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[生成AIだけじゃない]東京都同情塔


■あらすじ

「受刑者にも同情する余地がある」という思想を反映した刑務所のコンペに参加することになった建築士が、自分自身や15歳年下の男との対話を通し、思考を巡らせる物語

■感想
〇生成AIの文章を実際に使ったことで知られているが、それは小説の一部で、それよりも短い文章の中でいろんな要素が詰まっていることが印象的だった。

・カタカナ語への嫌悪に始まる言葉への執着
・犯罪者の家庭環境
・AIとの対話
・東京オリンピック
・性差別

〇カタカナ語への違和感については、自分もカタカナ語が嫌いなので、よくぞ書いてくれた、という感じ。

〇全体的に主人公の頭の中のごちゃごちゃがそのまま文章になっていて、一般的にいうとちょっとめんどくさい奴、な印象。
主人公の思考回路が抽象的なところもあり、すべてをイメージすることはできなかった。

〇国立競技場がザハ・ハディド氏案で作られた、という設定になっているのも面白かった。
オリンピックの話とともに国立競技場の描写も多く描かれていて、東京都同情塔の建築が優れていることを表現するために国立競技場との対比が必要だったのかなと思う。
国立競技場のデザイン決めの混乱を知らない世代は、ザハ・ハディド案で話が進んでいることへの違和感が分からないかもしれない。

〇冒頭に書いた通り色々なテーマが詰まっているが、個人的には東京都同情塔のコンセプトとなった「ホモ・ミゼラビリス」が印象的だった。
「ホモ・ミゼラビリス」は犯罪者も自分でどうにもできない家庭環境などの背景があり、同情すべき存在、という思想(この小説の中の設定)。それ自体は事実だと思いつつ、なんとなく違和感を感じたのは、「同情すべき」という上から目線だったり、「ホモ・ミゼラビリス」と結局犯罪者とそれ以外を区別するような言い方にあるように思う。

〇「ホモ・ミゼラビリス」を提唱した学者は殺されるという描写があり、なぜ死ぬ下りが必要だったのか考えた。結局犯罪に同情を示していたのに犯罪にあってしまう、という皮肉なのかもしれない。

〇学者を殺した犯人の「お互いの言葉が通じない」「自分の分かる言葉で話してくれない」と怒ったという言葉だったり、主人公のカタカナへの違和感、AIとのやりとり等、「伝わらなさ」に焦点を当てている物語。


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