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五十嵐耕平監督の映画「Super Happy Forever」を鑑賞する

先日、映画祭にノミネートされた作品をセレクトして放映する映画週間のようなイベントがあった。毎回楽しみにしているイベントだが、今回は時期がちょうどファッションウィークと重なり、この催しが大嫌いなシマ子としては(誤解のないように補足しておくと、ファッションはれっきとしたアートの一部だと確信しているが、インフルエンサーやら変なタレント的な人々が、まるで街灯に群れる蛾のように湧いて出てくるのが耐えられないのだ)、わざわざこのためだけに外に出るのが億劫だった。
しかし、ミラノに戻り約1か月、大事に持ってきたスナックやふりかけが減り、最初はふんだんにご飯やおかずの友にしていた塩昆布の使用量も半分になったこの頃(どれだけ和食に依存しているのかがお分かりいただけそう😁)、少し日本のエッセンスを補充しなければ、とこのイベント用に公開されていた2本の邦画のうち、タイトルからして元気がもらえそうな五十嵐耕平監督の映画「Super Happy Forever」を鑑賞した。

ポスター「Super Happy Forever」

【あらすじ】
2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。まもなく閉館をするこのホテルでは、アンをはじめとしたベトナム人の従業員たちが、ひと足早く退職日を迎えようとしている。佐野は、5年前にここで出会い恋に落ちた妻・凪を最近亡くしたばかりだった。妻との思い出に固執し自暴自棄になる姿を見かねて、宮田は友人として助言をするものの、あるセミナーに傾倒している宮田の言葉は佐野には届かない。2人は少ない言葉を交わしながら、閉店した思い出のレストランや遊覧船を巡り、かつて失くした赤い帽子を探し始める。

映画の公式HPより

タイトルの「Super Happy Forever」は、何を隠そう、宮田が傾倒している怪しいセミナーの名前だ。宗教とまではいかないが(その線引きをどこでするのかはわからないけれど)、セミナー会員は皆、小指にゴールドのリングを付けており、遠くからでも仲間の存在を認知できるような会話がある。

このシーンは私に、「運命の恋」という7人の作家の短編集を収めた文庫本の、池上永一氏の「宗教新聞」という作品を思い出させた。愛の教えを説く一会教に所属し、まるでテレビ通販の謳い文句や新聞の中吊り広告的な陳腐といえばそうなってしまう読み物を、「宗教新聞」という名で、妻に去られた男に毎朝届ける板里紀子という不思議な女性の話なのだが、「宗教新聞」も「Super Happy Forever」も、どちらも信じたところで洗脳やら人生を台無しにさせられる恐れのあるような悪意があるものとは思えない点で、なんとなく繋がったのだと思う。

また、佐野が妻凪と出会った5年前のシーンで、何でも屋的な古着屋の前の街路樹の下にあった赤い帽子を拾い、店主に「これいくらですか?」と尋ねるシーンがある。「1000円は安い」と自分用に買うも、凪の方が似合うから、と彼女にプレゼントし、最終的にはそれがホテルで働くベトナム人のアンの元へ渡り、三者三様に似合っているシーンは、2005年の米映画「The Sisterhood of the Traveling Pants(旅するジーンズと16歳の夏)」を思い起こさせた。

【あらすじ】
アメリカ・メリーランド州ベセスダ。そこで育ったカルメン、レーナ、ティビー、ブリジットは母親のお腹の中にいるときからずっと一緒に苦楽を分かちあってきた大の親友。ある年、レーナは祖父母のいるサントリーニ島へ、ティビーは家に、ブリジットはサッカーの合宿、カルメンはサウスカロライナにいる父のもとを訪ねるため、互いに離ればなれの夏を初めて過ごすことになる。その別れの前日、たまたま入った古着屋で、身長も体形も異なる彼女たちの誰が履いても完璧に似合う不思議な1本のジーンズに出会う。
4人はそのジーンズを離ればなれになっても変わらぬ友情の証として、皆で順番に着回す約束を交わす。そして4人の夏が1本のジーンズとともに始まり、彼女たちはかけがえのない何かを見つけることになる。

Wikipediaより

ティビー役の女優以外は皆、現在もなお輝かしくスクリーン上で活躍しているのも良い感じだ。

もう一つ印象的だったのが、サウンドトラックにも使われているBobby Darinの「Beyond the sea」という曲だ。
これは当初、5年前のホテルの、カラオケ大会の準備をする会場でアンがマイクのテストとして歌い、それが凪に伝染した。そして5年後の閉館直前のホテルの、凪が泊まった部屋で帽子が見つからずに打ちのめされている佐野が、チェックアウト後の他の部屋の掃除をするアンの鼻歌を耳にし、そっと扉の隙間に録音機を忍ばせるほど、重要な役割を担っている。
ラブソングだが、歌詞からするに、目の前にいる相手に対してではなく、過去に相思相愛だった相手にいつかどこかで再会することを願って歌われた曲のようで、それもちょうど、最愛の妻を失った男が、5年という歳月を経てもなお、彼女に思いを馳せる、というこのストーリー展開にぴったりなのでは、と思う。

公式サイトの前書きの最後に、次のような文章がある。

思いがけない出会いがもたらす幸せも、別離がもたらす悲しみも、月日とともに過ぎていく。しかし、“人生のかけがえのない瞬間”は、そんな時の流れにこそ隠れている。本作では5年前と現在という2つの時間の中で、「青春期の終わり」を迎えた人々の奇跡のようなひとときを、さりげなくも鮮やかに記録した。

公式サイトより

もうこれで、感想を書く必要もないかな、というくらい、きっちりとまとめられていると思う。

ちなみに、この映画の日本公開は9月27日(金)だそうだ。
イタリアでの本公開を待って、少しお安く観るのもありだったかもしれないけれど、それはきっと1年後、2年後の話で、
今の気分、つまり、、、
夏季休暇明け約1か月後、、、
日本から持ってきた思い出の品(主に食べ物)が少しずつ減っている、
着ようと思って持ち帰った夏服が急激な冷え込みで着れなくなった、
夏季休暇前に発生した腹痛はいまだに原因不明のまま、次の検査の費用が高すぎて来月に持ち越しにしている自分がいる、
そして来月、弟が、この映画の舞台になった伊東市の温泉宿へ3泊で行くと喜んでいる、
等の諸々から、やっぱり観てよかったな、過去に読んだ本や観た映画にまで記憶を繋げられたし、なにより淡い海と空の色に癒されたな、もう少し涼しくなったら私も海へ行きたいな、と様々な角度から「Happy」な感情を抱かさせてもらえ、それを皆さんにもおすそ分けしたくて、日本公開前に投稿することにした。

本当はそろそろ、ギャラリー鑑賞の記事にしようかな、と思っていたけれど、それは次回に回します🙂‍↕️

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