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双子の姉妹が歩み始めたそれぞれの道


先日、不登校を理由に、とある女子高校生(Aさん)が病院を受診されました。

1年ほど前から徐々に学校に行けなくなり、友人もほとんどおらずに孤立し、勉強もついていけない状況でした。

Aさんにはいくつかの特性がありました。

特定の色の服しか着ない、偏食が著しく食べ物のレパートリーが極端に少ない、多人数でいると何を話していいのかわからない、生活音が気になり時にトイレにこもる、等々こだわりやコミュニケーションの問題、さらには感覚過敏といった特性が見られました。

こういった特性は、「発達障害」に見られる特性で、以前から相談していたスクールカウンセラーが発達障害を疑い、精神科の受診を勧めたのです。

たしかにAさんにはいくつかの発達特性があり、それが原因で学校になじめていない側面もありました。しかし診察を進めていくうちに、発達特性と同等かそれ以上に根本的な原因がありました。

それは精神遅滞、いわゆる知的障害でした。Aさんの場合、中学生のころから成績は下から数えた方が早く、学校の授業についていくのが難しい状態でした。

普段の生活の中でも、「話を聞いているのかどうかわからない」「なぜ話が理解できないのか」とお母さんも不思議がっていました。

ただ精神遅滞の程度としては軽度でした。軽度(もしくは境界知能)であれば、Aさんのように高校生になるまで周囲に気づかれることなく経過し、

不登校や言動上の問題などが表面化してきてようやく気付かれる、という方も少なくありません。

Aさんの受診に至るまでのこういった経緯自体はよくあるケースと言えます。

ただ、Aさんの場合、ある特殊な状況が重なっていました。

Aさんには双子の、それも一卵性双生児の妹がおり、妹にはそういった特性が一切なかったのです。

そもそも元々は妹と同じ高校を志望していたものの、残念ながら合格は叶わず別々の高校に通っていました。高校生以前からの学力差発達特性の有無などが示唆されました。

他にも料理が得意な妹と、一方で音や油跳ねが気になり料理があまり好きではないAさん。

「よく比べられるのが嫌だった」という言葉がAさんのこれまでの苦悩を如実に表しています。

ただお母さんの話を聞く限り、育て方に差があるようには見えず、現在の状況をお母さんも不思議に思うほどでした。

遺伝情報がほぼ同じとも言われる一卵性双生児、同じように接してきたはずの2人の間で、少なからず違いが出てきていたのです。

発達障害や精神遅滞が、遺伝や養育環境だけが原因ではない

ましてや「親の育て方のせいではない」、という事が良くわかるケースでした。
(「出生体重」に関してはAさんの方が低く、それを含めて複合的な要因が絡んでいると思われます)

診察の結果を聞いたお母さん、
「これまでのことが腑に落ちました」と納得された様子でした。

Aさん自身も、唯一仲の良かった友人が通学している「通信制高校」に転校したい、と意気込みました。

親御さんの中には通常学級から定時制高校や通信制高校への転校に抵抗を示す方も少なくありませんが、

Aさんのお母さんは娘の特性を受け入れ、また対応も素晴らしく、すぐに転校の手続きを取り、
「なんでもサポートしていきたい」とおっしゃってくれました。

異なる進路を歩むことになった双子の姉妹ですが、どちらが良いということはなく、その子の特性に合った選択をされ、心からそれで良かったと思いました。

高校生の段階で自身の能力や個性と向き合い理解することになるAさんは、普通学級に進んだ妹さんよりも将来の展望が見えやすいとすら言えます。

一人一人の能力や個性に応じた教育、周囲がそれを認めサポートする体制、そして何よりその子自身が伸び伸びと安心して過ごせる教育環境が求められているのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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