! 本体がどうなろうと知ったこっちゃないわ。レオン君としてアル様と共に過ごせるならこんな幸せなことはないわよね。ああ……こんなに幸せでいいのかしら!? 社畜OLだった頃が嘘のようだわ!?〉

 香織は精神世界で涎を撒き散らし恍惚な笑みを浮かべながら広大な花畑で独り踊り狂っている、という感じの妄想を見ていた。

香織〈つまり私がアル様を独り占めしてもいいってことよね? このまま原作通りに物語が進めば、レオン君は常にアル様とイチャイチャ出来るんだからたまらないわ!!〉ひゃっほー! と喜びはしゃぐ。

 その時、ふと『悪逆皇帝の友』最新話のラストシーンが脳裏に過る。それはアルが刺客によって胸を矢で射ぬかれた光景。

香織〈はれ? そうなると、アル様はいずれ刺客によって殺されてしまう……???〉

 香織の顔が蒼白する。

香織〈原作があそこで絶筆になっちゃったから、あの後どうなったか分からないんだった!! このまま原作通りに物語を進めてしまったらアル様の御身が危うくなるってこと!?〉

 香織は精神世界で絶叫し、絶望にうずくまる。

香織〈待てよ? なら私がアル様を幸せにして差し上げればいいのでは?〉

 その時、香織の脳裏に『悪逆皇帝の友』の全話の物語が走馬灯のように駆け抜けていった。

香織〈私はこれから起こる事件を全て把握している。なら、より良い方向に物語を誘導することも出来るはずだわ!?〉

 香織は精神世界で興奮した表情を浮かべると、立ち上がって天に向かって拳を突いた。

香織〈アル様を幸せにする為なら私は何だってやって見せるわ! 例えそれが血塗られた道だとしても構わない。やってやる、やってやるわ! アル様を幸せに出来るのは私しかいないのよおおおおお!!!!〉

 その時、香織は大勢の天使に祝福される、といった感じの幻を垣間見た。
 香織は一旦落ち着くと、エステルを見つめた。

香織〈差し当って、まずはエステル御姉様を不幸にする予定のハイラ帝国第一皇子グレンとかいうクソ野郎をぶち殺しますかね?〉

 香織は精神世界で無邪気な笑顔を浮かべながら毒を吐いた。

香織〈このまま物語が進めばエステル御姉様は現在勤めているパン屋の店主と結婚する予定だ。しかし、彼女が幸せになる未来は訪れない。何故なら、エステル御姉様は自死の道を選んでしまわれるのだから〉

 香織の表情が怒りに歪む。

香織〈この後、エステル御姉様は厄介なクズ男に目を付けられてしまう。悪逆非道。好色で有名なハイラ帝国第一皇子グレンによって無理矢理愛妾にされてしまうのだ。そして、城に連れていかれたその晩に毒をあおって死んでしまう。グレン皇子に汚されまいとしての苦渋の決断だったに違いない〉

 香織は忌々し気に嘆息する。

香織〈そして、アル様がエステル御姉様の復讐の為に皇帝まで成り上がって行くのが『悪逆皇帝の友』のメインストーリーになる。そして、皇帝になった後は悪逆皇帝として暴政を行い民衆を苦しめていくのだが、それは随分先のお話だ〉

 香織の脳裏に憎き仇でもあるグレン皇子の姿が過る。

香織〈前々から掲示板でも議論されていた内容だけれども、アル様をハッピーエンドにするにはエステル御姉様の存在は不可欠だと私も思うわ。もし、あの時エステル御姉様を失うことがなければ、きっとアル様は悪逆皇帝になどならずに、ごく普通の美少年としてレオン君と幸せな人生を送れたと思うのよ!!!?〉

 香織の脳裏に全裸状態のレオンとアルが見つめ合う妄想が過る。そしてそのまま二人が結婚するまで妄想は暴走してしまう。
 
香織〈尊い、尊いわ!? あれ、でも、もしそうなったらアル様を嫁にするのはレオン君だから私ってこと???〉

 その瞬間、香織の瞳が熱く燃えた。

香織〈なら、早速グレン皇子抹殺計画を練らなくちゃね。フフ、私にかかればあんなクソ皇子の一人や二人、この世から消し去るなんて容易いことだわ。だって私は全ての未来を知っているんですもの!〉

 その時、アルがドン引きした表情でレオンに話しかけて来る。

アル「レオン? さっきから何をやっているんだ? 突然にやけたかと思えばすぐに泣きそうになったり、かと思えば怒った顔をしてすぐにまた変な笑顔を浮かべたりと。本当に大丈夫か?」

香織「い、いや、大丈夫です! じゃない。大丈夫だ! ほら、この通りピンピンしているんだぜ?」引きつり笑いを浮かべながら腕の筋肉を見せて不自然な大丈夫アピールをする。

アル「まあ、レオンがおかしいのは今に始まったことじゃないけれども、今日の悪ふざけは度が過ぎているぞ? あまり私とエステル姉様に心配をかけるな」少し心配そうにレオンを見つめる。

 アルに見つめられて顔を真っ赤に染める香織。

香織〈こうしてお傍にいられるだけでも絶頂しそうなのに、しかも優しいお言葉まで賜るとか、尊いにも限度というものがございますぞ!?〉

 香織は精神世界で鼻血を流しながら恍惚な笑みを浮かべる。

エステル「きっとレオンも疲れているのよ。二人とも、冒険者になる為に訓練するのはいいけれども、あまり無茶をしては駄目よ?」

アル「分かっていますよ、エステル姉様。今日はちょっと剣の訓練中、私が思い切りレオンの頭をぶっ叩いてしまっただけですので」

香織〈レオン君とアル様の子供の頃からの夢というのが冒険者になり、二人で世界各地を旅することだった。もしエステル御姉様の一件が無ければ間違いなくその夢は実現していたことだろう〉

 香織は切ない表情で嘆息する。

香織〈ちなみに、同人界隈ではそのIFストーリーが盛んに創作されていた。きっと冒険者になったレオン君とアル様はそっちの世界でもトップクラスの実力者になっていたに違いないのだ〉

エステル「まあ、何てことを。レオン、うちの弟がごめんなさいね。まだ頭は痛む?」

 エステルはそう言ってレオンの頭をさする。
 香織はエステルからパンの匂いを感じた。

香織〈このパンの匂いはエステル御姉様の幸せそのもの。私はこのひとも幸せにしてあげたい……!〉

 香織はエステルの手を握る。

香織「エステル御姉様、貴女はきっと私が幸せにして見せます!!!」

 その瞬間、アルとエステルは呆気にとられる。

アル「おい、レオン!? エステル御姉様には婚約者がいるんだぞ!?」

エステル「あらあら、レオン? 気持ちは嬉しいのだけれども、ごめんなさいね。私にとって貴方はアル同様、弟同然だからそういう風には見ることは出来ないの」困ったように苦笑する。

 そして香織はそこでようやく自分の失態に気付く。

香織〈あ、やばい。私、やっちゃいました????〉

 香織は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げるのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?