見出し画像

「なんとも器用なカエル君」

池の水面がある。
その上に葉っぱがある。
カエルが乗っている。
男は、カエルを見つめる。

「ああ、カエル君、君はなんとも器用なんだ、」

カエルは何も答えない。

「いいんだ、黙って聞いてくれれば。
きっと今の僕に必要なのは、アドバイスなんかでなくて
ただ、そこにじっといてくれることなんだから。」

カエルは何も答えない。

「僕は、もう人を信用できないんだ。
彼女にふられたんだ。
何でなのか、なんてことはどうでもいい。
理由を話したら、あんたは笑うだろね。
そんなちっぽけなこと世間ではありふれていると。
でもどうしても難しいんだ。
僕には、、、
そう
人を頼るのが怖いんだ。」

「でも周りの人はこういう。
見る目を鍛えろと。
だけど、見る目なんて主観にすぎないじゃないか。
僕は、自分の主観を完全に信頼してよい?」

カエルは何も答えない。

「それに比べて、カエルさん
あんたは立派だよ。
水中のなかと陸の上を行ったり来たり。
いわゆる両生類ってやつだろう?」

「そしてあなたは、陸地と水中のはざまでバランスをみつけている。
主観と客観のバランスを。
それは、カエル君にとって、
安心できることなんだろうね、きっと。」

カエルは何も答えない。

「でも、そんな器用なことはできないんだ。
僕にはあまりにも荷が重すぎるよ。
そんな器用なことはできないんだ。
でも、誰かに好かれたい。
嫌われたくないんだ。
大丈夫?といってほしい。
気遣ってもらいたい。
だけど、それは
僕にはあまりにも。。。」


カエルはその時、「ふぁーあ」
と、だらしなくあくびをしながら、
このあまりにも女々しい男にかまうのに飽きたらしく、
ポチャん、と、池の中に飛び込んだ。


男のロマンティックな心情

男はそのとき、本当の意味で一人ぼっちになっていた。

男は
カエルがついさっきまでいた葉っぱをみつづけた。

そこには、本当に何もなかった。
寂しいのはたしかにさびしい。
一人なんてのは勘弁だ。

だけど、
あるはずだと思っていた悶々とした思いは
あるはずだと思っていた呪いのような観念は
こうもあっさりと
カエルのだらしないあくびによって、飲み込まれた。
カエルのスイミングによって、洗われた。
ポチャん、という水音で。


青いビーチ、残念ながら、かわいこちゃんはいないけど、、

全ては孤独に浸ることで作られた。
幻想、妄想的偏執そのものでないか。


そして俺は、
思い出したかのように、腹が減ってきた。
インスタントラーメンが食いたい。
それもとても濃い味の。

お湯を沸かしに行くべく、
俺は家へ戻った。
そして、どうも俺には、家族が信頼というタスキを掲げて、
待っているらしかった。

あったかいお湯で召し上がれ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?