「ジェノサイド」のガザ 女性・子どもの死者69% 超大型爆弾とAI標的設定

 パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘は、終結の見通しが見えない。激しさを増すガザ戦争の行方はどうなるか―。元朝日新聞記者の中東情勢ウオッチャー・川上泰徳氏が1月13日の日本ジャーナリスト会議(JCJ)のオンライン講演で徹底解説した。
 イスラエルが「鉄の剣」作戦と名付けた今回のガザ戦争では、イスラエルの攻撃によるガザの死者のうち女性と子どもの民間人が飛びぬけて多い。世界保健機構によると、2008年、14年、21年の過去3回のイスラエルのガザ攻撃では、女性・子どもの死者は38%から41%で、非戦闘員の男性が60%。ところが23年は女性・子どもの死者は69%に達し、男性が30%で、過去3回と逆転している。
 
最大1㌧爆弾使う
 
 ガザで女性・子どもの死者が激増している理由を川上氏は2つ挙げた。まず多大な巻き添え被害を出すのを承知でイスラエルは航空機から米国製超大型爆弾を都市部の高層ビルや高層マンション、大学、銀行、官公庁などに投下している。 
 川上氏が言う。
「使っている爆弾の重さは500㌔から1トン。1トンだと高層マンションを破壊できる。米ニューヨーク・タイムズの取材に応じた軍事専門家は『こんな狭い地域にこれほど多くの大型爆弾が投下された歴史的な例は、ベトナム戦争か第二次世界大戦まで遡る必要があるかもしれない。イラクのモスルなど都市部でIS(イスラム国)を相手に米軍が戦う場合でも、最も使う500ポンド(約227㌔)爆弾さえ、標的には大きすぎる』とコメントしている」。
 もう一つとして生成AIを用いた標的設定システムの利用が挙げられる。「ハブソラ」(福音)と呼ばれるこのシステムは空爆・砲撃の標的を自動的に数多く設定する。

人間の自制心失う

 イスラエルネットメディア「+792マガジン」の調査報道によると、08年の1日平均標的数は155カ所、14年は122カ所、21年136カ所だったが、23年は429カ所。過去3回の1日平均138カ所に対して今回はその3・11倍にもなる。情報部員は「数万人の情報部員では処理できなかった膨大な量のデータを処理するハブソラはリアルタイムで標的を示す」「ハマス幹部への攻撃の巻き添えで許される民間人の死者は数百人にまで増加した」と語った。
 川上氏は「人間はミサイルを撃つだけの〝機械〟になっている」とAI標的設定システムのせいで自制心を失ったと指摘した。
イスラエルのガザ攻撃は「人間の顔をした動物」(ガラント国防相)ととらえるハマスに加えて民間人も対象にした「ジェノサイド(集団殺害)だ」と川上氏は断罪した。
 
終結は見通せない
 
 イスラエルはどんな戦略を描いているのか。ニュースサイト「シチァ・メコミット」が10月末に報じた「ガザの民間人口の政治的な方針の選択肢」と題した政府秘密文書では、ガザからエジプトのシナイ半島に住民を追い出すのが実行可能としている。ネタニヤフ首相はこのシナリオに沿って戦争を進めているようだ。
 日本は何ができるかについて川上氏は「政府は即時停戦を訴える、市民はイスラエルのガザ攻撃反対・中止の決議を地方議会に求める」と提案した。
中東情勢を約20年ウオッチする川上氏も戦争がどんな形で終結を迎えるのか見通せないという。このままでは、戦闘は果てしなく続き、民間人の死者はどんどん増える。

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