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【ネタバレ感想・批評】『魔女の旅々』

※注意事項※

本記事は、筆者が当該アニメを視聴した際に抱いた感想を綴ったものです。批評としての体裁を保つべく、可能な限り客観的・論理的な記述を心掛けてはいますが、あくまで個人の主張に過ぎず、その他の意見を否定する意図はございません。内容に触れない批評は説得力がないため、全編ネタバレありです。未見の方はご注意ください。なお、筆者はアニメを鑑賞する上でストーリー・シナリオを最も重視しており、作画・音楽・声優等には余程のことがない限り言及しません。ご了承ください。

記事に対する感想・疑問・指摘等あれば、お気軽にコメントしていただけると幸いです。


作品概要

タイトル:『魔女の旅々』
放送開始:2020年秋
話数:全12話
原作:白石定規の同名ライトノベル
監督:窪岡俊之
シリーズ構成:筆安一幸
アニメーション制作:C2C

補足情報:「旅々」は「たびたび」と読む。原作は元々Kindleの電子書籍として自費出版されていたが、のちに改稿を経て一般のラノベレーベルから刊行された。

※参考



余談

作画すご。聞いたことない会社だが、知らなければ京アニと言われても信じただろう。まあ、例によって、作画は評価対象としないが。

基本設定

この世界には魔法を使える者がおり、人々は彼らを「魔法使い」と呼ぶ。魔法使いはさらに三等級に区分され、下から順に「魔導士」「魔女見習い」「魔女」である。魔導士は魔術試験(筆記と実技)を経て魔女見習いとなり、魔女見習いは市井の魔女に師事し、師匠が出す試験をクリアすることで一人前の魔女と認められる。魔女という名だが、性別が関係あるのかは不明。魔女は胸に指定のブローチを付けることでその身分を表す。あとの二階級には相当する物品なし。これらのルールは、複数の国家に共通する模様。

主人公はとある国出身の魔女。幼い頃から魔女に憧れ、国内最年少の14歳で魔術試験に合格した彼女は、1話でさっそく弟子入り先を探すものの、若き才能を妬んだ魔女たちに悉く拒まれ、最終的に母親のコネで辺境に住む魔女に弟子入りする。1年で師匠の元を卒業し、以後3年にわたり世界各国を旅する彼女。本作はその3年の記録を綴ったロードムービーであり、主人公はほぼ毎回違う国に滞在し、1話完結の物語が展開される。なお、国の大半は都市国家と思われる。形式だけ見れば『キノの旅』によく似ているが、あちらは架空の国家を用いた社会風刺がコンセプトであるのに対し、本作は主人公自身の冒険譚という側面が強く、実質的に別ジャンルなため比較できる箇所は少ない。

設定への疑問

弟子入りの話がイマイチ納得いかない。魔術試験は国をまたいで行われるほど権威のある試験のようだが、その割に行程がガバすぎる。主人公の件はたまたま相手が全員狭量だっただけとしても、そもそも無関係な民間人に負担を強いているのがおかしい。優秀な才能を見出して教育を施すのが目的なら、弟子入り先の斡旋ぐらいあって然るべきだし、むしろ初めから専門の教育機関を用意した方が、何倍も公平かつ効率的だろう。弟子入り先によって修行や試験の質が統一されないことを危惧する人間は、この世界に一人もいないのだろうか。

各話解説

1話は先述した弟子入りの話。3話と7話は二本立て。

2話。魔法使いの国(国号不明)。魔法使いの国って何だよ。現実で言ったら「弁護士の国」「会計士の国」みたいなもんだぞ。魔法使いの国には魔法使いしか入れないらしいが、旅行者に限った話なのか、それとも魔法使いしか市民権を得られないのかはっきりしない。現実でいうヴァチカンのような、外部の人間が職務のためにやってくる前提の国家なのかとも思ったが、ゴリゴリに民家が密集しているのでそういうわけでもないらしい。逆に魔法使いは全員素通りなのもセキュリティ的にやばい。むしろ一番厳密に入国審査すべき人種だろ。
入国早々魔女のブローチをなくし、出るに出られなくなる主人公。再発行とか、魔法で探すとかないのか。犯人は主人公に一目惚れした同性の魔導士で、滞在日数を少しでも伸ばすべくブローチを盗んだらしい。彼女は主人公に接近し、魔女になるため東の国から来た、魔術試験に合格したいと言って教えを請う。仕方なしに教えてみると、みるみるうちに上達する。そうこうしてるうちにブローチを盗んだこと、ついでに元々魔法がまともに使えたことがバレる。「はるばる東の国から来た、つまり空を飛んできたんだから上手く飛べるはず」とドヤ顔で指摘するが、別に陸路で日数かけて来たかもしれんだろ。素人が雰囲気でミステリを書くな。
寂しさを言い訳にする彼女に対し主人公は、「何かを成し遂げる人間は孤独だ」「馴れ合えば終わり」と分かったような口振りで説教する。と思ったら、舌の根も乾かぬうちに「離れていても見守っている」と言を翻す。何がしたいんだ。
半年後、彼女は無事試験に合格する。合格できないのはマジだったのね。主人公はそれを新聞で知るのだが、他所の国の資格試験の合格者が、写真付きで新聞に載ることの異常さに誰も疑問を覚えなかったのだろうか。

3話前半。国号不明。主人公は花畑で名も知らぬ女性と出会い、旅先で配るようにと花束を託される。実はその花は人間を狂わす毒草で、持ち込み先の関所で焼却処分になる。が、このとき出た煙に毒素が紛れ込んだらしく、程なくして国中に毒が蔓延する……
以上。いや、誇張抜きにマジでこれだけ。主人公や他の誰かが毒の犠牲者を救うため奔走する、みたいな展開は一切なく、一国が毒で滅びるのを尻目に次の国へ逃避して終了。投げっ放しという言葉すら生温いブツ切りエンドである。まさか、これで救いのない現実の厳しさみたいなのを描いた気になっているのだろうか。だとしたら、文字通り脳内お花畑というほかないが。『キノ』はバッドエンドの回であっても、人間の愚かしさを強調することで一応のメッセージ性を持たせていたのに対し、こっちは単なる自然災害で教訓とか一切ない。防災意識を高めろとかそういう話か?
本筋以外の部分でも、そんな危険な花が生えてる場所なら初めから立ち入れるわけないだろとか、気体になるほど加熱して毒は失活しないのかとか、煙に乗ったぐらいで国中に広まるならもっと頻繁に被害出てるだろとか、毒草が危険だから没収したのに適切な処分方法は知らないのかとか、わずか10分の間に無数のツッコミ所がある。

後半。村落。奴隷の少女に、雇い主の息子が、魔法で外の幸せな風景を見せる話。少女は現実との落差に絶望し自殺する。めでたしめでたし。とりあえず人が死ねば深いとでも思っているのだろうか。どこぞのエロゲーメーカーと一緒だな。過程もなければ余韻もない、ただ人が無残に死ぬだけの話など、深いどころか不快なばかりである。こっちは一応、良かれと思ってやったことが裏目に出ることもありますよというメッセージはあるのだが、だとしてお前はその善意を責められるのか?という話になってしまう。そもそも魔法を見せたことは単なるきっかけであって、どう考えても根本の原因は奴隷という身分そのものの方だろう。その奴隷だってその気になれば逃げるなりなんなりできるわけで、実に底の浅い作りとしか言いようがない。

4話。国号不明。もう面倒なので詳細は省くが、恋人を殺され恨みに狂った魔女が一国を滅ぼす話。オチは無事に国が滅びてめでたし。アホか。ていうかこんだけ桁外れに強いなら、恋人の処刑ぐらい魔法でどうにかできただろ。

5話。国号:王立セレステリア。それ国号か?
王立魔法学校なる施設にて、師匠と再会する。いや学校あるんかい。というか、時系列がおかしい。主人公は15歳で一人立ちし18まで旅を続けている。師匠との再会が数年ぶりで、さらにこの回自体が半年以上前の出来事らしいが、それだと旅の年数3年じゃきかんだろ。
なお、内容は特にない。学校に数日滞在して遊んだだけ。

6話。国号:正直者の国。それ(ry
半年前、国全体に結界が張られ、口頭および書面で嘘がつけなくなり、会話のない閉塞した国家と化していた。偶然居合わせた2話の少女とともに、成り行きで結界に挑む主人公。ページをまたいで書けば噓にならないというガバガバ理論で門番を騙し王宮に侵入、結界の大元を破壊してめでたし。護衛の魔法使いぐらい置いとけよ。まー酷い出来なのだが、起承転結がある・主人公に役割があるという二点だけで、ここまでの4話より格段にマシなのも事実である。

7話前半。国号不明。壁を見ようと観光に来たら壁が壊されていました。諸行無常。
後半。村落。キモいので書きたくない。

8話。国号不明。国がどうこうですらなくて、ただ個人の犯罪者をとっちめて終わり。根本的に何かを勘違いしてるとしか思えない。

9話。国号:時計郷ロストルフ。タイムリープ回だが、元々魔法でなんでもあり設定なだけに、時間遡行のありがたみが全然ない。なんせ、割れたティーポットを直すのに時間操作の魔法を駆使する世界である。死人ぐらい余裕で生き返りそうだ。
金欠の主人公はある魔女に金で雇われ、タイムリープの手伝いをすることになる。依頼人の目的は、10年前に友人一家を襲った強殺事件を未然に防ぐこと。事件では一家の娘、すなわち依頼人の友人だけが助かるのだが、それがきっかけでグレて娘自身殺人鬼になる。実は強殺事件の真犯人も彼女というバレバレのトリックがあるが、そうとは知らぬ依頼人は、主人公を引き連れ過去へ飛ぶ。過去を改変したら今の世界そのものが変わってしまわないかと案じる主人公に対し、過去に飛んでも時間軸が分岐するだけで、自分たちがいた未来は変わらないと返す依頼人。タイムリープ初挑戦のくせになぜ知っているというツッコミはさておき、それだと意味がないのではと問う主人公。依頼人曰く、「そういう時間軸があると思えるだけで救われる」らしい。あそう。

無事彼女の家に着いたあと、なぜか依頼人は両親を人気のない路地裏へ連れ込む。なんでそんなことするんだ。案の定、その先で待ち構えていた(?)娘は両親を刺殺する。冷静に考えて、別に魔法を使えるわけでもない9歳前後の女児が、大の大人二人をナイフで殺して証拠隠滅まで完璧でしたとかありえないのだが、加えて今回は、魔女である依頼人まで相手しなければならないという無茶振りである。が、なぜか余裕で三人を滅多刺しにし、駆け付けた主人公(はじめから監視しとけ)のお蔭でようやく形勢逆転する。騙されて、もとい、勝手に勘違いしていたことに気付いた依頼人は、ブチギレて彼女を惨殺する。とりあえずグロ出せば深いと思って(ry
ちなみに娘は両親から虐待を受けていたらしい。例によって心の闇だか救いのない現実みたいなのをやりたいのだろうが、視聴者が求めているのは現実ではなく「物語」である。女児による殺人を物語として扱いたければ、彼女が両親への憎悪を募らせ、法や良心、物理的障害などとの葛藤を経つつ、最後は人殺しに手を染めてしまう……というような過程の部分を詳述すべきであって、後出しで「実はこいつは凶悪犯でした」と補足するだけなら、現実の報道番組で事足りる。人間ドラマとしてお粗末なのは勿論、ミステリ・サスペンスの観点から見ても、現行犯を力ずくで取り押さえるだけという工夫の欠片もないシナリオで嘆かわしい。そういえば、依頼人の話していた、黒いフードを被った強盗とやらはどこへ行ったのだろうか。

元の時代に戻るとなぜか依頼人は記憶をなくしていた。未来は変わらないとは一体。つか、また個人の話じゃん。国を題材にしろ。

10話。自由の街クノーツ。主人公の師匠の回想回。まだ見習いだった彼女が姉妹弟子とともに、国中の魔女を挙げても対抗できないテロ組織を一晩で壊滅させる話。

11話。自由の街クノーツ。主人公と2話の少女が、20年越しに復活したテロ組織を一晩で壊滅させる話。

12話。願いを叶える国(国号不明)。バトル回。作画凄いね。

各種問題点

・主人公
性格が悪い……というのもちょっと違う。より正確には、「多重人格でかつ主人格の性格が悪いため、概ね性格が悪く見える」というべきか。いや、別に多重人格などという公式設定はないのだが、そうとしか取れないぐらい言動が支離滅裂なのだ。

たとえば1話では、小説中の魔女に憧れ勉学に励む、純真で努力家な面が描写されている。かと思えば試験に合格した途端、「他の受験生があまりに弱かった」「魔女になれてしまうのも時間の問題」とナチュラル屑な発言をする。娘が才能に慢心することを懸念した両親は、挫折を覚え込ませるよう師匠に頼むのだが、なぜか師匠は「お前は我慢しすぎ」「気に食わないことがあれば戦え」と真逆の教えを施し、その結果……かどうかはわからないが、隙あらば自身の才能と美貌を鼻にかけ、自分より低位の魔法使いを見下す、非情に傲慢な人格を獲得してしまう。
まあ、この傲慢さがギャグや萌えを狙った意図的なものというのはわかるが、性格以前に頭が悪いので(これは意図的ではなく、作者の頭が悪いため)、頭の悪い人間が精一杯性格の悪い発言をしようと無理しているように映り、腹立たしさや可笑しさよりも憐憫の情が先に来てしまう。

他にも、3話とか4話では無関係な人間がいくら死んでも我関せずというスタンスだったのに、12話では9話の依頼人の件を悔いているようなセリフがあり、ここも一貫性がない。また2話では自分を騙した人間を優しく諭し、3話後半では奴隷を酷使する主人に腹を立てるなど、人並みの正義感は持ち合わせているようにも見える。もっとも、その割に奴隷の行く末を案じたりはせず、あっさり村を去るのだが。とにかく全ての発言・行動がちぐはぐで、こいつがどういうキャラで何をしたいのか一向に掴めない。性格が悪いこと自体は別に問題ではなく、性格が悪いはずなのにその悪さをきちんと描けていないことが問題なのだ。

そもそも、報酬もなしに人助けをする理由がないと言ったり、働かずに儲けたいと発言するなど、本質的に物臭で周囲への興味が薄く、旅を楽しめるタイプとは思えない。この手の旅行者設定を成立させたいなら、初めから物好きで好奇心旺盛なタイプでいくか、初めは斜に構えながらも異国での交流を経て徐々に心を開いていくタイプかのどちらかにしなければならないだろう。今のままだと、わざわざ他国へ出向いては現地のトラブルを素知らぬ顔で眺めてるだけの悪趣味な奴にしか見えない。ちなみに彼女の旅の目的は、幼い頃から好きだった小説の聖地巡礼をすることなのだが、その小説というのが実は母親の旅行記(私小説)で、自分の自伝を年端も行かない娘に読ませるヤバい親になっているのが笑える。

あと主人公強すぎてストーリーに緊張感がない。国内最年少で魔女になれるぐらい優秀という設定でいくなら、血筋など何かしらの理由を付けるべきだし、最年少だからといって別に最強なことにはならんだろ。


・魔法の扱い
魔法が空気すぎる。バトルシーン以外で魔法を使う場面がほとんどない。たまに使ってもシナリオ上まともな役目を果たさない。3話後半のやつは写真かスケッチでいいし、2話・5話は魔法以外の学問や技能で構わない。バトル以外でストーリー進行に不可欠な魔法は、6話の結界と9話の時間遡行だけである。
逆にバトルシーンは多すぎ。ほとんどのトラブルを暴力で解決している。単調で面白みに欠けるというのはもちろん、街中でこれほど当たり前に魔法を行使できるとなると、治安維持に相当な労力を要するはずだが、そんな描写は影も形もない。一応、戦争やスパイの概念はあるらしいのだが、旅先のほとんどの町は平和そのものである。6話の国など国王・近衛兵ともに魔法が使えず、侵入者相手に剣と鎧で戦うのだが、普通に考えてそんなわけあるか? そこら中の人間が炎や雷を操ったり、時間を巻き戻したりできることの危険性が、この作者には理解できないのだろうか。


・考証
例によって、異世界設定も甘い。ジャンケンがあったり花火があったり毒ガスがあったり、「恋に落ちる」の「落ちる」に疑問を覚えたりもする。こういうのを修正するのが編集者の仕事ではないのか。

まとめ

根本的に、物語の体をなしていない。山のようにある矛盾点を無視したとしても、主人公が傍観してるか魔法で無双してるかの二択という、クソつまらない基本構造が浮き彫りになるだけ。すべてのシーンが事実を羅列しただけの日記的記述であり、山もなければオチもなく、視聴者を楽しませようという気概がまるで感じられない。そもそもが日記とか言い訳にならんから。これ商業アニメだから。日記なのはあくまで設定上の話だから。

結論

流石、自費出版はちげーわ。

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