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映画『プラダを着た悪魔』を見て思ったこと

この間、映画『プラダを着た悪魔』を見ました。

こちらの映画、公開されたのは2006年。
話題になっていたのは知っていましたが、見ていませんでした。
18年の時を経て、少し前に偶然見た岡田斗司夫さんのyoutubeで『プラダを着た悪魔』が紹介されていて、この映画が見たくなったのです。

AmazonのPrime Videoにあったので字幕版を鑑賞。

私にしては珍しく、終わりまでじっと見ていられた映画でした(2時間近くじっと画面を見ているのがちょっと苦手)。

Wikipediaではこの映画は

ジャーナリスト志望の主人公が悪魔のような上司の下で前向きに頑張る姿を描いた物語である。主人公の姿が同世代の女性から支持を受け、ベストセラーになった。

Wikipediaより

と紹介されています。
最後の場面に出てきたアンドレア(アン・ハサウェイ)が一番美しく見えました。


公開された2006年といえば私が大学院2年生の時で、就活で苦戦して長期戦になってしまいやっとこさ就職が決まったはいいものの、これから味わうであろう社会の厳しさを想像しつつも全然わかっていない、そんな時期でした。

主人公役のアン・ハサウェイは私と同い年。
私はこの映画を見ないまま社会に出たわけですが、自分もこれから社会に出ていこうとしているときに、自分と同じ年代の主人公が鬼上司相手に奮闘する姿を見ていたら、どういう心持ちで社会人になっていたのだろう。

そもそも仕事というものがどういうものなのか全然わかっていなかったので、ピンと来なかっただろうし、映画のストーリーを自分に引き寄せて考えることはできなかったと思います。

社会人になってから色々な職場でいろいろな人と一緒に働きましたが、
今もって、その理不尽さに怒りが込み上げてくる人が2人だけいます(2人とも女性)。2人しかいない、とも言えるかもしれません。

そして、忘れもしないもう1人の人物がいます。
7〜8年前だったでしょうか、一癖も二癖も三癖もある手強い人と一緒に働くことになったのです。

場所は大学病院でした。私は研究員として働くことになり、初日にこれから一緒に仕事をしていく女性のCさんと挨拶をしました。
その時の、周りにいた人たち(全員女性で医師や看護師、事務の人たち)の雰囲気に何か妙なものを感じたのですが、その時はなぜだか分かりませんでした。後々、嫌でも気づくことになります。

それまで民間企業でしか働いたことがなかったので、医局という特殊な組織で様々なカルチャーショックも受けました。教授を頂点とした縦型組織とか、外部の人からの電話なのに「〇〇先生はいらっしゃいません」みたいに身内に敬語を使うこと(使わない人もいましたが)とか。
挨拶すら返してくれない人もいましたし、この人には何があっても絶対に診てもらいたくないなという医師もいました。
でもほとんどの人は話してみるといい人たちでした。

Cさんも最初は普通の人(普通と言い方も変ですが)だと思いました。
でも、少しずつ周りの人たちがCさんをどう思っているかが分かってきたのです。
私も徐々にCさんの言動に困るようになってきました。

聞けばCさんと一緒に仕事をした人がもう何人も辞めていったとか。しかも皆さん数週間とか数ヶ月とか短期間だったそう。

ある人は「あんなにグレーな人、初めて見た」と言っていました。

ものすごく攻撃的で、感情の起伏が激しい。とにかく周りの人に対する怒りが常にあり、感情をぶつけてくるのです。医局という特殊で閉鎖的、女性ばかりの職場できっと理不尽なこともいろいろ言われてストレスを溜め込んでいたのかもしれません。

なんとなく感じていた妙な雰囲気の正体、これだったのか。
今頃気づいても後の祭り。

Cさんは「バカばっかり」と皆に聞こえるように言いました。
それが口癖でした。

私も本当にいろいろなことを言われました。

直接「バカ」と言われたことはないですが、私に聞こえるところで教授に「なんで〇〇さん(私)なんか雇っているんですか」と噛みついているのも目撃しました。
「〇〇さん(私)が気分よく働けるかどうかなんて私にはどうでもいいことなんですよ」と言われたことも。
私が培養した細胞を顕微鏡で見て、「気持ち悪ーい!」と騒ぎ、教授に言いつけたり。もっとも、どこもおかしいところはなく、教授に「この細胞のどこがおかしいんですか?」と返されていました。
私が実験で失敗した時、Cさんは「私、失敗しないので」とどこかで聞いたようなセリフを言い放ち、「失敗するようならここにいられても困る」と言われましたが、後日Cさんも大失敗をして怒られて泣いていたり。
失敗しない人なんているはずがないのに。

周りの人たちはCさんを辞めさせたくて仕方がなかったようで、腫れ物に触るような接し方をしていました。当然のことながらCさんもそれを察して、さらに攻撃的になっていたようです。

負のスパイラルが生じていたわけです。


私は辞めてもよかったのですが、少なくとも1年は頑張ろうと思っていました。

幸い優しい人たちがいて、相談に乗ってもらったりしたので、私はなんとかやっていけました。
ただ、なんとなくCさんのことがかわいそうに感じてきたのも事実でした。

Cさんそのものは悪い人ではなく、ただあの環境が合っていなかっただけではないか。ああいう特殊な環境が彼女には向いていなくて、交感神経バリバリ優位になり、周りに噛みついてしまうのでは、そんな風に思えてきました。

Cさんがずっと咳をしていたのも気になっていました。
前の職場でパワハラを目の当たりにしたのですが、そのパワハラ被害に合っていた人も心因性と思われる咳をずっとしていたからです。


8ヶ月くらい我慢した頃からでしょうか、少しずつCさんの言動が変化してきたように感じました。私に対して攻撃的ではなくなってきたのです。
私が辞めないから諦めたのかとも思いましたが(笑)、私を信頼してくれているような雰囲気さえ感じるようになっていました。

そんなある日、Cさんは仕事の後に食事に誘ってくれました。
食事に行って何の話をするんだろう、と心の中では不安でしたが、Cさんのことを知るいい機会だと思い行くことにしました。
仲の良かった人には「帰ってこれないかもよ」と冗談を言われましたが(笑)。
グルメなCさんはデパ地下や美味しいお店をいろいろ知っていて、新しくオープンして気になっていたというお店に連れて行ってくれたのです。

緊張していたので何を食べたのか全く覚えていません。

ただ、その時のCさんは仕事中に周りに噛みつく攻撃的な人ではなく、ごくごく普通の(また普通のと書いてしまった)美味しいものが好きな気さくな女性という感じで、これまで働いてきた職場の話や、美味しいものの話をしたのを覚えています。

私も払いますというのを「私が誘ったんだから」と止められ、結局ご馳走になってしまいました。

それ以降、Cさんが私を攻撃することはなくなりました。

そして働き始めてから1年後、私はその職場を辞めました。

風の噂で、Cさんもその後退職したと聞きました。
私が辞めた後も、私の話が出ると「〇〇さん(私)はいい人だから」とCさんは言っていたそうで。でも最初の頃は辛かったんですよ!!


これまで一緒に仕事をしてきた人たちの中で一番インパクトがあったのがCさんでした。

パワハラも何度も見てきたし、病んだ人もたくさん見たし、尊敬できる人にも出会えました。休憩もろくに取れないアホみたいに忙しかった職場で6年頑張れたのは仲間と尊敬できるリーダーのおかげでした。

いろいろ経験してきた今だからこそ『プラダを着た悪魔』に共感できる気がします。



Cさん、元気にしていますか。

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