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共産党の草加市議団問題について

 2022年10月23日に実施された草加市議会議員選挙で、日本共産党は4人の候補のうち1人当選、3人落選という結果となりました。その4年前の選挙では共産党は5人を当選させており、その後、議員の不祥事をめぐって1人辞職、3人が離党し別会派を結成、一般党員からも離党者が相次いだのちの選挙であり、注目されていました。なお、離党した3議員は今回の選挙でも立候補しており、うち2人が当選しています。
 今日に至るまで、さまざまな情報・主張が錯綜しておりますので、自分なりに整理し、考えを述べました。末尾はこの問題のリンク集となっています。
(役職・肩書は当時)

党外の人にちょっと説明…
県委員会:共産党埼玉県委員会。中央委員会の下、地区委員会の上。
地区委員会:埼玉東部南地区委員会。県委員会の下、市委員会の上。草加ほかいくつかの自治体を担当。

このかんの経緯

2018年
10月28日 草加市議選で、共産党で5名が当選(佐藤・斉藤・石田・大里・藤家)。この選挙の前後から、大里氏のパワハラが問題となっていた。
2019年
9月13日 「藤家議員からセクハラを受けた」との訴えが市議団長に届く。
9月   党内で調査し、藤家議員自身も行為を認める。
    この間、党議員のうち佐藤・斉藤・石田3氏が藤家氏の辞職を求め続ける。
12月 2日 3議員が離党届を提出(党は離党を認めず)。
12月 5日 離党3議員が別会派(市民共同)の届を提出。
    藤家議員が辞職。
    県委員会と地区委員会が「談話」を発表(8日付「赤旗」で報道)。
12月 ?日 中央委員会が再調査を約束。「最後まで責任をもって調査する」「信じて待ってほしい」(その後、「結論を出さない」とし放置)
12月22日 党内の重要な会議で草加問題の発言を排除。
2020年
8月26日 党が離党3議員を「除籍」処分。
9月16日 中嶋束(つかね)氏(党草加市委員長)が党役員に、除籍撤回を求める文書を送付。
10月14日 県委員会が県内地方議員に「草加市議の除籍について」配布。
10月28日 草加支部長・市委員会議で市議団問題の説明があり、ベテラン党員らから異議が上がる。
11月 9日 中嶋束氏(党市委員長)が、党の決定を批判する文書を党内に配布。草加市後援会長、草加市女性後援会長のコメントも同封。
11月17日 党が中嶋束氏(党市委員長)を除籍処分。
12月 4日 党員14人が、離党3議員と中嶋束氏の除籍について再調査を要求。
2021年
1月 9日 党員からの再調査要求に対し、中央委員会が「要求自体が規約違反」と返答。このころ一般党員の離党相次ぐ。
3月   中嶋束氏(元党市委員長)が逝去。
2022年
9月  党が大里氏を公認したことに抗議し、大里議員から罵倒されていたベテラン党員が離党。
9月23日 地区委員会が「草加市議選にあたって」を発表。
10月23日 市議選で共産党は当選1、落選3。離党組は当選2、落選1。
11月20日 共産党草加市委員会『明るい草加』に、「(離党市議が、共産党市議の)実名を挙げて…中傷した」と掲載。離党市議が事実に反すると抗議。
2023年
2月15日 『明るい草加』での「中傷」との記載について、共産党地区委員会が弁明。
3月18日 県委員会が「あらためて2019年の草加市議の辞職について」を発表。

離党3議員の主張

  • 党は藤家議員の辞職を渋り、対応を遅らせた。

  • 藤家議員が辞職した理由を、市民に説明するべき。

  • 大里議員も、党員・市職員に対するパワハラ行為から、辞職に値する。

  • 大里議員の扱いも自分たちへの除籍処分も、十分な話し合いはなかった。

党県委員会・地区委員会の主張

  • 藤家議員は、党からの要請に従い、辞職した。

  • 「大里議員は辞職させない」という機関決定に反した主張をした3議員は、規約違反である。

  • 3議員は話し合いをしたにもかかわらず態度を改めなかったので、除籍処分にした。

  • 大里議員はセクハラの被害者であり、「被害者を辞職させろ」は二次加害である。

党機関の四つの誤り

 当事者間で事実認識に違いがありますが、後出のリンクを見ていただければわかるように、離党3議員の主張の方が、証拠を挙げつつ具体的に説明しており、整合性があります。私が見聞きした限りでも、党の側(県委員会・地区委員会)がはっきりと嘘をついています。
 その中で、私が特に重大だと考えた党指導機関の誤りを、四つ指摘したいと思います。

誤り1:議員の説明責任を無視し、隠蔽への加担を求めたこと
 共産党の組織原則は「民主集中制」、すなわち「みんなで決める。決めたことは全員が守る」というものです。自分の意見が違っても、それを外に向けて発表せず、決定した党の方針に従うことが求められます。党の政策は、有権者に対する約束ですから、それに反することを言わないというのは、理解できます。
 ただし、議員など公職者は、市民から選挙されますから、市民に対して直接に責任を負うという特殊性があります。市民に対する責任と党に対する責任とは、それぞれ独立した概念ですが、候補者は党の政策に沿った公約を掲げますので、この両者の責任は、ふつうは矛盾しないはずです。
 今回、党の県委員会と地区委員会は、藤家議員のセクハラを隠蔽し辞職を先延ばしした挙句、辞職後もまともな説明をしていません。党所属の議員にとっては、同僚議員の不祥事についてきちんとした対応をするという「市民に対する責任」と、機関の指示に従うという「党に対する責任」の板挟みになってしまいました。市民に対する責任を果たそうとして離党に至った議員を責めるのは、筋違いです。

誤り2:セクハラという人権問題を「党内問題」としたこと。
 党規約には「党の内部問題は、党内で解決する。」(第5条)という規定があります。これを根拠に、藤家議員のセクハラを「党の内部問題」とし、内々で処理しようとした党の側と、事実を公表すべきとした3議員が対立することになりました。
 ここで問いたいのは「内部問題」の範囲です。例えば、政策・方針の決定、組織運営上の問題などは、党内で処理するというのは当然です。しかし、セクハラは党の内部問題でしょうか? ハラスメントは、人権にかかわる問題であり、態様によっては刑事事件となるものです。被害者と加害者がともに党員であることをもって党の「内部問題」とするなら、党員間での犯罪行為を明るみにするなという話になってしまいます。まして、市民から選ばれた議員の資質にかかわる話です。「内部問題」とすべきでないことは明らかです。

誤り3:大里議員のパワハラ疑惑を無視したこと。
 県委員会・地区委員会は、離党3議員が大里議員を批判したことをもって「『被害者も責任があるから辞めさせろ』と主張している」と描いていますが、これは事実と異なります。
 離党3議員が問題にしているのは主に大里議員のパワハラ加害です(佐藤議員のブログより)。併せて、性被害の問題について、「単なる被害者」とは安易に判断できないと指摘しています(斉藤議員のブログより)。性被害で大里議員に責任があったかどうか、私は判断できませんが、離党3議員が主張するように司法判断を仰げば、もっとも公正な結論となったはずです。これを拒否したのは党の側です。
 県委員会・地区委員会が離党3議員の主張を捻じ曲げていることは明らかであり、また、大里氏のパワハラについて全く触れていないことも意図的です。

誤り4:意思決定の場で異論を排除したこと。
 3議員が離党届を出した直後、12月22日に、党の大きな会議がありました。規約上、県委員会の上位の意思決定機関であり、県委員会の誤りを正せるならここです。私はその正規の構成員でした。
 その中で、私がこの問題に触れようとしましたら「ここはあなたの意見を言う場所でない」と言われ、実際に発言を封じられました。党員の重大な関心事であったにもかかわらず、草加市議団問題は一切触れられないまま、県委員会の方針を賛美する発言だけで会議は終わっています。県委員のみなさんは私の発言を阻止した当事者であり、地区委員のみなさんもその現場を目の当たりにしているはずです。県委員会・地区委員会が主張する「異論を排除することはない」は、嘘であるとはっきり指摘しておきます。

補論1 藤家君の辞職は誰が求めたか

 離党3議員は「党が藤家議員の辞職を認めなかった」と述べる一方、党(県委員会・地区委員会)は「藤家議員の辞職を勧告してきた」と主張し、事実認識に違いがあります。
 県委員会は、辞職の時期が遅れたこと、市民に説明しないことの理由を「被害者の二次被害を防ぐため」としていますが、言い訳になっていません。被害者の情報は一切伝えず、「藤家議員が女性に対し継続的にセクハラ行為を行ってきた」と公表すれば済む話です。その程度の説明さえせず、「司法の場で判断を」という提案も受け入れないのは、隠蔽そのものです。
 実際に、市議団分裂まで藤家議員の不祥事が隠されていたこと、市議団分裂のその時まで、議員を続ける前提の会派変更届を出していることから、党の側が嘘をついていると断定してよいと思います。
(市民の方から情報を頂きました。「被害者について何も言わなくても誰かは分ってしまう。なぜなら二人きりで居酒屋に行くのをたびたび市民に目撃されていたから」とのことです。すなわち、「二次被害防止」は被害者を守る口実にさえなっておらず、「隠蔽」そのものだと断定できます。)

補論2 「性的二次加害」との批判について

 大里氏が被害者であったという点は、誰も否定していません。その上で、「単純な被害者と断定できない」との指摘(斉藤議員のブログより)が、党により「二次加害」と批判されています。
 この問題は、二つに分けて整理したいと思います。
 (a) 大里氏が本当に「単純に被害者」なのか
 (b) それを公開の場で議論することの是非
 (a)について、被害者が声を上げにくい(証言が変遷することもある)・外見上「同意があった」とされやすいなど、この問題に固有の事情も踏まえて、慎重に判断する必要があります。大里氏から飲食に誘うことがあったからと言って、「同意があった」とは断定できません。離党3議員が主張するように、安易に結論付けず司法判断に任せればよかったのですが、党の側が拒否しました。
 (b)について、公人とは言え、性被害の話を公開の場でするのは望ましくないと考えます。このとき、「被害者である党市議は、『二次被害』で尊厳を深く傷つけられています」という主張(党地区委員会)もするべきではありません。なぜなら、一方の主張をすると、それに異議を持つ人は反論せざるを得ず、具体的な被害・加害の話を公開の場ですることになるからです(現にそうなってます)。「大里氏は被害者」という自身の主張をしながら、それに対する反論を「二次加害」と批判するのはフェアではありません。

補論3 党内の意思決定について

 市議会議員選挙では、共産党はおそらく2名だけ立てていれば、2名当選できたでしょう(数字だけ見ると3名当選できる得票がありますが、そんなに単純ではない)。
 市民の方の情報によれば、当初、党機関は新人2名のみの立候補と説明していたが、あとから平野氏(元職)・大里氏(当時現職)の立候補がねじ込まれたそうです。これは、現場の党員の判断ではない、とのことです。
 実際、現場レベルでは、支持基盤の崩壊が見えていたはずです。大量の離党者を出したほかに、党に残っても市議選の応援は拒否した人が多く、「市議選では活動をしない」と決議した支部まであったと聞いています。
 候補者決定の経緯は、党内民主主義が機能してないことを示しています。「市民の意思」より「党の事情」、「民主主義」より「上意下達」が優先するという体質、本当に変えてほしいと思います。

補論4 「離党市議が共産党元市議を中傷」の勘違い

 共産党草加市委員会が2022年11月に発行した『明るい草加』で、「佐藤憲和氏(註:離党市議)が…性被害を受けた…前議員…の実名を挙げて『不祥事』と中傷した」と掲載しました。佐藤氏は「性被害の話はしていない」と抗議し、それに対する回答が2023年2月にあったとのことです(後出リンク参照)。
 共産党地区委員会の文書は、佐藤氏の指摘を「性被害」の話だと決めつけて批判していますが、これ、問題の本質を示していると私は思います。というのは、大里陽子氏が抱えている多くの問題(主にパワハラ)について、氏を擁護するためことさらに「セクハラ被害」を持ち出しているのは、むしろ共産党側だからです。実際、大里氏に向けられている批判をすべて「性的被害者に対する二次加害」と描いています。
 大里氏の過去の言動について、
 ●会議で、机を叩いて大声で怒鳴る
 ●当人のいる場で「使えない人はいらない」と発言
 ●市職員に威圧的な態度を取ったり休日に呼び出したりする
 ●市議団が消滅しても佐藤氏名義の市議団通帳を返さない
 ●自分に従わない党員を「悪魔」「憲法違反」呼ばわり
 ●離党した人を「匹」で数える
 など、およそ議員としての資質・品性を欠いていると言わざるを得ませんが、これらに対する批判はすべて「性的被害者に対する…」なのでしょうか?


私は草加市民ではありませんから、選挙の結果について、その是非は論じません。選挙中も、「誰に投票してほしい」というお願いはしませんでした。この拙論を投じたのは、藤家君の不祥事が発生したとき自分は共産党員だったので、草加市民に対して責任があると考えたからです。かつて党からの要請で藤家君の選挙を手伝ったことがあるので、なおさらです。
 党草加市委員長の中嶋束(なかじまつかね)氏は、共産党員としての自覚を持ちつつ、自身への除籍処分の不当性を訴えながら2021年3月に逝去されました。ご冥福をお祈りします。県委員会・地区委員会が誤りを認め、3議員と中嶋氏の名誉回復が図られ、併せて党員の再団結が実現することを心から願っています。


参考リンク

佐藤憲和(離党議員)のブログ

斉藤議員(離党議員)のブログ(大里陽子氏の自説に対する反論)

故中嶋束氏(元党草加市委員長)のブログ

藤家議員辞職時の党からの「談話」(佐藤議員のブログしか見つからなかった)

大里陽子氏のパワハラの指摘(1)(佐藤議員のブログ)

大里陽子氏のパワハラの指摘(2)(佐藤議員のブログ)

地区委員会「草加市議選にあたって」(2022年9月23日)

「離党市議が共産党元市議を中傷」との共産党のニュース『明るい草加』について

『明るい草加』について地区委員会の回答(2023年2月)

県委員会「あらためて2019年の草加市議の辞職について」(2023年3月18日)

(2022.11.08 修正。斉藤議員・佐藤議員が司法判断を求めたのは、直接には藤家議員の行為についてであり、大里議員の責任についてではありませんでした。)
(2023.01.30 加筆。大里陽子氏のパワハラに関する指摘をリンクに追加。)
(2023.03.11 修正。立候補が4人になった経緯を修正。)
(2023.03.20 加筆。県委員会の文書へのリンクを追加。)
(2023.05.03 加筆。「離党市議が共産党元市議を中傷」の勘違いについて、リンクと補論4を追加。)
以上


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