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D10

土曜日。朝っぱらから早起きしてコインランドリーの洗濯チケットの列に並んだ。

私は普段からあまり喋る方ではない。しかしこの非常時だからして、同じ災害の経験者だと言う境遇が垣根を低くしている。皆心持ちがオープンだ。

待っているのもつらく、隣のおばちゃんとお話をした。
なかなか気さくな方で、家電は無事だったものの、家の乾燥機が頼りないから、業務洗濯機に並んだのだという。ご家族は無事だそうだ。
「家建てるにしても40過ぎると縛りがあるからねーあなた家建てるの?」
うーんどうでしょうねえ、ダメだったら市営借りようかなと思っとります…その流れで仮設住宅の話になった。彼女の話を聞いていると、

おばちゃん、これまためっぽう強い。
なんと、彼女は知らない一人暮らしの若者のお宅に、「あんな、仮設の情報集めているんだけど、お家みーせて!」と頼んだそうだ。 

「みーせて!」「いーいよ!」

と返事が返ってきたそうである。(会話ママ)

話を聞いていたらいい意味で目眩がしてきた。まず都会じゃありえない。危険過ぎる。気さくを超えて奇策強行軍。イノシシか。

強い、強すぎる!と言ったらアァーハハハ!
と笑ってくれた。

仮設には、手前から、玄関、キッチン、風呂便所、奥に十分な広さの寝場所があるらしい。彼女自身もまさか見せてくれるとは思ってなかったみたいで、内覧会ができて喜んでいた。

「うつくしくてたまげたわ〜いいわ〜あの兄ちゃん羨ましい〜」

「ですよね〜早く入りたいですぅ〜⭐︎☆⭐︎☆」

「ありゃ4人とかになるともう少し寝る場所あるわ
 おばあさんは川へ洗濯に行かなくても済むわね」
 ※コインランドリー遠征の事

「私は川に住みたいですけど。河童になりたい
あら〜あんたまだ地上に住んどったんかって挨拶できるし」

ウフフ、アハハ、まちくたびれて言っている事が支離滅裂になってきた。
もう二人してお目目キラキラ、マリア様お祈りポーズである。何に祈っているかすら分からない。

しかし図面で見るのでは味気ない家の話が、お笑いトークを交えてよくわかった。
細かいところは防犯のため省くが、私としてはとても助かった。

話題はお昼に移った。
おばちゃんはスマホを見ながら、

「今日どんぶりと揚げ物やわ。どうしようかな。並ぶんがたいそいわ。」

「漬け物ほしいですよね。買ってこようかな。
わたしもこの間1時間半待ちました。何かね、もう途中でドロップアウトしようかなぁあ〜と」

「わかるわあー。ほんねんけど、食い意地張っとんから、並ぶんやっちゃなあー。牛丼にも随分世話になったわ」

表から、小走りで15分前に到着した正社員さんがいらして、整理券の準備をし始めた。

気がついたら、2時間あっという間に経っていた。

社員さんが奥までずらりと並ぶ利用者に聞こえるようにアナウンスを始めた。
「では、10分前ですが、時間になりましたので、整理券をお配りしますッ!時間は選べませんので、指定の時間に必ず取りに来て下さい!なお、お時間が多少前後することがありますので、予めご理解を賜わればと思います!洗濯は無料ですが、乾燥は有料です!
では、乾燥が必要な方は三百円を添えて、こちらの用紙にお名前等ご記入下さい!」

チケットを配り始めたので、1番目のおばちゃんと
ほんならね〜と挨拶してお別れした。

プライバシーなぞどこ吹く風、昭和に戻った気分。いい1日の始まりでした。

おわり

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