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夫婦間のカサンドラ症候群について〜本当に発達障害が原因なのか


こんにちは、精神科医のはぐりんです。
ご訪問いただきありがとうございます。

今回は久しぶりにカサンドラ症候群について書いてみたいと思います。

カサンドラ症候群とは


カサンドラ症候群とは、

「自身のパートナーや家族がASD(自閉スペクトラム症)で、情緒的交流やコミュニケーション、関係構築がうまくいかずストレスを溜め込み、心身の不調をきたしてしまうこと」

を言います。

特に、夫が「ASD」「アスペルガー症候群」で、妻の方に身体的・精神的な不調が出てくるパターンが巷ではよく言われています。

具体的には、

普段の生活で、夫に話しかけても生返事ばかりで、期待しているようなreactionが返ってこない(向き合ってくれない)、

夫が何事も事務的に淡々と進め、そこには感情が伴っておらず、家族のイベントなどでも喜びや悲しみといった感情を共有できない、

そういった共感性の欠如から、結果的に妻が心身に不調を来してしまうことを言います。

また、ASDのパートナーは、家事や公的な手続きを行う側、負担を担う側にもなったりもします。

カサンドラ症候群を巡って


先日、カサンドラ症候群を巡って、他のクリニックの医師と揉めることがありました。

事の発端は私が診察した、とある男性(Aさん)

初診で「発達障害かどうか診てほしい」と来院され、診察をして心理検査も行い、

その結果をもとに心理士さんとも検討し、
「発達障害ではない」と診断しました。

すると後日、Aさんの奥さん(Bさん)が通院している他のクリニックの先生から書面で連絡が来ました。

それによると、

「Bさん(妻)は、夫から自分の気持ちが分かってもらえず会話が成り立たず、強いストレスを抱えています。これは夫の強い発達特性によるものです」

というものでした。

精神科界隈では、他院の診断や治療に関して指摘するという事自体あまりないことで、この書面を読み、まずは驚きました。

この指摘を受けて、私自身もAさんの診断に関して色々と振り返りもしましたが、

Aさんは、家事も育児も担い、仕事もしている、うまくいっていないのは妻であるBさんとの関係性のみ、幼少期や学童期も特に問題なく育ってきました。

これまでもこれからも社会的な支援(障がい者雇用や育児支援など)が一切必要なさそうなAさんに、

夫婦関係のもつれのみを理由に発達障害と診断をつけるのは早計でしょう。

また一つ事実として言えるのは、Bさんの主治医はAさん(夫)を一度も診察していないし、私もBさん(妻)の言い分を直接は聞いたことがありません。

「ASD→カサンドラ」と「カサンドラ→ASD」


今回のケースを通して私が伝えたいことは、
Aさんが発達障害かそうではないのか、ということではありません

私が伝えたかったのは、夫婦という密着した関係性においては、その内情微妙な感情の動きなど、

精神科医といえども他人がすべてを把握できるものではないということです。

ましてや本人たちの関係性だけではなく、姑や他の家族との関係性も絡んできますし、極端な話どちらかが不倫している可能性すらあるのですから。。

もちろん夫婦という密着した関係性だからこそ
ASD特性があぶり出されることもあるかもしれませんが、

極論を言うと元々ASDの診断がついている人のパートナーがカサンドラ症候群に陥ることはあっても(ASD→カサンドラ)、

その逆で夫婦関係の不和から初めてASDの診断をつける(カサンドラ→ASD)というのは余程慎重に進める必要があると言えます。

「パートナーがASDだから」、では片付けられないほどの複雑な事情や関係性、感情のもつれが夫婦間にはあるのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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