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【子育てエッセイ】母の作った大きな手提げバッグ


 私は小学校の頃、中学校受験のためにバッグが必要となった。受験用のテキストや弁当箱の入るようなバッグである。
 同級生の友だちは旅行に行くようなブランド物のスポーツバッグを持って通っていたので、母に頼み、そのようなバッグを買ってきてくれるものだとばかり思っていた。
 ところが、準備されたのは不恰好な母のキルティング素材で作られた手製の手提げバッグであった。みんなが持っているようなブランドマークやキャラクターデザインがあるわけでもない。周りの視線が気になる私は、押入れの奥深くにしまい込み、長年一度も使うことはなかった。
 少しでも節約したかったのか、共働きで時間を作れないこともあったのだろう、家中のバッグをかき集められ、それをあてがわれたが、明らかに婦人用であった。私は小学校高学年であったが、恥ずかしながら泣き落としてお金をもらい、自分でスポーツバッグを買いに行ったのだ。
 成人して、一人暮らしを始め、実家で荷物を整理していたところ、その手提げバッグが出てきた。あまりデザインには記憶がなかったのだが、なるほど、大人向けのガッシリしたものであった。なかなか頑丈な手提げバッグであった。
 気まずい思いもあり、ふだん勤務に行くときに使うようにしていた。手先の器用な母が作ったものである。物はしっかりとしていた。実際には愛情たっぷりで使いやすい物であった。10年ぶりに日の目を見たのだ。いつしか、母の知るところとなったが、母の自慢話はとまらない。
子供の私が使わなかったことに、よっぽど寂しい思いをしたのだろう。「ほら、前にも使えばよかったではないか!」。妹や私の妻にまで昔話をほじくり返してしていた。

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