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読了日記『言語の本質』「ボボラガ」と「セレ」どっちが黒でどちらが白か。

本の紹介

言語という万人が当たり前に使用しているツールがいかにして、獲得され、それが人間のどのような機能によってなされるか。これまでの言語学者の「当たり前」を覆しながら、その答えに迫っていく。
『言語の本質』というタイトルながら、帯にある通り「オノマトペ」が鍵になる。もともとオノマトペとは擬音語(「ザーザー」や「ワンワン」など音や声を直接表す言葉)のことなのだが、日本語においては擬態語(「ニコニコ」や「ワクワク」などものや人の様子を直接表す言葉)として使用されることが多い。オノマトペはそれまで言語学者からは「そもそも言語ではない」という位置付けをされることもあり、言語研究の枠から外れていた。しかし、著者らはオノマトペが言語において、重要な位置を占めると確信。外部の研究資料や、自ら実験を実施し、データを集め、オノマトペの言語たらしめる要素を追求していった。結果、言語の本質にたどり着いた。という過程と成果を楽しめる本。

本の中の面白かった箇所・内容(一部引用)


・ポケモンから見る、清濁音で見る音のアイコン性
 「トントン」「ドンドン」のように濁点がついた方が、強く、思いイメージになる。「ヒトカゲ」が進化すると「リザード」になり、濁点が増える。「イシツブテ」が進化すると「ゴローン」である。ちなみにイシツブテは20kg。ゴローンは105kgである。5倍。

・「あ・お」は大きい音、「い」は小さい音。発音のアイコン性
 発音する時の口内の大きさが言語にも影響をしている。「大きい」「小さい」英語でも「large」「teeny」フランス語でも大きいは「grand」である。本著では触れられていないが、「big」は母音がiだが、濁音が使われている。複数の要素が絡んでいる可能性を感じて面白い。英語の言語習得にも便利そう。

・y,w,rは柔らかくて、k,tは硬い。
 曲線で書かれた丸っぽい図形で、カクカクした図形を見せて、どちらが「マルマ」でどちらが「タケテ」かを選択させるという実験をドイツで行った際、多くが丸っぽい図形をマルマにした。

・言語情報処理はかなり複雑
 「ボールを見て」という指示に対する情報処理
 ①この文を単語に切り分けてボールという言葉を取り出す
 ②自分の記憶貯蔵庫にあるボールという音の列と照合する
 ③さらに、その音と結びついたモノのイメージにアクセスして、今見ているものが自分の記憶にあるイメージと同じかどうかを判断する。
 ④上記の判断に基づいて、ボールと判断した対象を見る。見るという行為自体は、眼球を動かして視線をむけ、駐留させる、という運動制御も必要である。

・ガヴァガーイ問題
 知らない言語を話す原住民が野原を飛び跳ねていくウサギの方を指差して「ガヴァガーイ」と叫んだ。ガヴァガーイの意味は何かを直感的にウサギと思うが、原住民が白い毛を刺したのか、野原を駆ける小動物の総称として呼んだのか。食料という意味なのかわからない。1つの指示対象から一般化できる可能性はほぼ無限にある。

・言語習得という超難しい作業は子供は行うが、それを助けるのがオノマトペ。

・子どもはある足がかりがあれば、そこから学習を始め、知識を創っていく。その時子どもがしていることは「教えてもらった暗記」とは異なる。今持っている資源を駆使して、知識を蓄える。同時に学習した知識を分析し、さらなる学習に役立つ手がかりを探して学習を加速させ、さらに効率よく知識を拡大していく。

・言語習得とは、推論によって知識を増やしながら、同時に「学習の仕方」自体も学習し、自律的に成長し続けるプロセスなのである。

・アブダクション推論。「いちごのしょうゆ(練乳)」

感想
・言語を人間が獲得できるのは、アブダクション推論ができるからだ。という主張を受けて、『サピエンス全史』を思い出す。ホモサピエンスだけが、存在しないものを想像することができる旨が書かれていたが、まさにA、BからCを想像する力が言語の習得に繋がっているのだなと感じた。だから上記に触れた「いちごのしょうゆ」なんかは、練乳という語彙を持たずとも、対象にかけると美味しい
もの=しょうゆという知識から、この白いやつもかけると美味しいな。かける対象はいちごだな。ということはいちごのしょうゆだな。という過程があったことが想定される。超すごい。子どもすごい。その主体的な思考から自ら獲得したネーミングを持って、「練乳」という語彙に触れた時「あっこれ練乳っていうのね」という発見があるのだろう。言語学習にのみ触れられていたが、社会科の主体的な学びのヒントにもなり得る。歴史なんかは言語同様とっかかりを持っていれば、そこから比較したり、類推することができ理解が促進し、興味も膨らむのではないだろうか。(そんな単純ではないが)言語というツールを扱うことを赤ちゃんから出来るスペックの高さとそれをきちんと分析されたことで、また新たな視点に立って我が子や生徒とも関われる良い機会になった。ちなみにタイトルの答えはボボラガが黒、セレが白。清濁音!アイコン性!

 



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