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よそ者は追い払う?

最近読んだ本で、衝撃を受けた本です。
でも、読んでよかった、むしろもっと早く読みたかったとも思った本です。

『外来種は本当に悪者か?』フレッド・ピアス 2016年 草思社


「外来種」と聞くと・・・

よそ者、侵入者、良くない、悪さをする、元々の固有の生態系に悪影響を及ぼす、招かれざる客、排除するべき。

こんなところでしょうか。

外来種:強い
在来種:弱い
もしかしたらこんなイメージもあるかもしれません。

外来種は「在来種を追いやり、生態系のバランスを狂わせる存在」という扱いを受けているのが現状だと思います。
メディアの報道を見ても、「外来種=悪者」という図式で報道するので、そういう目で見てしまうのは仕方ないかもしれません。

私も外来種というと何となく悪いイメージを持っていました。

外来種が毛嫌いされるのは、「外来種は在来種を絶滅させ、生物多様性を低下させる」という考えが一部にあるからです。
その考えの背景にあるのが、

生態系は順調に動いている機械のようなもので、すべての在来種が、食べたり食べられたり、受粉したり、廃棄物を処理したりとそれぞれの役割をつつがなく果たしている。生態系は在来種だけで完成された状態にあって、侵入者が入り込む余地はない。だから外来種が定着すれば、その分在来種が居場所を失うことになるはず。生態系から押し出された在来種は、少なくともその場所では消えていくしかない。

『外来種は本当に悪者か?』より

という考え方だそうです(少し極端な感じもしますが)。

本当にそうなのでしょうか?

本書の冒頭で出てきた島、南大西洋に浮かぶ絶海の孤島、アセンション島。
下の地図の真ん中あたり、「キャット・ヒル」と書かれているところです。

Google mapより。
近く(全然近くないけど)にはナポレオン1世が幽閉されていたセントヘレナ島が。

アフリカ大陸と南アメリカ大陸の間にあるイギリス領の島で、イギリス企業や政府の関係者、駐留アメリカ軍、セントヘレナ島からの出稼ぎの人たちが暮らしているそうです。

この島は、軍事的、政治的、経済的に何かと便利だったようで、イギリス海軍が艦隊を駐留させたりと、人の出入りが頻繁でした。そのため、人が暮らしやすいように世界中から様々な動植物が持ち込まれ、この島の生態系はほとんどがここ200年くらいの間にやってきた、いわゆる「外来種」で占められているそうです。日本産のサクラもあるとか。もちろん、元々この島にいた動植物もいます。
世界中から持ち込まれた動植物たちはそれぞれがアセンション島の環境に適応し、生態系の一員として存在しているそうです。

この島で生息している動植物は「外来種」なのか?
そもそも「外来種」や「在来種」は人間が勝手に決めていることで、当の自然はそんなこと意識していません。
「外来種」「在来種」ではなく、もっと違う視点で生態系を捉えられないか?本書では、世界各地の例や研究者達の見解を紹介しながらその点について掘り下げていきます。

まず、筆者は上の引用にあるような「在来種からなる完成された生態系」に疑問を呈します。そして、人間が地球上のありとあらゆる場所に進出した結果、手付かずの自然はもはやほとんど存在しないとも述べます。

生態系には常に生き物の出入りがあります。
植物の種が風に運ばれたり、鳥が落としたフンに植物の種が入っていたり、小さな生き物が流木や海洋ゴミにくっついて別の土地に流れ着いたり、船や飛行機など人間の移動と共にやってきたり。

そして地球は気の遠くなるようなサイクルで氷河期、間氷期を繰り返しています。氷河期には多くの動植物が死に絶えます。

火山の噴火や山火事、洪水などの自然災害や病原体の流行なども世界各地で起こります。そして、人間による環境汚染や開発も世界中で問題になっています。

その度に生態系は大ダメージを受けますが、少しずつ再生していきます。
生物の教科書に載っているように、決められた順番で動植物が増えていき、最終的には「極相」と呼ばれる状態になるようなイメージがあるかもしれませんが、その様子は「行き当たりばったり」で偶然の産物によるところも大きいと指摘する研究者も。

そうやって再生した生態系の動植物は外来種なのか在来種なのか?
そのような議論はもはや不毛なことのようにも思えてきます。

常に生態系は変わり続け、生き物たちもその変化に適応していきます。いわゆる「在来種」も「外来種」もそれぞれが試行錯誤しながら共存し、生態系を作っているのです。
なかには適応できずに生きていけない生き物もいます。外来種として入ってきても、その環境に適応できずに姿を消す生き物もいます。

その様子を「エコロジカル・フィッティング(ecological fitting)」と呼ぶ研究者もいます。
人間が管理せずとも、自律的に動植物がその生態系にフィットしていくイメージでしょうか。

そして、そうやって作られていく生態系を「ニュー・ワイルド(本書の表紙にも書かれています)」と呼ぼうではないか、と本書では提案します。
本書では、世界各地の様々な「ニュー・ワイルド」な自然を紹介しています。

ちなみに、「ニュー・ワイルド」の例として、1986年に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発の周辺の自然があげられていました。
高濃度の放射能汚染が将来的にどう影響するかはまだわかりませんが、人がいなくなった街は野生動物の楽園となっているそうです。
少し古い記事ですが⇩




常に新しい生き物が入ってくる環境は多様性がなくなるどころか、むしろ多様性が増し、しかも常に新しい生き物を受け入れていることでその生態系の基礎体力は向上し、ちょっとやそっとの揺り動かしにも動じることはないと著者は言います。
本書ではこれを「生物的抵抗力」と表現しています。
ロバストネス(頑健性)とも表現できるかもしれません。
ロバストネスとは、あるシステムが外部や内部からの力や環境の変化によっても壊れることなくうまく適応し、そのシステムを維持できる仕組みのことです。

自然は人間が思っているよりはるかにタフで、タフじゃない自然があるとしたら、それは人間が環境汚染や開発で生命力を奪い尽くした結果であると言えるかもしれません。

しかし、そんな場所にもたくましい外来種がうまく入り込み、その環境に適応して定着することで、環境浄化に一役買ったり、他の動植物が再び戻ってこられるような状態を作り出すことも多々あるのです。


なんだか外来種バンザイみたいな感じですが、
もちろん全ての外来種がウェルカムなわけでもなく、ある島に人間とともに偶然ネズミが入ってしまい、島のトリが壊滅状態になった例も挙げられています。
我が愛するネコもよく槍玉にあげられていますね。

島のような特殊な環境ではもともとネズミなどの生物が存在していない場合もあり、その島のトリ達がネズミを天敵として認識できず、そういった場合はひとたまりもないようです。
(それを解決しようと、さらに殺鼠剤を散布してネズミを殺したはいいものの、殺鼠剤が他の鳥類なども殺してしまったりと、人間が余計なことをするたびにその島の生態系がめちゃくちゃに引っ掻き回された事例もある)

このように、たまたま入ってしまった生物による固有種の絶滅もありますが、たまたま入ってしまったのも元はと言えば人間が原因です。

大幅な個体数の減少や絶滅は人間による乱獲や開発によるものが大多数を占めるということを忘れてはいけない、著者は繰り返し述べます。



そもそもなぜ「外来種」が敵視されるのか?

ネットで調べると、「在来種が捕食されるから」とか「生態系のバランスが崩れるから」とか「遺伝子汚染」などのワードが出てきます。

この本ではもう一つ、人間の心理も絡んでいると。
我々は、知らないもの、新しいものに対して不安、恐怖心を抱きます。
自分がいる土地への愛着、自分にとって馴染みがあるものやずっと見てきたものに対して親しみの感情を抱くのは自然なことです。

知らないものや見慣れないものが入ってきたら不安になるのも自然なことです。なぜなら、人間を含めた生き物が本能として持つ「防御反応」であるとも言えるからです。

一方で、そういった人間の感情がときとして最悪の行動につながることもあります。歴史を見ると明らかですが、戦争、虐殺、民族紛争、人種差別、排他主義、身近なところではいじめ。

外来種の存在を許さない、そういう姿勢が人種差別やいじめに直接つながるとは言いませんが、人間は世の中の風潮やよく言われていることに気づかないうちに影響を受けてしまいます。

前に読んだ本(どの本だったか忘れてしまい、内容もうろ覚えですが)に、
だいぶ前からよく見かける公園や広場のベンチについている柵(人が横になれないようする)や、地下道の脇のスペースに並べられたオブジェ(ホームレスの人が入れないようにする)は、人に冷たい街、人を拒否する街につながり、そこに住む人たちの心にも同じような感情が生まれやすくなる、というようなことが書かれていました。


ちょっと話がそれましたが、

これまでの「在来種を守り、外来種は阻止する」考え方から、
「ニュー・ワイルド」にシフトしようではないか、筆者は提案します。もはや、旧来の自然観は通用しなくなっている、それは地球上の様々な生態系で起きたことを見れば明らかだと。

旧来の自然保護観やその研究者達を鋭く批判し、容赦ない感じもありましたし、外来種をめぐる様々な意見の一つに過ぎません。それに「ニュー・ワイルド」が正解ではないかもしれません。
しかし、私にはパラダイムシフトとも呼べる内容で、私自身の自然観が大きく揺り動かされました。


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