悪逆皇帝の友 ~悪逆皇帝の親友に転生しましたので、せっかくだから原作改変して自分好みに推しキャラを幸せにしてやろうと思います!!~ 第3話 『分岐点』

■ 悪逆皇帝の友 原作 第三話『炎の旅立ち』作中話

 降りしきる雨。
 アルの自宅前にて絶命しているエステル。
 雨に打たれながら、エステルを呆然と見下ろすアルとレオン。
 周囲には近所の住民達が野次馬となってひそひそ話をしている。

住民A「グレン皇子の愛人が死んだってよ」

住民B「あの売女に捨てられたパン屋の御主人が自殺したって話だぜ? 本当、いい気味だ」

住民C「地獄に落ちろ、売女めが!」

 レオンは野次馬達を睨みつける。その瞳には激しい殺気が迸っていた。

レオン「貴様等、今、何と言った?」

アル「止せ、レオン。いいんだ、落ち着け」

レオン「これが落ち着いていられるものか!? エステルさんを殺された挙句、何も知らないクソ野郎どもにその誇りさえも汚されたんだぞ⁉ アル、お前は悔しくないのか⁉」

アル「悔しがったら、エステル姉様は生き返るのか?」

レオン「アル⁉ お前、何を言って……?」

 アルはレオンに振り向く。その瞳が鋭く引きつっていた。
 レオンはアルの気迫に飲み込まれ絶句する。

アル「悔しいが今の私達ではエステル姉様の仇を討つことは出来ない。たった二人でグレンに挑んでも無駄死にするだけということはお前も分かっているはずだ」

レオン「アル、怖気づいたのか⁉ 分かった、ならもういい。オレ一人だけでもエステルさんの仇を討ちに行って来る!」

 すると、アルはレオンの頬を殴りつけた。
 レオンは倒れこそしなかったものの、唖然とした表情でアルを見つめた。

アル「エステル姉様の仇を討つにはレオン、お前の力が必要だ。だから無駄死にさせるわけにはいかない!」

レオン「どういうことだ?」

アル「私は決めた。これより私は皇帝になるぞ!」

 その瞬間、アルの自宅に雷が落ちる。轟音が響き、自宅の屋根から火の手が上がる。

レオン「アル、お前、何を言って……?」

アル「私の復讐はグレン如き小物を討ち取って晴らせるほど小さくはない。エステル姉様を殺したグレンはもちろん、その皇族を、いや、先程エステル姉様を侮辱した奴らごと全て滅ぼしてくれる」

 その時、アルの背後に悪魔の影が立ち昇った。

アル「レオン、お前も来い。お前の最強の武力と私の最高の智力を持ってすれば帝国ごとき、ものの数年で我らが手中に収めることなど造作もないことだ」

 アルはそう言ってレオンに手を差し伸べる。

アル「レオン、お前の命を私に寄越せ。これはお願いではないぞ。命令だ!」

 レオンは口元に微笑を浮かべると、微塵も躊躇せずアルの手を強く握りしめた。

レオン「オレの命、お前に預けた。好きな様に使え!」

アル「我が友よ、共に行こう。必ずやエステル姉様の仇を討つぞ⁉」

 見つめ合う二人。
 その時、落雷によって火の手が上がった自宅が激しい炎を上げた━━。

N〈こうして二人は旅立つ。それは悪逆皇帝アルフレッドが誕生した瞬間でもあった━━。〉

 巻末に『来週もお楽しみに! ピュアタイガー先生に応援のメッセージを届けよう!』と書かれている。

■ 現実世界 レオンの部屋 朝 

 レオンこと香織の部屋はアルの自宅にある。
 元々、レオンとアルは幼馴染みであったが、レオンが幼い頃に両親が死去すると、エステルがレオンを引き取った。
 アルとエステルの両親も他界していたが、その頃にはエステルはパン屋で生計を立てていたのでレオンを引き取ることが出来た、という事情が存在している。

 香織はベッドで横になりながら考え事をしている。

香織〈エステル御姉様は第二話で早々に退場してしまい、それがきっかけでアル様は皇帝になることを決意した。でも、結果的にそれはアル様にとってはバッドエンドルート確定でもあるのだ。グッドエンドルートに行くにはやはりエステル御姉様の生存は最低条件だろう〉

 香織は寝返りを打つ。

香織〈なら、今日にでも行動に出なければならない。確かエステル御姉様がグレン皇子に目を付けられるきっかけというのが、パンの配達をした時だ。パンを配達している最中に偶然グレン皇子の目に止まってしまったが為に起きた悲劇。グレン皇子は無理矢理エステル御姉様を妾にしようと迫るが、当然の如くエステル御姉様は婚約者がいるからと断る。その後、あのクソ野郎は婚約者に無実の罪を着せて罪人に仕立て上げてしまう。死刑を宣告された婚約者を救うためにグレン皇子の要求を呑み、その後……汚される前に自害してしまった、というのが原作の物語だ〉

 香織は嘆息する。

香織〈早く行動しなければならないというのに、どうして私は起き上がることが出来ないんだろうか? その理由はこれ。何故かギンギンになっている股間のソレが原因で起き上がることが出来ないのだ〉

 香織は掛け布団をめくって、ドキドキしながら股間に目を移す。
 そこに見えるのは若い男性なら必ず起こる朝の生理現象の真っ最中の光景。

香織〈やだ……⁉ 男の人って毎朝こんなにギンギンになってしまうものなの!? お父さんは全然そんなこと無かったけれども、確か弟は毎朝股間にテントを張りながら家の中を欠伸をしながら歩いていたっけ?〉

 その時の光景を思い出す。

香織〈こんなことになるなら弟に対処方法を聞いておけば良かったわ⁉  ど、どうしよう? どうしたらおさまってくれるのかしら?〉

 香織は恐る恐る股間にそそり立つそれに手を触れる。
 その瞬間、今まで感じたことも無い心地よい衝撃が全身を駆け巡った。

香織〈お、おおお⁉ こ、これは何、何なの⁉〉

 香織はあまりの快感に衝撃を覚え、ベッドの上でのたうち回る。

香織〈男の子って奥が深いのね……〉

 香織はもじもじしながら再び自分の股間に視線を移す。

香織〈や、やり方だけは知っているわ。何事も経験よね……よし!〉

 香織はズボンを脱ごうと手をかける。
 その瞬間、突然、部屋のドアが開けられた。

アル「レオン、そろそろ起きろ。朝食の時間だぞ?」

 香織は驚きのあまり絶句する。

アル「どうした? 何をやっているんだ?」

香織「こ、これはその……生理現象と申しますか、何というか⁉」

アル「いいから早く食堂に来い。食事が冷めてしまうぞ?」

 アルはそう言って出て行った。

香織〈そう言えば、以前に弟が私に『部屋に入る時は必ずノックしろよ!』とかって絶叫したことがあったけれども……こういうことだったのね⁉〉

 香織はベッドの上でうずくまりながら弟に対して深く謝罪するのだった。

■ 食堂 朝

 香織、アル、エステルの三人は楽し気に談笑を交えながら朝食をとっている。

香織〈男の子の朝の生理現象はお手洗いに行ったら自然と治まったのはいいんだけれども、さて、どうしようかしら?〉

 香織は眉をひそめながら考え込む。

香織〈エステル御姉様がグレン皇子に目を付けられる日にちが分からないのよね。原作では詳しい日時とかは書いていなかったから当然ね〉

 香織は嘆息する。

香織〈時期的にそろそろなのは分かっているんだけれども、どうやってこの最悪なイベントを回避すればいいのかさっぱりだわ?〉

エステル「そうそう、アル。申し訳ないんだけれども、今日は急なお仕事が入ってしまってお昼ご飯は届けられないのよ」

アル「それならお気になさらずに。レオンと適当に何か作って済ましますから」

 その時、香織はとっさに何かを察知する。

香織「エステル御姉様……じゃなかった、エステルさん? その急なお仕事って何ですか?」

エステル「お城にパンを配達することになったのよ。嬉しいことにお店のパンが近頃街でも評判になって、それでお城から注文が入ったみたいなの」

香織〈なるほど、それか⁉ きっとその時にグレン皇子の目に止まったのね?〉

 その時、香織の脳内でグレン皇子抹殺計画が瞬時に構成されていった。

香織「なら、今日、私……じゃない、オレも手伝います!」

アル「おいおい、いきなりどうしたんだ、レオン? 今日も私達は来月の冒険者試験の為に特訓をする予定だろう?」

香織〈アル様……今日を乗り越えないと試験どころではなくなってしまうんですよ? 何て言っても、絶対に理解してくれないわね〉

エステル「荷物が多いから私は助かるけれども、レオン、突然どうしたの?」

香織「勘です。今日、エステルさんと一緒に行動しないと絶対に後悔すると思うんで」

 すると、アルはハッとなる。

アル「お前の勘がそう告げているのか?」

香織「ああ、そうだ。だからアル、今日の特訓はお前一人だけでしていてくれ」

アル「面白い。なら私もエステル姉様に同行しよう」

香織「いや、ここはオレ一人だけで十分だぞ?」

アル「レオン、お前の勘を信じよう。今までお前の勘は外れたことが無いからな。エステル姉様に関することなら尚更私も同行せねばなるまい」

香織〈レオンの野生の勘は原作でも度々アル様を救うことになる〉

 香織の脳内に様々な戦いのシーンが過る。

香織〈特に革命軍の英雄ランスとの戦いでは、幾度となくレオンの勘がアル様を救うことになるのだ。理屈ではない。レオンは本能で危機を察知する能力を持っていた。だからこそ、アル様はレオンに絶対的な信頼を置いていたのだ。ま、私の場合は未来を全て知っているだけのことなんですけれどもね?〉

 英雄ランスによってアルが危機的状況に陥った時、レオンの野生の勘は幾度となく逆転の芽となった。それによって何度もアルは圧倒的に不利な状況からでも逆転し勝利することが出来たのだ。

香織N〈こうして私はアル様を幸せにする為に行動を起こすことにした〉

香織N〈結果だけを言えば、私達は難なくエステル御姉様の危機を救うことに成功する〉

香織N〈しかし、それがアル様の幸せに繋がったかと言えば、答えはノーだ〉

香織N〈もしも人生を再びやり直す権利を得たならば、きっと私はこの時間に戻ることを強く望むだろう〉

香織N〈私の後悔が常にこの時間軸に取り残されることを、その時の自分には知る由も無かった━━。〉

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