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残酷でない暗黒街 上

※意図していない部分で文末が切れるので、なるべくPCで読んで下さい。後スマートフォンにも対応予定です。


タイトル マフィアズライフ

ジャンル オンライン2ⅮRPG

プレイ可能な人数 常時虹彩掌紋認証により…1人

年齢制限 18歳以上
 
登録者数 1,972,031人

制作運営 リアルゲーマー
共同開発 アナザーワールドカンパニー クリアトーレ

必要な環境 2091年以降のPCか2160年以降のクリップフォーン

RMT(ゲーム内通貨グロートを
日本、アメリカ、イタリアの現金に交換する行為)は
リアルゲーマー社と提携している金融機関38行の内
そのいずれかの口座開設により可能

年会費1万円

ゲーム紹介
さあ君も才能あるマフィアとなり仲間を連れて歩こう。
強盗、襲撃、始末に明け暮れるのも、
取引、商売、パーティーを楽しむのも、
金庫破り、脅迫、詐欺をして卑しく笑うのも、
教化、救済、護衛に専心するのも、
友情を誓うのも情報を売るのも、悪を討つのも自由!
勿論そんなプレイヤー達を束ねればドンにもなれるぞ!


プレイヤーがその意志によってなれる職業
殺し屋、ストリートギャング、武器商人、用心棒、
探偵、弁護士、神父、記者、情報屋、酒売り、煙草売り、
床屋、服屋、車屋、家具屋、ギャンブラー、スカウト、ガイド、
コメディアン、詩人…など。
※職業の枠やその特技などは無く、
十分に可能だと思われる生き方の数例です。

…注意…
このゲームはプレイヤー同士の戦闘が認められ、
死ぬと自宅や邸にある金品以外の全てが奪われる危険があり、
殴る、埋める、殺す、虐める、自殺しろ
などの言葉が頻繁に使われますが、
それらはまったく利用規約に反しませんので、ご了承下さい。

そうこれが一人の青年、正義漢でもある弓野・明(ゆみの・あきら)が
これから夢中になってプレイするゲームの概要なのだが、
いくつか分かりにくい点があるのでまずそれを説明しよう。
では初めに、何故登録者数が197万人を超えているのか。
それはこのゲームが日本、アメリカ、イタリアの三ヶ国でプレイ可能で、
現金が10万円以上ある事を証明し年会費の1万円を支払えば
誰でも極限まで巨大暗黒街を体感できるからで、
もう一つ気になるのはクリップフォーン。
これは襟やポケットの内側に挟む携帯電話の事で
縦横四センチの機器にあるボタンを押すと
両耳に表示非表示が選択可能な逆三角形の送受話器が現れ、
右手の指で押せば顔の右前に、左手の指で押せば顔の左前に
本人しか見えない電話帳が表示され、それに指先を当てて上下に動かし
かけたい相手のところで内側か外側に払い、発信。
それに相手が応じれば通話が可能となるもので、
弓野明が生きる2×××年の今
持っていない者を探すのが困難なほど流通した商品であり、
ネットゲームを遊ぶ時には目の前に70インチの大画面が現れ、
声を発すればそれは設定次第ですぐにでも、文章になる。

そしてまた概要の続きを見るとそこには、世界観と地図がある。

世界観
プレイヤーが住む事になるのは巨大暗黒街ガラミール。
その名は古代語で悪魔の手を意味し、
そう聞けば皆左手を見て納得するが
西部が手の甲、東部が中指と人差し指、南部が親指と
全体にどうしてもそう見える事からつけられたものであり、
本国ビッスーディの南に広がるゴーゴン海のほぼ中心に位置し、
まだ州扱いされていないので統治者は
中心都市のダチカールに居る市長、アポロン・ウェイ。
目を北西へ向ければその端の一部は本土扱いとなって境界線が引かれ
その周辺の西部が十一、南部が十四、東部が三十一。
合わせて五十六もの市町村があるのである。


1ダチカール 2メーツベルダ 3メレデニ 4サオーズ
5エジベーダ 6バラジコーズ 7コンレ 8ピバンス
9パンゾベルダ 10ゲデル 11レモエリスタ 12ラドロ
13タロストン 14ダースンコーズ 15ケラクダインベルダ 16グラムデル
17メロサイズ 18ヒレンノーリ 19ロットミル 20ダイオン
21プローバ 22ダークアリーナ 23ゼル 24カリオメロ
25カタラン 26クナイマ 27ラミナーサ 28バザ
29バックロール 30スタラド 31オンオーズ

32ゾーイール 33イリオーズ 34スワイデル 35イーブン
36レナ 37ラムアンス 38フーグルック 39ダミルバル
40ナーキレイ 41セメアクレイ 42ペリオズ

43サファロイス 44ガランス 45ジャクル 46ガビネール
47アークタウン 48カリオウレ 49ライゼル 50アロビオ
51テガノーム 52クメロ 53グスデル 54レグデル
55ナズパタル 56クオベルダ


市長アポロン・ウェイからの挨拶
まずマフィアとは、上品ぶって格好はつけながらも欲望のままに生きる
無法者の集まりである。何故なら諸君の世界にいたアル・カポネは
策として英雄のような顔を見せながらも金と権力に憑りつかれ、
罪の無い人も含め大勢を殺し、ラッキー・ルチアーノはまるで
悪魔の造った巨大工場のように麻薬を流し
冷酷な現代マフィアの先駆けとなり、
この者達が生きるのは…
どんなに仲間想いなふりをしても人を人と思えば、成り立たない社会。
そう若者は何にでも興味を持つが、奴らマフィアは
法外の力を行使するのみでは生きてゆけないと言い訳し
人助けに似た事をしながらもオレ達は神父じゃないと冗談を言いながら
本当に苦しんでいる人は救わず、見栄や威厳も必要という現実を悪用し
麻薬あるいは金で作った奴隷を鞭打ち、罪無き邪魔者を拷問し、
我が子の大罪は許しながら他人の子は小さな罪で殺し、
結局最後には…ただの極悪人として生きるものなのである。
それは表の世界さえ、言葉と最低限の行動ばかりで
彼彼女らマフィアも含めた多くを救わず、金のみが金を生む社会を構築し、
あろう事かその内一部には、
怪我や障害あるいは老いという苦しみを抱えながら必死に働いても
やっと生きていけるだけの未来のみを用意し、
それでも少しはましな暮らしをしたければ、煙草やギャンブルはやめろ、
ほぼ限られた業界の限られた者達のみを喜ばす金だが
国民の義務は果たし税金は払え、
どんな事情があろうと悪法もまた法なりで当然これも守るようにと、
まるで権力者の創った常識こそが正義だと言わんばかりで
そんなものに唯々諾々としていられない気持ちも理解できるが、
やはりマフィアも元が人であるのにその後の行いが獣そのものなので
それ以下であり、屑の群というのが正しく、
我々善良な者が思い描く侠気などというものを守り
世の愛や平和に貢献した者など、一人もいない。
そうもっと分かりやすく言うなら、有名なマフィアというものは
美学と器量はあったが無法や裏社会を愛してしまったジョン・ゴッティーが
ましなぐらいで、皆どれほど人気があろうと立派に見えようと
陰では人が目を背けるような事をしていたか、仲間にさせていたか。
そういった事実があり、
自分がそういった者達の上に君臨して任侠などとは、
筋が通らないのである。
ただ強いて言えば、もしかすれば多くを従えられなかっただけで、
つまりは短命だったか無名だっただけで、
極少数の者は侠気の意味を違えず、善良な者に優しく、決して偉ぶらず、
一朝事あらば必ず奮い立つよう自己を鍛えており、
そういった者達が他の金や暴力によって成り立った大組織に抗うのは
非常に困難だったのではないかという想像のみが唯一の救いであり、
そこに思いを馳せてもらいたいのである。


では早速、たとえゲームでも正義漢がどんなマフィアドンになるのか、
それをしっかりと把握する為にも
プレイヤー達の生きる巨大暗黒街ガラミールにおける抗争の歴史を
見てほしい。
まだそこに名さえ刻まれていない弓野明の分身はキアーロ・カンパネッラ。
彼がガラミールを訪れるのは丁度その歴史のすぐ後なので、
それからは…
まだ二十八歳と若く血気盛んだったキアーロが日々をどうやって生き、
仲間や取引、金や縄張りそして権力を得たのかを書き記そう。
そうそれは、多くの者が少しでもガラミールを知り
野望を叶えようと血眼になっていた頃。
やや遅れて登場した彼ドン・キアーロさえ一人の男でしかない、
後に言う大流入時代だった。


ガラミールにおける抗争の歴史
八三六年…十月
百年以上続いたガラミールの戦争は既に、四十五年前に終結。
それからもビッスーディの政府はガラミールを恐れ
国民にはしっかりと安全の確保された観光のみを許可してきたが、
本土の治安と社会に対する不安を憂慮し、
島においてはその活気を取り戻そうと島民達と交渉を続けた結果、
排除処分となるマフィアかそれに類する者と、
帰らない覚悟のある者のみ島への移住が認められる事となり、
この月の二十日ついにその政策が施行。
と同時にこのガラミールには一挙に百三万人の来島者があり、
ついに殺し合えると目の色を変えたプレイヤー達は
開始間もなく彼方此方で大規模な銃撃戦を展開。
その死者は十二時間で二万九千人を超え、
島にある全ての掲示板は復讐を誓う言葉であふれた。
だがそれからの負の連鎖を抑えたのが
南部のウォーカー達と東部のハーバー達やベンソンという神父、
それに西部では主にジョルダーノ達と
今では通称ファンガイと呼ばれる男とその仲間達であり、
彼彼女らの主張をまとめると…
開始直後から訳も無く殺し合った事に怒っても仕方なく、
もっとこの島を知って楽しもうという事。
それを聞き入れるよう彼方此方の抗争はやや沈静化したが
寧ろ彼彼女らに反発するよう他ファミリーとも協力し合いながら
それぞれ復讐したい相手を殺していく目標を掲げた
西部のマダキファミリーや、鎮静化を望んだファミリーの内
最も人々から支持を集めたウォーカー達が気に入らず
これを皆殺しにすると誓った東部のクーパーファミリー等が誕生。
それから一ヶ月程も島の全土では主にこの二つのファミリーと
鎮静化を望むウォーカー達や
それを支持する多数のファミリーとの抗争が続き、
飛び火して巻き込まれた者達もそれぞれ敵をつくる事となり、
だが実のところその間西部の中心にあるゾーイールの町では
スタンレー・タラントが自分のリーダーと
その左右を固めていた者が殺された事を理由に
最大で百五十人以上にもなる集団バッファローブラッドに怒り、
その抗争では度々仲間達を助け多くのファミリーを味方につけると反撃。
それを機に北端の町イーブンから中心部にかけ勢力を拡大。
彼彼女らはそこで地盤を固め、
また南部では姿を見せれば必ず暴れるビトーリオ・コルボが
自分の車に決闘の流れ弾が当たったという理由で相手を殺し、
彼の率いるコルボファミリーは殺された二人の属す
キッキーニやジックラーという二大ファミリーと衝突。
彼彼女らは顔を合わせる度多くの死者を出した。

八三六年…十二月
この月の六日ダチカールにおいて、
主に西部と東部でつづいた数々の抗争を鎮める為
穏健派による宣言があり、約半数のファミリーは和解したが、
数日後クーパーファミリーがウォーカー三兄弟の次男
フェックス・ウォーカーを暗殺すると彼に二度と顔は出さないと言われた
長兄ジョーイと三男ステップは激怒。
いつまでかは分からないが彼を失った二人は
ファンガイが止めるのも聞かず、
鎮静化の為にはクーパーファミリーとその仲間を潰す必要があると
徹底抗戦を主張し、多くのファミリーを味方につけた。
またフェックスが去ったのは
クーパーファミリーによる虐め紛いの攻撃と暴言が原因だったが
同じように善意の人ベンソン神父が殺されると
ファンガイもウォーカー達の主張を容れざるを得なくなり…
彼彼女らは当時から比較的温厚な者の多かった東部に拠点をおき、
そこを縄張りとする幾つかのファミリーと共闘。
その一時期戦いに高揚したファンガイさえ
どこの掲示板に行っても必ず挑発してくる
クーパーファミリーの者を殺すと、その数を誇った。
また南部では、
ジックラーファミリーにカポのガルダを殺されたドン・ビトーリオが、
仕返しのためとはいえ相手の贔屓にしている、商人や記者までも殺害。
それに怒った他組織も巻き込み、抗争は激化の一途を辿った。

同八三六年…十二月
この月の末、
既にクレイジーだと嫌煙されていたドン・ビトーリオだったが、
事態を重く見たカポ達の説得を受け、ファミリーで東部へ移住。
当時の東部にも強く名声のある女は何人もいたが、
中でも剛胆なケレンケン・ワグナーはある夜ほぼ東部の中心と言っていい
オンオーズの町にある酒場で、コルボファミリーのソルジャー達に
ビトーリオの悪逆ぶりを指摘。
後日彼女は掲示板に強く言ったつもりはないと書き込んでいるが、
その時コルボの中でもソルジャーの一人フラビオ・ガットは
何もしなかったのではビトーリオに責められると思い、
突然ゆっくりと立ってケレンケンへと近づき、リボルバーを発砲。
それでも素早く距離をとりテーブルを斜めにしたケレンケンは
仲間と共に応戦し、この銃撃戦では何と
手下も含めコルボファミリーの二十人中七人が、
ワグナーファミリーの八人中、四人が死亡。
途中ファンガイの仲間が止めに入ったが、島中が噂する抗争が勃発した。
またその頃ファンガイ率いるロビンソンファミリーと
ウォーカーとハーバーの両ファミリーは
クーパーファミリーに金を納めている店の懐柔に奔走。
所有者が殺され奪い返されたところを除いては四店を味方につけ、
ついに複数のファミリーによる連合である
イースタンアライアンス(通称EA)を結成。
西部ではスタンレー・タラントが傘下のファミリーに
酒と煙草の取引をさせ、発案者でもある自分は後ろにいて
その利益の一部を受け取り、初めの二十日間ほどは
その手先となった者達の裏切りを危ぶむカポ達を尻目に
静観していた彼だったが、ジェーヌファミリーのカポ・アームストロングが
収支を誤魔化していた事が明らかになると
まずその本人と仲間を見つけ次第ソルジャーを送って次々と殺し、
そのドンとカポ達さえ弁明と謝罪のため用意された席で、一挙に射殺。
結果ジェーヌファミリーは壊滅し、
そうつまりはこれも初めから狙いの一つだったのだがその金や武器、
車や店の所有権など全てを奪いほくそ笑むドン・スタンレーに
生まれ変わってゾーイールへと舞い戻った者達も逃げ出し、
その一部は西部でもナーキレイを縄張りとする
タラントファミリーに比べ少数精鋭の組織ウルバーノに、
寄らば大樹の陰と恭順。
ビトーリオが消えた南部ではまるでその存在さえ
一筋の弾道だったかのように少数派狩りが流行。
実はジョーリヨ・キッキーニに頼まれその勢力拡大を助けていたのは
若者を中心とした集団スマッシャーであり、
彼彼女らは小さなファミリーや集団または名の通った個人を吸収、
あるいは潰し、それでも百人近く所属していた
同じように若者を中心とした集団リザードマンと衝突。
当時南部でも北側にあるいくつかの町を闊歩していた彼彼女らは
今までやられる一方だった者も味方につけ頑強に抵抗し、
その大きな渦はまた新たな抗争を生んだ。

八三七年…三月
この月の半ば、ある日の夕暮れ、それまでにも何度か襲撃を受けていた
クーパーファミリーのドン・ロブストだが
東部でもやや中心から離れたグラムデルの北にある
ルーストロ広場で仲間と共に宝石の取引をしていたところ
突然車から降りてきた三人組に襲撃され、ソルジャーの一人を失う。
当然彼はその犯人をEAの人間だと思ったようだが
この襲撃に限りファンガイが関りを否定した事でその矛先を向けられたのは
取引相手であるイリーバファミリーの中でも
何度も呼びかけを無視するなどしていた男で、
彼は数日後パンゾベルダの街角でクーパーファミリーのカポである
サンドロ・コールノとその仲間四人に銃撃され、死亡。
東部の掲示板はこの事件についての情報で溢れたものの
数時間後にはその殺された男さえ関りを否定したので
事件は迷宮入りとなり、皮肉にもイリーバファミリーはやや不名誉ながら
気の毒がる者に声をかけられ多くの友人を得る結果となった。
一方そのグラムデルからそれほど離れていない
南のダイオンとロットミルの町は既に持続的な引き込みによって
スパダ・パボーネの手中にあり、
彼女は北にある町ヒレンノーリを縄張りとする
一度死んだ者に声をかけ仲間を増やしてきたネクロマンサーと協定を結んで
その東の蛮行で知られる曲事団(きょくじだん)が支配する町
メロサイズを狙い、
そこから海を挟んで西北に位置する町カリオメロでは、
島でも比較的大きなファミリーとなりつつあった
バルラムとダグロートのドン同士がある料理店で会合を開いた際、
頼んだ料理が違う違わないで口論となり
それは元々一人の女を取りあった話となって最終的に両者は決別。
それまでは一帯を自由に暴れまわっていたベニート・バルラムと
ソニー・ダグロートだったがファミリーの安全の為にも
バルラムが東部の入口でもあるクナイマの町を、
ダグロートがその東にあるゼルの町を拠点として
活動せざるを得なくなり、
西部では当時仲間を助け裏切り者を粛清したことで
英雄のような扱いだったスタンレー・タラントだが、
ファミリーの上層か彼に許された者だけが
商売や取引で得た金の多くを受け取るようになると、
一部の心象は徐々に悪化。それを機会と言わんばかりに近づいたのは
ドン・スタンレーの威勢や才能を認めながらも暴力的な部分を
説得によってやわらげ自分を認めてもらおうとしたジョルダーノと
その仲間達や、東部との抗争を視野に入れるべきと主張する
アガシオファミリーなどであったが、彼彼女らはむしろ遠ざけられ、
それは密かにタラントファミリーの手先として殺した相手の数を誇っていた
コスタファミリーも同様。しかもこのファミリーにあってはより酷く、
率いるマヌエル・コスタは邸の一室で
ドン・スタンレーに冷たくあしらわれた直後
声を大にしてその傲慢さをなじるのみにとどまらず、
自分達には大きな後ろ盾があると豪語。それから邸をでた際の入口でも
何も知らないタラントのソルジャー二人と揉め、一人を射殺。
ドン・スタンレーとしてはコスタと正式に協定を結んだ訳でもなかったが
たとえばファンガイやジックラーなど自分以外の大物が
奴とどこかの町を闊歩し、
その足が本拠であるゾーイールの地まで踏んだなら…と
じわじわ凍てつく氷のような怒りさえ覚え、
以来ドン・マヌエルは半分以上を支配するイーブンの町で
度々訪れるタラントファミリーを追い返して
裏では近隣に住む反タラントとの会合で命がけの共闘を約束。
その同盟の代表としての道を歩み始めていた。
また南部では、
年の暮れから続いた少数派狩りもやや落ち着いたように見えたが、
この頃からおそらくリザードマン達から依頼されただろう
灰色のロングコートを着た殺し屋が、毎回凶器もやり方も変えながら
スマッシャーへの報復をはじめ、それは彼彼女らのボスであるストーンが
警戒を呼びかけるまで続いて計六人が犠牲となり、
丁度その頃、西部との境界線以南にある大きな町ガビネールを縄張りとした
潤沢な資金のあるGMC(正式名称・ギルドマスターコミッション)は
頼みとする同盟者を西部のウルバーノか南部のキッキーニかで迷い、
五人のドンが三対二で割れるという状況にあったが、
結局はその一人ドン・ハーミーズの提案した
両者に10万グロートを送るという案に落ち着き、
その大金を受け取ったドン・ジョーリヨは内心狂喜。
勿論GMCに可能な限りの協力を誓った彼だがリザードマンのことも忘れず
実は灰色コートの殺し屋にやり返されている間工作を進めており、
その数日後ガビネールに囲まれるようにある町アークタウンで
四百人以上のリザードマンと少数派の連合を前にした
やや劣勢のスマッシャーは
裏切りが続出して混乱する敵をほぼ一方的に叩き圧勝。
すぐにドン・ジョーリヨに報告したストーンは工作があったと聞いて
やや冷めてしまったようだがその報は
同じ南部のカジノで大勝ちした男がいる事も、
西部で人気の詩人に恋人ができた事さえもかき消し、
島中の掲示板を満たした。

八三七年…四月
東部のスタラドにある雑貨屋エリラン前において
EAの一つバレンティーノのカポ・マービンが用心棒代をけちった
ワグナーファミリーの四人に射殺される事件が発生。
それは一ヶ月5Grという少額で
ドン・アクイラの許可を得て要求したものだったので
巷はマービンに対する同情や抗争を危ぶむ声であふれ、
その夜同じEAの中でもアフリカ系の男女を束ねる
ルッソファミリーのドン・グランデは
スタラドの町でマービンを殺した四人組の一人を見つけ銃撃。
何度か見失うも仲間と共に追い詰めてこれを殺害し、
またしばらくして何も知らないドン・アクイラを迎えた
バレンティーノのカポやソルジャー達は
スタラドの東にある料理店アバンティーでこの事実に驚く彼を宥め、
ワグナーのドーニャ・ケレンケンがすでにEAに詫びを入れ
解決できそうだと教えていたが、そこは実のところ
ルッソファミリーも贔屓にしていた店であり、
よく相手を確かめもせず復讐しようとした例の四人組の一人ゴーンと
その仲間十数人は店内にのり込むなり四方八方に火炎瓶を投げ、
マシンガンを乱射し、バレンティーノのソルジャーを含む四人を殺害。
EAの代表であるファンガイが所有するその店さえ閉店へと追い込んで
抗争は激化し、
これには温厚で有名なバレンティーノファミリーのドン・アクイラさえ
たまたま休みだった翌日の朝、急遽仲間を集めその三十人ほどで
ゴーンとその仲間を探しガラミールの彼方此方で襲撃を開始。
九人を殺したが、またそれに対する報復としてアクイラの友人が
携帯電話で彼と話していたところを銃撃される事件等があり、
その最後の声を耳にした彼はドーニャ・ケレンケンとの対峙を決意し、
当時ワグナー百十二人、
バレンティーノとEAからの応援二百五十一人という両者は
電話での話し合いの結果、
スタラドの東南に位置する広場で会う事になったが、
手に手に銃を構えた彼彼女が到着する直前
そこが市の催しの開かれる場所であると判明。
催しの会場では時間が来ても喧嘩や殺し合いをしていると
突入した警官隊によって逮捕されてしまうので
その対峙あるいは決戦は流れ、
暴れる機会を失った不機嫌なゴーン達は
たった一人マービンだけを連れワグナー邸へと話し合いに来た
アクイラを追い返し、それに不在だったドーニャ・ケレンケンが激怒。
今迄は誤解なら守ってやろうと思っていたものを
あえてEAと抗争しようとする四人のうち正式なカポとソルジャーだった
ゴーン達三人を殺して生まれ変わってもファミリーに戻れない
永久追放処分とし、それをファンガイらに伝えやっとワグナーはEAと和解。
その後ケレンケン個人にあってはコルボファミリーに
友人のハイドラを殺されるなどしたがやや落ち着きを取り戻し、
ゼルの町ではダグロートファミリーの金庫が破られるという大事件が発生。
しかもその設置義務のある一連金庫と呼ばれるものは
破られればファミリーに所属する一人毎に
2000Gr近い所持金が奪われてしまうというもので、
このダグロートファミリーは何と1Grを80円で交換したとしても
6,000万円を超える大金を喪失。カメラの映像からその強盗達の一部に
バルラムファミリーが加わっていた事を知ったドン・ソニーは
今迄の自分がまるで現実のマフィアのように貪欲で傲慢だった事さえ忘れ
怒り狂って報復を命じ、その犠牲となった死者は二日で三十人を超え
元々関係が悪化していた両者の抗争は
周辺の無関係なファミリーや個人まで巻き込む大抗争となり、
西部では、コスタとアガシオを中心とする反タラントが
主に西側の町村イーブン、スワイデル、イリオーズ、
セメアクレイ等において、タラントの所有する店に火炎瓶を投げ、
そこに居たカポやソルジャーを殺害。
当然タラントも黙ってはおらず報復はまた新たな報復を呼び、
元々親しい友人がカポだったウルバーノにはスタンレー自身が出向いて
不戦を約束。南部から縄張りを荒らしに来る者達も増えていたのでそれには
丁度EAとは不和となり、コルボファミリーとの抗争に嫌気が差していた
ワグナーファミリーを雇ってこれを盾とし、
また南部では更なる金と権力を欲したジョーリヨ・キッキーニが
酒と煙草の販売を独占しようと製造者と売人のとりこみに乗り出し
それはジックラーとの緩衝地帯であるナズパタルにまで及び、
そこに住む脅威を抱いたファミリーや個人は
ジックラーのドン・ライケンに哀訴。
泣きつかれた彼が、キッキーニの誘いは断ってもいい
とお墨付きを与えたので強引な支配はそこで終わったが、
対して面白くないドン・ジョーリヨも
好戦的なスマッシャーのボスであるストーンとその仲間二人をカポに加え
それをわざわざジックラーへと知らせ、密かな会合では
カポや協定を結んでいるファミリーに対し
ジックラーの縄張りにおいての殺し、略奪、詐欺などを許可。
その噂から始まった恐るべき情報を漏らした者が誰なのかは不明だが、
事実ジックラーの縄張りでは強盗と詐欺の未遂事件があったとされ、
その一帯のみならず南部全土には不穏な空気が流れた…。


帯布は黒のワイン色の中折れ帽子に同じ色のスーツをあわせた男は
丸いテーブルにつまれた札束を前に、上機嫌だった。
その一部しわくちゃの紙幣は四十枚ほどで
無造作に積まれているので余計多く、ありがたく思える。
補助通貨はティラ。通貨記号tiで、
50Gr札、10ti札など入り混じる中でも一番額が大きいのは100Gr札。
これはやや茶色味を帯びた白地に紫色で印刷されたもので、
左には100という数字とその横にGrという通貨記号があり、中央には神殿、
そして右には波がかった長髪を後ろに流し髭を生やした逞しい老人が
口を一文字に結ぶ肖像画が描かれ、
何と現金にして1万円の価値を持つゲーム内通貨であり、
しかも今はそれが目のまえに九枚もあるのだ。
全部で975Grか…。
そうして感慨深げに腕を組んだ彼こそ、
まだ島に来て間もないというのにドンとなった、キアーロ・カンパネッラ。
瞳も目そのものも大きく全体にはややつり上がり、
鼻梁高く、その先は細顎と同じくとがっているが
それら全てはやや丸みを帯び、痩せがたという事もあって
どことなく優しい雰囲気がある。
場所は東部の町オンオーズの中でも橙色の明かりと木造の暖かい
酒場ダチカタル。
この酒場も含めた一帯はガラミールでも比較的安全なのだが、
今店にいる客は皆マフィアかその協力者ばかりで、
キアーロを西、入口を南として遠く東側のテーブルには
黒のスーツに同じ色の中折れ帽子をかぶったスキンヘッドの男が
仲間と談笑し、そのすぐ北の席には
薄緑のワイシャツを着た男が辺りもはばからず
仲間の二人に稼ぎが少ないと怒鳴り、
入口からまっすぐの奥にあるカウンターの東には
黒いドレスにベージュの帽子を目深くかぶった訳あり風の女が
髪をポンパドールにして紺色のスーツの中に
白と黒の花柄のワイシャツを着た若い男と話し、
その前では店主が静かにグラスを拭いているが、
また西側の奥では三対三の銃の取引が行われ、どこにも危うさが漂う。
ただキアーロも一人ではなく、
仲間と共に全変物(ぜんぺんぶつ)の儀式というものの最中。
そうこの全変物の儀式とは、三人以上が同じテーブルに着き
目の前に500Gr以上積めば金運を高められるというもので、
時間内に酒や煙草を飲むと更に効果が増すのだが、
自宅のアパートにあるデスクトップ型PCを前にしたキアーロの実体
弓野明には、自然と笑みがこぼれる。
「ああ、いいねー。こんなに酒が美味いのも、久しぶりだっ」
そう実のところ、今は機嫌良くゲームをしながら飲酒している彼にも、
かけもちの失敗や里帰りに伴う引越しで重なった借金が50万円ほどあり、
それを優しい両親にうち明ける訳にもいかず
毎月2万円ずつ返しているのだが、
今得た利益は1Grを85円で交換するとして
それから手数料の15%を引いたとしても一人約1万7千円となり、
これで大きな負担が解消された事になる。当然運営と同様
1Grを100円かそれ以上と考えて交換してくれる者もいるが、
その取引ではカポの地位や強い銃や高級車などの
特別なサービスを求められることも多く、
大体皆90~75円で交換するのが相場。
それを心得たキアーロにぬか喜びはなく、胸に沸き上がった感謝は
東のテーブルにいた恩人に向けられる。
『ありがとうドン・アクイラッ。これも全てあんたのお陰だ!』
『~何っ?ハハハッ、気にするな!
全部お前達カンパネッラの手柄じゃないか。これからも頑張ってくれよっ』
そう言って杯を挙げたのは、さっきの黒い中折れ帽子にスキンヘッドの男。
彼はこのオンオーズを縄張りとするファミリーのドンで
名をアクイラ・バレンティーノといい、まだ島に来たばかりのキアーロが
彼の店を火炎瓶から救ったことのお礼にワインをくれる約束までした大物。
しかもそのバレンティーノファミリーは抗争の歴史にも登場した
イースタンアライアンスの組織。町村で言うと
ゲデル、パンゾベルダ、ピバンス、コンレ、
レモエリスタ、ラドロ、バックロール、
そしてここオンオーズを中心に活動する善良な八ファミリーの一つで
キアーロにとっては心強い後ろ盾であり、
中でもドン・アクイラは固太りした体で眉は薄いが情に厚く、
今カンパネッラの前にある金さえ彼がくれた情報を元に稼げたものだ。
そう実のところ975Grのほとんどは詐欺をするグループを壊滅させ
その銃や車などを売って得たものなのだが、奴らの嘘を暴き
被害者との共闘に必要だったのが確かな証拠つまり、
彼からの情報だったという訳だ。
『じゃあ後心配なのは強盗だろうし、両替には皆で行こうぜっ』
そう言ったのは、キアーロと同じテーブルの東でパスタを食べる男。
角ばった顔によく似合う四角いサングラスをかけ、
名をカツミ・バレージという彼は、細身に薄青い上下のスーツを着て
立ちあげた前髪の印象同様いつも明るくカンパネッラを支える
ファミリーのダイドブレインズだ。
この英語で染め上げた頭脳を意味するダイドブレインズ、略称ダイドは
ガラミールにおいてのアンダーボスであり、
なぜ彼がその地位にあるかというとそれは、
ドンを見出した最初の一人だから。
そういつものようにドン・アクイラに
用心棒の仕事をもちかけ断られていた彼は
その邸で島に来たばかりのキアーロと会い、意気投合。
以来キアーロの相棒といえば彼なのである。
そしてその真正面つまりテーブルの西側にいて本を読むのは
レットーラ・ホーリー。
彼は一見キアーロに似ているが目は鋭くまつ毛長く、
波がかったブラウンの長髪をなびかせた色白で、
上がオリーブ下がこげ茶色のスーツを着て
黒の中折れ帽子をかぶった美青年。
そうファミリーを結成するには最低三人が必要なので
キアーロとカツミが強盗と撃ち合っていたのを助けたのがこの
知性派のレットーラであったことはカンパネッラの幸運でしかなく、
当時服屋だった彼には別に仲間もいたが一生懸命に戦うキアーロ達を見て、
いつの間にか放っておけなくなっていたらしい。
そしてその北側つまりキアーロのすぐ左で
目の前にウィスキーを置き腕を組むのは、
大柄な体に黒いスーツと同じ色の中折れ帽子をまとい、
顎髭を生やして丸いサングラスをかけたイーガ・アバード。
彼はキアーロとカツミに金儲けについて相談された
レットーラが紹介した人物で、
ガラミールでの仕事であれば…店を占有してその利益を受取る事から、
酒や煙草あるいは宝石の取引、掲示板に載せた記事や詩の購読料をとる事、
それに加え盗品の売買や殺し屋稼業、果ては偽物を作って売る事まで
何でも詳しく知っている。そう実は、
抗争の歴史にも出てくるドン・ビトーリオ達にファミリーを潰され
ドンと慕った人物をソルジャーにされてしまったが、
今の彼はそれを忘れようか迷うほどカンパネッラが気に入り、
それは不幸中の幸い。
知性派のレットーラと組んであれこれと調べるのも彼の仕事だ。
そして五人目はキアーロの右でくわえ煙草をしながら銃の手入れをする
リッキー・ハジョ。このもう初老となり、白髪に眼鏡をかけ、
灰色のワイシャツに黒いカウボーイハットと
セミロングのコートをあわせた男こそ実は、ファミリー最強。
両手にリボルバーを握って戦う凄腕だ。
そう開島より四ヶ月ほど経ったクナイマの町では
そこを縄張りとする大きな組織バルラムファミリーのドン・ベニートが
失敗ばかりするソルジャーの女ドリーを始末し、
それを贔屓にしていた二大派閥の一つを率いるモナステーロは激怒。
ドリーが自分に断りも無く殺された原因を
ハジョが慕っていたもう一つの派閥を率いるテゾーロのせいにし、
お前がそそのかしたからだと…彼を殺害。
対してテゾーロの片腕で殺し屋でもあったリッキーは報復として
モナステーロと配下の一人を殺害し、これで決着かと思われたが
彼は元々バルラムでもテゾーロと共にかなり好戦的であったので
新たな味方をつくることも難しく孤立。
ほとんど無視されていたところをキアーロに拾われ、
相談役として迎えられたのだ。
そうまさしくマフィアそのものの彼に改心を誓わせ
ファミリーに迎えた時にも一騒動あったが、
その少々物騒な話をする前にとドン・キアーロは、
乾杯のかけ声を発する。
『善良さにっ』
そしてそれに応じるのは当然、カツミ、レットーラ、アバード、リッキー。
『善良さにっ!ドン・キアーロとオレ達カンパネッラに、祝福あれっ』
『アハハハッ、二人とも本当に酔ってやがるぜ』
『オレも本当に飲もうかなー。
油断できないガラミールでは、飲まない事にしてるんだが…』
『おお、飲め飲め!どうせ敵はみんなオレが殺すんだっ』
その賑やかな五人にはドン・アクイラと何人かの仲間達も杯を挙げ、
ふとキアーロが気付くとその後ろには
白肌に似合う赤毛の女が立って彼の肩をたたき、
それを見たカツミはますます機嫌を良くする。
『さすがキアーロッ。黙っていても女が寄ってくるぜぇ』
『そうじゃない。とは思うが…』
そう彼女は鋭い目も、細い鼻も薄い唇も小づくりな
オンオーズでは有名な美女で、襟が銀色の白いノースリーブに
黒い幅広のスラックスをあわせたアレッタ・ベラ。
ドン・アクイラの馴染みだが
キアーロやカツミあるいはレットーラなどを警戒し一言も話さず、
孤独を楽しんでいた町のマドンナであり、
それでも看板娘のようにここを繁盛させているので
バレンティーノから少額の礼金を貰うほどの身分だ。
だが今出て来たのはどうやら接客が目的ではないらしい。
『ドン・アクイラから聞いたんだけど、その善良さに…って、
とても良い意味があるんだって?』
『ああ、彼から聞いたのか』
そうカンパネッラの乾杯の合図はキアーロが決めたものでそれが善でも、
善人でも、神聖さにでもない理由とは実のところ、
世に欠片でも善良さがあればその全てを祝福したいという想いからであり、
アレッタはそのことを言っているのだが、キアーロは正直だ。
『…だがあれは、
尊敬する詩人重音主(えねす)の助言を聞いてそうしただけで、
彼はこの世界の住人でさえない。だから、
せいぜいオレ達のファミリーを応援してくれ』
続けてキアーロは、重音主が超のつくゲーマーである事、
他にも彼から道徳を習っている事などを教え
何とか場をもたせようとしたが、アレッタは言う。
『でも私カンパネッラに入りたいから、血の掟を教えてよ』
聞いて驚くカンパネッラの一同。
そうこのガラミールではどのファミリーにも必ず
血の掟を書き込める場所があり、
空白になっている事もあるがそれは極まれ。
集団となればルールの一つくらいは必要で彼女はその厳格な決まりを見たい
と言うのだが、珍しい小さなファミリーへの志願を拒むことはできず、
そこで役に立つのが特技である。

状態の通知
自分の能力や所持金あるいはアイテム等を見せる特技。
これにより自分の強さや弱さを示して威嚇、あるいは降伏し、
取引の場合にも単に話だけではないという証しとなる。
ただし能力やアイテムなどの押し売りを嫌う者は
はじめから拒否設定しているので、その雰囲気は察さなければならない。
必要経験値45 消費気力12
効果補足…その場を去るか解除するまで有効で、
範囲選択すれば複数への通知も可能。

そうこのガラミールにおいても普通誰かをクリックして調べるだけでは、
その組織名、地位、通称、姓名、獲得経験値、
顔写真、立ち姿までしか分からず、
血の掟はファミリーの邸に掲げられたものを見るしかないのだが、
それを上の特技によりアレッタに教えるキアーロ。
そこには以下のようにある。

その一、儚い絆を守りつつ、全てにおいて善良さを胸に臨む事。

その二、新参古参問わずソルジャーまで家族として扱う事。

その三、ファミリーの稼ぎはその時顔を出している仲間で
等しく分けあう事。

その四、ファミリーの人数は全体の稼ぎに応じて決定し、
共にあって苦に思わない人物を優先して入れる事。

その五、ファミリーの定数が限界の時には新たな仲間を加えず、
相手がどうしてもという場合に限り、
必ずドンかダイドブレインズが中心となった会合を開き、
その席で是非を問う事。

その六、ファミリーの一員となった者は必ずドンに対し
墓に名を刻む権利を譲る事。

その七、死んで後ファミリーに戻る気のある者は
一週間以内にドンかすぐに彼と話せる立場の者にその意思を伝える事。

その八、自分のファミリーを作る者は
それを議題とした特別な会合に出席し、
出てからも必ずドンの善言に従うと誓い、
その場にいる全員の認可を得る事。

その九、一ヶ月に七日は顔を出し、
なるべくファミリーの仲間と共に行動する事。

その十、顔を出せない月が続いた時には除名なども含め、
ファミリーの決定に従う事。

その十一、ファミリーの一員にはカンパネッラの名を用いた
あらゆる商売や取引を許す事。

その十二、上記いくつかの掟を破った場合にもその処分は
皆でよく話し合って決める事。

そう更に言えばその一の儚い絆とは、
友人とは所詮他人なのだから互いに気遣いを忘れてはならないという事で、
その二の新参古参問わずソルジャーまで家族とは、
実年齢は分からないのだから家族のように扱うべきという事で
ここでは自分は老人だと嘘を言う者の横暴さまでも防いでいるのだが、
その三にあるファミリーの稼ぎとはつまり
キアーロやカツミあるいはそのいずれかに認められた人物が中心となった
商売や取引などの稼ぎから軍資金を引いたものの事で、
それをソルジャーまで等しく分けるという掟にあっては
二千を超えるファミリーの中でもカンパネッラだけが定めたものであり、
多くの友人をもつアレッタも驚くばかり。
また墓に名を刻む権利とは、死んだ本人が同じファミリーに属す者や友人に
自分の墓を建ててもらう為のもので、
カンパネッラはそれが欲しいというのだが、
それを誰かに譲ってからも墓地へ行って願い出れば
そこにも自分の墓を建てられるので、
忠誠の証しとして差し出しても問題はなく、
キアーロは万一アレッタが
自分のファミリーを作りたくなった時のことも忘れない。
『それに…その八だが、
出てファミリーを作っても、オレの指図に従えという意味ではない。
つまり、オレの言葉が正しいと思ったなら、従ってくれという意味さ』
『ああ、なるほど』
『うん、あまり深く考えなくてもいいが、
ガラミールで一番を目指すほど善良なこのカンパネッラでも、
一員になったからには、命がけで戦ってもらわなければならない。
それは…分かっているな?』
そのキアーロに頷くアレッタ。
だがそこに飛び込んできたのは、銃声である。
パーンッ!
そうそれはバレンティーノファミリーのカポであるライアン・ロス
通称ダブルRが放った威嚇射撃の一発。
見れば筋肉質の体に濃い紺色のスーツを着込んだ彼は
同じ色のホンブルグハットの奥からまるで悪魔のような目で睨み、
目のまえに立つ緑のトレーナーに白いニット帽の若者を恫喝。
大きな口からわざと周りに聞こえるよう、声を張り上げている。
『てめぇ、分かってんのか!もうこれで三度目だぜ!!』
『そ、そうはいってもグラムデルの町でクーパーの奴らに訊かれたら、
何でも答えるしかねぇ。分かってくれよー!』
『そのせいでうちのソルジャーが殺されかけたのに、
一体どの口が言ってんだ?!
お前みたいな小物の情報なら全部このオレ様の耳に入ってくんだよ!』
そう叫びながら指で相手の胸を突くライアン。
相手は恐怖がそのまま文章化され、完全に萎縮しているのが分かる。
『わわわ、分かったよ!
もう二度とあんたらの情報は流さないって誓うよっ』
『…いいや、もう遅ぇなっ。夜風を浴びてこい!』
『ドン・アクイラッ、
一週間くれればオレもEAの縄張りに越して来るから、何とか頼むよー!』
ゲームの世界での引越しに、一週間だと?
このガラミールではたった375Grで引越せて、
それも無料にできる特権があるっていうのに、馬鹿にしやがって!
…ライアンはそう思ったが、
ドン・アクイラも仲間との会話に夢中で聞こえないふりをしたので、
男は店の外へ。
それをライアンが追ってしばらく外からは四発の銃声が響き、
やっとその騒ぎは収まったのである。
またそれを見てアレッタに言うのはキアーロ。
『見ろ、あれがマフィアだ。
お前は町のマドンナらしいが、そのままの方がいいんじゃないか?
このカンパネッラの掟にも全てにおいて善を以て望む事とあるから、
裏切りは赦されない…!それでもソルジャーになるのか』
『怖いねっ。けど、私は裏切らないから大丈夫』
また続けて、むしろ裏切り者の始末を任せて欲しいとまで言い、
リッキーを笑わせるアレッタ。聞いたレットーラは
丁度リッキーが笑ったこともあって
彼を迎えにクナイマまで行った時の話をする。
『そういえばあの時も大変だったよな』
それに応じたのはキアーロ。
『ああ、丁度今その事をアレッタにも聞かせるところだった』
そうそれはクナイマの酒場でリッキーを見つけ、
ファミリーに誘った時のこと…。
ボンネットが大きく全体に丸みを帯びた白い愛車を自慢したいカツミは、
目的地までの道程を喜び、
他が来てくれるはずはないと諦めていたところに声をかけられたリッキーも
二、三質問しただけで簡単にファミリー入りしてくれたが、
その帰り道、景色が寂しくなって木々が目立つようになると
黒塗りの後続車がクラクションを鳴らすようになり、
こちらも車を止めざるを得なくなっていたのだ。
そこで、
走ってきた北へと振り向きどうすべきか話しあう事になったキアーロ達と、
一人思考するリッキー。
逃げる…?冗談は止めろオレ達は何も悪い事はしてねぇ。
引抜きにドン・ベニートが怒ったのか?
そうかも知れないが、それならもう既に何か処分があっただろうし、
殺すとしてもやり方が乱暴過ぎる。
そう少なくともドン・ベニートは
オレとボスの事を苦々しく思っていたはずで、
このやり方じゃあきっとまた内部抗争の元になる。
いいや、その処分がたまたま…今夜だったのか?
彼はそう思考してから素直にその全てをうち明け、
キアーロも同情の意思を示す。
『心配するな。さっきも言ったがオレ達は覚悟している。
それに来たのは一台じゃないか』
だがその時、相手の車の後ろにはまた同じような黒塗りの車が停まり、
クラクションは鳴らさないが前の一台をよけて通る訳でもなく、
文句も言わず、それを見たレットーラはやはりほとんど少数でしかも
善良な者として生きてきただけあって、バルラムファミリーに容赦がない。
『さすが人を苦しめる事が生きがいの屑だぜ…!
まず間違い無いだろうなぁ』
それに応じるのは素直なカツミと動じないアバード。
『バルラムでもやられたらやり返すしかねぇよな?
そりゃあ八百はいる奴らだが、
こっちに非がねぇのにやられっぱなしは、格好悪いぜ』
『ハハハッ、そういえば…八百人対五人か。
おいそれより、本当にドン・ベニートが黒幕なのかリッキー?
確かに噂をきく限りあいつらは悪だが…』
『…分からん。だが、ドンの命令は絶対だ…!』
確かにドンの命令は絶対という血の掟を定めたファミリーは多く
それがあるところはほぼ悪だが、
たとえば仲間には慈しみを以て接することなど
別な条文によってそうでなくしている事もあり、
いずれにしてもその絶対という非情さを実現する為に必要なのが
古代語で死の弾丸を意味する特技クレイメッドである。

クレイメッド
自分の足元も含め七マス以内に居る一人に対してのみ準備可能で
撃つまでの瞳は薄っすら赤く光ってしまうが、
それから十分後に放たれる攻撃をほとんど外さず、
当たれば絶対の死を与えるものにしてしまう特技。
ただ相手を殺そうとする者にとって十分という時間は短いようで長く、
途中で席を立たれるなど一瞬でも範囲外に出られると
そこからもう一度十分待たなければならなくなる。
また瞳の光り方はとても微妙なので、気付かない者も多い。
必要経験値500 消費気力35
効果補足…準備開始から十分経過後は、解除するか、攻撃するか、
相手が範囲内から立ち去るまで有効。
※マシンガンを撃ち続ければその全ての弾丸に効果を付与できるが、
ピストルなら大体二発、スナイパーライフルならどうしても一発となる。

という事で、クレイメッドを使えるのが
リッキー、カツミ、アバードだけである事と
後続車が現れてからまだ十分は経過していない事を確認するカンパネッラ。
距離は微妙だったが、
それから相手のおい降りろという声に覚悟を決めたのは、
二分と少し…。車種から相手は多くて八人いるので
ぐずぐずしていると最悪その全員がクレイメッドを使ったなら
少数の自分達がさらに不利になりかねないと作戦を練ってから
一斉に車を降り、両手にリボルバーのリッキーがまず
車から出てきた黒いスーツに中折れ帽子の一人を…射殺。
バンッバーン!
『ぐぅ!』
移動は大幅に遅くなるので狙われてからは走る者がほとんどだが、
身を低くする事で流れ弾に当たる確率を下げて近づいてきた
短い金髪にTシャツを着てショットガンを持った一人も、
キアーロ達四人が間髪入れず撃ちつづけて殺し、五人は車の陰に移動。
その後一番射撃の上手いリッキーが一度近づいてきて少しずつ後退した
スーツにマシンガンの女を撃ち殺してしばらく撃ち合い、
そこでレットーラの作戦通り、
彼が敵から見えなくなるほど遠く南へと走り、
背中を見せてそれを追ったカツミをキアーロが止めるなど、
逃げるふりをする五人。
それを見た襲撃者達は次々声をあげる。
『よーし!こっから皆殺しだっ』
『馬鹿が!根性が足りねぇんだよ!』
パンパンッ ドドッ ドドドドドッ!
そうそのまま逃すまいと撃ちながら近づいて来たのは
長い黒髪に紺色のスーツを着た男と、
がっしりとした体に黒い中折れ帽子とスーツを身に着けた男。
だがその二人も車の陰に戻ったキアーロ達に次々と撃たれ、地面に沈む。
『ふっ、ふざけんな!馬鹿はおめぇらだろ!逃げるぞ!』
『まだ三人いるのに逃げるのかよ!』
『だからっ、やるのかやらねーのか?!』
そう銃の数で逆転された他三人は結局逃走をはじめ、
声を張り上げるキアーロ。
『今だ!二度とオレ達に楯突かねぇように、蜂の巣にしてやれ!』
『当然だぁ!』
叫んだカツミとリッキーの弾は逃げる車の背中に当たり
やっとその銃撃戦は終わったのだが、
恐怖はいつの間にか歓喜に変わっていたのを
誰よりキアーロ自身が憶えている。
当然その後はキアーロ達も病院へ行ったのだが、
無理をすれば99以上まで上げられる屈強さ、素早さ、器用さとは違い
上限が150でも、その1が他ゲーム同様に軽いあつかいの
体力と気力であるにもかかわらず、それを一桁まで押し込まれる者もなく、
レットーラが分析するかぎり勝因は
敵の戦意と経験だけを重視した人選にあり、
彼彼女らは襲撃する場所を選ぶだけでカンパネッラを弱小と侮り、
よく調べてはいなかったようなのだ。
だがそこで嫌なことを思い出したのはカツミで、応じたのはキアーロ。
『そういえばあの時の修理代、酷かったなぁ。
もう少しで廃車になるところだったぜ。五人乗りに改造済みで
中古でも8,000Grはしたプレギエーラなのによー』
『おお、それは悪い事をした。じゃあ何とかもっと稼がないとなぁ』
『ああ、車名が祈りって意味だから、
本当にあの時祈るような気持ちだったんだぜ。
この世界だっていつまであるか分からねぇんだ』
『それは…大丈夫じゃないか?』
と楽観的なキアーロ。
何故なら今このゲームはどの国のどんな機関からも文句を言われず
むしろ日本、アメリカ、イタリア国内にとどまらず世界においても
非行少年や不満を募らせた若者、ストレスに悩む中年や
怒りっぽくなったお年寄りのはけ口になっていると肯定され、
勿論一部には危ぶむ声もあるが、導入を検討している国がほとんどであり、
そのキアーロの説明に頷くのは、アバードとレットーラだ。
『ああ、つい一ヶ月ほど前の記事にも好調だってあったなー。
つまり運営は投資やグッズ販売、
それに抗争の歴史をアニメ化した作品で稼いでいるだろうから、
オレ達もおこぼれにあずからないとなぁ』
『それに、現実の悪に対しても強い態度だから、
反対できないんだろうなぁ』
そうこのマフィアズライフは特殊なゲームだけに、利用規約も他とは違い、
たとえばあるプレイヤーが万一実在するギャング、暴力団、犯罪者などと
判明したならこの世界で…死刑となり、
一年以上の出入り禁止処分となるのだ。
また当然その後は復帰したとしても、前回と同じ人物としては生きられず、
再び露見すれば前回以上に重い処分となるので、
ほか運営からは、前回と同じものに対する興味を口にせず、
同じ地域には住まず、同じファミリーにも入らず、同じ友人とも行動せず、
前回とは違うなりたい自分となって姿や口調も変え、
過去は全て忘れる事…などを求められ、
当然その意義はただのゲーマーであるプレイヤー達が
彼彼女らを恐れ楽しくプレイできなくなるのを防ぐ為だが、
そういった快適さを邪魔するような行為は全て、
秘密の裁判を引き起こす可能性をもっている。
そうアレッタも少しは知っていた事だが、
その疑問に答えるのはレットーラ。
『改めて聞いても納得はできる。
けど、詳しく聞かせて。何でまず裁判になるの?』
『訊いて正直に答えてくれるようなら、それで済むからさ。
その情報を確かめれば済む。そう過去にも単なる誤解で、
実際の職業を明らかにして、証明した例はあるぜ』
勿論そんな時も弁護士プレイをする者は裁判を速める為、
あるいは嘘なら陥れた相手を訴える為に活躍するのだが、
あまりゲームの利用規約などに詳しくないカツミが言えば
それにはアバードが説明する。
『それはアレッタも知らねぇよな。
オレだってどのゲームも一緒の利用規約なんて、読まないさっ』
『ああ、だがこの運営の何割かは元警察官なんだろ。
だから問題にもならないし、安心して稼げるな』
『ええっ?そんな話初めて聞いたぜ…!嘘だろ』
『いいや、事実登録が完了すれば誰の家にも誓約書が送られてきて、
そこには…たとえ幼い我が子をばらばらにすると脅されようが、
実際にされようが、現実の悪には毅然とした態度で臨み上記を守ると、
明記されている。知らなかったか?』
聞いて声も出ないカツミに笑いだすリッキーとアレッタ。
だがキアーロは、
だとすればむしろ物騒なのはガラミールではないかと冗談を言い、
少しでも安心する為に邸を建てたいと続け、
そんな彼にはカツミが一つの稼ぎ方として、占有を提案。
画面は見ててやるからとキアーロに、ゲームの紹介を見てくるように促す。
するとそこには以下のようにあった。

占有…
ガラミールにある店や建物の一部は、誰のものでもない時、
店内で占有ボタンを押す事によりその所有者となり、
日々発生する売上を得る事ができるようになります。
またその売上は店の評価によって決定し、人気商品が品切れとなる
あるいは周囲の治安が悪化するなどした場合、極端に下がる事もあり、
十五日に一度は店を訪れて占有の更新をしなければならないので
注意は必要ですが、その店の品やサービスであれば安く買い利用できる、
邸からであれば出張売買が可能、品切れとなっても
大体の入荷日と数を確認できるなど有利な点がありますので、
どうぞご利用下さい。

そう始める前のキアーロはとにかく稼げると急いでしまい
店から売上を受取れることしか知らなかったが、
今改めて確認したおかげで知識は深まり、同時に疑問も浮かんだので
それにはレットーラが答える。
『じゃあ、買占めもできるなー…。ちょっと待て…!
オレが愛用しているこのリボルバーも、品切れになる事があるのか?』
『ああ、買占めもできるし、リボルバーだって無くなる事はあるぜ。
でもキアーロのは改造銃じゃないだろ?だから、
もしもその店のリボルバーが安くて売切れちまっても、
他で買えばいいんだ』
『だがそれじゃあ高くなるし、買占めた奴は大儲けだから、悔しいな』
またそれを聞いて思い出したのはカツミで、応じたのはアレッタ。
『ああ、だがオレも何丁かのスナイパーライフルを安く買って、
売りきった事があるぜ。それでプレギエーラを買ったが、
今思えば店を売ったのは失敗だ』
『何で売ったんだろうねぇ』
『その時ファンガイのファミリーにいる男が
1,000Grで買うって言ったからさ。
でも結局そいつはクーパーの奴らに殺されて所有権を奪われたらしいから、
応援していたオレとしては、損した気分だっ』
勿論その気持ちは理解できるキアーロ。だが彼は冷静でしかも、
レットーラから占有についての続きを聞きたいらしい。
『おいおい、もしも売らなかったら、
お前が殺されていたかも知れないじゃないか。
それにレットーラ、店を手に入れるにはどうしたらいい。
買うしかないのか?』
『いいや、個人所有だろうとファミリー所有だろうと、
その個人を殺すかファミリーを壊滅させると
誰のものでもない状態になるから、
大体は抗争の末勝った方の仲間が待ちかまえていて、
ほとんど全ての所有権を奪っていくな。
買う場合には売る側の理由も様々で、
自宅やファミリーの縄張りから遠いとか、
すぐにまとまった金が欲しいとか、
それを条件に後ろ盾が欲しいとか、そんな声を聞くが、
オレの知り合いなんてずる賢い奴らに睨まれて、脅し取られたからなぁ』
『譲渡させられたって事か?』
だが二人の話を聞いて補足したくなったのはアバード。
『ああ、だがそいつはまだましな方だ。
西部に住むオレの知り合いは、個人所有の店を持っていたが、
何故か丁度売上げを受取るっていうその時に限って
一帯を仕切るファミリーが来て、上納金を持って行ったらしい。
だから店は手放したらしいねぇ』
『だが、あるだけましじゃないのか?』
『…いいやぁ。ちなみにそのファミリーっていうのはタラントで、
少しずつ上納金の額を増やされて
最後には自分に四分の一くらいしか残らないように、なっていたらしい。
だからオレはあいつらも嫌いだねぇ』
聞いて同感のキアーロ。勿論他も同じ気持ちだが
カツミとリッキーはキアーロにより正しいドンになってもらう為、
自分なりの情報を提供する。
『でもタラントはその傘下になったファミリーも多いし、
そいつが一員だったかどうかは分からないぜ』
『ああ、西部の半分以上がスタンレー・タラントを怖がって、
よっぽど無茶なことを言わない限りは逆らえないはずだが、
あいつの名を騙る奴もいるらしいから、気をつけようぜ』
またそれにアバードが、ドン・スタンレーも本当のマフィアだと疑われ
裁判になったらしいと言うと、
レットーラは利用規約の話も合わせてある重要な情報を思い出し、
キアーロの後ろへ。
そこでキアーロが座る椅子の背もたれに手を当て、本人のマスも含め
十五マス内にいる選択した数名のみが会話に参加できる、内輪話を開始。
そう彼は、裁判と聞いて思い出したらしいが…。
『何だ?ここにはファミリーの人間しかいないぞ。
あっ…そうか、まだ入ったばかりのアレッタがいたか』
『いいやドン、まだオレとあんた以外、誰も信じられねぇ』
『そうか、それほど重要な話か』
『大体にしてオレは…実世界では生来のはぐれ者でね、
同じ匂いがしてそのうえ情を感じたから、あんたの下についたのさ。
そりゃあ他の仲間もありがたいし嫌いじゃないが、
間違いもあるだろうし……』
『そうか、分かった。聞かせてくれ』
『ああ、実は絶対じゃあないが、どうもオレの友人の一人
フェデリコ・ペスカーラっていう奴の情報では
メーツベルダを支配するストレイトファミリーのドンが
このガラミールの悪行にはまって、
現実でもマフィアになるって言ったらしくてな。
近々裁判が開かれるかも知れないという情報が入った。
それでこれは利用規約に触れるから、
裁判次第ではファミリーの解散もあり得るし、
もしかすればメーツベルダの何軒かの店を
押さえられるかも知れないんだ…!』
『…ああ、それは良い。それは、実に良い報せだ!』
『だから、今からまたその関係でペスカーラに会うんだが、
あいつはパーティーの仕切りが上手くて、勇敢だ。憶えておいてくれ。
きっと役に立つ』
強く頷きレットーラを見送るキアーロ。
そこで一緒に席を立ったのはアバードだ。
『オレも何の話かは気になるが、後で教えてくれるんだろう?』
『勿論だ。お前は、もう帰るのか?
これからもう一人ソルジャー候補が来るんだが…』
そうこの世界ではゲームから出る事を、
島から出る、あるいは帰る…と表現するのだが、
キアーロの問いにただ手をあげて店を出ていくアバード。
だがソルジャー候補と聞いたカツミは興奮し、
アレッタも喜びを隠せない様子だ。
『おお、いいねぇ!もしかしてチェンチか?
うるさいけどファミリーに入れれば賑やかになるだろうから、
オレは賛成だね』
『えっ、私と同じ日にソルジャーになるなんて、運命じゃない?』
それにキアーロも二人を指差して喜びを表したが、リッキーは慎重だ。
『…オレは構わん。初めから、ただ金の為にいる訳でもないからな。
でもドンは良いのかよ?分け前が減るぜ?』
『いいさ。本当に信頼できる男だったらな』
そう実はアクイラを助けた後のキアーロは
彼に島について様々なことを教えてもらったのだが、
その時同じように来島したばかりだというチェンチに会い、
新参同士という事で親密になっていたのだ。
…バタンッ。
『イェー!今日も皆を楽しませに来たぜー!』
そこで早速店に入って来たのは、
黄色い中折れ帽子とスーツに身を包んだチェンチ。
同期になるかも知れないという事で強い関心のあるアレッタが調べると
彼は痩せてはいるが顎が大きく小柄で、
目は帽子で隠しているが第一声もあって愛嬌のある雰囲気。
そしてキアーロだけでなくアクイラにも会いたかったのか
一度東側へゆき追い払われ、やっとカンパネッラが陣取るテーブルの
真南に座るチェンチ。キアーロは席を立ったアクイラを迎え
また様々な助言を受けているようだが、
チェンチは座ったその瞬間から好意的なカツミと興味のあるアレッタから
質問攻めにあい、満更でもない様子だ。
『この野郎、いるなら早く来やがれ。うちのソルジャーになるのか?』
『楽しそうな人ね。今までどこに住んで、何をしてたの?』
『おいおい、オレに興味があるのは仕方ないが、
質問は一つずつにしてくれよー』
『ソルジャーになる気があるのか?
うちは少数精鋭を目指してるから、ただ明るいって言われてもなー』
『そんな意地悪いこと言ったら可哀相じゃない。
今はオンオーズに住んでるの?』
『いいや、ゲデルに住んでるよ。何と言っても
EAを束ねるロビンソンファミリーの邸があるからねぇ。
ドン・アクイラが気に入ってくれたって事は、
ロビンソンのカポも夢じゃないって事さ』
『何でバレンティーノのドンが気に入ったのに、
ロビンソンに行くんだよっ。
それにアクイラは良い人だが、コメディアンをカポに推薦しないだろ』
『コメディアンって…
じゃあ掲示板にジョークを投稿するの?』
『たまにね。そんで、大体最後はみんな友人登録してくれるんだけど、
君もそうしてくれたまえよ。おっ、こんばんはーリッキー!』
『ああ悪いが、お前にまったく興味の無いオレに、話しかけるな』
そこでやっとキアーロと話す気になったチェンチ。
キアーロは携帯で誰かと話しているが、実は怖い存在のアクイラが
いつの間にか店を出ていたので、チェンチはまた堂々と口をひらく。
『オレがいなくて寂しかったろー。じゃあこれから、どこへ行こうか?』
『今日はこれからファミリーで両替所へ行こうと思っているが、
お前も来るか?』
『どうしようかなぁ。ダチカールとレモエリスタのどっちに行く?
オレのおすすめはダチカールだね。帰りにまた美術館へ行こうぜ』
『ハハハッ、何故かお前はこの島の芸術家に詳しいもんな。
カツミ達にも色々と教えてくれよ』
『ドン・キアーロの頼みなら仕方ねぇな』
そこで文句を言うのはカツミ。
『美術館に行くぐらいならドライブしようぜっ。一体何が面白いんだよっ』
だがアレッタとリッキーはややチェンチを見直し、
同時に美術館の良さを教える。
『えっ、何言ってんの?
あそこは絵とか像をクリックすると、じっくり眺められるし、
買えば高いけど私室や邸に飾る事もできるんだよ』
『ああ、しかも芸術家は本物だっていう噂だし、
自分の絵を書いてもらったり、像を造ってもらったりもできるぜ。
カンパネッラのダイドとして、見ておいた方がいいんじゃないか』
聞いて小さな興味を持ったカツミと、賑やかさに上機嫌のキアーロ。
『そ、それは…良いなぁ。ちょっと行きたくなってきたぜ』
『でも残念なことに割引はソルジャーだけだ。付き合わせて悪いな』
『別にいいぜっ。行きと帰りに景勝地に寄るからな』
またそれを聞いて喜ぶのはアレッタ。
それにリッキーも景勝地へ行くのは賛成のようだ。
『じゃあダチカールで決まりだねっ。私、景勝地好きなんだー』
『オレも嫌いじゃあない。
いい景色を見ていると、普段は難しい話もできるもんさ』
そうこのガラミール島にはビルの屋上も含め島の彼方此方に景勝地があり、
そこを調べると美しい景色を眺めながら
その場にいる全員と話すことが可能で、
選べば同じファミリーの仲間や友人だけと話すこともできるのだが、
そこで入店したのが茶色地のチェック柄のベストに
それより淡い茶色の燕尾服を着た、短い白髪を散らした男。
痩せてはいても眉間にしわを寄せているので強面にも見えるが
そうではなく、彼はアクイラと親しい友人の一人で
西部で活動するブラッシュという組織のドン。
しかも顔が広く社交的で、アクイラからは特に重宝がられている人物だが、
呼んだキアーロは気軽に声をかける。
『ああ、よく来てくれたっ。今日は仲間を紹介する。
カツミ、リッキー、アレッタだ。そして彼は友人のチェンチ。
四人共、彼がブラッシュのドン、ミスターAだ』
その紹介に手を挙げるだけのカツミとリッキー。だがアレッタは言う。
『初めまして。貴方があの西部にも顔が利くという…』
『ハハッ、別に大した事ではないさ。
そのうち君のドンの方が有名になったりしてねぇ』
『おいおい、あまり持ち上げてくれるな』
『そう何故なら、アクイラの店を火炎瓶から救った話なんて
もう西部の連中でも知ってるからねぇ。
私は西部と東部が上手くやってくれるのが一番だと思っているが、
その為には東部にも強いファミリーが必要だから、期待してるよ』
言いながらすすめられるがままにレットーラがいた席に座るミスターA。
アレッタはキアーロに言い含められチェンチと話しているようだが、
その会話が目に入ってもミスターAの方が気になり話しかけるのは、
カツミとリッキー。二人は彼と初対面だが、
ミスターAの方はアクイラやキアーロから彼らの事を聞いている。
『じゃあ、ドン・スタンレーとも仲良くやって欲しいのか?
でもうちのファミリーは無理だぜ。あいつは悪人だろ』
『まあ、落ち着け。アクイラと商売してるのかも知れないし、
タラントと組んでるとは、言ってない』
そしてそれには率直に答えるミスターA。
『うーん…正直に言えば争いは嫌いだから、波風は立ててもらいたくない。
ただ、君らがドン・キアーロの信頼する仲間で
ファミリーが善良さを大切にしている事は、
とても喜ばしく思っているんだ。だって、争いは嫌いだからね。
それに当然タラントのカポの何人かは知り合いだが、
ドン・スタンレーがっ、まさかあのドン・スタンレーが
私の事なんて知らないよ。ドン・アクイラとはたまに仕事するけどねぇ』
『だが、西部の半分以上はタラントのものだろ?
あんたを疑う訳じゃねぇがやっぱりそれは
ドン・スタンレーを認めろって意味になるんじゃないか?』
『だが反タラントも多いぞ』
『ああ、確かにミスターバレージの言うとおりだが、
私が見る限り…ちょっと大げさに見ている気もするんだ。
あのドン・スタンレーの事を…。
彼は確かに強引で何を考えているのか分からないが、
事実仲間の敵を討っているし、
殺されたのは明らかに敵対したか、裏切った奴らだ。
だから君らにも賛同してくれとまでは言わないが、
もう少しタラントファミリーや西部が落ち着くのを待って、
それから…判断してもらいたいんだ』
『…うーん、それはそうだが…』
『でもあんたの望みとは反対に西部は荒れてるな。
それはいつもって訳でもないが…』
『ああ、どこかで和解してもらいたいものだね。
だって私の商売は主に、西部で買ったものを東部で売ることだからね。
あまり抗争が長引くとやり難くなる一方だっ』
そこでミスターAの商売に興味を持ったのはチェンチ。
彼はとにかく何にでも興味を持って、人脈を増やそうとする。
『じゃあ改造銃とか、限定の家具とかも用意できるのか?』
『…ああ、ある物なら何でもっ。ただし、
もう既に名のある宝石や手に入り難い高級車だと、当然値も張るよ。
ハハハッ』
『じゃあそれは、ロビンソンに入ってからだな』
『えっ、君はロビンソンに入るのか?』
だがそのミスターAに首を振って応えるキアーロ。
彼はそのままミスターAと内輪話を始めたが、
やはりチェンチは納得しない。
『おいおい、やめてくれよキアーロッ。冗談ならいいが…
オレはロビンソンに入る時になって、
本当にダメな奴みたいに思われても困るぜー』
『ああ、チャンスならやるさ。
むしろそのままでは、絶対にロビンソンには入れない』
『軽いとダメなのかよー』
『いいや、お前だって気付かれるからさ。名前も変えないとな…』
言い終えるとチェンチを指さすキアーロ。
『……えっ?』
バンッ バーーン!
直後キアーロの手にはいつの間にかリボルバーがあり、
それはチェンチを射殺。
つまり今テーブルにうつ伏せになったこの男こそ実は
あのリッキーを迎えた日に襲撃してきた集団の首謀者だった訳だが、
実は店の正面にもキアーロとレットーラが調べたことの裏をとった
アクイラが、裏口を出た所にもライアン・ロスとその仲間がいて
万一にもキアーロのクレイメッドが失敗した時には
彼彼女らが殺す事になっていたので、
いずれにしてもチェンチは既に…籠の中の鳥だったようだ。
だがその事実を聞かされても驚きを隠せないのはカツミとリッキー。
『おっ、おい!いいや、いいやまさか…!』
『…いいや、そのまさかだろう。ドンが殺ったんだ』
そうミスターAさえ、チェンチを少しでもこの場に留めておく為の布石。
勿論彼は何もかも知っていたが、アレッタは自分だけが知らなかったのかと思い声も無く、代わりにキアーロに言うのはやはりカツミとリッキーだ。
『くっそー!オレはなんて人が好いんだー』
『…だがオレも、
奴がソルジャーになったらその努力は認めてやるつもりでいたぜ。
一緒じゃねぇか』
『いいや、気にするな二人とも。まずは信じてやる。
それはとても素晴らしい事じゃないか』
それを聞いて安心したのか拳をつくるカツミ達。
だがキアーロも説明しなければならない事はある。
『ただこいつの場合、
オレやレットーラそれにドン・アクイラが調べたところ
南部や西部でも似たような事をして、金持ちだとか、
小さなファミリーのドンを殺していたらしい。
そうあの後襲撃者の一人を見つけて問い質したら、口を滑らせたんだ。
さっき首を振った後ミスターAと内輪話したのも、
もういいかって、訊いたのさ…』
そのやや憎しみのこもった言葉に沈黙するカツミ達。
ミスターAはカツミとリッキーに元気を出すように言って帰ったが、
実のところ悲しいのはキアーロも同じだ。
『いい奴だと思ったんだが…』
だがそこでまた思い出したのはカツミ。
『じゃあブラッシュっていうのは、掃除の手伝いをするって意味かよっ?』
なるほど、悪党の掃除か。
あるいはそうかも知れないと思い笑いだすキアーロ。
それを見たリッキーやアレッタも安心して一同は
やっと両替所へいく事になったのだが、その先はダチカールではなく、
チェンチが選ばなかったレモエリスタの方だった。
そう根が悪の奴も急に友人が居なくなったことで寂しくなり、
生まれ変わって美術館にいたら困る。キアーロ達はそう考えて決めたのだ。


彼方此方から銃声が響き、
グッドだのエクセレントだのという歓声が文章化され、
木造りの台からショットガンを構えたカツミの北にある人型の的も
左右へと移動し、それは時々ぐっと近づいてきて、彼を楽しませていた。
ここはメーツベルダの料理店ボスコの東側に併設された射撃場。
その二つの大部屋を繋ぐ場所には酒と煙草の販売店もあるが、
カツミの右にはアレッタがいてショットガンを放ち、
その隣にはリッキーがいて今日はどういう訳か片手でリボルバーを撃ち、
そうしながら皆で談笑していたのだ。
そう要はタイミングよく撃てば大命中となって
素早さと器用さが上がりやすくなり、
辛抱強く続けることで体力や気力あるいは屈強さも鍛えられるのだが、
あまり見過ぎたり、外したりすると得られる経験値は少なくなり、
素早さと器用さも上がりやすくはならないのでその難しさに
カツミは子供のようにはしゃぎ、アレッタとリッキーを苦笑させている。
『おっ、おい!今の何で外したんだくそー!すぐ目の前にいたのによー!』
『見過ぎなんだって!
遠くにいる時に当てると器用さが上がりやすいかもよっ。
ところでリッキーは何で今日片手なの?』
『何っ?…あの的の横に小さく出ている文字なら、失中(しっちゅう)だ。
矢を外すことを失中って言うんだ』
『それはもう分かってる。それより何で今日は片手なの?
さっきカツミがそう訊いてたからっ』
『うーん…本当は誰にも教えたくなかったが、お前らにならいいか。
両手で撃つと威力は上がるが、
命中率と良い当たりになる確率が下がるんだっ。
つまり簡単に言うと平均的な威力は上がるが、
命中させるのは難しくなるから、良い当たりになる確率は下がるんだな。
お前らも憶えておけ。両手撃ちは、誰でもやりたがるからな』
そうあのダチカタルでの始末の後レモエリスタの両替所に行った四人だが
そこは実のところ、
薄っすらと青いコンクリートの壁が洒落たホテルの一階で
すぐ下がカジノという場所であり、
初めて行ったキアーロとアレッタは大喜び。
気が高ぶった二人は、中央にあるエスカレーターも北に並ぶ窓口も後回しに
何人かのホテルマンに話しかけその人工知能に対し、
円に換える時グロートを欲しい相手がいない場合どうするのか…と質問。
するとそれにはカツミとリッキーさえ知らなかった
驚くべき情報が返ってきたので、以下はその
NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)であるホテルマンの台詞だ。
『円、ドル、ユーロからグロートに換えるお客様の一部は
このガラミールにある看板、ポスター、テレビ・ラジオCM、
開始時と終了時に出る社名や商品名での宣伝を希望された
企業や自治体の皆様で、その方々からの料金は全て
グロートによって支払われる事になっており、
他とにかく資金力にものを言わせ
ゲームを有利に進めたいプレイヤーの方も多いので、
まったく問題はありません』
そうそれを聞いたカツミは
企業や自治体からの宣伝料をグロートでとるという斬新な発想には驚き、
むしろ古参のリッキーと二人笑ってしまったのだ。
またその時アレッタに言われた二人が背中のポスターへ振り向けばそこには
拡大表示できる画像でアメリカの最新式大型冷蔵庫があったので
それには頷くしかなく、
今もカツミとリッキーはその続きを話しているところだ。
『そういえば町の彼方此方にあるでかい看板、あれ全然変わらねぇな。
あの炭酸飲料の会社、相当金積んでるぞっ』
『そりゃあそうだろう。
オレも一度飲みたくなって近くの店まで行ったくらいだっ』
また全ての両替所では円、ドル、ユーロをグロートに換える事も可能で
地下にあるカジノは運営の戦略だろうが、
まだこのガラミールを知らない友人にグロートを送るサービスもあり、
どうやら昨夜の四人は退屈せず就寝を迎えたようだ。
そうつまりあの後無事に現金を得た一同は
今日の15:00に会う約束をして別れ、今はリッキーお気に入りのここで
ワインを受取りに行ったキアーロを待っているところなのだが、
では何故15:00という時間に会えるかというとそれは
2×××年の現在世界では五時間労働が基本となり、
それは長くても六時間か、六時間半だから。
つまり休憩がない場合はなおさら早く帰ることができ
それで一応は食べていけるのが当たり前になっていて、
レットーラとアバードが遅れてくるのも実は、仕事が忙しいからではない。
そうレットーラは例の裁判の結果を待ってペスカーラと待機し、
アバードは家でゆっくりしてから顔を出すのだ。
またそこで、震え苦しそうに倒れる的にチェンチを思い出したアレッタ。
その質問にはリッキーが答える。
『そういえば、チェンチって実は島になれた奴だったんでしょう?
何で気付かなかったのかな。ステータスを見たはずなのに』
『それは、騙すのに使った体を何度も変えて、
つまり何度もわざと死んだせいで獲得経験値も低かったからだろう。
そうあんな奴らからすれば、ゲームなんてどうでもいいのさっ。
金を奪えればなぁ』
『ああ、なるほど。ゲーマーにとっては許せない奴らだねっ。
でも私、失敗したかも。裏切り者がいたら始末させてくれ…なんて。
よく考えると私にクレイメッドは、難しいかもねぇ』
『いいや、クレイメッドは難しいどころか、消費気力は少ないし、
移動する相手について行っても発動できるし、使える手段だ』
だが死の弾丸の話を聞いてもキアーロの心配などせず、
射撃に集中するカツミ。
何故ならこの世界のドンには二人、カポにも一人ずつ、
SPC(サブ・プレイヤー・キャラクター)という
人工知能さえ備えた手下がいて、それはプレイヤーの命令次第で
身を犠牲にして守ってくれる存在なのだ。
では早速その二人を連れバレンティーノ邸を訪れたキアーロを見てみよう。
そこは植木と芝生は黄緑に、
右手の大きなプールは黄金に輝くバレンティーノ邸の庭。
七組ある白く丸いテーブルと椅子を中心に
三十人ほどの男女が立ったり座ったり踊ったりして
それぞれ手に酒や煙草を持ち、静かなパーティーを楽しんでいる時。
主催者のアクイラは忙しく複数の男女と話しているようなのでキアーロは、
やや薄暗く邸とプールの明かりが届かない
西にある垣根近くのテーブルに座る二人組の女に声をかけ、
意外にも盛り上がった会話にそこを離れられなくなっていたところだ。
だがその内容はこの巨大暗黒街ガラミールを気に入った者にとって
とても興味深いもので、南を背に立つキアーロから見て右手の
赤い巻き毛とそばかすが愛らしい緑のドレスを着たエレノアは、
服を買う時には数種類から色を選べる事、
そして宝石はただ鑑賞や貯蓄の為に買うのではなく
それをネックレスや耳飾りあるいは指輪に加工してもらえる事などを教え、
左手の長い銀髪で右のみを隠し
その上に小さな黒いサファイアが散りばめられた銀のカチューシャを付け
黒いスーツに身を包んだ美女アンは、ショットガンが単に
使いやすさと威力だけの銃でないことを、教えてくれた。
そしてやはりそれらに強い興味を持ったキアーロ。
その来島して間もない彼の反応は二人にとって小気味よかったようで、
特にアンの方は時々二重の大きな目を糸のようにして楽しそうに話を続け、
自身も愛用の銃ショットガンは気力を消費して素早く前進する事と
後退する事が可能で、標的に近い時には威力の高い一発を、
遠い時には威力の小さい複数発を標的とその周囲に浴びせられると
捲し立て、その意欲を喜ばしく感じたキアーロはついに、
彼女の所属ファミリーを訊く。
『いいえ、今は一人でいて、たまに暴れるだけね。
前はスワイデルの北の方にあるガンショップが友達の物だったから、
そこをコスタファミリーと一緒に守って、それからはその組織と仲の良い
ロッシファミリーのソルジャーだった事もあるけど…』
『コスタって、あの抗争の歴史にあるファミリーか?タラント相手にっ?』
『そうよ。でも今ではもうどうでもいい事ね』
だがそれを聞いてくすくすと笑うのはエレノア。
彼女によるとアンにはその抗争でショットガンを手に
三人を殺した武勇伝があり、夢中になって貯金を全て注ぎ込み
一気に2000Grと交換した事さえあるらしく
それを本人に確かめたキアーロはやはり彼女を憶えておこうと、
そのデータを見る。アン・クールアイズ、獲得経験値37801…。
またそれを見て、自分よりはずっと長く生きてきたと知った彼にはもう一つ
気になる事がある。
『クールアイズって格好いいな。初姓(はつかばね)か?』
『オォ~!ハハハッ、よく分かったわねぇ…!』
そう言って驚くアン。エレノアも驚いたようで、
自己紹介の時にはよく聞き返され
事情を説明してやっと分かってもらえると、少々困った様子で応じた。
そう実はこの、人々が好きな姓を名乗れるという初姓も
今の実世界では多くの国々で施行されている政策の一つであり、
初めて導入した日本政府がそれを認めた条件というのが、
あらゆる国において十五年以上犯罪歴が無く、
ほとんど遅滞無く全ての税金を支払い、
軽微な反社会的活動にさえ与せず、社会人となり合計で二十年以上務め、
四親等内の親族五人以上の同意を得る事…なのだが、
その頃には俗に言ういじめも
世界中で犯罪として扱われるようになっており、
その事一つでも十五年間は数え直しとなるので
誰もが好きな姓を名乗れるという訳ではない。
また元をただせばこの初姓は、世界的に
たとえ華美で猛々しいあるいは野蛮で恐ろしいなどと言われようと
力強い印象こそが必要という風潮が生み出したものであり、
それを思い出したキアーロは仲間の初姓にも触れる。
『そういえばオレのファミリーにも、何人かいる。
バレージは、波玲時。
ハジョはアメリカ人だが、はじょうと読む…長条から。
つまり波美しい時と長い条文の事らしくて、
いずれも格好いい姓で羨ましいとさえ思っている…!』
それを聞いて頷くアン達。
話はそこからアンがクールアイズという姓の印象で
日本人には冷たく思われて困るという話題になったが、
そこに来たのがドン・アクイラ。
彼は三人の男を連れてキアーロの前に来るとまず、一言詫びる。
『いやぁ、悪かったな』
『えっ、一体何が?素晴らしいパーティーじゃないか』
『ああ、だが待たせちまった。それでも分かって欲しいっ。
うちのファミリーやEAも、
ただ悪共と撃ち合っているだけでは、抗争に勝てないのさ』
そうバレンティーノとしてはEAのファミリーだけでなく
他組織や住民達とも仲を深めなければならない。
それは当たり前なので頷くキアーロ。
彼はそこでアンとエレノアに手を振りながらワインを思い出したが
ねだるような真似はせず、まずそれとなくアクイラに内輪話を仕掛け、
もしかすれば三人は町の有力者で資金調達の為に呼んだのかと訊ねる。
『ハハハッ!いいや、確かにその方がマフィアの大物らしいがなぁ』
言いながら、まず左に立つ男の肩に手を置くアクイラ。
彼はそのブラウンの髪を七三分けにし四角い顔に口髭を蓄え
薄っすら青がかったスーツを着た男を金の話に飛びつくリッチと紹介し、
真ん中に立つ、短い髪を逆立てた彫の深い顔に灰色のスーツを着た男は
意欲的な若者セバスティアーノ・ファルコと紹介。右に立つ、
顔の長い白髪頭で長身にジャンパーを着た男は
ロビンソンファミリーのソルジャーグレイトマンだと紹介し、
断ったがついて来たとまるで言い訳のように説明する。
『いいや、くどいようだが本当はこのキアーロとじっくり話したい事が、
山ほどあるんだっ。正直ちょっと迷惑なんだよなぁ。
居ないとたまに寂しくなるが』
『まあまあ、命の恩人なんだから、オレ達にも紹介しろよ』
そう言ったのはグレイトマン。気になったキアーロが
頼りになりそうだとその容貌を褒めるとグレイトマンは謙遜して返す。
『いいや、地元にはこんな奴ばかりさ。男臭くてうんざりするぜ』
『だが上品なだけでも面白くないものだぞ』
『ああ、だからいっそオレはこの島で派手に暴れて
実世界でも威張ってやろうと思っているんだが、聞いてくれ。実はなぁ』
そうだからこそ彼はロビンソンファミリーで名を上げる為にも
キアーロをコルボファミリー相手の強盗に付き合わせたいようだが、
それを止めたのはリッチとアクイラ。
『おいおい、ふざけてるのか?まだガラミールに来たばかりの友人を、
あの狂暴なドン・ビトーリオにけしかけるなんてっ』
『万一そんな事になったら、ファンガイに話すからな。絶対だぞ…!』
「おお、ファンガイ!」
と思わず画面に見入るキアーロ。脅しのつもりで言うアクイラによると
そのファンガイも遅れてこのパーティーに参加するようだが、
まだ新参だと自覚するキアーロとしても単に挨拶をする程度であれば
決して出過ぎではないので、会っておきたい相手だ。
そして話が進むとやや残念そうにではあるがグレイトマンは諦め、
代わりにキアーロと話すのはリッチ。
そう彼はアクイラからワインを受取ることを聞いているようで、
売るならジャグジーダニエルかマーブルジェーンにしろと念をおす。
『だってドン・キアーロ、あんただってどうせなら高く売りたいだろー』
『ああ、勿論。だが頂いた物で欲張るのも悪い気がしてな』
『何を言うんだーまったく。私の友人は皆欲が無いっ…!
二人なら一本122は出すっていうのに』
そうそういえば、どれほどワインを貰えるかも聞いていないが確認すると
三十本もくれるというアクイラ。
『何っ?そ、それは申し訳ないっ。
オレは三本、いいや一本でもありがたく受け取るつもりでいたのに』
『おいドン・キアーロー、
それじゃあ逆にドン・アクイラの面子が立たないだろ』
笑いながらそう言ったのはファルコ。
彼は三十本と聞いてやはり話に加わって良かったと思っているようだ。
『よろしくっ。オレはまだどこのファミリーにも入っちゃいねぇぜっ。
商売、襲撃、取引、暗殺、何にでもついて行く便利な男!
それが、オレさぁ』
『ああ、よろしく。まだソルジャーは欲しいから、仲間に話しておこう。
やる気があるのはいい事だ』
それを聞いたファルコは何と、
クーパーの使い走りであるクギーチファミリーのソルジャーを締め上げ、
その貴重な電話番号を奪おうと提案。
だが何となくしか分からないキアーロに助けを求められたのは、
アクイラとリッチだ。
『ああ、実に馬鹿な事を言ったものだが…、
クーパーファミリーの下についてる
二、三十人の小さなファミリーがクギーチで、
その中に一人、脅せば吐きそうな奴がいるのさ』
『それで電話番号なんだが、まだこれも知らんだろ?
実はこの島の酒と煙草は良質で本土でも評判が良くてな、
手にしたものを誰に売ろうと勝手だが、
稼ぎたい奴は手堅く本土の買い手に売るのさ。
それでそいつらの電話番号は基本、
既に誰かが知っているものを聞き出すしかない。
ファルコはそれを奪おうって言うのさ』
それは実世界のクリップフォーンであれば
ネットワークを駆使して様々な手段で調べる事もできるが、
このマフィアズライフにある携帯電話には基本電話帳やアラームあるいは
電卓などの機能しかないので、やはりリッチの言葉が正しく、
まだ島に来て間もないキアーロは、一部の高級携帯電話には
奪われた相手に使用される瞬間全データを消すものなどがある事を知らず、
むしろ余計な思考が無いまま納得。
だがファルコの提案には、大きな疑問がある。
『だがそれじゃあ、もしも成功したとしても…
アクイラに迷惑がかかるんじゃあないか?』
『その通りっ』
そう言ってファルコには手をあげる仕草を見せるアクイラ。
ファルコは笑っているがやはりマフィアとは血の気が多いのだろう。
アクイラもそんな奴らを上手くなだめるのが仕事だと思っている節がある。
『まあ、気にしないでくれ。たわ言だ』
『なんだよー。ドン・アクイラの名だって上がるぜっ?』
『上がらないさっ。
せっかくEAが好調だっていうのに、欲で抗争を始めたってなっ』
『ドン・キアーロの為じゃないかー』
だがそこでアクイラは血気盛んなファルコに対し、
クギーチのバックであるクーパーが三千人を超えるファミリーである事、
奴らは一度始めたら相手が泣きを入れても抗争をつづける事などを説き、
聞いたキアーロはファルコに疑問の声を上げる。
『じゃあやっぱり、ジョークのつもりなんだろ?』
『いいや違うさ。聞いてくれオレの考えはこうだっ。
まず大体にしてオレが知ってるクギーチファミリーの奴は怖がりで、
電話番号を吐かせても自分のドンやカポには、言えない…!
それをこっそりあんたやオレが使って、誰がどう困るって言うんだ?』
『ハハッ!うん、それはそうだろうが…』
またそこでファルコの若さに呆れたリッチはとにかく風呂自慢のダニエルか
大理石自慢のジェーンを忘れるなと言い、
どちらかというとファルコに賛成だったグレイトマンさえ、
その甘い考えには疑問があるようだ。
『だがもしも、言ったらどうする?あいつらクーパーは
すぐ南にある町の幾つかを支配して、
悪そのものを楽しんでいるような奴らだぞ』
『だがどうせ、いつやり合うか分からない相手で、
第一悪である奴らとの和解は、ありえねぇだろ。先手必勝だぜっ』
『いいや、ハハハッ。
その時に大きなダメージを与えられるから有利になるんだ。
挑発する作戦でもないのに、怒らせてどうすんだよ』
当然三千人というのは所属数で動員数ではないが、
あるいはドン・ロブストが本気になれば
二千人前後のマフィアが集まるのだから、恐ろしい話だ。
よってそんなファルコには指を差し、
いいな絶対に許さんぞという言葉で釘も刺して、
キアーロにはまた詫びるアクイラ。
聞けばどうやら彼は邸の方に立つ大柄な男と話があるようだが、
その後すぐにワインを取ってくるつもりらしく、
しばらくは四人での会話になりそうだ。
『本当に悪いなぁ。お前もだが、あれは大事な客なんだ』
『いいや、十分楽しませてもらってるよ』
それを聞くと安心して去るアクイラ。
四人はしばらくその背中を見ていたが、
興味があるキアーロは当然として不自然なのは、他三人の態度だ。
そこでまずリッチと内輪話するキアーロ。
『…どうした。相手はそんなに大物なのか?』
するとリッチはしばらく間をおいてから口をひらく。
『…ああー実のところあの男は、ドン・ルード。
EAの中でもグランファミリーを束ねる男で、パンゾベルダの支配者だ。
とはいっても銃の数ではずっとバレンティーノの方が上なんだが、
気難しい奴でなぁ。オレも、おそらくファルコやグレイトマンも、
あいつの事は嫌いだ』
『なるほど…』
見ればそのルード・グランは、
逆三角形の体に白いハイネックのセーターを着て
その上に紺色のスーツをあわせた顎の大きな男で、
金髪を立ち上げたいかにもな強面。またしばらくすると
彼とアクイラの周りからは少しずつ人が離れているようだが…。
『まさか喧嘩でもしてるのか?』
そのキアーロに落ち着くように言うリッチ。
だが、ファルコは怒りを隠さない。
『あいつめ…!
ドン・アクイラが温厚なのをいい事に、いつも言いたい放題だっ』
そうその話によると、EAの指示を受けたアクイラはドン・ルードに対し、
なるべく暴虐なコルボファミリーをパンゾベルダの縄張りへ入れないよう
伝えていたが、それがほとんど守られず、
大体その指示自体が面白くないらしいルードは
たまにこうしてアクイラを訪ねては、怒鳴り散らしているらしく、
また当然誰にでも不満の一つや二つはあるものだが
ドン・ルードという男は、すぐ仲間を怒鳴り、
怒れば無理な注文をつけて守れなければ殺すと、
どちらかというと悪のファミリーに近いという噂で、それはここでも同様。
アクイラがバレンティーノのドンでなければ
もっと酷い態度になっていたかも知れないというのだ。
『だから、いい奴だったら話ぐらい聞いてやってもいい…とは思うが、
普段は仲間を怒鳴ってるくせに、
いざ何かあった時に自分が正しいなんて言われてもなぁ。
ファンガイだって住民をコルボから守ってやってくれだとか、
暴れる奴を大人しくさせてくれだとか、
そんな当たり前のことしか頼んでないっていうのによぉ。
アクイラも怒鳴り返してやればいいのに…!』
『ああ、それはおかしいよな。そうか…
だがもしかすれば、とても防ぎきれないって事なんじゃあないか?』
『いいや、あいつの町パンゾベルダはいろんな奴が出入りするから、
こっちにもどんどん情報は入ってくるのさ。
それによると、揉めごとの時ロビンソンの応援は断るし、
余計なことを言ってコルボにも情報を流すし、全く信用できねぇんだ』
とそこまで聞いて一つ策を思いついたキアーロ。
それは後でアクイラに直接伝えればいいがキアーロにとって心配なのは
今の彼であり、こんな時に役に立つのが二人の手下フランクとマルメ。
そう多くのプレイヤーが彼彼女らを銃撃戦や自分の示威行為に使うのに対し
キアーロは珍しく、何か困った時に助言を求める相手として使うので
今もその二人、頭をスキンヘッドにした痩せ型で顔の半分に髭を生やし
黒いスーツを着たフランクと
カーキ色のカウボーイハットとトレンチコートの似合う
初老の男マルメからは、以下のように返事がある。
『確かに揉めてそうに見えますね。銃が必要かも知れません』
『相手のドン・ルードっていうのは評判の悪い男で、
中々手は出しませんが、弱い奴には強いらしいですからね』
またその続きを聞きたいので話を続けるキアーロ。
『どうすればいい?行ってみるか…』
『別に揉めてもどうって事はありません。
ルードの手下も、オレ達とそれほど差は無いように見えますから…』
『オレに特技の盗み聞くを教えて下さい。こんな時には役に立ちます』
そしてそれにはやはり今の人工知能は使えると確信するキアーロ。
プレイヤーではなくそのサブキャラクターである手下だからこそ
手にはいる情報も沢山あるという事だ。そう何故なら、
活躍が制限されているとはいえゲームから吸い上げたであろう
ドン・ルードの弱い奴には強いという印象や、
その奴が隠している手下の実力が
フランクやマルメとそれほど変わらないという事実は、
あるいはキアーロがどれほど頑張っても、手に入らないものだ。
また特技の盗み聞くとは以下である。

盗み聞く
画面から見切れていない会話中の者に使用しタイミングを合わせる
ミニゲームを行って三度連続で成功させると、
その時の会話から無作為に選ばれた三行が画面中央に表示される特技。
つまり会話を盗み聞くのだが、
会話が短いと判断されれば連続した五文字のみが表示され、
条件を満たせなければ気力の無駄となる。
また密談と会話というただ近づけば聞こえる状態の声も、
同じ条件で無作為に三行盗み聞くことができる。
必要経験値6670 消費気力61 効果補足…気力がつづく限り使いなおせる。

そして補足だがこの世界の会話は特技が無くても内輪話しない限り、
その声の大きさによって近づけば聞く事が可能で、
ミニゲームとは、PCやクリップフォーンから発せられた二つの輪の内、
外側の輪が内側の輪の中に入るほど小さくなる瞬間を狙って
操作するというもので、才能と練習が必要なうえ
盗み聞ける部分は無作為でまさしくその時のものに限るので、
既に重要な部分を言い交わした後になってしまう可能性があり、
キアーロとしてはまだ習得していないそれを、考えている場合ではない。
『じゃあ行くかっ』
そうそこで、もっとアクイラとルードへと近づき、
その会話を聞いてやろうと歩きだしたキアーロ。
だがその直後、ルードは北の出口から邸の外へと出てしまい、
後に残ったアクイラは察したのかそのキアーロの行動に、
感謝と不安を口にする。
『ハハハッ、ありがたいが…そう心配するなっ。
オレがお前を心配する事になるじゃないか。奴はもう帰ってこないさ』
『だがそれは…今夜だけの話だろう』
それに頷きながらも縦長の半円に象られた大窓の下にある
邸入口へと消えるアクイラ。彼はワインを取りに行き、
残ったキアーロの周りにはまたリッチ達が集まったので
会場は音楽を取り戻したような賑やかさに満たされ、
まず口を開いたのはやはりファルコ。
そしてそれに続くのはリッチとグレイトマンだ。
『いいぞー!偉そうなルードは帰れー!そしてキアーロ、
あんたこそオレが探していたドンだ!ファミリーに入れてくれよっ』
『大体にして怒鳴るのは、相手に何かを変えて欲しいからではなく、
自分の怒りを発散したいだけだからな。幼稚な行動だよっ』
『でも丁度いなくなって良かったじゃねぇか。
実際EA内の揉めごとは面倒だぜ…。キアーロは立派だと思うがな』
そのグレイトマンには頷き自分が軽率だったと認めるキアーロ。
勿論その善意は理解されたようだが、まだ商売の話がしたいのはリッチだ。
『どうだジャグジーダニエルにするか?
それともマーブルジェーンにするか?
あるいはどうにかして別な奴の電話番号を手に入れるか?』
『…ああ、その名は憶えておく。礼を言うよ。
だが売る相手は仲間とよく相談してから決めないとなぁ』
『おお、ドンらしくて良いぞ…!だが電話して、売れるかどうか確認しろ。
それがあんたとそのファミリーの為だ』
それに仕方なく教えられた番号を見ながら電話するキアーロだが、
今は二人とも留守らしい。よって残念がるリッチ。
『うーーん!オレがかけた時には居るのにっ、教えるといつもこうだ!』
『だがもう一つ気になったんだが、
ジャグジーダニエルとマーブルジェーンはプレイヤーで、
本土の買い手っていうのは、NPCだろ?』
それに頷き補足するリッチによると
だからといって酒と煙草は作れば誰でも儲かるという訳ではなく、
日々冷静に原料とその品の相場を把握し、
売れないからといって安い時にさばかず、自分に合った買い手を選び、
強盗や詐欺にも注意し、それに揉めた時に相談できる相手も必要らしく、
聞いたキアーロは悲鳴を上げるどころか、何故かほっとして言う。
『じゃあ安心だ』
『おっ、意外と自信家だなー』
『いいや…そういう意味じゃなく、
あまり売れ過ぎてもこのガラミール自体が成り立たなくなるし、
酒と煙草を売るプレイヤーも張り合いがなくて、飽きてしまう。
それを心配したのさ』
勿論それを聞いたリッチは感心したが、
それはファルコやグレイトマンも同様。二人は口々に言う。
『あんた神にでもなるつもりか?
それは運営に任せて、オレをソルジャーにして稼ごうぜっ。
仲間のところへはオレの愛車、防弾装甲のローグで送るからさっ』
『いいや、気にしなくていいキアーロ。
仲間のところへは、オレのビランで送る。
それより、確かに考え無しの馬鹿共にまで、
稼がせる必要はねぇよな。そんな奴らのせいで
このガラミールが消えちまっても困るぜ。賛成だっ』
その拳をつくるグレイトマンに聞けば
ファルコのもの同様彼の車も二人乗りで、
いずれも全体に丸みを帯びてボンネットが長く前が一輪らしいが、
車名ビランの意味は…悪人。
聞いたファルコは送迎役を横取りされたので悔し紛れに笑ったが、
キアーロは違う。
『確かにオレ達は善良なマフィアのつもりだが、
それでも一般人にとっては、何かと武力を行使するし、
抗争もする。そうそんな世界では寧ろあっていいと言うべきだろうし…
なにより実世界の車名にかぶらなくて良いじゃないか』
聞いて指を差しながら笑い出すリッチ。
ファルコとグレイトマンもそういえばと納得しているが、
そこへ邸から走ってきたのは五人の男。
彼らは一度キアーロ達のまえで立ち止まったが
すぐ南門から出てゆき、それに続いて出てきたのがアクイラだ。
『どうしたっ?まさかルードが何か…』
そう言いかけたキアーロにすぐ首を振り
ダチカールを知っているかと訊くアクイラ。
彼はキアーロに約束した通りワインをくれたが、
その処理の素早さからしてどうやら、大事件が起きたらしい。
よって必死に思い出すキアーロ。
『ああ…東部の入口にある、島で唯一の市だろ?』
『そのメインストリートでうちのラーシオってソルジャーが
クーパーの奴らに殺されたのさっ。今その報せがあって
悪いがオレ達もすぐそこへ行かなければならないっ』
また黙っていられないファルコが詳しく聞けば、
バレンティーノの中でも大人しいラーシオはクーパーの四、五人に囲まれ、
髪をつかまれても抵抗できず、殺されてからその死体に
唾を吐かれたらしく、聞いたグレイトマンとキアーロも強く憤る。
『あいつらめ!ラーシオが一人でいるところを狙ってっ!』
『ひでぇな!わざわざ大人しい奴を狙ってそんな屈辱を与えるなんて!!
オレも仲間と一緒にそこへ行ってやろうか?』
『いいや、止めろ。
お前はせっかく良い奴なのに、馬鹿なことは考えるな。帽子に穴があくぞ。
確かに気持ちは分かる…が、あのクーパーファミリーは
この辺りでも最大でファンガイさえ手を焼いているんだ。
資料とかは見て、少しは知っているだろう』
『…ああ、でもひでぇよな』
『だが、我らがファンガイだっていつまでも黙ってはいないさ。ハハハッ!
それよりお前は商売だっ。無理はするなよっ』
言いながら、他の客には引きつづきパーティーを楽しむよう言って
出てゆくアクイラ。そう確かにファンガイとその仲間は
クーパーファミリーと抗争を繰り返し、
ある程度はその暴挙を止められたからこそ、信用と支配力を得た。
つまり今のキアーロの思考では足手まといにならないよう
頭を切り替えるしかなく、それを察したファルコは彼にそれとなく言う。
『確かに酷い話だが…ラーシオも大人し過ぎるな』
『そう責めるな。まだ詳しい事は分からないんだ』
『でも特技の恥をかかせるは、防げるし、
つかまれてからも振り払って、反撃までできるんだぜっ。
しかもそれはボディブローとか頭突きで…
普通は殴られても撃たれてもキャラクターが明滅するだけなのに、
その特技に反撃した時だけは相手も腹や顎を押さえて、痛がるんだっ。
何でそれをしないんだよ。だから言ったのさ!』
そうつまり屈辱的な特技には、それ以上の屈辱を以て返せるのだが、
実のところその時のラーシオは二、三発殴られれば
相手の気がすむと思っており見込みが甘かったようで、
大体反撃の為には敵の強さや地位に応じた
勇気が必要になる。それには納得したキアーロだが
目的のワインは受取ったことでもあり、
この一大事を早く仲間にも知らせたい。
『そうか…なるほど。礼を言う。色々と勉強になった。
じゃあ悪いが、メーツベルダのボスコという料理店まで送ってくれ』
それを聞いて喜ぶファルコと、驚いたのはリッチとグレイトマン。
キアーロはファルコの素直で意欲的なところが気に入ったようで、
車内でもファミリーの掟や仲間達のこと、
それに今は所有している店や建物さえ一軒も無いことなど
様々な話をするつもりでいたが、
そんな彼はボスコへの途中カツミから着信を受け、
出るとすぐワインを受け取ったかどうか訊かれる。
『ああ、無事うけ取った。大丈夫だ。
それより実はダチカールのメインストリートで
バレンティーノのラーシオっていうソルジャーが…殺されてな、
今アクイラが何人かとそこへ向かっているところなんだが…
電話が来るって事は、そっちでも何かあったのか?』
『あっ…いいや、それより大変な事になったなー』
『ああ、まったく。それにドン・ルードって知ってるか?
彼はEAにコルボから縄張りを守れと言われていたんだが……』
そうしてドン・ルードの悪い噂まで聞かされたと教え、
暗い話ばかりではカツミも嫌になるだろうと、
ファルコを紹介するキアーロ。
ただよろしくと言いあった時のカツミがいつもとは違うようなので聞けば、
どうやら今はそれどころではないらしい。
そうつまりどういう事かといえば、
ボスコにある酒煙草販売店でリッキーの知り合いのなかでも
ワインを買ってくれそうなリカ・ジョーンズという女を見つけたカツミ達は
すぐ声をかけたが、彼女の専門はどちらかというと煙草であり、
エゼットという酒に詳しい友人を紹介され、今度は彼女に電話。
するとそのエゼットは、掲示板で大勢の悪い奴らに叩かれているらしく、
それを知ったカツミ達はワインの売買つまりファミリーの為にも
その窮地を救おうと、車を走らせているというのだ。
勿論それを聞いたキアーロは喜んだりやや不安になったりと忙しかったが、
今では小さく成り果てた心の悪魔を足蹴にする、
巨大な天使に励まされる彼。
『よし、じゃあすぐオレ達もそこへ行く!
ファルコも頼れるから安心しろ!』
『ああ、任せてくれ!』
そう言って張りきるファルコ。キアーロはそこで、
エゼットが叩かれているのがスタラドの掲示板、
相手のほとんどがメロサイズの曲事団だと聞いて
レットーラとアバードは呼んだかも確かめ、
どうやら電話は通じなかったらしいが、
彼らにメッセージを残したというカツミはそこで悪いと一言。
電話を切った。
そうつまりカツミ達はそこで掲示板に着いたらしく、胸が高鳴るキアーロ。
しかも尊敬する詩人重音主によって道徳を強化された彼にとって
戦いの場は幸い掲示板であり、数はまったく関係無い。
そう一々言うまでもないが、議論、となればただ煩くても
間違っている方が負けるものであるし、それは口喧嘩だろうと同様。
こちらが正しいなら途方もない馬鹿でも負けを認めないことが、
精一杯になるものだ。それを教えたのも実は、詩人重音主。
そうある時、いつものように彼の詩を読んだキアーロは正直に、
自分は心優しい両親に育てられ、友人や恋人にも恵まれ、
そのお陰もあって何不自由なく生きてきたと話し、
それでも人の役に立つため貴方のようにものを見れる人間になりたいと
師事を願ったが、一度丁寧に断られ、
再び話した時にやっと道徳を教えてもらえる事になったのだが
その理由を訊けば、
人は苦労を知り過ぎても悪に染まりやすくなるものだからであると言われ、
人の役に立ちたいというところも気に入られ、今日に至るのである。
そうつまり、彼には心の後ろ盾はあったのだが
今のところそれを知る人物は少なく、
カツミやレットーラなどはたまにキアーロを不思議がり、
若いはずだが年寄りのように強いところもあると感じている。
まあ簡単に言えば、キアーロは大きな奴だという事なのだが、
そのカツミもいる掲示板は目前。
それはキアーロにとって突然で先の西を見てからやっと気づいたほど。
何故なら彼は島に来て間もないのでそう多くは掲示板を利用しておらず、
その位置を示す様々な色や形の敷石を組み合わせて造られた八角形も
ライトアップが美々しい事もあって急いでいる今は
とても怪しく神秘的な何かにしか、映らなかったからだ。
だがよく見てもその周りに居るのはたった五人。八角形の先にいるのは
金髪を後ろに流し黒いスーツのポケットに手を突っ込んだ男と、
その恋人のように佇む赤いドレスの女。
そのやや北側にはキアーロ同様まだ慣れていないのか
一人でとび跳ね動作を確認しているだろう
白い少女風のドレスを着た女がいて、
何故かそこから更に北へ行ったところで
うろうろするのは、フードを目深くかぶった男。
またその四人から見て東のキアーロ側にはそこにいる誰かに
物を売りたいのか次々と声をかけて回っているだろう男もいたが、
どの人物を調べても曲事団の者ではないようだが…。
『どういう事だ?』
『一体何が?おい、言ってくれよ。…まだ何か、作戦でもあるのか?』
そうそこで改めて聞き、
八角形の中に入ると掲示板の画面へ移動できると思い出すキアーロ。
ファルコも一応停車させたが、
その気になればいつでも車をアイテム欄にしまえたものを
自分達のドンである彼が降りるのを待っていたようで、
それに礼を言ったキアーロはすぐ、八角形の中へ。
するとそこは画面一杯に細かく投稿のタイトルが並び
一瞬どこへ行けばいいのか分からなかったが、
右下のある場所に小さくFamilyという文字があり、
そこを開くとやはりカツミ達の画像とコメントを発見。
よって今のカツミ達と曲事団の者達が何を話しているかは分かるが…
それまでが分からないキアーロはすぐ
その投稿が元々どういったものだったかを見る。
するとそこには以下のようにある。

タイトル 東部の町が多過ぎる!
投稿837年×月×日15:52 投稿者ギャソリーン
投稿者の評判69 読者数171
支持134 不支持44 コメント可 内容表示…23ti
島の地図を見ていつも思うのが東部に町が多すぎるって事。
これどうにかできない?私がビッスーディの上層なら
絶対にこんな事ないんだけど…。だって新参が分かり辛いし、
多ければ絶対に面白くなるというものでもないし、
私なんかはたまに彼方此方で迷って
その度に新しい友達を作っちゃうんだよね。
つまりどう考えても賢くないしもう一度、天地創造した方がいい。
みんなも知ってるヒサト・ミズヤミだって自由に造れるものを
何故わざわざそうしたのかは分からないって言ってるし、
これは私達曲事団を中心とした組織が声を上げて
何とかしなければならない事だと思ったの。だから賛同者は支持して!
よろしくね。その結果次第では私達が世界を変えるよ?!

そして以下はこの投稿に対する反応だが、上の投稿にある月日同様
姓名あるいは通称とそのコメントだけにして、
実際にはある所属ファミリーや日時の部分は省略する。

ジャキ  今日もギャソリーン可愛い。
オレも自分達の生きる場所を変えたいと思うから、支持でっ。
セリーナ  それは運営にも理由はあるだろうけど、
東部が住みやすくなるとこれからその全域を支配するかも知れない
私達にとってはやっぱり、好都合だね。
アプローチ  何か事情は歴史にあるらしいが、
そんなもんオレ達には関係ねぇよなー。
大体この島は喰い合うところだからさ、とりあえず三百人超え記念に
東部を分かりやすくしてもらいますか。
クチサケ  ミズヤミ兄弟の名前出すのはちょっとやり過ぎ。
でも町の数減らすのは賛成だよ。
店の数減らす訳じゃあないんだし、地形を変えるとか、
ただ何でも自由にって事でもないから、いいんじゃない?
ケン・カリノ  つまり…曲事団はアホの集まりって事でいいかなー?
どうやってお前らみたいなのがたった三百人から始めて
東部を支配していくんだよ!本当に笑える!戦略を教えてくれー!
そういう意味でこの投稿はおすすめです。
ラット  戦略はまずお前を殺す事。
そしてそのファミリーパボーネも壊滅させて
協定を結んでいるネクロマンサー達にも、死んでもらう事。
まだうちのファミリーは四人居なくなっただけだが?
エゼット  初対面で悪いけど、
歴史には最終的にこの島全土を支配したディダインという民族が、
少しずつこの辺りを征服するしかなかったからってあるよ。
あ…つまり、だからそれぞれの町が細かく分けられているんだって。
知ってるのにあえて言ったならごめんね。
とそこで一度目を止めるキアーロ。
この言い方では特にエゼットに問題はないと思えるが、
冷静さを大切にする彼の思考ではもう少し読んでみる必要がある。
何故ならこの後エゼットがあまりに酷い事を言ってしまった場合には、
その救い方も両者を落ち着かせる程度にするのが、
彼女の為でもあるからだ。
べべ  ミズヤミ兄弟の名前出すとダメなの?ちょっと後で話そうね。
セリーナ  エゼットさーん今ここ曲事団が集まってカポもいますから、
あまり知名度の無い人は大人しくしておいた方がいいですよ。
私は一度も話した事はありませんが、貴方は新参ですか?
まさか部外者じゃないですよねー?!
コータ・ミズヤミ  別にオレは許すぜっ。セリーナには悪いが、
仲間は多い方がいいから部外者なら、曲事団に入れよ…!
それが許す条件だ。
イージー  そうだ私仲良くするから曲事団入れよ!
待っても返事がねぇから部外者だって分かってんだ。もうそれしかねぇぞ。
ラット  そういえば新入りの歓迎会って、
まだ何をやらせるか決めてなかったな。あれ、話し合おうぜっ。
それでそれを彼女にやらせよーぜーー。
アプローチ  歓迎の仕方決めるのにも、ギャソリーンの案にも賛成っ。
アラン  まだ東部を変える話してるのか。それは多分よくないぞ。
それにしても…エゼットどうした?何とか言えよ。
パボーネで期待されたソルジャーのくせにぜんぜん狩れてないカリノも、
何とか言ってくれー。本当に笑えたから言う。ありがとう。
べべ  というより町は多い方が面白いんじゃない?
私の友達はたとえば三つの地域にある町村の数が大体でも同じだったら、
その方が冷めるって言ってたな。
当然さ、その話は東部の町多過ぎじゃない…?から始まったから、
気持ちは分かるけどね。
ギャソリーン  ありがとうべべ優しぃー!でも志は変えません。
だからできれば応援してねっ。
ジョン・ブラウン  投稿した人に言うが、君がもしもゲームというものを
心から愛するクリエイターでプレイヤーでもあり、
苦心の末導き出した答えによって生まれたはずの作品の事を
たとえ一部分でも賢くないだとか、あり得ないだとか言われたら
どう思うのか。それが疑問の答えなのだ。
そう君の疑問とは深く考えたのに
どうにもならなかったものなのだろうか。大いに疑問だ。
ラット  ジョン・ブラウンうぜぇな。小難しいこと言うなら死ね。
タケル  てめぇカリノ!!エゼット!!
てめぇらみてぇになめてる奴らは残らず灰にする決まりだ!!
似た奴らがどっかでぶっ殺されてもそれはお前らのせいだ!!
それを分かって言ってんだろうなぁーー?!
タケル  どこ行ってもオレ達が頭から離れないようにしてやろうか?!
オレを敵に回して後悔しねぇ奴は一人もいねぇんだよ!!
近いうち仲間と待ち合わせしろ一緒に切り刻んでやるぜぇー!!
アプローチ  とりあえず東部の町減らすのに賛同する奴、
四人集めたぜっ。
コータ・ミズヤミ  どこ行っても探すぞエゼット。
仲間になるのが嫌なら、その理由を教えろ。
アプローチ  タケル悪い。丁度お前と同じタイミングで投稿しちまった。
エゼット  タケルさん…も曲事団の人も
癇に障ったようなので、謝罪します。
ただ私もはっきりとは何がいけなかったのか分からないので、
皆さんが落ち着いたらその時に話そうと思います。失礼しました。
コータ・ミズヤミ  じゃあその曲事団の人がいる
東部奥地には来るなよ。綺麗な景色とかいいレストランもあるけど
お前だけ、楽しめねぇからなーー。
カツミ・バレージ  おいミズヤミ、
じゃあお前はその水の闇から出てくんなっ。
暗くて怖いし実は鮫もいるけど頑張れよっ。
エゼット来たぜー。リカもいるからなっ。
コータ・ミズヤミ  誰だこいつっ。カンパネッラ?それ何?
普通カンパネラじゃねぇ?わざわざ言い難くしてんじゃねーよー、カス。
リッキー・ハジョ  カス野郎はお前だという事をすぐ証明できるが、
どうする?でも決まってるよなお前らみたいな奴らの行動はっ。
この居心地がよくて安全な穴から出ねぇんだろ?!
コータ・ミズヤミ  バルラムの人かぁ。何で来たんですかー?
ここスタラドですけどその中でもオレ達の投稿ですよね?
ギャソリーン  よく分からないけど、
テゾーロさんも悲しむかも知れないからエゼット連れて帰れば?
支持の数見て下さーい!私達たくさんいますからっ。
リカ・ジョーンズ  確かに数だけは集まってるな。
うん、色々な意味で凄いぜ。リッキーもまだ
バルラムにいると思っているようだし、やっぱり奥地の奴らだな。
べべ  知ってるのリッキー・ハジョだけって、あり得ない。帰ってー。
レストラン楽しめないとか言い過ぎました?冗談に決まってんだろーが。
タケル  じゃあオレが出るぜ、じじい。
バルラムの殺し屋っていつの話だ?
カツミ・バレージ  おいミズヤミ、
お前はカンパネッラとか言えなくていいんだよ。
むしろ言い難い方が助かるぜ。そのうち聞きたくもなくなるんじゃねーか?
大体人様のファミリー名を侮辱するんじゃねぇよ。
クチサケ  頭悪いよねリカっていう女。私達が銃を持っていないとでも?
ファルコ  おいべべ、可愛らしくはねぇけど我がままで、名前通りだな。
でもここにママはいないぜ?
ご近所に怒鳴られると親同士が揉めるから、その前に帰りなっ。
ラット  お前らメロサイズ来たらおぼえてろよ!
奥地をなめるんじゃねぇ。あそこをこの辺りと同じと思うなよ?
ケン・カリノ  メロサイズよりオレ達のダイオンの方が、いい町だろう。
教会を中心に白い家が並んだ港町で、高級住宅街も人気だからなー。
ラット  あのカリノ君さぁ…死ね馬鹿。
キアーロ・カンパネッラ  オレ達のファミリー名が何故カンパネッラか
知りたいか?だったら教えてやってもいいぞ。その代わり巣に帰れよ。
レットーラ・ホーリー  お前ら曲事団の志の一つである、
暴言を吐きまくるっていうのは…終わったんだから、
この恥ずかしい投稿を消せ!そんなに敵ばっかりつくってよく
その数を維持できたな。逆にすげぇぜ。尊敬はしないけどな。
カツミ・バレージ  本当は奥地にも素敵な部分はあるんだろうが…
きっとお前らの所にはねぇな。
ラット  ガキは黙ってやがれ!!緩衝地帯のオンオーズ程度で
喧嘩三昧の野郎がでかい口叩くんじゃねぇよ!!
ペスカーラ  マドンナサンタッ!
これが噂の、ガキが相手にガキと言う現象でしょうか?!
こんな事が許されていいのでしょうか?!
カツミ・バレージ  大勢の仲間と虐めしてただけの野郎が
偉そうなんだよっ。こんな都会まで田舎の同級生連れてくんじゃねぇ。
卒業旅行かよ。
キアーロ・カンパネッラ  いいかラット、何故カンパネッラなのか?
それはなその方が記憶に残るからさ。確かに日本人のオレとしては
カンパネラの方が言いやすいのも、かっこういい響きになるのも分かる。
だから言い方はどっちでもいいんだが
それだと実際にはへぇ…で終わってしまうと思ったんだ。
ああ、かっこういいなぁっ…てさ。
そういつの時代も、かっこういいものは溢れている。
かっこうをつけるだけの者もな。よし、じゃあ帰れ。
ベンダバール  勝手に東部を変えようとする事も、
ここでの虐めも許さねぇ!それに銃の数だったらEAの方が上だ。消えろ…!
コータ・ミズヤミ  ついにやっちまったなカンパネッラ。
病院の近くにでも引越せ!
べべ  これから私達は五百、千と数を増やしていくでしょう。
べべ  まったき闇!
ギャソリーン  全き闇!!
ラット  そうだ全き闇をこの地へ…!オレ達に真の力をっ。
アプローチ  全き闇が必要だ!!
コータ・ミズヤミ  必要だー!
アマンテ  その通り私達には全き闇が必要だ…!
けど、ルッソのベンダバールはすぐ仲間を呼ぶから、帰るよっ。
そこから十分程…
待ってもコメント欄は更新されなかったので
どうやら最後に登場したアマンテという者がかなり強い立場だったらしく、
掲示板を見ながら電話で相談したカンパネッラは順に八角形を出るとそこで
思いもよらぬものを発見。そうキアーロが調べると
東側に立つカツミ達の足元にあるそれは…タケルの死体。
つまりこの男は、じゃあオレが出るぜとコメントした後
実際に八角形の外へでて、
その場で待ち伏せたリッキーに撃ち殺されていたのだが、
見ればレットーラは回収したその男の装備や服等をみて他と話し込み、
しばらくしてキアーロに一言断ってカツミやファルコと共に
その戦利品を換金しにゆき、
薄っすら緑色のコートを着た長い金髪のエゼットはといえば、
アレッタとリカに慰められている。
そこでリッキーと話すキアーロ。
『あそこまで恐怖を与えたんだから、このくらいしてもいいだろう…。
よくやった。だが、よく一人で出てきたな』
『いいや、読み通りだったぜ。そうこういう奴は、
自分は臆病じゃないって証明したくて、
たまに一人で出てくる事があるんだ。しかもそんな奴なら他にも
ラットやコータ・ミズヤミなんかがいた。つまり、楽な狩りだったよ』
実のところタケルは
八角形の外へ出るとすぐカンパネッラが居ないのを確認して戻り、
曲事団の仲間と共に強気なカツミやリッキーを
口だけだと嘲笑うつもりでいたが、その心は読まれていたようであり、
今になればその黒いスーツの袖をまくった腕を染める、
手首にある輪の形から肩に向かって炎が噴き出したような模様の
タトゥーも、虚しいだけだ。
『これが曲事団の証しか』
『ああ、コメントの時には気付かなかったが、
皆黒か灰色のスーツを着ていたし、このタトゥーも不気味だな』
そして次に声をかけなければならないのはキアーロが初対面の
リカ・ジョーンズそしてフェデリコ・ペスカーラの二人。
リカは目が大きく顎の細い愛らしい顔を肩までの金髪で包み、
黄色地に細い橙色でチェック柄となったワイシャツを着て、
その下はジーンズ。
ペスカーラはその彼女に比べると頭一つ以上も長身でまつ毛長く、
長い顔に丁寧に整えられた髭を生やし、中折れ帽子とスーツの上は白
下は灰色を帯びた青で、胸に薔薇をさしている。
そんな観察するキアーロにまず話しかけたのはペスカーラ。
だがリカもすぐ、キアーロに気付いたようだ。
『ドン・キアーロォーー!レットーラから聞いてるぜぇ!
取引の交渉とパーティーなら、このペスカーラに任せてくれっ。
オレはレットーラやアバードそれにカツミと組んでもいい仕事するぜ?』
『おお、いいね!よろしくっ』
『オレが元レスカファミリーのカポ、リカだ。よろしく頼むぜ!
銃はリボルバーで、予備はスナイパーライフルだ』
その初めて聞くファミリー名とリカがカポだったという事実に驚き
つづきを訊くキアーロ。
彼女によるとメーツベルダの東にあるメレデニの町は
スピアバレイファミリーが支配しているらしいが
レスカファミリーはそこと抗争中であり、その前にも
所属する仲間のつくった酒や煙草の七割を納めなければならないという
血の掟が定められたので、ぬけたのはもう一ヶ月以上前のことらしい。
それに当然のように驚くペスカーラとキアーロ。
『七割?!…オレが聞いた事があるのは四割までだな。
それにメレデニのスピアバレイなんて話せる奴らじゃねぇか。
何で抗争なんて?』
『きっとそれが原因だろうな。ついて行けなくなったんだろう』
『その通りっ。ドーニャ・ミオは自分の店からスピアバレイに
酒を買占められた事が悔しくて、軍資金を欲しがるようになっちまった。
それならリッキーのいるカンパネッラに入った方がいいぜっ』
直後二人をソルジャーとして認めると今度は、エゼットと話すキアーロ。
気になっていたので訊けばエゼットが謝罪の後も掲示板を出なかったのは、
同時に曲事団もでてくる可能性があったからでもあるが、
それより収束を望み、できればそれが叶うと思いたかったからだ。
つまり、怒った曲事団が冷静になり和解できればいいと思ったようで
奴らの悪辣さを知らなかった事があの騒ぎを招いたらしく、
説明を終えた彼女は一礼すると
ワインを買ってくれそうな相手の電話番号を教え、
ダチカールにあるという自宅へと帰って行った。
ただそうなるとキアーロにとって気がかりなのが
一人掲示板にいたパボーネのケン・カリノだが、
それにはアレッタが答える。
『きっと大丈夫だよ。期待されてるって事は、
スターソルジャーか、これからそうなる人って事だから』
『ああ、スターかっ。オレもレットーラにやろうか、迷ったんだよなぁ』
そうスターとはこのガラミールにおいてドンやカポ達が
その感謝、賞賛、愛情などの証しとしてソルジャー達に与える
星明りの印で、それが姓名や通称の横に付された彼彼女らは
元々従う者への労いとして全経験値二・五倍、
ゲーム内にあるミニゲームをクリアしてこつこつと少額のグロートを稼ぐ
このガラミールにおける仕事つまりはウチゲー(ゲーム内のゲーム)や
催しの報酬が一・五倍であるのに、
更にそれらが倍になるので普通は欲しがって当然のものだが、
まずそれをソルジャーに与えるのに必要なのが、特権の精兵鼓舞。
そしてその特権を得るのに必要になるのが、
表面が微かに青く光る水晶のようなフルムーンという宝石。
言い伝えによると神が好きな時に好きなところに好きなだけ落とすそれは
他様々な特権と交換できるものであり、
それを三つ集めアルテミスという市長の妹へ会いにゆき
やっと精兵鼓舞と交換して誰かをスターソルジャーにできるのだが、
一人のドンやカポがその権利を行使できるのは、一度きり。
それを再び行うには、与えたスターを返してもらわなければならないので
それを知るキアーロはやはり、
リッキーか、レットーラかで迷っていたのだ。
だがよく考えれば二人共その結果を理由に恨みをもつ人間ではなく、
今のキアーロはあくまでもファミリーに入ってからの行いによって
それを決めるつもりでいる。
ただアレッタは、これからファミリーも大きくなっていくだろうと、
キアーロにある本を見せたいらしいが…。
『おお友よ、では見せてもらいたいが、それはどうやるのかな?
他にも二、三ゲームをしているから…混乱してなぁ』
『大丈夫。そんな時も、特技・状態の通知は使えるんだよ』
言うとそれを使い自分のアイテム欄を見せるアレッタ。
キアーロは彼女に教えられるまでもなくそのアイテム欄から
特権全集という本を選び、遠慮なくその中身を見せてもらう。
よってその特権の幾つかとは以下。

精兵鼓舞…
ドン、ダイドブレインズ、カポの地位にある者がソルジャーに対し
その感謝、賞賛、愛情を示す為に与える星明りの印が秘められた特権。
その印を与えられたソルジャーは経験値とウチゲーや催しの報酬が
更に倍となる。
またこれはもしもファミリーの人間でなくなったなら消えてしまうもので
与えた者がいつでも消してしまえるものでもあり、
そのソルジャーに明らかな失望を覚えたならそれも仕方の無い事だ。
必要フルムーン三
『そうだこれが、スターを与えるのに必要な特権だ』
『そう、だから次から見てね』

朋友慰撫(ほうゆういぶ)…
ファミリーのドンから死んで一ヶ月以内のカポに対し与えられる、
全経験値が二・五倍となる赤い太陽の印が秘められた特権。
またこの印もファミリーの人間でなくなったなら消えてしまうもので
与えた者がいつでも消してしまえるものでもあり、
そのカポに明らかな失望を覚えたならそれも仕方の無い事だ。
必要フルムーン五
※…精兵鼓舞と朋友慰撫は一人にのみ使用可能で、
もしも別な者に使用したければスターライトやレッドサンを返してもらい、
再びこの権利を取得しなければならない。
またその時には、再びフルムーンとの交換が必要となる。
『経験値二・五倍…!それは普通のソルジャーと同じになるって事だな』
『ええ、皆ソルジャーより幹部のカポになりたがるでしょう?
だからソルジャーになる人間が、優遇されるようにできてるんだね。
だってカポはその地位だけでかなり稼げるし、
堂々とできて楽しいはずだから』

意欲労働…
ウチゲーの報酬を上昇させる特権。
意欲的な分体力はやや多めに減り無くなれば死んでしまうが、
効果は七日間持続するので早く安全に稼ぎたい者には有効。
必要フルムーン五

強制強運…
カジノや賭場で最も勝てる場所を教えてくれる特権。
ただしこれは実のところ誰も利用していない台やテーブルの内、
一番良い設定を自分のものにできる…というものなので、
既にとられている場所はどうにもならない。
効果は日に一度、三日分の権利で一組。
カジノに入るとその足は自然、
いいスロットマシーンやテーブルへと向かう。
必要フルムーン八

商人兵士…
本土の兵を呼びだし、その様々な種類の改造銃の中から
手持ちのグロート次第でいくらでも購入可能になる特権。
大まかにであれば好みを伝えておく事もできる。
必要フルムーン二十

私財保障…
一連金庫を破られても損失を受けないようにする特権。
その個人に限るが効果は再来月まで。
必要フルムーン二
『おっ、皆でこれを使っておけば金庫破りされても安心だな』
『大体うちはまだ九人で狙われる可能性も低いから、
使っておけばほとんど心配無くなるね』

純言支持(じゅんげんしじ)…
七日間(二十四時更新依存)、
掲示板にある悪意なき無料の投稿を支持する毎に30ti入るようになる特権。
必要フルムーン一

本懐絶命(ほんかいぜつめい)…
死ぬ間際しばらくふらついたり、当たらないがでたらめに銃を撃ったり、
何かにつかまったりして倒れる等、自由にできる特権。
いずれにしても死ぬのだが、自分の最後を印象付けたいなら入手すべき。
必要フルムーン七

本懐終焉(ほんかいしゅうえん)…
望みの終わりを迎えられる特権。勿論プレイヤーの視点のみだが、
天使や死神が迎えに来る、画面が徐々に赤くなってgameoverの文字が出る、
一瞬で人物作成画面に送られる等思いのまま。本懐絶命との併用は可。
必要フルムーン一

前自手柄(ぜんじてがら)…
自分の墓に供えられたものを頂けるようになる特権。
勿論供える者としては墓にグロートやティラも置く事が可能であり、
受取る者としては物や金額を確認しながら何度でも頂けるが、
その度にこの特権が必要になる。
必要フルムーン一

唐突力競(とうとつりっきょう)…
握手した相手とそのまま握力勝負ができるようになる特権。
必要フルムーン一
※PCかクリップフォーンから放出される光の物体を握っての勝負となるが、
体力気力共に消費無し。

住地選楽(じゅうちせんらく)…
これを使ってから初めの引っ越しが無料となり、
二度目が75Gr、三度目が375Gr、四度目からはずっと1,375Grになる特権。
効果はいつから使っても年内までだが、その間使いなおす事はできない。
必要フルムーン一
※つまり一度使ってしまえば年内はこの法則に縛られるという事。
『じゃあ三度目までは通常の料金かそれ以下で引っ越せるから、
よく考えて使う分には得だな』
『私も下見してから使ったよ。だからなるべく引っ越したくはないかな』

月恵腹喜(つきえふっき)…
使用後どの店でも十食まで無料になる特権。
一人にならふるまう事も可能だが、食事できるのは可能な回数までで、
使用と不使用は選べず十食まで強制して無料となる。
必要フルムーン六

友愛顕示(ゆうあいけんじ)…
二十四時間以内に治療しなければ本当に消えて無くなってしまう
死んだ手下を、瞬時に選択した病院へと送りとどける特権。
当然死んでいない時には使えないので手下思いなプレイヤーは欲しがる。
また補足だがその時プレイヤーは病院について行かなくてもいいが、
すぐ戻って来るかどうかは設定次第。
必要フルムーン七

多群剛然(たぐんごうぜん)…
百九十九人以上のファミリーが抗争した時の安泰点を十五上昇させる特権。
またその効果は使った後の抗争が終わるか、
ファミリーの人数が百九十八人になるまで続く。
必要フルムーン四十
『安泰点というのは、ファミリーの体力みたいなものだよな。
それくらいは勉強してるぞっ。オレ達は二百人以下だから八点。
ドンであるオレが殺された時奪われる点数は四点で、
ダイドつまりカポであるカツミの場合は二点、ソルジャーは一点だよな?』
『ええ、その通り。でも血の掟を見るかぎり私達は
あまり沢山のソルジャーを入れないだろうから、
相手が大きなファミリーだった時を想定しておきましょう。
そう実のところ安泰点は、二百人を超えた時から千人まで
百人増える毎に五点ずつ上がって、
大きなファミリーになるほど脅威だけど、
その分ドンを殺して得られる点数が三、
カポを殺して得られる点数が一ずつ上昇して、
最大で安泰点が五十三、ドンを殺して得られる点数が三十一、
カポを殺して得られる点数が十一まで上昇するの。
でもそのままだとドンとカポを一人ずつ殺されただけで
後たった十一点、つまりカポなら一人殺されただけで
壊滅してしまうでしょう?
だからそんな時はこの特権を手に入れて、使えって事だね。
使っておく方が安全だけど』

ただたとえば…十人で二百人のファミリーと抗争する場合、
大体集まるかどうかさえ分からないその少ない味方で
大勢に守られたドンやカポを殺さなければならないので、狙うのが難しく、
チャンスがあっても返り討ちにあう危険は高く、
新たにソルジャーを入れてもすぐに殺されたのでは、
単に相手に点数を与えた事になるので、やはり大きなファミリーが有利。
また補足だが、ただの殺しではなく抗争扱いにするには
殺害後その体に×印を刻めばいいだけなので何時、何処で、
どことどこがやり合うか分からず、
そのファミリーの大小にかかわらず壊滅後も大変で、
元いた数はまず集まらない。
そう何故なら最初から所属だけして顔を出さない者がおり、
壊滅後は死んだものとして別人になる者や、
ドンやカポに愛想を尽かす者などが現れ、
もしも再結成できても大きく勢力は落ちてしまうからだ。
だがだからといってもしも抗争となれば負けたくないのが当たり前なので、
以下のような特権もある。

心在寡烈(しんざいかれつ)…
四十九人以下のファミリーが二百人以上のファミリーと抗争した時のみ、
その安泰点を十上げられる特権。またその効果は発動後も
対象ファミリーとの抗争が終わるまで続く。
必要フルムーン七。
『そうこれだっ。私が精兵鼓舞の次に欲しいのは、これだよっ』
『これも二百人以上のファミリーと抗争した時の為に、
使っておく事ができるよ』

総神一矢(そうしんいっし)…
四十九人以下のファミリーが、所属数千以上で
五つ以上の組織と抗争中のファミリーと抗争した時、
その点数を合計する事ができる特権。
ただしその使った側と使われた側はこれが発動した時
奪った安泰点が元通りになってしまうので、
場合によっては他から怒りをかう。
またこの特権は抗争中のファミリー以外は使えず、
発動時に点数を合わせる事になったファミリーの内一つが壊滅するか
和解するだけで…効果は消え、新たに共闘者を加える事もできないが、
巨大な敵と戦うには有効。
必要フルムーン十五。
『つまりこれは、抗争になってはじめて使える特権だな。
総じて神の一矢たらん…て事だ』
『そう小さなファミリーでも活躍できるチャンスを生むんだね』

狼群僅叩(ろうぐんきんこう)…
その抗争に限り所属が十人以下のファミリーから、
死んで抗争扱いにされればもう一度殺されても安泰点は奪われない
という優位と、心在寡烈の効果や使用権を奪い、
毎日誰かが顔を出さなければ壊滅してしまうようにする特権。
また既に発動していた心在寡烈を無効化した場合には、
その直前いくつだろうと安泰点が四になる。
必要フルムーン十。
『まだオレ達はどこかのファミリーにこれを使われてしまう身分だな』
『そう×印を付けられて抗争扱いの死になれば、
それからもう一度殺されても安泰点を奪われないけど、
その優位さえ奪われるのは辛いね。
ただ既に後二点で壊滅だったファミリーが、
心在寡烈を使っていたお陰で四まで回復するのはチャンスだね』
『あっ、それに…
これを使っていないところとの抗争は、変わらないんだな』
『ええ、少ないほど目立たないし、やり難い部分もあるって事ね』

返上和解…
抗争中のファミリーが和解し互いの安泰点を元に戻せる特権。
互いのドンかカポが一つずつこれを手に入れ、
対面して同時に使用する事で和解が成立する。
つまり和解したい側が相手のファミリーにこれを譲渡する事も
可能となっている。
必要フルムーン一。

相応改称…
通称を変えられる特権。ただし変えてからも、
特技調べ上げるを使われると元の通称を知られる。
必要フルムーン九。
『そういえば、うちは誰が調べ上げるを使えるんだ?』
『私とレットーラが使えるよ。
でも、アバードも使えるんじゃないかな?
人や建物の詳しい情報を得て、
商売や取引それに抗争を有利にすすめないとね。
それにこの特権については細かい部分の説明もあるから、
後でまた読ませてあげるよ』

するとそこで話があるというリッキー。それによると実は
カツミやアレッタといた料理店ボスコで…ある男を一人殺したというが、
驚くキアーロにその店にいた二人は事情を説明する。
『おいおい、お前とカツミは虎か狼なのか?』
『…いいや、だが殺したのはカツミだからなぁ…』
『でもドン落ち着いて。そいつ喧嘩用武器の鉄パイプで
自分のいるテーブルをゴンゴン叩いてて、ある客がそれを注意したの。
そしたらそいつ逆上して喧嘩を始めて、相手は止めろって言ったのに
そのまま殺しちゃったんだよねっ』
『…それで、カツミと止めに入ったら
オレ達にも鉄パイプ片手に殴りかかって来たから、
まずカツミがやり合って、最後には心配になったオレも加勢して…結局。
だが今話す事になっちまったのは、人助けと商売の為だぜっ』
そう実のところ喧嘩の場合、面倒なら何種類か組まれたコンビネーションを
見ているだけでいいのだが、本気で勝ちたいなら
そのコンビネーションをより適切なものに切り替え、
逆襲時と言われる反撃システムを使用する事が重要であり、
それは自由なタイミングで気力を40消費して
全ての攻撃のダメージを大幅に軽減し、
直後設定した通りの自動反撃となるものなのだが、
その技があまりに多いか、難しいものだと当たらず、
当たっても強くは決まらない。
またリッキーの続きを聞くかぎり二人は相手が一人なので
逃げると思っていたらしく、どちらも本気で殺すつもりはなかったようだ。
つまり正当防衛。そこまで聞くと仕方ないと思えるキアーロだが、
リッキー達が調べたところ男はどこのファミリーにも属さず、
他の酒場でも暴れることで有名だったというから、とても迷惑な話だ。
そこで一度、曲事団だろうかと疑ってみるキアーロ。
それもリッキー達に確認すれば
スーツは黒でも腕まくりはしていなかったという事だが…。
『いいや、考えても仕方がない。それより今は取引だ。ペスカーラッ』
『よし任せてくれっ。それとも、誰か代わりに交渉する?』
それに首を振る一同。
よって電話番号を見せられたペスカーラは遠慮無くその相手にかけ、
キアーロはそれからも、値段はつり上げなくても良いが
数分か遅くとも今日中にどこかで会いたいと伝えるよう指示し、
そこにやって来たのがレットーラ達だ。
『ドン喜んでくれ!全部で2,074Gr2tiになったぜ』
聞いて驚くキアーロとリッキー。
『それは…随分とありがたい戦利品だな』
『あの野蛮人が何でそんなに!…あ、車だな?』
頷くレットーラ。彼は自分の予備としてピストルを貰うつもりのようだが
それはキアーロが許可し、他タケルが持っていたものとは以下だ。
331Gr2ti、改造リボルバー撃貫(うちぬき)、
黒いスーツ上、黒いスーツ下、白いTシャツ、黒い革靴、
小型車ミスチーフ、ハンバーガー、
フルムーン、解毒剤、木箱(イリーガル×2)…。
そこでレットーラに訊くキアーロ。
『じゃあ高かったのはミスチーフって車か』
『ああ、だがこれは一人乗りで名前も悪戯って意味だし、
どちらかというと見た目も可愛らしい車だ。
つまり見栄を張る曲事団らしくないから、
多分誰かから奪ったものだろうなぁ』
またつづきを聞けば、改造リボルバーはキアーロの為に売らず、
解毒剤は店でも売られているもので、後気になるのは
木箱とその中身だが…。
『だが友よ、改造リボルバーはリッキーにこそ与えるべきだと思うが?』
『おい嘘だろっ。オレ達のドンがただのリボルバーなんて!
これは普通のテーブルや椅子他にも
レンガや車の装甲だとかの現実的なものなら、弾を貫通させる銃だぞっ。
だからそんな時は小さくてもダメージを与えられるし、
高い時には2,000Grを超える品なんだぜ。貰ってくれよっ』
『…分かってはいるが申し訳なくてな。
でもそこまで言うならありがたく頂こう。だがイリーガルとは?』
『煙草さ。初めから短いけどくわえて吸ってるとかっこういいし、
細い煙が立ちのぼって渋い感じだな。意味は不法』
『まとめておける物だったかな?』
『ああ、木箱に入れられるのは他に、同じ種類の酒や宝石など。
元々車や自転車それに武器や特権などは
どうしても一つずつしか持てなくてアイテム欄を埋めてしまうが、
食事、フルムーン、帽子、服、靴、アクセサリー、時計、眼鏡、
調度品や家具なんかの物は、同じ種類なら
三つまでまとめてアイテム欄におけるし、
拾うか雑貨屋で買える木箱を使うと、それには十まで入れられるんだ』
そして最後にフルムーンは売ったかどうか確認するキアーロ。
もっと真面目なファミリーは売る物を何がよくて、
何がいけないかと決めているのだろうが、
キアーロはそこまでして仲間に負担を与えたくはなく、
その辺りはとても分かりやすくマフィアらしいと言える。
だがその彼にフルムーンを譲渡するレットーラ。
キアーロはそのかすかに青く光る水晶のような宝石をうけ取り、
画面の前では強く拳をにぎりしめた…。
『皆よくやってくれた!邸なんてずっと建てられないと思っていたが…
この2,074Grはファミリーの為に使おうと思う。どうだ?』
聞いて賛意を表明するカツミ、レットーラ、リッキー、アレッタ、リカ。
だがファルコがやや不満そうなので、それを宥めるのはカツミだ。
『全部かよっ?』
『ハハハッ、待てよ。まだ取引の分があるだろ。
だから、邸に使う分を省けば、残りは頂けるんじゃないのか?』
それに笑いながら頷くキアーロ。またそこで彼に言うのはペスカーラ。
また皆も当然のように取引がどうなるか気になるので、彼の周りに集まる。
『買い手はヒューで、
3日後の19:40にダースンコーズの小さな船着き場…なら、
40本まで118で買うと言ってきたが…』
聞いて言うのはファルコ。
『…じゃあ3,540Grじゃねーか。悪くないが…
それならジャグジーダニエルとマーブルジェーンの方が、高く買う』
『何っ、二人の事を知ってるのか?』
そうレットーラが訊くとキアーロとファルコは
バレンティーノ邸での経緯を話し、その話題にはカツミも加わる。
『じゃあせっかくだからもう一度電話して、
留守ならヒューに売ろうぜっ。どうだ?』
聞いてうなずくキアーロだが、
二度目の電話でも二人とも留守だったので悔しがる
ファルコ、レットーラ、そしてカツミ。
『くっそー!リッチはあの二人なら122は出すって言ってたのに…』
『キアーロは知らないがここの酒と煙草は本土で二倍三倍の値がつくから
もっと高く買う奴もいるんだっ』
『店で買っても95Gr前後の赤ワインが122かそれ以上なら、
全然儲けが違うじゃねーか…!』
だがキアーロはファミリーの為に邸が欲しいだけでなく
なるべく早く取引を成功させ、皆やアクイラの喜ぶ顔が見たい。
『…いいやまず邸を建てさせてくれっ。頼むよ。
楽しむのがゲームというものだ。
今夜中に東部の、もっとここから近い港でならいくらだ?』
聞いてすぐ交渉を再開するペスカーラ。
『ちょっと待てっ。……20本まで109、あと10本は105で買うと言ってる。
場所はタロストンにある港の西側で、どうかと…』
それに頷くキアーロ達。つまりそれでも3,230Grとなり
その後は取引の成功を祝うパーティーになるだろう。
よって先程とはうって変わって喜ぶファルコ、レットーラ、カツミと、
それに苦笑するリカ。
『イエー!じゃあ分け前もあるぜー!
…でもみんな、掲示板の時は一度しかコメントできなくて悪かった。
もう少し口喧嘩がつづくかと思って』
『悪くない値段だ。オレも邸が欲しいと思ってたところだからな』
『じゃあ貰った物だから、大儲けだなっ!いいぞー』
『ハハハッ。オレも金は好きだが、こうも分かりやすいとはねぇ…』
そこで一応キアーロに確認するファルコ。
『それでドン、邸にいくら使うんだ?
初めはサービスで安く建てられるんだろ?』
『ああ、全部で3,000ほど使おうと思っていたが…』
『それなら残った金の取り分は一人256Gr!
1Gr88で交換すれば手数料を引いたとしても、1万9,149円だ!
イエーー!』
『随分計算が早いなっ。算盤でもやってたのか…?
今度から計算はお前に任せるよ』
またその時カツミはレットーラに計算ならお前かアバードじゃないか
と訊いたが、彼らもファルコほど速くはないらしく、
誰もが笑い賑やかになったカンパネッラはそのまま、タロストンへ。
皆でそれぞれカツミやファルコなどの車に乗り込むと
ほんの数分で目的地へと着いた。そうそこは薄っすらと暗く、
周囲の草むらの上には枝を垂らした木々が揺れ、
足元のコンクリートから先の南にある桟橋には所々穴があいて
随分と寂しい港だが、取引までは後六分ほど…。
キアーロ以外は皆知っているがここはロブスト・クーパーの縄張りなので、
アレッタとリカは北東にある酒場とガンショップの明かりに目をとめる。
『さっき誰か出てきた?ここってクーパーの縄張りだよね』
『いいや、犬か猫じゃないか?あいつらだって
オレ達みたいな小さなファミリーを、相手にしないだろう』
だが聞いて不安になるキアーロ。
『抗争の歴史からすれば奴らの縄張りとは確か、グラムデルのはずだが』
『ええ、でもこのタロストンとケラクダインも、奴らの縄張りだよ』
『ドンにはレッスンが必要だな。煙草の取引以外にも…』
『…そうか。じゃあ取引が終わったらすぐ、帰った方がいいな』
だがその不安を消してくれたのはレットーラとカツミ。
『だが安心してくれドン。
奴らはカンパネッラなんて一度も聞いた事ないだろうし、
オレが最高の演技で小銭を稼ぎたいだけの男を演じてやるよっ。
頼むっ!次からは必ずクーパーに話を通す…!
だから今回は…何とかこれで。
勿論その時は、カツミやファルコも道連れだがな』
『おお、いいんじゃねぇか、そのくらい。欲張ってきたら、
あのクーパーにいても100、200のグロートが欲しいですかって訊けば
きっとあいつら、ハンッ…とか鼻で笑って店に帰るぜ』
だがそれを聞いて危ぶむのはリッキー。
『本当にどうしようもねぇなお前らは…。
危険を楽しむのもほどほどにしてくれ』
そうこうしている間に海に現れたのは一艘のボート。
それにはハンチング帽と灰色のスーツに身を包んだ初老の男が乗り、
彼が後ろにいる長髪を結んだ赤いTシャツの男に合図するとボートは停止。
しばらくするとキアーロに名を訊いてきたのでそれにはすぐ本人がそうだと返事を送る。
そして、ワインを投げろと言うヒューだが、
応じようとしたキアーロを止めたのはペスカーラとレットーラ。
それに遅れてだがリカも言いたい事があるようだ。
『待て待て!一つ重要なことを言い忘れたっ。
そいつは…オレの知り合いが煙草を投げた時、
そのままいなくなった事がある。
オレにおいしい取引を横取りされたくないから、
嘘を言ったのかも知れないが、一応断ろう』
『ああ、裏切られた場合は殺すこともできるが、
ヒューに売って儲けてた奴らが怨む可能性もあるぜっ。だから慎重にな』
『そうだ。一度でも裏切りを赦すと甘く見られて、買い叩かれるぜ』
何て面倒で、とても面白いゲームだ!!
キアーロは心の中で叫んだが三人の助言を聞きいれ、
ボートが桟橋に着いたところでワインを手渡して見事、取引は成功。
彼は3,230Grを受取ったが、またヒューが帰るとすぐ言うのはリカ。
『うん、確かに3,230Grだ。
オッケー!足りないと誤魔化されたって事だから、
次はそのことを責められるかと思って取引に応じにくくなる奴も、
来ても甘くみて安く買おうとする奴もいるからな』
『ええっ?ハハハハッ!
…それはそれで面白いが、確かにとても困るよなぁ』
それからカンパネッラはすぐ、オンオーズの酒場ダチカタルに移動。
途中アバードから来ると連絡があったので
キアーロ達は皆車内で喜びの声をあげ、
数分後…橙色の暖かい光を浴びる九人。
そう既に来ていたアバードは彼彼女らがくると手を挙げ、
まずこう言ったのだ。
『料理店と掲示板で暴れたって?アハハッ!頼もしい限りだなぁー』
聞いて首をすくめるリッキーとカツミ。
だが二人は正当防衛なので、どうしても弁解しておきたいらしい。
『だがカツミは、暴漢を殺しただけだし、
オレもそんなこいつを助けただけだっ。それで話は終わりだな?』
『ああ、そうだっ。オレ達だって相手を助けようかと思ったが、
その哀れな彼は、射線上の、しかも鉄パイプ野郎のすぐそばに居たんだっ。
どうにもならなかったのさ』
つまり標的の近くにいるか、そこと射撃する者の間に居るかすると
銃撃に巻き込まれるかも知れないのだが、
その時は二重に危険だったという事でもう追及するつもりのないキアーロ。アバードが前と同じ場所にいたので
彼もそのテーブルに行って他も適当に座ったが、
ファミリーに後から入ったアレッタ、ファルコ、リカ、
ペスカーラが入口に近いテーブルに行ったのは、単なる偶然。
店はまずまず繁盛していたが、他に客といえば
カウンターの東に座って葉巻をふかす黒い山高帽の紳士と、
カウンターの西側で立ち話をする
茶色いコートを着て結った髪を立ちあげた女と
灰色のコートを着た坊主頭の男、それに東側と西の奥にも何人かいるが、
キアーロ達の周りには誰もおらず、話を盗み聞かれる心配もない。
よってそれぞれ酒や料理を注文しながら再び
全変物の儀式を行うカンパネッラ。
その札束の山は前と比べ物にならないほど多く
邸の話をしたいキアーロも実は興奮気味だが、そんなドンをしり目に
ファルコやリカより先に立ち、自己紹介を始めたのはペスカーラ。
続いてファルコとリカも立って挨拶をしたのでリッキーは
三人をソルジャーにしたのかと訊き、
それに頷き画面にYESの文字を示すキアーロ。
そこで始まったリッキーの人生論を聞くことになったのは、
アレッタとファルコというつい最近まではぐれ者だった二人だ。
『いいか、もう経験済みだろうが、
ファミリーに入りたい者はドンに忠誠を誓い、
ドンもそんな相手を認めてやっと、一人のソルジャーが誕生する。
この仕組みが何を意味するかといえば、互いの意思だって事さ。
そして反対に、ソルジャーがファミリーを出る時、
あるいはドンが誰かをファミリーから出したい時には、
一方のみの意思でそれが叶う。何でか分かるか?』
『分からない。でも多分だけど…もしもそれが逆だと、おかしいよね』
『…ああ、どっちかの意思で勝手にファミリーに入って、
出る時には互いの意思が必要なんて、変だなっ』
『そうさ…!はじまりは厳かで美しく、最後は悲しく…。
このガラミールでもそうなってるんだ』
その様子を見たカツミはアバードに耳打ちし
彼が酔っているのかどうかを聞いているが、
黙って頷いているのはキアーロ。確かに実世界でも奴隷以外は、
互いの意思によって一員となり、いずれか一方の失望や都合によって
そうでなくなる事が多いように感じるが、
リッキーの言うようにそれはここでも同様。
出されたソルジャーはドンの許しがなければ戻れず、
出て行かれたドンもまたソルジャーの忠誠をとり戻さなければ、
どうにもならない。
そう自分の経験もあってリッキーはこの世界は非情だと力説し、
続けて二人に見せたのが邸を示すマーク、
つまりプレイヤーが自分のキャラクターを操って
どこかのファミリーが建てた邸へ入る時に目印となるものであり、
それが以下だ。



またその会話を聞いて以前から気になっていた事を言うのはレットーラ。
それを聞くのはキアーロとリカそれにペスカーラだ。
『そう通説によるとあのマークが意味するのは、
マフィアはどれほど強くても王ではないという意味で
王の字をちょうど真ん中から二つに分けたような形をしているらしいが、
オレはそう考えていない』
『ほうっ…オレもそれは聞いた事があって、
悪なんだから当然だと思っていたが…』
『オレもその説を支持してるが、何がダメなんだ?』
『まあまあ、こいつは頭がいいから、聞こうじゃないか』
『そう実はこれを話すと皆全く信じないからここで言うんだが、
邸を意味するレジデンスってあるだろっ。
そこにはEだけが三つも入ってる。だから3E。
それを元にしたのがあのマークだと思ってるんだ』
聞いてすぐPCで調べるキアーロ。
リカとペスカーラもクリップフォーンを操作し、
改めてレジデンスのスペルを確認。
するとやはりレットーラの言うことは正しいようだが…
そこで声を上げたのはペスカーラ。
彼はレットーラを稀有な人物と思っている。
『マドンナサンタッ!
何で皆信じないんだ?!どうだドンッ!どうだリカッ!』
『あ…ああオレは信じるよ。さすがレットーラだっ』
『おお、賢く見える…だけじゃねぇ!何かあったらお前に相談するぜっ』
それに画面をまえにして胸を叩くレットーラ。
そう実のところこれは彼の作戦で
自慢の頭脳を仲間から頼りにしてもらう為だ。
だが、それを知らないカツミとアバードの調子は変わらず、
カツミはステーキを食べながら、
アバードはウィスキーを飲みながら話している。
『いいねっ。頼れるし、本当に3Eって意味なのかもしれない。
だが…レットーラも酒を飲んでるな。きっとそうだ…!』
『ああ、和やかなのも良いねぇ。
だがオレ達はドン達よりもっと真面目に話そう。
掲示板では数で劣勢だったものを随分と押したようだが、
最後にはルッソに助けられたんだって?』
『ああ、レットーラから聞いたのか。確かに…
あいつらが帰ったのはベンダバールって奴の忠告があってからだな。
そこであの騒ぎは終わったんだよ』
『あいつらの縄張り知ってるか?』
『当たり前だろー。この西にあるバックロールだ。
だがルッソは確かに敵と見れば恐れを知らなくて、
山のあるカタランを挟んで先隣りのクナイマにいるバルラムとも、
時々やり合ってるらしいな。
あ…もしかしてリッキーは面白くなかったか?』
『いいや、それは大丈夫だろう。
リッキーも一部を除いては、昔の仲間に愛想を尽かしているはずだし…。
ただこれは仲間の全員に忘れないでもらいたいんだが、
あいつらは一応EAのファミリーでも、血の気が多い。
それに縄張りもスタラドの南西にまで及んでいるし、
最近ではカタランの数軒も押さえたらしいからな。
数も二百四十人ほどいて、EAでも二番目だ…』
またキアーロもそれを耳にして話に加わる。
『じゃあ…という訳ではないが、
後で礼をしようと思っていたところだ。邸に招待するか?』
だがそれに首を振るアバード。
『いいや、余計な事をして恨まれても困るだろ。
だが大丈夫っ。どうせドンはアクイラに気に入られてるんだから、
その内どこかのパーティーで会うさ』
『それまでルッソと揉めないでくれよ』
それには軽く手をあげて誓うアバード。
そしてEAの話で思い出したキアーロはその場にいる全員に
まだはっきりとはしないと念をおしながらも
アクイラから聞いたルード・グランのことを話し、
しばらく耳をかたむけそれぞれ意見を言うのは
カツミ、レットーラ、ペスカーラ。
彼ら三人は順に、怒ると一度しかチャンスを与えないらしいとか、
虚勢を張っているだとか、いいや仲間に優しいという話もある等と話し、
続いてファルコ、リッキー、アレッタそして再びレットーラは順に、
髪形を違うものにしただけで怒鳴られたらしいとか、自慢が多いだとか、
男らしいけどそれを出し過ぎて嫌われているかも知れないだとか、
明るくて話しやすいという奴もいた等と話し、
その反響の大きさに驚いたキアーロはまず皆に落ち着くように言い、
自分は噂として聞いただけだと再び念をおしたが、
不満を隠さないのはカツミとレットーラだ。
『だってオレの知り合いは
EAに憧れてグランに入ろうとしたのに…その直後、
じゃあコルボのソルジャーがお前を侮辱するように仕組んで来い
って言われて不安だから断ったら、
いいや、やって来いこれが最後のチャンスだって言われたらしいぜ。
そのせいでそいつはソルジャーとして、認められなかった。
そんな話を聞くのはあいつだけだ…!
それは探偵を雇って調べた訳じゃねぇけど
もしも嘘ならそれこそ誰かに仕組まれてるね』
『ああ、あいつ新参に厳しいらしいからな。
それでオレのも噂だが虚勢を張ってるっていうのはオレが思うに、
EAつまり正しい側が本当に必要な時に限って、勇ましくなれないからだな。
勿論じっくり聞けば少しは違うかも知れないが、
誰から聞いても嫌な奴っていう評判は変わらねぇ。
それにオレが一度話した時にも…狭量に感じたなぁ』
『おお、話したのか?』
そう言ったのはキアーロ。よって実は食器を台所に運んでいたアバードも
戻ってパソコンの前にいたが、当然他もレットーラに注目している。
『…いいや、前にダチカールの掲示板で口論していた二人がいて、
その会話を一番初めから確認したオレとしては
どっちもどっちに思えたから、二人の内一人を弁護していたルードに、
もういいんじゃないかって、言ったんだよ。
そしたら、うるせぇ関係ねー奴はだまってろ!…て言われてな、
だからオレはそれにも言ったんだよ。
じゃああんたは詳しい事情を知ってるのかって…。
でもそれに対する返事は、いいや…とただそれだけさっ。
もう少し話そうにも時間が無くて、
ルードに言われている方に助言だけして帰って来たけどな』
そこで訊くのもキアーロ。
『助言って…どんな?』
『キアーロも意地悪だなー。あいつも詳しくは知らないらしいから
あまり気にすんなって、そのくらいの事さ。でも事実だぜ』
だがアレッタはその彼らとはやや違う意見を言い、
彼女をかばうのはペスカーラだ。
『二人は厳しいけど、男らしさってそれぞれ違うでしょう。
だから私はそれを間違ってしまった人だと思うな』
『つまり間違ってるから迷惑なのに、
押し通すことも男らしくて格好いいと思ってる奴っていう意味か?』
『うーん…ちょっと違うかなぁ。勿論それも酷いけど、
常に妄想する自分やおだてる周囲に騙されてる感じかな。
つまり本当に騙されてるの』
『ああ…可哀相な感じか。
だがその幸福に酔っているようじゃあ、単なる馬鹿だね。
だってオレが仲間に優しいって聞いた時には、
ああ、むしろルードを優しいなんて言ってるこいつが優し過ぎるな…
って思ったから』
そこで言うキアーロ。
『確かに自分を疑わない者は大体傲慢になって、それから悪になる。
そう褒められても、けなされてもそれが過ぎるとそうなるし、
原因はその二つだけじゃあないからな』
そこで訊くのはカツミ。
『他に何がある?…いいや、聞きたいから』
『ああ、気にするな。ただ不幸過ぎても自信を持ちたくて傲慢になるし、
周囲の…つまり家族や会社の幸福を願い堂々としているだけでも、
いつの間にか傲慢になってしまう事がある』
『…ああ、そうだ!それを忘れてるなぁー』
『何故なら、褒められずけなされずそれでも不幸だったり、
周囲の幸福を願うのは美徳だから、それを本か何かで知って
その為に自分が堂々とすることが必要だと思っても、
そればかりが頭にあるなら印象だけでなく
本当に傲慢になってしまうじゃあないか』
そしてペスカーラの話にもあったが悪いのは自分を疑いだしてもそこで
格好をつけ続けることだが、これは非常に恐ろしく、
そこで言うのはリッキー。
『あいつすぐ格好つけて怒鳴るらしいなっ。
それはオレも若い頃は怒りっぽくてかなり悩んだけど、
何人か教えてくれそうな人に訊いて、助かったよ。
あいつそういう事はほとんどできないんじゃねぇか?
自慢が本当にきついからな…』
当然その自慢がきついというのも気になったキアーロだが、
彼が黙っているとやはりアレッタが訊き、答えるリッキー。
『ああ、今でも信じられないが…
オレがたまたま通りかかった公園で聞いてしまったのが、
かなりきつい自慢でなぁ…。原文そのままでいいか?』
『えっ…残してたの?』
『ああ、オレは自分が単純だと思ってるからな。
EAに入りたい気持ちをおさえる為に、残してたのさ…。
こんな奴もいるんだぞってなぁ』
よってそのルード・グランと、
朝食を食べられなかった哀れな相手の会話が、以下である。

『だから人間ってそういうもんじゃねぇんだよ。
まあ、常識だなっ。
朝起きて、顔洗って、飯食って、忘れ物がないか確認するのも大事だろ?』
『…ええ、そうですね』
『それがねぇとやっぱり人間はおかしくなるんだ。
何で夜中起きてもまたすぐに寝ねぇんだよ。
何で顔を洗って家を出ねぇんだ?恥ずかしいぜぇー。
飯を食わずに仕事するなんてあり得ねぇ。
忘れ物がないか確認しないのは人として失格だ。
それをオレは全部、絶対にやるんだよっ。それが更生ってもんだろ…!
それが大人ってもんなんだよ。それが全ての始まりだ。
それができねぇなら何も始まらねぇっ。何もなっ…!
何でお前はそれができねぇ?
自慢じゃねぇがオレがしてるこの全てが大事だ。
父さんと母さんが教えてくれただろう?』
『…はい確かに…その通りです』
『だから、朝起きて、顔洗って、飯食って、
忘れ物がないか確認するのも大事。
それからそれが無いとやっぱり人間おかしくなる。
だからオレはこれを全部全部やって、やっと一日を始めるんだよ。
確かにお前の気持ちも分かるぜ。
でも朝起きて、顔洗って、飯食って、忘れ物がないか確認するのも大事だ。
そしてその為には…ああ、このテレビ番組面白いけど
少し早めに寝ようかなーと思ったら、まず寝る。オレはそうするね。
そんで、朝起きたら必ず顔を洗う。
ほんの数秒だろ?だからできないは言い訳だから、
これもオレは絶対にする…!
当然飯も食う。お前はたまに食えないらしいが、
それでも無理やり食った方がいいなぁ。吐きそうでもやっぱり、
エネルギーが必要だからな。だからオレはなるべく食うようにしてる。
それでなぁ…聞いてるか?』
『…はいっ聞いてます!』
『それで忘れ物がないかも当然、確認する。出勤用の靴はあるか、
無いならどこにしまったか、しまったものを見つけた…はいっ。
じゃあカバンの中に必要な物は入ってるか…?それも大事だ。
じゃあその中身は揃ってるか…それも大事だ。
タオル、替えの靴下、鍵、書類、昼飯…とか全部、一つ残らずっ。
朝起きて、顔洗って、飯を食ったら、忘れ物を確認して出る。
そんでもしも近所の人が…』
『じゃあドン・ルードは、いつも気持ちよく朝を迎えられますね』
『はっ?当たり前だよっ!
これをやらねぇと気持ちのいい朝は迎えられねぇ。
お前にはまだ分かんねぇかもな。
朝起きてお日様見るとパー…と気分が明るくなるから、今度試してみろ。
人生変わるかもな。近所の人に挨拶されたらちゃんと返すんだぞ。
それで……』
大体皆がその辺りまで読んだ頃、言うのはリッキー。
『これ途中で、続きあるんだぜ?
それに読んでると忘れてしまうが、相手の彼は時間が無くて、
朝食を食べられなかっただけだ。
つまりだからといって、何か失敗した訳でも、悪いことをした訳でもない。だから後はそうだな…どうしても信じられないなら、
自分で話してみるしかないな』
聞いて素直な感想を言うキアーロ。
『嫌がらせじゃあないか』
『違ったら憎まないか?』
『いいや、憎たらしいね。正直とても侮辱されている気分だ。
だってそれができないと言われているみたいだし、
それができる自分が…とても偉いみたいだ。
そんな奴に馬鹿にされたらとても堪えられないね』
『そうあいつは人を、馬鹿扱いもする。だから皆の印象が悪いのさ。
しかもここからの会話には何度か遠回しに
相手を馬鹿と言っている部分があるように感じたがそれも、
この苛立ちの原因だ』
そう一応は会話の内容を全部確認した方がいいのだが、
それよりもっと確実に今のドン・ルードを知って
アクイラの問題を解決できる策があるので、
それを皆にうち明けるキアーロ。
そうそれはEAの命令に不服なら直接話し合ってもらうのが確実なので
それをアクイラからロビンソンファミリーに提案してもらう事で、
当然信用を失う危険もあるが心から切実さを訴えれば
善良な人物を集めたロビンソンは聞いてくれるのではないかというのが
キアーロの考えであり、そこで言うのはレットーラと顔の広いペスカーラ。
『いいんじゃねぇか。ロビンソンファミリーの事も気になるし、
アクイラにだって限界はある。
彼が本気で怒り出して、殺し合われてもなぁ』
『オレも賛成だ。ファンガイにはパーティーで二度ほど会ってるから、
オレもついて行くぜっ』
『いいぞペスカーラッ。実はファンガイに興味のあるオレは、
それも期待していたっ。他はどうだ?』
そうして訊くキアーロに賛成は五、反対はリカの一のみ。
よって特に賛意以外ないという五人はおいて、リカの意見をきくキアーロ。
『だってその窓口に誰が出てくるか分からないぜ。
今ドン・ルードの話を聞いたばかりだし、不安だね』
『うん、それはもっともだ。
という事でペスカーラ、できるだけの説明を頼む』
聞いて今ロビンソンファミリーの人間と話すなら誰がいいか、
誰と会えるのかを説明するペスカーラ。それによると今はおそらく
その邸か会合の場所ではダイドブレインズのカーロ・ミトーが
仲間をまとめているはずであり、
彼は現実でも嫌なことがあったはずの初回から鬱憤を晴らせず
悪人プレーを断念したことでも有名なので、
もしもアクイラが話せるなら、もう策は半分成功したようなものだという。
そこで喜ぶリカと調子を合わせるペスカーラ。
『じゃあもう解決かよ?やったぜ!ちょっとすっきりしたなぁ』
『そうさっ。もしかすれば、ドンが行かなくてもいいかも知れないぜっ』
聞いて早速アクイラに電話するキアーロ。
すると、しばらくして電話に出たアクイラは僭越かも知れない
と前置きしたキアーロの策に心を動かされ、すぐカーロに連絡すると約束。
その展開はカンパネッラが驚くほど速くまたしばらくするとアクイラは、
カーロがルードと話してくれる事になったと、礼の電話まで寄越した。
『これでお前に助けられるのは、二度目だな。
ああ、何で思いつかなかったんだろう。
…そうだっ。あっても一瞬でうち消したアイディアだったなー。
それを説得してくれるとは流石、ドン・キアーロだっ』
『いいや、やめてくれ。
それはダイドブレインズのカーロが出てきてくれたが、
まだ上手くいくかどうかは分からない』
その内容をキアーロから聞いて歓声をあげる一同。
ドン・キアーロだけは一人やや暗い気持ちで、
ルードがカーロにもしっかりと自分の不満を述べるようなら良いが、
もしも手のひらを返すなら噂の半分以上が真実なのではないかと心配し、
それを皆に知られない為にも彼は、
会合の議題をどんな邸に住みたいかに決定。
聞いて微笑した一同のなかでもすぐ意見したのは
ファルコ、リッキー、リカだ。
『オレが言うのは意外かも知れないが、簡素な造りがいい。
その代わり今から抗争に備えて、防犯カメラとか放送設備を付けたり、
後は防衛棟の強化だっ。
まあ3,000じゃあ、あまりそれもできないかも知れねぇけどな』
『店みたいに入ってすぐカウンターでもいいが、格好つけ過ぎか?』
『やっぱり椅子は全部革じゃねぇか』
聞いて言うのはカツミ。
『防犯カメラと革の椅子は無理じゃねぇか?高そうだぜ』
だがその彼にアバードやレットーラは、入口を一つにして
壊される直前までの人間が見れればいいなら
250Grの安いカメラを買えばよく、
革もその値段はぴんからきりまであると教え、
アレッタは何か足りなければ後で揃えればいいと、皆楽しむこと優先。
よってそれに気づいたキアーロ、ペスカーラ、リカはまた好きな事を言う。
『どうせ全画面で見れるが、テレビは大きい方がいいよな』
『庭は小さくても緑地みたいにできればいいねぇ』
『ドンの肖像画も飾ろうぜっ』
聞いて可能だというアバード。だがそこでキアーロの携帯電話が鳴り、
相手のアクイラは何と早速ルードがコルボの排除を決心したと告げる。
『それは…随分と早いなっ。一体どういう事だ?』
『ああ、やっぱりオレ達の予想通り、奴は反省が必要なようだ。
何故ならカーロの言いぶんを聞くとすぐ準備を始めて、
カポの何人かを邸に呼んだらしいからなぁ』
『そうか…。
勿論立場はあるだろうが、カーロには一切不満を言わなかったか。
だったらアクイラにも、もっと丁寧に、考えて言えばよかったのにな』
『だがこれでコルボも前みたいにパンゾベルダで好き勝手できないさっ。
ちょっと忙しくなるけどなー。ハハハッ!あの野郎、
オレが嫌いなだけならそう言えよっ。全然話が進まねぇじゃねーか』
『ああ、まったくだ。それで…コルボは狂暴だって噂だが、
ロビンソンはどうやって奴らをエジベーダに追い返せって言ってるんだ?
あまり無理なやり方だと、ルードの気持ちも分かるぜ…』
『そうだな。
応援は寄越すって言ってもそれまでは、グランが相手をするんだ。
だがEAは金や仕事が必要な仲間にパンゾベルダでの交流、売買、
パーティーをすすめて実際の状況も確かめてるし、
なるべく応援のソルジャーを送って、
資金面でも必要なら言ってくれという態度なんだ。
当然なにかある度に、コルボ側の言いぶんも聞いていい事になってる。
町を守る為だからな。だからルードがやり合いたくないなら、
しっかりとその理由も教えて欲しいものだが…』
『うーん…何も言わなかった事がいい結果を生めばいいが…』
だがそこで別な相手から着信があり、
アクイラに謝って彼との電話はそこまで。
キアーロが出ると電話の相手は何とルードで、
ここに二人による初の会話が実現。実のところルードは
あのバレンティーノ邸で近づいてきたキアーロを怪しみ、
今はカポの一人を役所にやって、その番号を調べさせていた。
『キアーロ・カンパネッラっていうのは、お前か?』
『そうだが、どうした?』
『オレ様の事は知ってるな?』
『…ああ、噂は聞いているが、ちょっと忙しいから、まず用件を聞きたい』
『あのな…オレ様は、EAの一つグランファミリーのドンでなぁ、
一声かければ百の仲間が集まって』
『ちょっと申し訳ないが…
忙しいから、まず要件を言ってくれ。初対面だろ?
それにあんたがどういうつもりか知らないが、用が済んだら切るぜ』
『じゃあおめぇがアクイラに入れ知恵したんじゃねーのかよ?!』
『何を?』
『オレはそのせいでなぁー!!』
『ああ悪いが、オレに対する用件を、
もう少しまとめて話してもらいたいんだ。
だが聞く限りオレがアクイラに入れ知恵したって?してねぇよ。
だから切るぜ。いいよな?』
『いいやそれは許さねぇ!!いい訳ねぇだろこのどっかのソルジャー様!!
嘘つき野郎!!偽善者め!!雑魚がぁ!!
カポかドンかも知れねぇけどそれならお前のファミリーはくそだなぁ!!』
『じゃあ分かった分かったっ。
話ならバレンティーノの邸で聞くけど、それでいいよな?切るぜっ』
そこでルードの番号を拒否設定するキアーロ。
彼も面白くないので一応ルードにも気をつかいながら
事実を仲間に言ったが、それにはすぐカツミとリッキーが応じる。
『やっぱりなっ。あいつはそういう奴なんだよ…!
こうなればEAも信用できねぇ。…まだまだ膿をだす必要はあるぜっ』
『いい度胸してるな。どうするドン?』
『ハハハッ、まあそういう言い方をするな。
それよりせっかく楽しい話をしているのに悪かったな。
だがあまりに酷過ぎて、オレも参ったぜ』
だがもうその事を忘れたいのはレットーラとアバード。
『じゃあ話も終わったし、邸をどうするか決めようぜ。
当然すぐにでも襲撃してくる可能性はあるが、オレは大丈夫だと思うね。
あいつは大体怒鳴るだけだし、実際何十人がここへ来ようと
何もかも知ったドン・アクイラやEAが、許す訳ねぇからな』
『ハハハッ、流石にそれが分からないほどおかしくなってないだろ。
それよりドン、どういう邸にするかはどこに建てるかを決めてから、
話してもいいと思うぞ。勿論この島はどこに行っても危険だから、
どの町でも同じだって気持ちも…分かるがねぇ』
またそこでキアーロを気遣うのはアレッタ。
ファルコもそんな彼女にキアーロが応えるのを待ってから言う。
『ここではっきりドンが、オレが助言したけど悪いかって言っても、
アクイラやEAに迷惑をかけるだけだからね。
そうああいうタイプは、相手にしなくて正解』
『その辺りは迷わなかったなぁ。とても面倒だったし』
『ハハハッ!それは仕方ねぇよっ。やっぱりキアーロがドンだ!
オレならしばらく言い返してしまうぜ。無意味なのにな』
そしてそれにも頷くだけでなく口をひらくキアーロ。
『それは…良くないと思うか?』
『うーん…そう思う事もあるし、逆の事もあるな』
『じゃあそれはもっと、詳しい話を聞かないとな。
オレは重音主さんから道徳の基本は優しさだと教わったから言うが、
ファルコは多分誤解されやすいんだろう。
だがルードにはその優しさをほとんど感じないし、
重音主さんはこうも言った。
良くないと知っている事をやめるにはそれに抗い続け、
その心に潜む悪魔が面倒になるまで、戦うことだ。
彼はこれを聖書か実用書で学んだのだろうが、オレもその通りだと思う』
それに言うのはレットーラとカツミ。
しかもカツミに限っては画面のまえで腕を組み
じっくりと考えている様子だ。
『そうそう。それは他にもっと賢くて簡単な方法があるように思うけど、
結局その想いを強くするのが、一番なんだよな。応用できるし』
『その想いとか決意って、どうやって強くするんだ?
当然、オレなりの方法はあるけど…』
『そうだな。重音主さんはまず知識として得て、
それから絶対的に正しいか、よく考えてみるらしい。
それならもう迷う必要はないだろ?
ただ、それでも辛い時には問題のない程度に自分を許して、
つまり…心に潜む悪魔を落ち着かせるんだな。
格好をつけず、たとえばぬいぐるみに愚痴を言うとかな。
そう彼は、大勢の人が自分の感覚を信じ過ぎて、
そのトラウマや悪習を仕方ないと諦めるから、前に進めないと言ってたぞ』
とそこまで聞いて言うのはペスカーラ。
『でもその知識が正しいかどうか、分かり辛い世の中だよな。
先生によって言うことは違うし、
その通りにしても、失敗することはあるし。
オレも正直、自信がなくなる事があるよっ』
そうそうやって騙されたり、騙されていると思っていたが
実は正しかったり、要するに相性だったりと、
何の問題を解決するにも選択が難しい世ではある。
そう彼彼女らは納得したがいつの間にか待望の邸は忘れられ、次の話題は
ついさっきカツミが口にしたEAの事。つまりEAに入るべきか、
そしてそれが必要ならどうやって入るかということだが、
まずそれについて話すのはキアーロとリッキーだ。
『オレは遅かれ早かれ入るべきだとは思うが、
いい噂やアクイラ達を信じたくてもカツミやリカの心配はもっともだから、最悪距離をおく可能性もあるな』
『オレは当然入るべきだと思うぜ。
ただしこれも、ドンやカツミ達がいればこそだけどなぁ。
つまりあれだ…。少しくらいそれが早過ぎても中身が気に入らないなら
オレ達で変えるのさっ』
そこで少々キアーロが心配になったカツミは
レットーラやファルコに内輪話を仕掛け、
グランファミリーとはやり合うかも知れない…とつぶやいているが、
皆に求められたペスカーラはEAの情報を整理。
それによると日本語で東部の同盟を意味する
イースタンアライアンスに入っている八つのファミリーを構成するのは
ロビンソン約700人、ウォーカー約250人、ルッソ約240人、
バレンティーノ約220人、コーダ約120人、グラン約70人、レイド約60人、
ベルウッド25人であり、中心となるロビンソンが勢力圏では南に位置する
ゲデル、レモエリスタ、ラドロを少数のレイドやベルウッドと共に支配し、
他はルッソとバレンティーノが掲示板のあったスタラドの南に位置する
バックロールとオンオーズを、コーダが東海岸に面した細長い町コンレを、
ウォーカーがその西隣で内陸のピバンスを、今問題になっているグランが
更にその西隣の町パンゾベルダを支配しているらしいが、
そのコンレ、ピバンス、パンゾベルダの北に位置する
エジベーダとバラジコーズは暴虐で知られる
ビトーリオ・コルボの縄張りで彼彼女らのファミリーだけで
その数は…800以上。よってペスカーラはクーパーの他
EAに敵対するかも知れない組織についても紹介し、
死者を誘って仲間を増やしてきたゲグルック・バラダン率いる
ネクロマンサーを約330人、その同盟者で策略が得意なのを皮肉られ
剣というよりペンだという意味でドーニャ・ペーナと呼ばれる
スパダ・パボーネのファミリーを約900人と教え、
それにリカが悲鳴を上げたところで希望を与えるため今度は
これからEAに味方しそうな組織も紹介。
カンパネッラが狙っているメーツベルダの東にあるメレデニに拠点を置き
コルボファミリーと泥沼の抗争を演じるスピアバレイが約580人、
その更に東隣の町サオーズを支配し
国のスラム街にいる老人にクリップフォーンを渡してソルジャーにしている
ドン・ローザ率いるフォンターナが約500人、
スタラドの北側に縄張りを持ち悪の組織を見つけては積極的に交戦する
エルダースが約850人であると教え、
そこで頭の中にある情報を整理できた一同はやや安心した様子で
ペスカーラに礼を言い、最後にその補足をレットーラが買ってでた。
『それにローザ・フォンターナは特に評判が良くてな、
悪く言うのは嫉妬している野郎共だけだから、
EAに入らないのは単にファンガイと同じで、
忙しいからだと言われている。だからオレ達も頑張ろうぜ』
そうつまり誠実だからこそしっかりと相手を見定めたいだけで
EAから見ても彼彼女らが善良なファミリーであるのは明らか。
メレデニの支配者イーサン・スピアバレイも実は善良で、
彼の場合どちらかというとドン・ビトーリオとその仲間が
汚らわしいものに感じるらしく、その事だけを理由に東部から出て行くよう
何度も説得や恫喝を繰り返しているようだが、
その彼自身が、紫の長髪がかかる猫背と
口元にある赤地に黒い縦線が入って鉄格子のようになったバンダナで
奇抜な印象を与え、片方の目も赤なのでそれだけで怖がられ
その評判も今一つとなっているだけなのである。
またエルダースファミリーを率いるのは
もう七十歳にもなるドーニャ・レベッカ。
この長い白髪の美女は求心力を発揮して大勢の男女を集め
クーパー、バルラム、コルボ等を悩ませ、
面倒がられて大きな仕返しを受けたことさえなく、
それを知るレットーラやアバードなどは
彼彼女らの後にEA入りしてもいいと思っているが、
カツミはやはりEAと共に戦う理由つまり大儀を気にしているようで
主にその払拭に必要な情報をあつめる為にも、明日は朝一番にくると宣言。
その時刻が08:00だと分かるとアレッタは笑ったが自分も来れると言い、
レットーラとペスカーラも用事はあるが、
抗争や事件などがあれば電話するようにと、応じてくれた。
またその様子を微笑ましく見ていたのはキアーロ。
彼はファルコの元へゆき、楽しんでるかと訊いていたのだ。


EA結成の理由。まだ迷っている君の答えなら、ここにある!
投稿836年×月×日21:50 投稿者テイラー・ロビンソン 投稿者の評判64
読者数21,040 支持12,401 不支持2,947 コメント不可 内容表示…無料
ある時私は鏡を見て、今の自分が幸福でないと知った。
何故ならそれは地位や金があっても好きに生きていないからで、
無理していいコートを着て高い腕時計をしていてもそれを深くは知らず、
それは何となく買い揃えてしまったものだからだ。
そして、このままでは本当の自分として生きられないまま年をとって、
人生は終わり、後に残ったものはどうせそれから
どうなるかを確かめることもできず、
今迄自分が感じてきた…ものというもの…
つまりあらゆる感覚はまったく存在しなくなる。
大体家庭を持つ気のない私にとっては
妻や子が幸福になる夢を見ながら時を過ごすことさえできず、
この世に神は残るが、
その存在に慈しまれた記憶も消えて無くなるじゃあないか。
だから私はこの愛すべき仮想世界に正義の組織を結成した。
このガラミールで正義を実現すれば善良なプレイヤーの心は楽しむ!
だからどこでもいい。自分に合うファミリーを見つけて、EAに入ってくれ!
つい二時間ほど前このナーキレイの掲示板にあった投稿を見たのは
カツミとアレッタ。
それから二人は車でさほど離れていないこの大きな池まで来て、
その美しい景色を眺めながら集めた情報の整理をしていた。
そう社交的で皆の話し相手をしてきたアレッタにとっては
何もかもはじめて知る情報ではなかったが、
来島して間もないキアーロの喜ぶ顔を思い浮かべたカツミにとっては
大収穫であり、加えて彼もどちらかというと記録や世界の謎解きより
マフィアとして生きる楽しみを優先してきたので、
そのそれぞれの情報はまるでいつの間にか渇いていた喉を潤すよう
その体を満たしていたのだ。
目の前にひろがるのは、奥へ吹く風にさざ波をたてる池。
向こうの岸辺は深い森となり、
その静かで薄暗い場所にも鹿などが顔を出すことはあるが、
こちらの木々にある葉はよく日を浴びて薄っすら黄緑に光り、
それが時々池に落ちて揺れながら流れる様も一興。
大勢の仲間と船出する者達のようで心地いい。
よってカツミとアレッタはその景勝地にも満足だったが、
新たに得た情報のほとんどはレットーラ、アバード、ペスカーラ以外は
知らないだろうと思えるもので、
それについて話す時間ならたっぷりとあり、
そこで役に立つのが以下の特技だ。

記憶に刻む
個人の素性や店の品揃えなど画面に表示した情報は全て忘れず、
いつでも思い出せるようになる特技。ただし量に限界があり、
整理しなければ古い順に消える。
必要経験値2750 消費気力9(記憶に刻む時と、思い出す時に消費)
効果補足…いつでも記憶に刻むことが可能で、
思い出した時もその情報を消すまで有効。

そしてそれを習得していたのはやはりアレッタ。今迄の彼女もこれを
大切な友人と交流したり、彼彼女らを助ける為に使ってきたが
それは今も同様。カツミは経験値で体力と屈強さを上げ、
抗争において有意義な特技の習得にも使い
残った分もそうするつもりでいるので、
今のところ記憶に刻むを覚えるつもりはないが、
心の中では彼女の有能さに感謝し、だが今の話題はその特技ではなく、
理解力が必要になるこのマフィアズライフの
…常時虹彩掌紋認証についてだ。
『確かにオレもどちらかというと、
同じ人間が複数のキャラクターを使うようになると、冷める方だな…』
『それに生死判断と、
周囲でプレイを見守る人の動きまでの判断もしてるらしいけど、
それは私も掲示板を見てはじめて知ったね』
つまり簡単に説明すると、本人が一人でプレイする事しかできないのだが、
判断の結果異状が認められれば最悪死刑もあり得るので今のところ
別人にプレイさせた者は出入り禁止となり、
複数のキャラクターを作れた者は一人もいない。またもしもこれをすり抜け
利用規約に反した場合の罰には永久追放も含まれるので、
流石の違反常習者達も手がだせず、
抑々そういったマフィアズライフが合わないプレイヤーの為には
リアルゲーマー社が運営する別なゲームに、ランキングやポイント次第で
様々な理由で売れ残るか型落ちした商品を貰える仕様のものはあるが、
やはり人々が欲しがるのは…現金。
つまり運営はこの強みを維持し、
人々に真の楽しみを与えるという決意と共に守っていくつもりなのだが、
そんな彼彼女らのゲーム愛を物語るものは他にもあり、
その一つがある時1,000万Grの寄付を断った話だ。
そうその寄付を申しでた男に悪気はなくただある店名を洒落たものに
変えてもらいたかったのだが、それは既に別な人物の寄付によって変えられ
まだ一年しか経過していないという理由で、断られてしまったのだ。
またその時運営は男に以下のような文を送っている。
私達は、いいゲームを作って生きたいからこそこの会社を立ち上げたので、
それが叶わないならいくら積まれたどんな条件の申し出も、
受けられません。どうかご理解下さい。
『そう、これこれ。
オレだって寄付すれば町名でも変えられると知っていたが、
それも運営が納得できるものじゃないと、断られるらしいな』
『ええ、この寄付の話ならもう有名だよね。
だってイタリア、日本、それにアメリカ以外の友達からも言われるよ』
またこの男は感激のあまり十分の一
つまり100万Grを見返り無しで寄付しているが、
そのアレッタの補足を知らなかったカツミは自分達も何とかして稼ぎたいと
そのまま話題を全変物の儀式へ。
今日得た情報によると儀式の為つくられた山を調べた時には総額と
金を置いた者全ての姓名と通称が表示され、
自分が置いた分だけならいつでも回収できるらしく、
そこから直接奪うことはできないと知ったカツミは
以前悪のファミリーに対してそれをやろうとしたのを思い出し、
アレッタに言う。
『だから、かなり危なかったぜっ。
実行していたら、撃たれていたかも知れねぇな…!
だが分からねぇのは、500以上積む必要はあるのかだ』
『あるよ。だってぎりぎり500Gr積んでるファミリーより、
余裕で2000Gr積んでるファミリーと話したいでしょう?
それはお金さえあればいいという訳じゃあないけど、
それだけ強さや知恵を示している事になるじゃない。
つまりその多く積んでる方には、
新たな取引やソルジャーが欲しいという余裕、
それに威勢や、稼ぐ為の方法があるの…!』
『おお、なるほどー』
そうこのアレッタの知識も実のところアクイラが教えたものなのだが、
素直に感心するカツミ。また情報によるとこの全変物の儀式は
それぞれのファミリーが建てた邸や店などで行うもので
自宅つまりゲーム中にある私室では不可能。
よってこれも堂々と金を積むマフィア達を再現して
それを見たプレイヤー達を楽しませる為の仕掛けなのだが、
情報によって希望と不安が入り乱れたカツミは落ち着きたいのか
一服したいと言い、それにアレッタは吸えばいいんじゃないと返す。
『いいや違う。ガラミールでだ。
そうだ流石にこれはアレッタも知らないだろうが、
酒と煙草にも全変物の儀式の半分の効果があって、
二つはその全変物の儀式と、重ねがけもできるんだ。
つまりただ全変物の儀式による効果を高めるだけじゃあ、ねぇんだよな』
『あ…それは知らなかった。でもそれなら、
待ち合わせの場所に移動してから、吸えばいいでしょう』
『ハハハッ、まあそうだな』
そう実のところ景勝を見ている時には、キャラクターの姿は見れず、
アイテムを使うこともできない。
そうアイテムの使用に限っては掲示板も同じだが、
ゲームなので景勝地、掲示板共にそこへ入る扱いとなり、
それらを楽しむ間誰かに攻撃される心配はなく、
その為逃げるのに使う者もあるが、いつまでもそうしてはいられない。
そう何故ならこのガラミールでは
邸や自宅あるいはホテル等でセーブせず無理やりプレイを中断すれば
…データを失ってしまうからである。
そこで心配になるのは時間だが、この時代のPCとクリップフォーンは
プレイしたまま放置しても所有者の意思に反して電源が落ちることはなく、
その為データが壊れる心配は一切無い。またそこで
これから取引などで煙草をあつかうかも知れないと思ったカツミは
アレッタに酒と煙草の全てという本を見せたが、その一部が以下である。

酒や煙草は立っても座っても表示可能なアイテム。
勿論仲間や取引相手と話しながらも表示可能で
酒ならワインとウィスキーそしてリキュール、
煙草なら、煙の少ないものから輪を作れるもの、長いもの等が用意され、
それぞれに名称がある。ただこれは二十歳未満の者は店で買えず、
計画の合図または相手に自分達の強さや仲のよさを示す為に使用する。

酒や煙草は、先住民の崇める英霊達に供えることで
日に一度(二十四時更新依存)その生きていた頃の夢を見て
幾つかのフルムーンをもらう等様々な加護を受けるのにも使い、
それを行う場所は邸と自宅あるいは店や建物等
どこでもいいが、テーブルや上に物を置ける家具が必要となり、
飲むと効果は半分と言われるがたった一人で全変物の儀式をしたのと
同じ扱いになる。ただしその場合の効果対象はその人物のみ。
※英霊への供養では、複数の加護を同時に得ることもあり、
稀にだがその贈り物は、基本能力値を上げる等直接的にもなる。

『ほらさっきオレが言った事なら、ここに書いてあるだろ?』
『誰にでも詳しい事ってあるよね。カツミは喧嘩と抗争だけかと思った』

英霊達に供える酒と煙草は、酒が一本、煙草が一箱。
ただし両方供えると加護が手厚くなるという噂で、
数日に一度は酒や煙草を嗜む者が供えた場合にも
酒好きあるいは煙草好き仲間と喜ばれ、加護が大きくなる。

店で買えば酒は赤ワインが95Gr、白ワインが103Gr、ウィスキーが122Gr、
リキュールが70~135Gr(人気の色がある為)前後、
煙草は238Gr前後で、この二種類のアイテムは
特技の酒製造と煙草製造によって生み出され、
それは邸の場合酒製造所と煙草製造所を建設する事で、
私室の場合には酒製造器と煙草製造器を置く事で可能となり、
勿論販売も使用も自由だが、完成までには長い時間がかかる。
また煙草は高いが一箱十本入りで、一本ずつ吸える。

酒と煙草をより多く造るにはただ待つだけでなく
不純物と戦うウチゲーでなるべく高い得点を出さなければならない。
それは画面の四方八方から現れる不純物を休まずクリックして
取り除いていくゲームだが、その中には旨味や栄養が含まれ、
それに触れてしまうと質を保てず
出荷できる数が減ってしまうという仕組みで、
上手くやれば倍の数も狙える。また当然のように
最後の方はやや速い動きとなり、この毎回同じような作業となる
仕込みを懸命に続けられるかも問われている。
※これにも全変物の儀式が有効で質を上げるチャンスあり。

『オレ思ったんだけどさ…
このウチゲー無い方がいいと思ってる奴らは別に悪くはないけど、
ゲームじゃなくて、金を稼ぐのを楽しみたいだけだよな』
『さすがダイドブレインズ、その通りっ。でも私から言わせれば
彼彼女らは稼ぐのを楽しみたいというより、ただ稼ぎたいだけかな』

酒と煙草の原料は役所、役場、労働組合、ガンショップ、
雑貨屋などで売られ、その仕込みに必要な時間は七日間。
そう二台まで置ける製造器ならそれぞれに仕込める原料は一袋までだが、
一ヶ所しか設置できない製造所なら同時に沢山仕込めるので、
ウチゲーの結果も影響するが、更に多く製造できる。またこの二種類は
その時間がきて初めて完成するので、
それまでに何本か取るという事はできない。

製造した酒と煙草をガラミールの店に売る事もできるが、
基本この世界では、相場の変わる金銀や宝石等でない限り、
店で売っている品をそのまま売っても大体
半分か三分の一でしか買い取らない。
だがそれらも無料で手に入れてしまえば十分な稼ぎとなる。

『そうそうキアーロに相談して
どっかの悪共から強盗しようと思ってるんだが、どうだ?』
『私はいいと思うよ』

ガラミールの酒と煙草は良質で本土から様々な個人や組織つまりは
NPCのマフィアや商人達などが買いに来ており、
来る日時と場所、取引の回数、買う物とその量、値段、
別な誰かが先に来た時裏切って買うか、裏切らないか、
もっと安く売ると言われた場合に限り裏切って買うか、
要求した酒や煙草が揃わなくても買うのか、その場合は買わないのか、
取引中襲われたら一緒に戦うか、逃げるか、取引相手を疑うか、
などの違いがある。

本土の買い手達が店から直接何かを買ってさばけるようになれば、
状況によってそれらの品々を島へ輸入した事が
無駄になってしまうだけでなく、
極端な物や金の流れが生まれてしまうので、一切禁止されている。

酒と煙草を買う本土のマフィアや商人達の電話番号を入手する方法は、
既に知っている者から教えてもらうか、
極たまに市の職員やどこかの店員などが
会話の中で言うものを書きとめるか、
買うか、脅して聞き出すか、様々な大会の賞品として受取るか、
どこかに落ちている紙に書かれたものを拾うかである。

基本的には煙草が高く買われるが、
酒の中でもワインは赤と白それぞれに人気が出る時があり、
ウィスキーの人気は常に安定し、
リキュールは色によって人気がでる時がある。

酒や煙草は自分で作って売ってもいいが、値切られる可能性が大幅に増す。
そう何故なら自分で作っているなら安くできるはずという
当然の言い分が通ってしまうのである。

『まあ、相場が高い時に原料を買ったなら、自己責任だしな』
『だから製造者は直接本土の買い手には売らないんだね。
急にグロートが必要になるとか、面倒な時もあるだろうけど、
個人や商人の集まりが造っても、
その間にマフィアが入りやすいようになってるんだ』
『そういえばフォンターナファミリーのステッキーノも、
似たような事を言ってたな』
『アハハッ。実は私もその人から聞いたの』

煙草は高く売れ、いくら吸っても食事回数が減らない代わりに、
飲んでも経験値は得られず、一本吸うのに五分しかかけられず、
買い手によっては人気のあるヘラテイク(異端者)や、
スクーロ(イタリア語で黒)など特定の銘柄しか買われないか、
他のものだと安く買われる可能性があり、
酒は英霊達に供える時には一本丸ごとになってしまうが
それは煙草の一箱より安く、
飲むのに十分かけられ、経験値が入る代わりに食事回数を消費し、
二十四時間あけなければ次に飲んだ時たまにふらついて
自由に動けなくなり、
その製造器は煙草のそれと比べ若干場所をとる。

『つまり煙草は高く売れるし、
消費するのも一本ずつで合図とか目印に使いやすいって事だ』
『うん、酒は飲むと金運をあげて同時に経験値も入るし、
たとえばステーキとかと組み合わせれば
食事回数も余計に消費しなくてもいいよね。
英霊達に供える時も安上がりだ』

本土の買い手との取引で裏切られた時にはその相手を殺す事が可能で、
このガラミールにおいては酌量の余地があると判断され、
過去二度の事件では懲役が長くて三日となっている。
またその時逮捕されたある女は、
島外の人間を殺すという大罪を犯しておきながら
市と警察に暴言を吐き、刑期が長くなった。

だがそこで言ったのはアレッタ。
『えっ?!刑務所があるなんて、誰も教えてくれなかった…!』
『ああ、この世界ではジェイルと呼ばれてな、
英語で刑務所を意味する施設で、
この事件の他にも警察署で暴力をふるったり、
利用規約を破ったりした奴の自由を奪う為にある。
しかも脱獄は絶対に不可能らしいぜ』
『確かに、
いつでも警察つまり運営が見ているのに脱獄できるのはおかしいよね。
でも捕まった人は島に顔をだす度に、
そのジェイルの中からプレイ開始なの?』
『ああ、だが…とても広くて、
同じように利用規約を破ったお仲間が沢山いるだろうから、
そんなに気の毒がらなくてもいいな。
他のプレイヤーにとってはありがたい事だぜ』
またせっかくなのでそのジェイルでも許される自由は、以下である。

運動、会話、日に十五分までの電話、
日に二回まででそれぞれ十五分までの面会、
早い者勝ちだが時間通り人数分用意される食事の摂取(経験値30まで)、
二度と罪を犯さない為に必要な利用規約などに関する講義の受講、読書…。

更に模範囚となればある程度は優遇処置がとられ、
大体は刑期毎に分けられた大部屋へ入れられ、
余程の事がない限り独房へは入れられず、
喧嘩があっても欲張りな刑務官が鍵を取り落とすか、
笛を吹くだけで怖がってしまうかしない限りは
約一分間で両者は引き離されるのだが、それを知ったアレッタは
ジェイルの中で殺された場合にも、所有する店を失ってしまうと気付く。
『でも本当に悪い奴が殺されたなら、
カンパネッラにとってはチャンスだねっ』
『ああ、いい奴だったら占有しておいて、安く譲渡してもいいな』
だが実のところ、その悪党が殺されるという情報を独占するのは困難。
そう運良く店を手に入れても外にいる仲間から復讐される可能性があるので
二人の想像はやや楽観的過ぎるのだが、その代わり
新たな店が欲しいファミリーにとっての希望とはやはりその売買、譲渡。
当然ドン、ダイドブレインズ、カポ、ソルジャーのどの立場だろうと
個人が殺されたところでファミリー所有の店を失うことはないが、
自分達の縄張りから遠い店を手に入れてもその更新時に敵から囲まれ
そのまま殺されてしまえば、所持金、銃、車、フルムーンなど
何もかも奪われてしまうので、
まったく無償でその役を引き受けたがる者は少なく、
あるいは遠くの組織と揉め新たな抗争を生む危険さえあり、
売るのが賢いとされているからである。またこれも当然ながら、
ファミリーの一員であれば誰でもその所有となっている店の更新が可能で、
個人で得た店もすぐファミリー所有に切り替えられるようになっているが、
その場合所有権を持つのはドンになるので互いの信用と、
血の掟の確認は重要。
そこに売上の何割かを個人へ返すよう設定していると書くドンもいるが、
それさえ嘘かも知れず、ソルジャーの為に皆で守りその見返りを求めないファミリーなど、無いに等しい。
またそれからもしばらくはあれこれと話し込み、
気付けばもう一時間以上は経っていると気付くカツミ。
よって彼は主にきき役と助言役に徹してくれたアレッタに謝り、
それでも今迄の彼女が家事をこなしながら聞いていたと知ってからは
安心したようだが、そこに飛び込んできたのがペスカーラの教える事件。
何とその話によればついさっきあのルード・グランが…殺されたというが。
『なっ…何だってぇ?!
オレがやり合うかも知れないって言った、あいつが?
ちょっと待て誰が死んだって?
もしもそれが真実なら…ロビンソンも随分思い切ったじゃねぇか』
『まあ、落ち着いてくれよダイド。
まず言うがあいつを殺したのは、ロビンソンじゃあない』
そう彼の話によるとルードを殺したのは、
その降伏したいという申し出をこころよく受けたはずのドン・ビトーリオ。
この男は、
逆恨みながらEAに屈辱を感じていたルードが会いたいと言ったのに
バラジコーズの料理店で一対一の相談をしようと提案し、
事実そうなったのだが、
ルードが数名のソルジャーと共にコルボに入ると決まり談笑していた時
その日はまだ誰も殺していないと気付き…
それから数分後、事件は起きたというのだ。
『まさか、撃たれたのか?』
『いいやそれが、コルボファミリーにある血の掟に従って
近くにあるビルの屋上で腹を割って話すというのに付きあった奴は、
そこから落とされたらしい。要するに快楽殺人だな』
『つまり、今日ここで奴を殺すと面白いだろうって事かっ?』
『多分な…』
だが話はそこで終わらず、
そのルードの死をビルの下で確認したコルボのソルジャー約五百人は
一斉にパンゾベルダへと流れ込み、
誤解と考え指示があるまでは逃げ回るつもりでいた者を撃ち、
訳を聞こうと近づいた者を刺し、圧倒。
当然戦う者もいたがそれはどうしても後手で、
今もほぼ一方的に押し切られるよう彼方此方で殺戮が行われているらしく、
聞いて唸るカツミ。
『う~ん、つまり掟を上手く使ったのか!
ロビンソンやウォーカー、それにコーダはどうした?!』
『噂によると、血の掟はその場で書き足しただけさ。
それにEAだって黙ってはいないが、厳しいなっ。
このままだと店は押さえられて三割程度になるって話だし、
一般人が巻き込まれる可能性や時期尚早だと反対する声を考えれば、
全面抗争にはならないだろう…!』
『そうか。一応訊くが、オレ達にできる事なんてねぇよな?』
『ああ今回は、ほぼ無いと言っていいな。
行ってもただ死ぬか、ロビンソンに助けられちまうだろうぜ』
それは現状についてなので十分過ぎる情報だったが、
もっと詳しく聞きたいカツミは定刻にはやや早いがペスカーラを
今日会合が開かれるカタランの南にある霊園へと呼ぶ。
だが、この事件についての情報収集とは別に大事な用があるらしく、
詫びて電話をきるペスカーラ。
カツミは事件に驚くアレッタとも相談して今度はレットーラに電話したが、
彼もその悲報を知りながら同様の理由で話を終えようとしたので、
さすがに不審がる。
『それはお前らの事だから、オレ達の為でもあるだろう。
だが二人とも大事な用っていうのは…』
『心配無い。サプライズさっ』
『だが同じファミリーなのに、
お前らが一生懸命になっている事に関われないのは…悲しいぜ』
『そうだカツミ、お前はとてもいい奴だ。頼れるダイドブレインズさっ。
だが知り合ったばかりで、この事はアバードやリッキーさえ知らないし、
お前と会うまでにもオレは沢山の人間と関わってきたんだ。
だから今はオレ達を信じて、任せてくれ…!』
つまりそれは、今の友人もありがたいが、
それより長く付き合ってきた人間がいるので
あまり無理は言えないという事であり、
納得せざるを得ないカツミはアレッタとも相談して一足先に、
会合の場所へ。それから一時間半ほど経った頃、
キアーロも含め全員が集まったそこには、大きな吉報がもたらされていた。
そうそこにあるのは、南北に二列ずつ並ぶ白い十字架と
その中央に敷かれた道。それに沿うよう両側の奥には
白や紫の花が咲く花壇とその手前に石造りのテーブル
それにこげ茶色のベンチが置かれ、それらを微かに染める光のなか
北側の東にある方の席に陣取ったカンパネッラはもうすぐ来るだろう功労者
レットーラとペスカーラを迎える為、胸を躍らせている。
そこへ来たのはリッキー。
キアーロさえ、その待ち遠しかった仲間を見るとつい大声になっていた。
『よし、まずは座れ!
ハッハー!聞いて喜べ?一気にやりがいが出たぞっ』
『おいおい、珍しいはしゃぎようだな。一体どうした?』
そう言って一番東に座ったリッキーにまずキアーロが言ったのは、
料理店ボスコが手に入ったという事。
当然驚いても島に慣れた彼にはそれだけで大体どういうことか分かったが、
続いてメーツベルダの東南にある他六軒の店も
自分達カンパネッラのものになったという事実を聞かされると、
実は今まで一度も使った事のない拍手という仕草を使うリッキー。
彼はそれからやっといつも通り銃の手入れをはじめ、
それを確認したキアーロにうながされ、説明するカツミ。
つまりどういう事かといえば、
あのダチカタルでレットーラがキアーロに伝えた情報は現実となり、
ついさっきの裁判でも市長のアポロン・ウェイや警察署長
それに裁判官などを前にしたメーツベルダの支配者
アーダー・ストレイトは、いいや悪いがオレの決意は変わらない…と発言。
もしもそれが口先だけで実世界でマフィアにならなかったとしても、
それからこの男と交流する全てのプレイヤーには
現実のマフィアを相手にしている可能性という恐怖が生まれ、
加えて死刑を執行するだけではすぐキャラクターを作り直して
ファミリーに戻った場合、その効果は薄くなってしまうので、
彼の死刑と同時にそのファミリーの解散が決定し、
その縄張りをレットーラとペスカーラそれにその協力者達が取った結果、
カンパネッラが七軒もの店を押さえられたというのだ。
またそこで拍手するリッキーに言うのは、ファルコ。
皆もそれぞれ喜びを口にしているが、二人の会話はやや現実的だ。
『さあ、最高だが…オレ達もいつまで守れるかな。
パンゾベルダは既に七割くらいがコルボのものになって、
一割ほどを個人がとったらしいが、
残ったものが全てEAのものになったとしても…二割だからな』
『ああ、町を三つ挟んではいるがコルボは邪悪で、
オレ達もこれからEAに加わるかも知れねぇ…!』
『だから軍資金も必要だなぁ…。あの辺りで七軒だと
週に2000か3000あるいはそれ以上の売上も期待できるがそれも、
どの店をとったかによるから、
早くレットーラとペスカーラの話が聞きたいねぇ』
『ハハハッ!オレもそう思うぜっ。まだ場所だって詳しくは分かってねぇ。
だがオレはな、ボスコさえ手にはいれば暫くは満足だ。
オレがあの辺りで商売すれば改造銃とか情報を高く売れて、
個人的に稼げるからな』
そんな時東にある入口から歩いて来たのは、レットーラとペスカーラ。
二人は決められた場所で会いそのままここへ来たらしいが、
それに対する歓迎は大きく、一人ずつ抱きしめるキアーロに、
親指を立てて見せ拍手をしながらナイスを連発するカツミ、
実世界ではいけない事だが祝砲を放つリカに、
飛びあがるアレッタとどうにも止まらず、
むしろその興奮は手のひらを見せたレットーラが止め、
彼はそこで一人の男には譲渡の条件として2,300Grを要求されたが、
その人物が高値であれば誰にでも売るつもりであった事と、
前に何度かその商売を手伝った事などを理由に
最後には850Grに値切ることができたと言い、再び一同を湧かせる。
だがそこで心配になるのはその資金なので、訊くのはキアーロ。
『本当によくやった…!
だが金の支払いは、待ってもらえるのか?』
『いいや、オレが払った。
実はこの世界で稼ぎつづけるにはグロートも必要だから、
その全てを実世界の金に換える奴は少ないのさ。
それにオレのはほとんどただの自慢話だが、ペスカーラのはすげぇぞ』
よって当然注目を集めたペスカーラだが何とその話によると
元々仲の良かったフクジンという雑貨屋を所有する婦人ブリジットは
彼の所属するカンパネッラを信じたいようで、その所有権を譲り、
代わりに店内とその周辺での商売と取引の許可を求めてきたらしいが、
そこで何故かキアーロに謝るペスカーラ。
『だからドン、勝手に決めて悪いが、
これがファミリーにとって最善だと思ったんだ』
『いいや良くやってくれた!素晴らしいじゃないかっ』
『ああ他にも、どこかと揉めた時はオレ達が出ていく事になったが、
それも善良なファミリーとして、問題無いよな?』
それに当然ながら同意を表す一同。
そこからカンパネッラは皆でベンチに座り会合を開くことになったが、
レットーラに占有した店の概要を訊くのは、カツミとファルコ。
『ガンショップのヒーズアウトは誰がとった?
たしか東南辺りだったよな。あそこは普段そう繁盛する店じゃねぇけど
たまにいい改造銃が入るし、町民限定のセールも魅力だ』
『つまり邸を建てる場所はもう大体決まった訳だが、
オレが気になるのはダンスホールのリーユニオンだな。
必ずじゃないが結構な賑わいで投資の評価も高いって話だし、
ウチゲーでは椅子とボトルを使う
ほとんど喧嘩のボクシングゲームができて、いい稼ぎになる』
それに両手の平を見せ、
興奮するカツミとファルコを抑えながら言うレットーラ。
『ああ、そうそうあの用心棒の仕事ねぇ…。
ウチゲー好きのオレも一度やったが全然できなくて…すぐ止めたぜぇ。
だが二人共喜べその二軒ならもう、オレ達のものだー!』
『よーし何もかもレットーラとペスカーラのお陰だ!
今夜は飲もうぜぇ!』
『リーユニオンで踊ってもいい!
けど、今はファミリーにとって大切な時だから、迷っちまうなぁ』
だがそんな二人には画面のまえで微笑みながらも、
リカと内輪話するのはアバード。
彼は今突然メーツベルダという縄張りを得て心配なこともあるようで、
似たような過去をもつ彼女を選んだようだ。
『リカお前、レスカファミリーの仲間を呼ぶつもりあるか?
このままだとその友人達が、
スピアバレイに返り討ちにされてしまうと思うが…』
『心配ねぇっ。実はさっきの電話で、
あいつらがスピアバレイと和解するって聞いたんだ』
『おお、それは良かったな。だが…何で急に?』
『そうこれは後でドンにも言うが、スピアバレイの奴ら、
コルボがパンゾベルダに縄張りを広げたもんだから
元々抗争する必要もなかったオレの古巣と、和解したいらしくてな』
『ああ、やっぱりなぁ。オレはコルボにファミリーを潰されて
そのままドンをとられたから、彼を呼びたい気持ちもあるが…
とにかく煮え切らない性格でねぇ。呼ぶなら別な奴にしようと思ってる』
『いいじゃねぇか。オレは歓迎するぜっ。
食いぶちは減るが、全員残れるとは限らねぇからな』
そして二人の内輪話はそのまま食いぶちからウチゲーの話となり、
その市長の邸で受けられるペットの犬と猫が壊してしまった
壁の修復をするというパズルゲームは他に比べ報酬は安いが、
制限時間無しで気力の消費も低いと盛りあがり、
その間皆に小さな酒場ビオーラの獲得を教えていたのはペスカーラ。
彼は実のところビオーラを気に入っているアレッタから感謝され、
そのより一層騒がしくなったカンパネッラでは
特にカツミが右に左に顔を向けはしゃいでいたが、
そんな中で何故かリッキーはカンパネッラの全員に、内輪話を使用。
それによると南のベンチに座る五人が
こちらの様子をうかがっていたらしく、
キアーロは自分でも相手の内二人を調べたが、
そのステータスは所属ファミリーから姓名、通称、獲得経験値まで
全て×印で隠され、
顔画像も目元以外は暗く、一体どこの誰なのかまったく分からない。
よって彼はレットーラとアバードに特技で調べ上げて欲しいと頼んだが
その返事はいずれも無理というもので、説明するのはアバード。
『そう残念ながら、ドンの期待にはそえない。
何故ならあれは特技の素性を隠すというもので、
調べ上げるさえ通じない仕様になっているんだ』
『だが気味が悪いな…』
だがそのドンを安心させようというのはアレッタとリッキー。
『でも知らない誰かを調べるのは普通だよ。
そうたとえば、これはどんな人達だろうとか、敵かも知れないとか、
売買できないかって思えばね。心配し過ぎなんじゃない?』
『ああ、オレは一応特技の気配を察するを使っていたから、分かったのさ。
だから奴らの中の誰かがオレ達を調べていた事に間違いないが、
アレッタが言うのはもっともだ』
そう言われ再び五人を見るカンパネッラの一同。
その中折れ帽子やシルクハットそれにスーツや燕尾服は特に統一されず、
皆それぞれ黒や灰色あるいは赤などの派手な色を身に着け、
ペスカーラなどは単なるパーティーにも見えるとつぶやき、
そこで今出てきた二つの特技を説明したのはアバード。
彼もキアーロに教えるにはいい機会だと思ったようで、
その詳細が以下である。

素性を隠す
ステータス画面のほぼ全てを見られないようにする特技。
所属ファミリー、通称、名前、獲得経験値が隠され、
顔画像も目元の他は陰となり、
街での姿に変化は無いが細かい特徴まで憶えておかなければならないので、
判別や特定は難しくなる。また暗黒街には干渉を嫌う者も多く、
特技調べ上げると相対した時には、こちらが勝つ仕様となっている。
必要経験値7360 消費気力65
効果補足…所属するファミリーの邸や自宅に入るか、
島から出るか、解除するまで有効。

気配を察する
調べられているか、調べ上げられているか、
盗み聞かれている事が分かる特技。
調べられているか盗み聞かれていると画面には
…誰かの視線を感じる…などの文章が示され、
それから一分以内に怪しい者を見つけられたなら、
相手がその人物だった場合頭の上にその印が出るので、特定もできる。
当然特定する前に逃げられるか、とぼけられるかすると
少々困ってしまうがその印が出た相手こそ
自分を調べていた人物であるという事実は変わらない。
必要経験値3190 消費気力17
効果補足…使用後は島から出るか、解除するか、反応があるまで有効。

またそれを見るとやや安心するキアーロ。だがリッキーとしては
役目を果たしただけなので、かばうのはファルコとカツミだ。
『だがああいう奴らにも目を光らせねぇと、本当に殺られるぜっ。
特にこれからはな…』
『ああそうだっ。確かに、ただ気になって調べていただけかも知れないが、
この内輪話以外は聞かれていたかも知れねぇし、
何となく調べていたそこからオレ達を襲う気が起きたらどうする?
メーツベルダの店を手に入れましたって言ってるんだぜ』
そしてそれに続けたのはリカとレットーラ。
『ああ、考えてみれば応援を呼んで、
向こうの仲間とも連絡を取り合ってそれからオレ達を皆殺しにすれば、
ほとんどの店はあいつらに持っていかれちまうかもな』
『つまりこのガラミールじゃあいつでも用心が必要って事さ。
だが…もう少し楽しい話をしようぜ』
そこで皆にレットーラがうち明けたのは、
ソルジャーの募集を兼ねたパーティーの計画。
それに眉をひらいたキアーロは彼から
実はもう一軒手に入りそうな店があるとも聞いて
リッキーと共に拍手し、その幸福を歓迎したのだった。


まだ薄っすらと明るい夜空を背景にするのは北東に建つ茶色のマンション。
その他に比べやや高い建物が見下ろす広場の北側には
三つの赤い日傘があり、中央と南側にある十二の傘は青く、
四本ずつが東西にならんでそれらには白いテーブルと椅子が組みとなって
穏やかで楽し気な雰囲気を演出し、多くの男女を迎えていた。
そうここはカンパネッラファミリーのソルジャー募集も兼ねた、
パーティーの会場。
客は単なる見物目的の者も合わせれば百人以上もいて、
日傘と共にまるでパーティー会場の屋根を支えるかのように立つのは
周囲をかこむ先が逆三角形になった高い外灯。その広場から見て
西へとむかう南の道に沿うように三つ置かれているのは
腰までもある白い円柱の花壇で、
それは白と灰色で流線模様を描いた床をたゆたうように見える。
勿論それはゲームの演出等ではないのだが、
キアーロは四人の客に囲まれ一々その質問に答え、
リカとアレッタは食事を配って退屈そうにする者に話しかけ、
レットーラとアバードそれにファルコは後でキアーロ達に教える為、
それぞれの武勇伝や得意な事などを訊いて回りと、どこも忙しく、
会場そのものから活気があふれ、
静かに佇んでいるのは実のところ襲撃に備え
客や周囲に目を光らせている、カツミとリッキーのみ。
彼らも世間話くらいはしているが、
その目は南と西に建ち並ぶアパートやマンションより
東の酒場ビオーラの裏口や、
北にあるガンショップヒーズアウトの裏口を注視し、
マフィアかどうかさえ分からない個人より、集団を警戒。
彼彼女らは集まると気が大きくなってこの会場に乱入し、
客に絡むかも知れないので二人は特にその事を心配しているようだ。
ここは町の東南にあって北へ続く大通りから西へ
車二台がぎりぎりすれ違えるだけの細道を入ったところにある
場所なのだが、当然そこにはペスカーラもいて、
彼はキアーロのそばでその会話を助けながら
自分の前にくる客達にはファミリー入りに最低限必要な血の掟を教え、
特別に招待したコメディアンをいつ登場させようかと、
タイミングを計っているところだ。
そこで、レットーラとファルコが戻ってきたので
客の相手を彼らに任せるキアーロ。
彼はそのまま酒場ビオーラの明かりを浴び煙草を吹かす
アン・クールアイズに声をかけ、
パーティーの様子やファミリー入りの意思を確認する。
『どうだっ?特別招待してないのに来てくれたって事は、
ファミリーに興味があるのか?』
『何で呼ばなかったの?私の番号なら役所で訊けるのに。
それはうざい奴がいて何度か変えてはいるけど…』
聞いてかるく詫びると彼女の有能さを称賛するキアーロ。
元々派手過ぎないパーティーを気にいったアンは
噂を聞いていただけの昨日より
ずっとカンパネッラを好きになってくれたようだが、
仲間になってくれるとは限らず、
そこに聞こえてきたのが大きな拍手と口笛。
キアーロも見ると西にある日傘には、
小太りの体に黒いタキシードを着て黒革のカウボーイハットをかぶり、
ネックレスや指輪を金で揃えた長髪の男が立っているのが見え、
彼は立派な髭をたくわえた口を開けるとまず、自分への声援を抑えた。
『まあまあ、待ってくれよ。あまり歓迎されても困るなー。すぐ帰るんだ』
『アハハハハッ!今日はいくらもらったんだー?』
『彼のサイン持ってるわっ』
そうこの男こそペスカーラの呼んだコメディアン、イラーリオ。
実世界の誰なのかつまり実体は不明だが、このガラミールにおいては
危険な印象のある南部以外の掲示板には多くの投稿を残し、
酒場やパーティーに乱入してはジョークを飛ばす代表格のコメディアンだ。
そして早速だが、赤い日傘のある北側まで歩くと、
そこに立つペスカーラの背中に銃を突きつけて追いだす彼。
イラーリオはそのまま小さなメモを手にすると今日は詩を朗読すると言い、
そこには更に会場外からも人が集まる。
『ああっ、では聞いてくれ。題は…こだわる男だ』
『いいぞ!また最高のジョークを聞かせてくれー!』
『キャー!あんた誰なのー?!
実世界での正体をここで発表しちゃいなさいよー!』
『いいや、このままの方が稼げる。余計なお世話だ。
ええでは題…こだわる男。
私は、腹が減ってもリストランテになんて行きたくない。
何故ならお金が無いから。
私は、一回の食事に使う皿は、二枚まででいいと思っている。
…何故ならお金が無いから。
私は、質素倹約な人物が言ってきたように、
服なんて着れればいいと思っている。
寒さを凌ぎ、暑過ぎないようにできればそれ以上はない。
サングラスなんてかけたくないっ。宝石も要らない!
どちらも身に着けるだけで、上品にふるまうのを難しくするじゃあないか。
だが、この何年も同じ服を着て装飾もいらない最大の理由それは…
お金が無いから。
そう私は、家が町から遠いのは近所に住む仲間と同じで、
むしろ良い事だと考えている。
素晴らしい事だ。第一私達イタリア人は超のつく車好きで
ずっとずっと遠くまで運転する事が楽しみで仕方なく、
途中で故障しても大好きな車屋のおじさんと話す、良い機会だ。
だがお金があれば町へ越す。
だが私は、だがそれでも私は、慎ましい暮らしを美しいと信じ、
高級車なんて買うもんじゃないと思って…久しい。
何故ならどうせ私達イタリア人は人生の最後に
霊柩車として乗るのだから、お金も無いし、買うもんじゃあない』
そこでイラーリオが両手を挙げ、
かけ足でヒーズアウトの西にある小道から出てゆくと巻き起こる、
大きな拍手。
『今日も最高の皮肉だったぜー!』
『走って行ったのがヒーズアウトの方っていうのも面白い』
そう最後の霊柩車が高級というのはイタリア特有だが
今日も人々を楽しませ、ペスカーラから
謝礼を貰うことさえ忘れたイラーリオ。
当然後で支払うつもりのペスカーラだが半分はその奔放さにあきれ、
首を振りながら今度は主催者である九人を除くビンゴ大会の開催を告げ、
それを聞いて盛り上がる会場。
賞品は、掲示板において善のファミリーカンパネッラが
ソルジャーの募集を締めきった事を告げる権利と
その購読料15tiで集まった合計の半分で、
パーティーがいかに楽しかったかも
少しは説明しなければならないようだが、
早速ペスカーラが借りてきたビンゴマシンに人数を入力すると
参加者全員のアイテム欄にはその分のカードが現れ、ゲーム開始。
キアーロとファルコやアレッタも視線を大きな円盤へと向け
そこに走り寄ってきたのが薄青い長袖のワイシャツに灰色のベストをあわせ
外側へ巻きあげた長めの金髪に紺色のボーラーハットをかぶった、
デルフィーノ・アルドという青年。
大きな瞳が特長の彼はキアーロの前に来ると穏やかに、
それでもはっきりと言った。
『ドン・キアーロ、投稿する栄誉が賞品なのはいいが、
その時カンパネッラを侮辱するような言葉や書き方は、
禁止した方がいいぜ』
聞いてなるほどとは思いながらもそういう場合には
上手くかばってやるつもりだったので、
その不安が過ぎていると笑うキアーロ。
だがそれを受けたデルフィーノは、やや調子を強くし
まずその新参に優しい姿勢は美しいとしながらもやはり人の心は分からず、
嫌がらせで侮辱的な内容が含まれた場合には
ファミリーやそれを率いるドンが疑われパーティーが台無しになると言い、キアーロは今度こそ納得。
彼はファルコに指示してその助言をペスカーラに伝え、
デルフィーノに礼を言いながらも曲事団との言いあいを思い出し、
あの投稿に加えもしも今回の投稿が誤解を招くようなものになれば
自分達に粗暴な印象が残ってしまうかも知れないと考え、
真面目な顔で紺色のボーラーハットを見送る。
そこでアレッタとファルコに投稿についての説明を求める彼。
二人が交互に説明したところによると役所と役場
それに病院、郵便局、貨客船の港、両替所などは24時間体制らしいが、
掲示板のあるスタラドには投稿協会という施設もあり、
そこはどこの掲示板に投稿したものの購読料も受取れる代わりに
運営時間が決まっていて、その報酬を受取るには
個人だろうとファミリーだろうと直接行くしかないらしく、
それを知って微かな恐怖を覚えるキアーロ。
ファルコは改めてそのガラミールらしさを笑ったが、
同時に彼は、購読料の半分をファミリーが受取るようにするには
投稿者がそう設定してキアーロが許可する必要がある事と、
無料の投稿は古い順に、
有料の投稿は古く購読料が高い順に消される事を教え、
またそうこうしている内に三人が不参加のビンゴゲームは決着し、
短い金髪と灰色のジャンパーが特徴のベデーレという勝った男には
拍手喝采。ただ喜んだキアーロにも気になる事があり、
それはアレッタに訊く。
『勿論ただの参加者でもいいが、彼はソルジャー志願の人物か?』
『ええ、確かレットーラが獲得経験値に驚いて、しばらく話していたから』
『上手くいったなぁ。
このままファミリーに入ってくれればこれも、いい思い出になる』
そう迷っている志願者に配慮して特技調べ上げるを使わず、
調べるにとどめていたカンパネッラ。
自己申告なので姓名や獲得経験値以外ほとんど何も分からない者もいるが、
それに特別きき込んだ情報を加えたメモは今
レットーラがキアーロに渡した。
『じゃあドン、一応これを見ながら皆と話してくれ。
その後は予定通りビオーラで、彼彼女らの意思を確認する』
それを労い彼のうしろに立つカツミとリッキーを見るキアーロ。
訊けばカツミ達はこれからベデーレと共にスタラドの掲示板へ行くようで
それにつき従う者は既にソルジャーになるという意思を決めた新参らしく、
喜ぶと共にキアーロはその三人を見る。
そうまず一番左に立つのは、黒いワイシャツに黒紫のスーツを羽織って
それに同じ色の中折れ帽子をあわせ、ネクタイは締めず、
赤い髪の奥から細く鋭い目をのぞかせたヨリクニ・バイカ。
その隣に立つのは
白いシャツの上にやや派手な薄緑のスーツを着た長身の男で、
銀地に青がななめに入った縞模様のネクタイを締め、
頭をおおうのが青に赤い花のバンダナだったのでキアーロが訊くと
彼はそれを一部で流行っていると教え、
同時に両拳で闘志を示しながらリード・ウッズと名乗り、
右に立つのは黒いロングコートに
同じ色の中折れ帽子をかぶりサングラスをかけたやや背の低い男で、
一見渋いようだが、かすかに青い髪のかかる首に金のネックレスをした彼は
一歩前へでるとセイン・スゾーと名乗り、
それと共にキアーロに強く意気込む。
それによるとどうやら彼は、自分で調達した炸裂弾で
敵ファミリーの店に襲撃をかける事さえできるらしく、
それぞれに意欲を感じとったキアーロは三人を正式に、
ソルジャーと認めた。
『だが本当に良いのか?これからしばらくはここで志願者達と話して、
ビオーラではそのファミリー入りについて、
じっくり話そうと思っているんだ』
そのキアーロにもはっきりと言うバイカ、リード、セイン。
『問題無いぜドン・キアーロ。
あんたの命令なら犬のように従って、虎のように戦うぜっ。
当然グロートも好きだがなぁ。ハハハッ!』
『楽しくやろうぜ!初めての仕事がビンゴゲームで勝った奴の護衛なんて、
面白いじゃないか』
『ああ、オレは対武器炸裂弾も持ってるから、
それを投げた時がチャンスだ。
銃を破壊すればそのまま勝てるかも知れねぇし、
無理でも敵の注意が逸れるからな』
聞いて安心したのか次にカツミを呼ぶキアーロ。
彼はそこで購読料の受取りに関する契約や
投稿する際のベデーレの安全について話しているようだが、
待っているリッキーはバイカ、リード、セインに囲まれ、
彼らに挨拶されている。
『あんたがバルラムにいたリッキー・ハジョか。噂は聞いてるぜっ。
よろしくな』
『心強いねー。EAに入ろうかとも思ったけど色々面倒そうだし、
リッキーもいるなら寧ろ、カンパネッラの方がいいぜ』
『よろしく頼む。
同じソルジャーでもここに居るのは、やり合うタイプの人間だっ』
だがそれに振り向いたリッキーは、うるせぇ若造は黙ってやがれ…と一言。
当然一瞬の間三人は言葉を失ったが、かみついたのはバイカだ。
『なんだと?』
『ハハハハッ!ジョークだよジョークッ。悪かった。
三人共オレがクナイマで悪さばっかりしてたと思っていたみたいだからな、
その期待に応えてやろうと思ったのさっ。
それにしてもお前根性あるな…!』
『ハハッ!なんだそうかよ。でも、楽しくなりそうだぜっ』
そうこういうジョークは危険なのでキアーロなら怒るが、
それを知らない彼はカツミ達を見送ると接客が好きなリカはそのままに
アバードを襲撃への警戒に当たらせ、
アレッタやファルコと共に南側へと移動。
そこへ残った二十数人の志願者を呼ぶ。そうビオーラの裏口辺りには
大きなテーブルもあるのだがそれは座れても十二人が限界なので
まず立ち話になったことを詫び、両腕を広げるキアーロ。
その彼が自由な会話を提案すると志願者達は様々な声をあげ、
まず来島するなり南部で二度死に今は未改造のピストルが懐にあるだけの
長い金髪に黒いボーラーハットを被り灰色のスーツの腕をまくる
ロッコ・ウルバーノは、
一部の雑貨屋で中古品を扱っているのは知りながらも
他にもっと安く車や服を手に入れる方法はないかと訊ね、
それにキアーロは実のところレットーラから教えられていた、
昇日(のぼりび)をすすめる。
その昇日とは来島したばかりのプレイヤーにサービスとして与えられる
初回限定品の銃や車あるいは服を安く売買している者の事であり、
彼彼女らの扱う品は店では引き取られるだけで金にならず、
車や服の色等は売った人物が選択したもののままだが
格安で販売されているので、
見た目や性能にそれほどこだわらないプレイヤーには
とても人気のある商売であり、それを聞いて拳をあげるロッコ。
彼はまだ誰ともふかい付き合いができておらず同じように訊いても
雑貨屋やその友人を教えられるだけだったので、
キアーロの助言には感謝し、その話を聞いていた
実はミニゲームが好きで島のウチゲーを気に入っている
ソバージュの髪に黒いトレンチコートを着てヒョウ柄のスカーフを巻いた
アロマ・ブラックアワーは、新参をおおく知る友人がいるので
その人物にも話すからと、カンパネッラも昇日をやってはどうかと提案。
だがキアーロはそのアイディアと積極性を褒めながらも
自分達はもっとガラミールのことを知って仲間との絆を深めるべきだとし、
そうしてまず土台を築いた方が後になって
稼いだり名声を高めたりした時に揺るがないだろうと理解を求め、
それでもそんな彼を勇気づけたのはファルコ。彼の主張は要するに、
その見聞を広めたり絆を深めたりすることを
疎かにしなければいいのであって
同時に昇日の商売も始めればいいというものだが、
キアーロはそれを東部に昇日がおおいことも考えれば
遠出しなければならなくなる可能性があり、そういった状況で
安全に大勢の仲間と商売するのは難しいのではないかと
代わりにメーツベルダの各店、
つまり縄張りを利用した商売や取引を提案し、
ファルコに同意を明らかにしてもらおうと、握手を求める。
だがそれに反対はしないファルコも両手をあげて首を振り、
笑いながら言う。だったらそれもやろう…と。
聞いてどっと笑いだす一同。勿論ファルコも
ソルジャー志願者のほとんどがファミリー入りしたならの話で、
キアーロも笑ってはいるが、
やはり彼はドンとして手堅い稼ぎ方をしたいようで
騒ぐ何人かに対してはファミリーの掟を引き合いに出し、
そこでは一員から自由な商売や取引が許されているのだから
どうしても昇日がやりたいならそれを活用できると言ってアロマとファルコが推す案も、機会があれば再考すると約束。
そうして皆を納得させられたようだがそんなキアーロに今度は
はじめの自由な会話という言葉を信じるロッコが、
百人、二百人の大きなファミリーと抗争になった時には
どう戦うのかと質問し、所属数と動員数の違いについても説明を受ける。
そうそれによると2000人以上所属しているタラントさえその全員が
ドン・スタンレーの命令一つで集まる訳ではなく、
実際に動員できるのは多い時でも1300人前後という噂で、
それが動員数という本当の脅威になるらしく、
当然キアーロはそうした巨大ファミリーとは無理して戦わず、
何かあっても余程仲間が傷つけられない限りはなるべく話し合いで解決し、
もめ事が無いなら少しずつ勢力を拡大していくつもりだとも言って
皆を納得させ、やはりそれが不安だった
黒いショートヘアーに青いドレスを着た女ヒートヘイズは
今度こそ安心して、人前で堂々と話すキアーロも凄いが
アレッタとリカの接客がよかったと大きな声で称賛。
それを聞いたアレッタは彼女に手を振り
リカも遠くでトランプカードを片手に祝砲をあげ、
そうなるとキアーロの言葉にも熱がこもる。
そこで語られたのはこのガラミールの、というより、
このマフィアズライフの楽しみ。
そう実は、このガラミールにある多くの店ではパーティー依頼が可能で、
それにはさっきのビンゴマシーンからあらゆる料理、
それに配膳係と接客係まで付いてセット料金なので利用者は多いのだが、
カンパネッラはまだ立ち上げたばかりだという事に加え
パーティーに詳しいペスカーラやしっかり者のアレッタと
接客好きのリカもいるのでそれは利用しなかったらしく、
それを聞いても貧乏臭い等とは言わず自分もファミリー入りしたなら
アレッタ達を見習いたいというヒートヘイズ。
場は彼女の明るさと素直さに和んだがキアーロは
カツミからの着信にその役目を、レットーラに譲る。
『さあ、じゃあ次は何について聞きたい?』
またそのレットーラにも挙手するアロマやデルフィーノ
それにロッコやヒートヘイズ。
キアーロはその様子を微笑ましく思いながら煙草に火をつけ、
携帯電話を手にした。
『ああ、どうだった?悪党共の邪魔はなかったろうな?』
『ハッハッー!オレとリッキーがいるんだぜ。奴らには何もさせねぇよ…!
投稿の契約も予定通り半分がファミリーに入るようにした。
だがオレ達の読みは当たって、怪しい奴らはいたな』
『ほぅ…どんな奴らだった?』
『素性を隠した奴ら、バルラムファミリーの三人組それに、
キッキーニのカポで金髪を散らした目のするどい奴、
あいつなんて名だっけ?』
『下から一本だけ犬歯が生えた、背の低い男だろ?』
『おお、そいつだっ』
『ピストル好きのティノさ。
あいつに殺されそうだったところをレットーラに助けられたんだ』
『ああ、そうだったな…!だが今夜は、何も言ってこなかったから、
これから皆で帰るところだ。安心してくれ』
だがキアーロはそんな彼にも最後まで油断しないよう念をおして
通話を終え、また会場に目を向ければそこではレットーラが
RMTについて話していたので今度はそれを聞く立場となった。
それによるとこのマフィアズライフに限らず
最近のオンラインゲームはどこも
プレイヤーの実体を細かなところまで把握し、
RMTには必ず運営が間に入り、状況に応じて何度も両者の合意を確認し
必要なら通報の準備もして行われるが、そこでもレットーラは詳しく補足。
たとえばRMTに似た、
武器や家具等と現金を交換するシステムのようなものは無く、
それが可能になってしまえば島の品々だけでなく
それを手に入れる為に必要なグロートの価値まで下がってしまうと言い、
新参達を納得させた。そうその続きによると
たとえば現金100万円を1Grと交換する事も
様々な確認や手続きが必要な場合があって難しいらしいが、
それらは全てこのガラミールとプレイヤー達を守る為にある。またそこで、
純粋にゲームを楽しむ為だけに居るからと
RMT自体が不要という意見を述べたのは、
カスタードクリームのような色の横分けで丸い眼鏡をかけ、
黒い燕尾服を羽織り、それと同じ色の細いスラックスをはいた男
イク・シモーニ。ただそれには後ろで話を聞いていたアバードが手をあげ、
どうせ外の世界でよこせと言ってガラミールで譲渡させる行為や
その他の強制を禁じるのは難しいのだから、
運営が間に入ったRMTはあった方がいいと主張し、
シモーニは納得。すっきりしたところで今度は再びヒートヘイズが
依存症対策について質問したのでそれにもレットーラが答え、
運営は依存症と思しき人物がいる家族に対して24時間体制で臨み、
本人確認に必要なデータの送信をしてもらっていると、
まるで島にいる警官のような知識を披露する。
そう素直なヒートヘイズはそれで納得したようだが、
まだ不安を拭えないアロマに近づくのはキアーロ。
彼はアバードからアロマが自分の紹介であると聞いて
すこし話しているので気軽に声をかける。
『安心しろ。他ゲームが見習った方がいいほどの運営だ』
『ええ、でもそれは今のところだから…色々な問題が出てくると思って。
だって、ものは言いようでしょう?嫌な言い方をする奴もいるから』
『ハハッー、大丈夫…!これを見ろ』
言いながらキアーロは彼女にネットワークで
このマフィアズライフの評判を載せている掲示板の一つを見せたが、
そこに並ぶコメントが以下だ。

▼あの島は少しでも油断するとすぐ裏切られるから二度と行かない。
▼どうでもいいがウルバーノファミリーのストラーノ、あいつだけは殺す!
▼メーツベルダに住めば?
面倒見のいい人がストレイトファミリーのカポで、南側を支配してるよ。
▼車は高いけどガソリンも課金もいらないからオレは満足だな。
▼マフィアの島って言うけど自然もあるしNPCの先住民もいるんだよなー。
▼今このゲームのこと調べてて
まだクレイメッドしか覚えてないんだけどさ、
特技の食いしばるを覚えた時画面には何て表示されるの?
友達に訊かれてるから。
▼食いしばれるようになりました…と表示されます。
要するに特技の調べ上げるを覚えると、
調べ上げられるようになりました…と表示されます。
▼ありがとう!
▼テストプレイで安全点の確保に成功!
去年のモデルですがクーラーを貰いました。今回も参加中です。
▼テストプレイで通信料を78,000円も得しました。
観光客来島の催し、おめでとうございます!
▼観光客やってみたけど、やっぱり島民になるのが一番かな。
友達はたくさん稼いでるし。
▼消費期限を考えず栄養機能食品を貰い過ぎたので、誰か買って下さい。
▼前回の目標安全点4って厳し過ぎだと思いますが、
私が下手なのでしょうか。
▼毎回名前変わるから前に話したジェイクと会えないんだけど、
誰か西部のギフトチェックで話さない?

よってキアーロのゲーム愛に感心するアロマ。
だが彼女は観光客来島の催しを知らないようでキアーロはそれについても
参考資料を見せて説明し、その一部が以下である。

貨客船の切符ガラミール行きを手に入れれば、島の観光客となり、
逃げたりやられたりするその他大勢になれます。
そう既に島民となっている方は全データを消さなければ使用できませんが、
得することや面白いこともあるので是非ともご参加下さい。
…観光客プレイについて…
一年を通した催しであるこの観光客来島では、
その終了時の安全点や難易度に応じて三ヶ国で売れ残ったあらゆる商品を
数万円から十数万円分無料で受け取る権利が与えられ、
中でも上位に入った数十人から百人ほどの方にはそれに加え、
PCかCP(クリップフォーン)の通信料が
一年分無料になる特典が与えられます。
つまり、友人や遠く離れた家族とガラミール島での会話を楽しみ、
たまに島民達(主にマフィア)の銃撃戦から逃れる鬼ごっこをするだけで、
その権利や特典を得られるかも知れないという事です。
また島民が故意に観光客を攻撃する行為は警察署に訴えると
相手を逮捕する事が可能で、認められれば安全点を二つ獲得できます。

『お前はきっと知識欲が旺盛なタイプで、知っていると思ったが…』
『いいえ…ありがとうドン。これも面白そうね。
でもこいつら邪魔にならない?』
『いいや、観光客プレイをする者にも利用規約が適用されるから、
プレイヤーの邪魔になるようだと永久追放処分もあり得る。
だから心配するな』
『ハハッ!それなら安心ね。
第一に実世界での印象なんて気にしたら
ゲームでもマフィアになんてなれないっ。
そう感じた勢いで来島したから、読み忘れたのね』
だがその彼女には知性と積極性を感じ、期待するキアーロ。
よって彼はもう少しアロマと話したかったが、
そこへカツミ達が帰ってきたので
カンパネッラは予定通り新参達の最終的な意思を確認する為、
キアーロとカツミそれにレットーラがビオーラへ。
他はつづくパーティーを楽しみ、中でも今迄接客に精を出していたリカは
既にファミリー入りを決めたリードを見つけると、気さくに話しかける。
『やあ、どうだパーティーは楽しんでるか?』
『ああ、やっぱりファミリーの一員になると、緊張感があっていいね。
掲示板では何度場所を変えても目の前にきて睨んでくる女がいて、
リッキーが助けてくれたぜ』
聞いて言うのはセインとリカ。
『まあ気にするなリード。誰でも最初はそんなもんさ…』
『何っ、一体どこのどいつだ!
オレの仲間にそんな失礼な態度をとる奴はっ』
そうそれはダグロートファミリーの女で
自称ドン・ソニーの恋人だったらしいが、やはりそれに怯まず、
今度見かけたら教えるように言うリカ。
ただリード達は他の新参の意思や会話が気になるようで
彼女に断ってビオーラへと急ぎ、
その彼らと入れかわるように来たのはバイカ。彼はリカを見つけると
挨拶もそこそこに、北東にある店の裏口あたりに怪しい奴がいると教えた。
『ああ、確かに三人とも素性を隠してはいるが、その他にはどう怪しい?』
『実はそれとなく話しかけてみたんだが、こう言われたんだ。
別に…いいパーティーだと思ってな。
それは軽い気持ちで参加できるパーティーではあるが、
何か不愛想じゃないか?』
『うーん…その言い方は、ちょっと怪しいな』
『だろ?だからオレはこれも、ドンかダイドに報告するつもりだ』
『ああ、それがいい。もしかすれば曲事団か、コルボ、
あるいはクーパーかバルラムの奴らかもな。
そう奴ら、善良なファミリーが結成されたんで、
偵察に来たのかも知れねぇ』
『そういえばさっきビオーラに入っていく時のナイト・ミラー見たか?
あいつただでさえマフラーで鼻先まで隠してるのに
素性を隠したままでいいかって訊いて、
VIPルームに入ったら解除するように言われたらしいぜ。要注意だな』
『だがそれは用心深くて、頼もしいじゃねぇか。
第一ここにいる人間はそのナイト・ミラー以外全員、
素性を知られてるんだぜ』
『おお、お前頭いいな…!尊敬するぜ』
そうして意気投合する二人。
他はしばらく、北のテーブルでリッキーが客の二人とポーカーをし、
中央ではファルコが間違うとつまずくダンスでペスカーラと勝負するなど
大いに盛りあがったパーティーだが、
ビオーラから出てきたレットーラは
すぐファミリー入りした新参の名を発表。それによると
アン・クールアイズをはじめ、デルフィーノ・アルド、
ヨリクニ・バイカ(ペスカーラの紹介)、
リード・ウッズ、セイン・スゾー、ロッコ・ウルバーノ、
アロマ・ブラックアワー(アバードの紹介)、イク・シモーニ、
ナイト・ミラー、ベティー・ゲート、キャメロン・アド、
シン・クラーク、コーテル・イリカ、メイ・カタナ、
ロモロ・ギャスマン、ジミー・チャーチ、ウィリアム・パーカー、
パメラ・カーロ、エルネスト・カンターレ(ペスカーラの紹介)、
デポーター・ビジー(レットーラの紹介)、カメーリャ・パッソー、
インパット、ピジュン・バネズ…という
計二十三人が一夜にしてカンパネッラ入りを果たしたらしく、
画面に大きくため息をついたキアーロはすぐ感激の声を上げる。
「ああ、オレがこんなにも仲間に恵まれるなんてっ…!」
そう大体にしてその本人がもうドンとして喜びの頂点にあり、
時間を忘れている。
だがそこですぐヒートヘイズとベデーレを捜すキアーロ。
彼は入らなかった二人とももう少し話したいと思い東の大通りまで出たが、
それを追って来たのはアレッタとカツミ。
二人はアロマからの情報でヒートヘイズが
バルラムとラミナーサの町を奪い合うショットガン22に誘われていた
と知っていたのでそれをキアーロに教え、
それでも三人は騒ぐこともなくゆっくり会場へと戻った。
そう実世界では一人のゲーマーでしかないキアーロにとって、
いつもはただ寂しく冷たいだけの夜道。
それが今仮想世界とはいえとても甘く夏祭りのような胸躍る空間となり、
先には自分が主催のパーティーがある。
ああ、これからが楽しみでならない。
よってこの時の彼は巨大暗黒街を満喫していた。


もう烏も鳴かない頃、人の気配もまばらな大通りからクラクションを鳴らし
挑発しているのかと思えばそれは歩道で黒人の記者から取材を受ける
カンパネッラファミリーのソルジャーセインの悪友で、
その派手な紫色の車から身を乗りだした男女は彼に手をふると
また猛スピードで走り去った。
歩道は街灯の光に照らされ鮮やかなクリーム色。
セインとハンチング帽をかぶった記者がたつ後ろの建物は
もう営業時間を過ぎているので暗く、
洋服掛けにあるワイシャツやポスターが濃淡ばかりで主張している。
2Ⅾゲームなので見えている北の通りでは
パーカーやトレーナーを着た男達が
大声でスロットマシーンについて話しこみ、
南の通りにある酒場前では喧嘩とその仲裁に人が集まっていたようだが
それも落ち着くとこのラドロのメインストリートさえ静かになり、
なおも聞き込みをつづける記者。
彼は画面上に漫画などによくある効果線を見せるほど明るく、
煙草を片手に上機嫌でその取材を受けるセインも
実は数時間前に終わったパーティーのことを、話したくて仕方ない様子だ。
『じゃあ、ドンの覚えもめでたく、最高の滑り出しですねぇ。
厳しいファミリーではまずアソシエーテの立場で様々な仕事をこなして
やっと認められるっていうのに、カンパネッラを選んで正解でしたね』
『いいや、大変なのはこれからさ』
それからセインが語りだしたのは炸裂弾の凄さと、新参の無知。
そう彼が言うにはこのガラミールにおいての炸裂弾というものは、
周囲にいる無関係な者を巻き込みあるいはたとえ敵でも
その人命を損なうとして二百年ほど前に消えた爆発物のかわりに登場し、
対建物炸裂弾、対武器炸裂弾、対車両炸裂弾の三種類があり、
それらはどれも人体に害を与えず、
投げてから標的に当たるまでに三秒の間をうみ
注意を払ってさえいれば解除できるもので、
武器と車に限っていえばアイテム欄の一番上にあるなら無傷で済むが、
もしも使用時に現れる炸裂弾やその周囲にある円のいずれかを
クリックできなければ対武器炸裂弾なら中心にいる者達の銃は
消えてなくなり、その周囲にいる者達の銃もダメージを受け、
対車両炸裂弾なら、車は廃車。つまり大きな損害をもたらすので
皆がそれぞれをあてにしていたり、何かに気をとられていたり、
あるいは解除を試みた誰かが失敗した場合などには炸裂し、
一挙に形勢を逆転できるものなのだが、
新参達はそれを分かっていないというのだ。
そうその軽視こそが自分の存在さえ軽くすると思えて仕方ないセイン。
『まったく、笑えるぜ!
でも炸裂弾ってクリックで解除できるんでしょう?
3,000Grくらいするんだろう?…だとよっ。
実際殺されれば所持金は当然として予備もふくめた銃や車
それに服や貴重品も分捕られて、店も誰かに占有されちまう。
それが一体どれほどの損失になると思ってるんだ~?』
『アハハッ、そうですよねー。やっぱりファミリーの…というより、
ガラミールの新参なのでは?』
『きっとそうさ…。だが、今に見ていろっ。
オレが炸裂弾や火炎瓶がどれほど頼りになるか、教えてやるっ』
そしてそれからも機会を逃さずセインに、カポになる自信はあるか、
誰を一番尊敬しているか等の質問を投げかける記者。
またしばらくして彼が写真をとる許可を求めると、
セインも快くそれを受けいれる。だがそこで…言葉を失う彼。
セインは画面を見ながら持っていたペットボトルを落としそうになり、
慌てて握りなおすとすぐそれを目の前に置いた。
ドンッ!
そう光ったのはカメラのレンズではなく、ナイフの切っ先。
にやりと笑った記者は下からセインの腹を何度も突き、
そのザクッ、ザクザクッ…!という音に、銃を出すセイン。
逃げる記者は東の角を北へと曲がり、彼も追いながら撃ったがその疾走時、
回避率は上がっても命中率が落ちてしまう摂理と距離のせいで、
直撃はしない。
そして記者はまた角を西へ。
そこでセインは襲われてからはじめて声を上げる。
『おいっ、そいつが急に刺したんだ!お前らも見ていただろ!
捕ま…いいや、もう殺してくれぇ!!』
そう彼は北の通りで話していた男達に叫んだが、
彼らは記者をやり過ごすとセインに銃を向け、
その行動に何もかも仕組まれていたと気付いたが、時すでに遅し。
ダーーンッ ドドッ ドドドドッ!
『ああ、くそぉ!!』
最後にその言葉を刻むと全身に銃弾を受けうつ伏せに倒れるセイン。
画面は徐々に白く染まりゲームオーバーとなった彼は実のところ
記者が素性を隠しているのを怪しんでいたが、用心の必要な仕事だと言われ
それ以上追究しなかった自分の不用心こそを、嘆いていた。
その十数分後…ナーキレイの海沿いに建つ高級マンションの一室には
ある一人のアフリカ系の男がいた。
その広い部屋の右手にあるのは白と灰色で大人の雰囲気が漂うベッド。
奥にはスーツが並ぶ木製の洋服棚があり、
中央に立つ鏡の柱を境に左奥に見えるのはシンプルな造りの白い浴槽で、
その一画から左手前までは全てガラス張りとなってその先にあるのは、
まるでケーキにのったお菓子のように小さく見える家やビルと、遠くの海。
だが男が見ていたのはその眼下の街や海ではなく、
手元にある色とりどりのサファイアだった。
深い緑、甘く誘う赤、太陽のようなオレンジ、中でも一番のお気に入りは
ところどころ白く輝く紫のサファイアだが、
時々男はそれをカチカチと音を立てて転がし、
手に持って撫で、気付けば小一時間もそうしていることがあり、
事実グロートにしてもいい値がついてしまうのでその現実も、
彼をつかんで離さない。そうこの人物こそ実は、
貸衣装屋で記者用の一式を購入していた殺し屋、ストラーノ。
彼がこれからまたどんな仕事をするのかを知る者は少ないが、
その思考では既に犠牲者の命全てが
目の前にならぶコレクションの一部になる計算だ。
よってその喜悦にたまらず、
右奥にあって青く光るエメラルドカットの指輪をとる手。
だがそれからしばらくしてゲデルの町に現れたのは、
むしろもっと大きく陽性な未来を思いえがいた
標的のカンパネッラファミリー。
先頭のカツミとそれに続く数人は通りを真っすぐに北へと歩き、
左手にある道の半分までテーブルと椅子を出したレストランを過ぎ、
右手にある服屋には興味をひかれ一度立ち止まりながらも
二、三会話を交わして後、待ち合わせの場所へ。
カツミに続くのはすぐ後ろからキアーロ、アレッタ、
ペスカーラ、リード、ファルコそして
キャメロンにギャスマン。
若く明るい印象のキャメロン・アドは薄っすらと赤い肩までの髪に
ワインレットのスーツには白いハイネックのセーターを合わせ、
その下には黒いレザーパンツをはき、
ロモロ・ギャスマンはもう六十はこえたように見える男で
中折れ帽子とスーツの上が灰色、下が黒で小太りなのだが
それが優し気な雰囲気を生んでいる。
そんな彼彼女らの前に現れたのは深緑の木々とその奥に佇む
細長い鐘を思わせる礼拝堂。
するとそこで手のひらを見せキアーロを先に行かせるカツミ。
中には左右に木の長椅子が並んでその右手に
祈りを捧げる黒いTシャツの男が座り、左手の奥では
神父を前にしたスーツ姿の二人組がその話を聞いているようで、
奥にあるステンドグラスには波がかった長髪と髭が特長の老人が
赤い衣をまとって銀の杖を手にした姿が描かれ、
その前に置かれているのは一つの胸像。
そこには既にカンパネッラファミリーの九人が立ち、
キアーロ達に気付くとまずその中でもバイカが寄ってきて、
カツミに両腕を広げた。
そう彼はカツミが待ち合わせに指定したこの場所が気に入ったようで、
その後ろでもアバードやリカが振り向き、
そこで胸像まで歩いたカツミは目の前にあるそれが
ディダインの侵攻で大将だった英雄バルナのものであると教え、
一同の注目を集める。そうその胸像は鉄で造られており、
短い巻き毛で女のように美しい顔を持ち、
両耳の上に大きな翼の飾りを付けているのだが、
カツミによるとその一番の特徴にも深い意味があるという。
『実はオレが一番好きなのは武勇に優れた英雄グスプローバの像なんだが、
このバルナが飾っていたという翼は意見を求めなくなった時に
下ろされていたらしくてなぁ、それを知ってから可哀想になって、
たまにここにも来るようになったんだ。それは将兵に厳しかったようだから
何度か暗殺されそうにもなっている彼だが、
本当にこれ以上誰の意見も聞かなくていいって時も…
あるだろうと思ってなぁ』
そこで訊いたのはキアーロ。
キャメロンはまだ何人も来ていない仲間がいるので
入口を見ているが、他は黙って二人の話を聞く。
『やはり戦闘民族だから、非情な指揮官が必要だったという事か?』
『いいや、普段のバルナはとても優しかったらしい。
そして今の東部辺りまで支配を進めて抵抗が激しくなった時
一度引き返そうと言う者が増えたらしいが、反対のバルナは
和睦しないならしばらくはここに留まるべきだと主張して、
最後にはあの翼を下ろして軍議の場に現れたんだ。
そしてそれを見た他の将軍は皆、戦うしかないと覚悟を決めたらしいぞ。
だからオレにはこの翼が意味深く、そして便利にも感じるんだよな』
『じゃあもしかすれば金や酒とか目先の利益ばかりで、
初めから土地はいらなくて、もうこれ以上戦っても
自分達には損しかないと思った奴らが、反対したのかもな』
聞いて前へ出てきたのはロッコ。
彼はキアーロの指摘が歴史資料博物館で見た通りだったので驚いたが、
それが学んだ事ではなく映画や小説を楽しんで得た知識をもとに
推し量られたものだと知ると、さらに驚く。
『いいや、それがいいぜ。それはその程度かと言う奴もいるだろうが、
楽しみながらが一番良いぜっ』
『ああ、それにオレ達から見て野蛮な戦闘民族だったディダインなら、
土地を全て手放しても、またその後に帰ってきた敵を叩けると
考えたのかも知れない。要するに
それぞれが略奪をしたかっただけなんじゃないか。
もう何もかも奪いつくした土地に敵が帰ってくるんだから
功績も立てやすいし、そういう部分を見抜いたバルナはますます、
戦いに決着をつけたくなった』
『ああ、そうかも知れないなっ。
博物館にはそこまでの情報は無かったが、あり得るねぇ…』
そんなロッコにはカツミが内輪話をしてその口の上手さを褒めているが、
そこに遅れて来たのはデルフィーノ・アルドとカメーリャ・パッソー。
カメーリャは長い黒髪の美女で
左にスリットの入った赤いベルベットドレスを着て、
デルフィーノはそんな彼女に間に合ったかどうかを訊き、
そんな二人に安心するように言ったアバードは一応、事情を訊く。
『別に問題はないが、真面目そうだから何か事情があると思ってな』
『いいや、悪い。事情なんてウチゲーをしていたくらいなんだ。
でもつい夢中になって…!ドン、ダイド、皆もすまないっ』
『だから、気にしなくていい。
カツミだって二十分くらいは待つと言っていたし、
皆それぞれ事情があって時間を合わせるのは難しい。
でも何のウチゲーをしてたんだ?面白そうだから聞かせろよ』
デルフィーノはそれに、生き残った英雄エリスンを狙った悪霊達と戦う
シューティングゲームだと答え、聞いたペスカーラは笑いながら言う。
『ハハハッ!
じゃあこの英雄バルナと共に四英雄に数えられる、彼女の邸にいたのか?
それなのにここでの待ち合わせを忘れられるって、
お前相当なゲーム好きだな。一体いくら稼いだんだ?』
『治療費を引いて51Gr2tiだ』
そうそれは低難易度でも二十回以上クリアしなければ稼げない額だが、
今日のデルフィーノは調子が良く、最後の方になるとやや難易度の高い
未来のエリスンを救うため
強力な悪霊をおびき出して返り討ちにする仕事に挑戦し、
そのお陰で報酬は上がったが代わりにダメージが大きくなり、
来る途中に病院へ寄ったことが遅くなった原因らしい。
聞いて死ななくてよかったと笑うペスカーラ。
キアーロとカツミもむしろ彼が稼いだことを褒めるほどで
それに安心した英雄に興味のあるアレッタは、この際だからと皆に訊く。
『四英雄って生きてるの?』
するとそれに答えたのはアバード。
『ああ、侵攻当時まだ若かったエリスンだけが生きて、
スワイデルの東にある邸で暮らしているらしい。
そう父親の地盤と兵権を継いで戦では必ず先駆けとなった彼女は今
副市長と同等の扱いで、邸に入るには特別な許可が必要だというから、
素敵な話だ』
『凄いね。それも歴史資料博物館で得た知識なの?』
『いいや、ほぼレットーラから聞いたものだが、
疑り深いオレはスワイデルやその東にあるレナ、
それに南のイリオーズにも行って
直接プレイヤーやNPCに訊いて回ったんだ。
それによると今名前の挙がった四英雄の内最後のオンカリオは
侵攻に反対だったが、戦うとなると将軍として加減する訳にはいかず
大勢を殺し、その後悔からもう自分は死んだものだと感じて
終戦後王の許可をもらって自らの胸像を首が切断されたものにして、
それを置く礼拝堂も慎ましいものにした。
だからその場所も四ヶ所の中で、一番分かり難くなってるんだろうなぁ。
未だ発見されていないのが何よりの証拠だ』
『おっ、面白い…!』
思わずそう言ったのはカメーリャ。
どうやら彼女は歴史や謎が好きなようでそんなカメーリャにファルコは
オンカリオの礼拝堂かどうかは怪しいと前置きしながらも、
思いあたる場所を言う。
『そういえば…ダースンコーズの中心から少し南へ行った辺りに
凄ぇ綺麗な小川があって、近くに塚があるらしいぞ。そこじゃあないか?』
聞いたカメーリャは興味を持ったようで礼を言ったが、
そんなファルコには、キアーロとカツミも言う。
『でもまさか本当に礼拝堂じゃあないだろう。
パーティー会場にはどうだ?使えそうか?
商売や取引に成功したら、皆でそこへ集まるんだ。きっと楽しいぞっ』
『いいねぇ。取引にも使えるんじゃないか』
『ああ、それも知り合いに訊いておく…!
ずっと行きたいと思ってたんだよ。どうせなら大騒ぎしようぜっ』
だがそんな時も冷静なアバード。
『おいおいドン、それにダイドブレインズまでっ…!
奥地の野蛮人共を忘れてないか?
あいつら曲事団はそのすぐ南の町にいるんだぞ』
それに大笑いする一同。
またアバードの話によるとダースンコーズの大半は一応
ファンガイの友人が支配しているようだが、だからといってあの曲事団が
余所者でしかも因縁のあるカンパネッラが来たと聞いて、
黙っているとは思えない。だがその恐怖を拭いさるように言うのはリード。
『確かにアバードの言うことは正しいが、
あいつらなんて最後にはEAにやられて、お終いなんじゃねぇか?』
それにあり得ないと首を振るアバード。リカやファルコも
現実的に考えれば壊滅するくらいならクーパーやコルボなど
同じ悪のファミリーに泣きつくのではないかと言い、
奴らと正面から言い合ったカツミも三人と同じ意見だ。
ただそれでもEAに対する期待が大きいのか
リードの意見が正しいと思う者は多く、中でもバイカなどは
何か小さなことで仲間割れして壊滅するだろうと予測する。
『オレはあいつらとドン達が言い合うのを見て
このカンパネッラに入ったが、あんな奴ら!
どうせ悪い事して小遣い稼ぎできれば、
後は自分のこと以外、どうでもいいんだろっ?
だからもしも奥地から出てきてもEAに勝てる訳ないぜ』
それを正しいと支持したのはアレッタやペスカーラそれにギャスマン。
キアーロも彼彼女らと同じようにEAの躍進を信じたいが、
彼は重音主の教えで常に最悪を想定しているので
リードの楽観視を受けいれる訳にはいかず、
そこでキャメロンはバイカに言う。
『バイカ面白いこと言うじゃない。うん、その通りになればいいっ。
だってもしもEAが東部の悪を一掃できたとしても
その後の平和がいつまで続くか、とても興味深いわ』
『大丈夫だ。ファンガイとその仲間達ならきっと…』
『ええ、多分必死にその平和を維持しようとするでしょうけど、
その努力はそれぞれの何気ない行動や話し方なんかで生まれた怒りや悪意に
少しずつ崩れ始めて、それでもみんな我慢して、我慢して、我慢して
ある時突然、パーーン…!音を立てて、大きなひびを入るの!
そしてそれが収束してもまたどこかで似たような
仲間割れや、事件が起きる。その繰り返しの後
このガラミールがどうなるかは、言うまでもないわ。キャハハ!』
聞いて苦笑いするキアーロ。勿論そういった抗争の繰り返しこそが
プレイヤーを退屈させないという現実は運営の計算にもあるが、
彼がそれでも仲間は大切にしてくれよ…と言うと、
今度は笑いながらも頷くキャメロン。
よってキアーロは、仲間に今の状況を俯瞰させ
ゲームを楽しむ者としては間違っていない彼女をかばおうと、
自分が少し前にスタラドの掲示板に載せたビデオゲームについて言いたい事
と題した投稿を披露し、その実は好評だったものに拳を上げるのは
カツミ、アレッタ、ロッコ、カメーリャ。
四人は既にそれを読んでいたようで
静かな礼拝堂にはまたペスカーラの叫びと、キャメロンの喜悦が響く。
『マドンナサンタッ!』
『良いぞドンッ!早く見せてー!でもペスカーラのそれ、どういう意味?』
『聖母マリアよという意味で、主に驚いた時に使う。今度言ってみろ』
そうたとえ仲間が悪いと思ってもそれを善に導いてこそ、正しい。
またキアーロの投稿とは以下である。

ビデオゲームについて言いたい事
これからゲームを愛するだろうライトゲーマーにも読んでもらいたい
投稿837年×月×日22:39 投稿者キアーロ・カンパネッラ
投稿者の評判81 読者数1966 支持1601 不支持67
コメント不可 内容表示…20ti

その一
よく言うようにゲームは映画ではないので物語が無くてもいい場合が多く、
それを想像しながらやるのも楽しみの一つだ。
だから私はキャラクター毎にストーリーが無くても記憶に残り、
十分に楽しめている。その自分の導きに従って物語を生きた
彼彼女らキャラクターを懐かしいと思えるほどだ。それなのに何故必ず、
物語が用意されていなければならないのか。

その二
大体どういうものが本当に面白いゲームなのか…が分かっていれば、
好みで評価する必要はなく、
その自分の好みを押しつけるのを第一にしたり、
強引に正当化できないはずだ。
そして、そういった事をしないプレイヤーの議論こそ有意義なので
その結果は当然私達本当のゲーマーにとって、喜ばしいものになる。
だから私達は、絵や音楽が美しいだけのものや、
かっこういい名前のキャラクターが出てくるだけのゲームを愛している
などという奴らには、負けない。
絵や音楽の美しさが、かっこういい名前のキャラクターが
ゲームにとってもっとも重要なものの一つであるはずはない。
重要なのは、ルールだ。
味方や敵キャラクターの特技も含めた能力的個性だ。
あるいは快適でなければ楽しめないから操作性じゃないか。
実はゲームなんてどうでもよく絵が好きなだけなら、美術館へ行け。
音楽が好きなだけならコンサートへ行け。
かっこういい名前のキャラクターが好きなだけならそれは、
自覚した方がいい。とても子供っぽい。
何割かのゲーム会社が底力を出せない原因は他にもあるが、
これ以上黙ってはいられない。
そう武術は現代人にとって危険な部分があるから、格闘技になった。
そしてその武術さえ今も息づいている。
だがビデオゲームには?実は危険な部分なんか無い。
個人の自制心の問題だ。だから時代とその流行がどうあれ、
昔からあったビデオゲームの良さを、忘れてはならないのだ。

その三
勿論課金する事そのものの魅力は分かるが…余裕も無いのにそんな事をして
せっかく楽しみの為にやっているゲームを、嫌なものに変えてどうする。
…あ、待てよ。でもまた一部の人間の為に、
他が課金の楽しみを味わえなくなっても困るな。
だが当然私もまったく頭を使わないゲームは好きじゃあない。
それはゲームのような何かだ。
それを本格的などという言葉で誤魔化すから、
ゲームではないと言われるのだ。

その四
ゲームのルールは少しずつ憶えればいいから、まずは楽しむ事だ。
何故なら仲間同士のルールでもないのにそれを強制する奴は
自分が面白くないだけなのだから、勝手過ぎるじゃあないか。
そいつにも不得意な事はあるはずなのに…。

その五
ゲームとアニメのどちらにも詳しくない者は、
ゲームはやるもの、アニメは見るものという現実を理解しない。
そうたとえるなら二つは幼馴染のようなもので家も育ちも全く違うのに、
それを理解できない奴らがほとんど変わらない存在として扱うから
一部しか楽しめない作品が生まれるのだ。
勿論上手く取り入れられている場合もあるが、
アニメにも明らかに無用な…ゲーム性、
あるいは操作…というものを付けて、
物語やキャラクターの良さを損なってしまったならどうする。
そうこれは馬鹿げた話ではあるが、ある人気アニメを改造し、
せっかく目が離せない展開なのにそこからミニゲームをクリアしなければ
…先を見れなくしたり、
真面目に見ていなければセンサーがその姿勢を低く評価して
お気に入りのキャラクターが傷つき苦戦するようにしてしまえば、
一体誰がそれを許せるのか!
度々この逆をゲームがされているようなので、強い憤りを感じる。
それはゲームにおいても画像が美しいのは喜ばしいが、
キャラクターと声優が合っているのは素晴らしいが、
そこにこだわり過ぎ、大切な部分を疎かにしてはならないのだ。

その六
ゲームは子供のものと思っているなら、それは大きな侮辱だ。実に不愉快。
何故ならたとえばゴルフも言ってしまえば遊び、将棋も遊びであるのに、
どうしてビデオゲームだけが完全な子供の遊びなのか。許せない見方だ。
そう実のところビデオゲームというものは誰から見ても驚異的で、
平和利用さえ可能なのだが、その説明もしようじゃあないか。
たとえばこのマフィアズライフ。これも人々に本当の喜びを与える。
そう一部の…稼ぐ知恵と金しかない虚しい者達には、
私達ゲーマーがただ暇つぶしをしているようにしか見えないのだろうが、
それこそ馬鹿げている。
死んだ魚のような目で本当に楽しんでいる時もあるのだ。
そして、楽しむ事そのものに大きな意味がある。
それは心を安んじ、生きる意味を与え、明日への活力をくれる。
要するに今は…娯楽そのものが軽んぜられているが、
ここをしっかりと押さえていれば、
多くの人々はそれを重んじる支配者達に感謝さえする。
にもかかわらず、体を動かさなければよくない。
金にならなければよくない。
何かが身につかなければ意味が無いとは、どういう事だ。
上の三つが無くても楽しいからこそ、本当の楽しみと言えるのだ。
だがまたそういったものだからこそ上手くすれば人々を心から喜ばせ、
最低限必要な我慢をさせられるのだが、実際にはどうか。
あれこれと一部の人間からもっともらしい話を聞かされ、
それ以外の大勢は、我慢ばかりさせられている。愚かな事だ。
皆何のために生きる?家族が大切な者も、金が大切な者も、
仕事が大切な者も、恋愛が大切な者も、皆それを楽しめるから続けられる。
要するに、少しでも楽しむ事が人生に意味を与えるのだから、
ゲームばかりしていても放っておいて欲しいものだ。
そうこういった話に、それは不真面目だと言いたくなるのは、
すりこまれた常識が邪魔しているか、
そのゲーマーに妻や子それに金銭的欲求や出世欲が無く、
恋愛にも興味がないという現実を無視しているかだろう。
であるのにゲームは、子供達のもの?ふざけるな。ゲームは立派な趣味だ。
だから私は休日に朝から晩までゲームをしていても、
恥ずかしいとは思わない。
また上により、ゲームは無意味だから止めろというのも、
親の見栄、他者への不理解、
あるいは自分の都合を押しつけているだけだと、
証明できたので私は満足だ。
そうクリエイターさえゲームを愛していなければその資格が無いので
彼彼女らもゲーマーだという前提で言う。ゲームは子供達のものではなく、
あるいは本当に好きであればその子達も含むが、
やはり私達ゲーマーのものだ。
そして後は製造者の人達にも少しは感謝してプレイするだけでいい。
外野の声は要らない!

最後に…
よってこの事にも真面目に考え過ぎだ等と言いたくなるなら、
その人はゲームやアニメがそれほど好きではないのだから、
もっと別な何かを見つけて、一生懸命になるべきだ。
私達ゲーマーのことは私達自身が考えるのだから、
放っておいてもらいたい。

その最後の一文まで読むと声を上げたのはカツミ。
『そうだぜっ!
読むのは二度目だが、それでもやっぱりキアーロが正しいっ。
つまりこういう考えが反映されないまま作品ができてしまう事があるんだ』
またそれを待っていたかのように
アレッタとアバード、それにファルコも言う。
『うーん…もしかして一部の作品は妥協し過ぎなのかなぁ。
それは稼がないと制作を維持できないけど、たとえば食べ物にたとえるなら
シーフードピザから海老を取るだけでは、済まない場合があるよねぇ。
それでも他の魚介類が入っていればシーフードピザだけど…
大切なのは、それでも十分に楽しめるかどうかっ』
『ああ、オレも後でもう少し詳しい話を聞きたいが、賛成だ。
何かが大きく足りないゲームもあるが、
何でも強引に合わせるのも良くない。
思い描いたものがシーフードピザなら
海老の代わりに蟹を入れてもいいが…、
大体にしてピザとして美味しくない場合もあるからな』
『これは一般的な見方かも知れないが、
ゲームに一番大切な面白さが欠けた作品っていうのは、
映画の宣伝だからそれができればいいとか、
仕事だから早めに完成すればいいなんて気持ちから生まれるんだろ。
どうして誇れる?』
それからもこの集まりではデルフィーノがネットワークの匿名性が
強過ぎるせいで子供の意見が通ってしまっている事を指摘し、
その害に憶えのあるリードはある我がままな少年少女達に
友人と遊んでいたゲームのルールを何度も変えられ、
結局つまらないものになってしまったと嘆くなどしたが、
その話題にバイカやデルフィーノがあのガキ共を連発し
ミラーがたしなめるようになると、苦笑いしたアレッタは
クリップフォーンを使ってロックンロールを視聴。
パチパチパチッとそこに聞こえた本当のゲーマー達への拍手に入口を見れば
そこに立っていたのはレットーラとアロマで、
二人に言われたキアーロが時計を見ると
すでに待ち合わせの時刻からは三十分ほど経過していたので、
一同はそこで会話をきり上げ、予定通り邸を建てる場所を決める為
今では自分達の縄張りとなったメーツベルダへ。
カツミの白いプレギエーラや
アバードそれにキアーロとロッコの車など数台に分かれた二十人は、
それぞれ乗り合わせた仲間と話しながら目的地へと向かった。
そのアバードが乗っている車は、黒のライトアイ。
これは全体に丸みを帯びた平たいオープンカーで、
目がボンネットまで届くほど吊り上がっているのが特徴であり、
耐久力はそれほどでもないが
一応四段階中三までの速さが出る四人乗りの車で、
トランクに積める荷物の数も二つと
島での生活を始めるプレイヤーに必要な装備は揃っているので
見た目の良さもあり、人気の車種だ。
そう前は2万Gr以上もする高級車の一つ
シャープファングスに乗っていたが、コルボとの抗争で廃車となり、
度々狙われるのも馬鹿馬鹿しいので買い替えたようだ。
またキアーロが乗っている銀の車は
イタリア語で感受性を意味する名のセンシビリタ。
加速が遅く耐久力も最低クラスで積める荷物も一つだが、
価格は新車でも大体3,800Gr前後と安くしかも四人乗りなので
始めにこれを買う者も多く、全体に丸みを帯びた車体が静かに走り出すのを
余裕と感じられるようなら、長く乗れる車だ。その最後尾で
排気ガスを出しながら走る緑のローグに乗っているのはロッコ。
そのガスは改造で見えないようにも、見えるようにもできるが、
あまり人目を意識しないマイペースで人の好い彼は
同乗したキャメロンの毒舌にバイカが愛想のない返事をしているので、
代わりに話しながら運転し、そんな初々しいカンパネッラが
スタラド、メレデニと過ぎて数分後に辿りついたその一画は
メーツベルダの中でもパーティーの時
キアーロが居なくなったベデーレ達を追って出た通りで、
車道は無理をすれば三台が同時に行き交えるほど広く、
黒い石畳の道に古めかしいカーキ色の建物が並び
その左手に紫の壁と一面に描かれた大きな菫が特長の酒場ビオーラ、
右手には十八種類もの商品がおどる看板が際立つ
白いチップス工場とその門があり、
今ではそれらも自分達のものだと改めて喜びにひたりながら北へゆくと
先は十字路となってその北東の角にあるのが人気料理店ボスコ。
その灰色の建物の壁には扉の右に栗毛と黒毛の馬が描かれ、
左にあるのは二人用の長椅子と樽。
大きな看板の下には屋根付きのバルコニーもあり、
そこから手を振る黒いスーツと髭の男に挨拶したカツミは
すぐふり向いてまず親指で背中にあるボスコをさし、
すぐ人差し指で南西側の角にある雑貨屋フクジンをさし、
自慢気に両腕を広げる。
そうそこは赤木の壁が特長で、ボスコほどではないが
中に店主と世間話をしながらお茶を飲めるスペースもあるので、
カツミも何度か利用したことのある店。レットーラによると
彼は前の所有者と仲がよくそこで服を売り、
場所代を高くとられた事があるのであまりいい思い出はないらしいが、
それでも週に350Gr程の利益は見込めるとして、キアーロ達を驚かせる。
その事実に苦笑いするのはデルフィーノ。
彼は自分が必死になって貯めた金と
ほとんど同じだけの額が楽に手に入ると知って、
こつこつ稼ぐことに疑問をおぼえたようだが、
キアーロとレットーラは言う。
『だがそれも大切だ。何故ならお前だけの金だし、
そうやって商売や取引の元手を稼ぐ奴もいるんだぜ?』
『ああ、それに一応教えるが、
そのあがりを受取る為にまったく何もしない訳じゃあない。
店に怪しい奴が近づいて悪さしないか見張ったり、所有権を更新したり、
そこで商売をするとか会合や催しを開きたいとか言う奴らがいたら
そいつらと話して金をとったり、
いい奴らなら条件を付けて、無料で貸したりするのさ』
それに何度も頷き興奮気味に言うデルフィーノ。
『じゃあオレ達はここで、まさしくマフィアをやるんだな…!
オレは完全にマフィアっていうのを、
プレイヤー同士が戦う理由みたいなものだと思っていたが…』
だがやるのは善良なマフィアだと言うレットーラ。
当然それを分かった上で集まったソルジャー達だが
デルフィーノのようにまだ島にきて間もない者はこのガラミールを
仮想の人生を楽しみながら対戦する場所のようにしか
思っていない場合があり、その続きはボスコから走ってきた
カツミが説明する。
『ハッハッハ、聞いて喜べ新入り!
これはマフィアっぽい事のできる対戦ゲームじゃねぇんだぜ?!
そう言っちまえば、マフィアとして生きるゲームだ。
じゃあそんなオレ達はどうやって縄張りを守る?
あのヒーズアウトから銃を買って、そいつをぶっ放すのさ!
ボンボーン!!どうだ分かったか?簡単だろっ?』
『あ、ああ…!そう聞くと、とても簡単だな』
そう紹介は二度目になるがヒーズアウトは
フクジンの西隣にあるガンショップで一応訳せば、彼は終わり。
つまりうちで銃を買えばあんたの敵は死んだも同然という
何ともガラミールらしい名の店で、
その黒く塗られた建物の前まできた一同はまず
屋上にある射撃場とそこで試射する男に目を奪われ、
その説明をするのはレットーラだ。
『この店じゃあ好きな銃や炸裂弾を選んで、ああして試せるのさ。
勿論他にも試射できる場所を確保している店はあるから、
珍しい特徴といえばやっぱり、
馴染みの客にしか改造銃を売らないって事だな』
それに言うのはカツミとペスカーラ。
『だがそのせいで、
いいやそのお陰で結構な数の改造銃が、売れ残ってるんだぜ。
オレはそれを見るのが楽しみなんだよっ』
『…おお、じゃあ沢山ある中から選べるのか。ちょっと良いな』
だがそんな二人やキアーロに早く行こうと促すのはリカ。
どうやら彼女は携帯電話でリッキーと話していたようで、
先では彼やアンそれにエルネストが待っていると教える。
『そうか。三人もいれば退屈しないだろうが、あまり待たせるのも悪いな』
そう言ったキアーロにつづき西へと歩きだすカツミ達。
雨上がりのように黒い石畳にたたずむ建物は
ところどころに石の茶や灰あるいは蔓の緑が入って
触れたくなるほど味わい深く、
ゲームのシステムとしてその町の一部を買取り
先のT字路に邸を建てる事になっているので、
それに言及するデルフィーノ。
そこでアレッタは、特にウチゲーや売り買いできる品あるいは
利用できるサービスの無い言わば背景となった建物がある部分は
買い取って邸を建てられ、
それはファミリーに入らない個人まで知っていると、彼の疑問に答える。
『へぇ…!
確かに背景も大切だが、好きな所に邸が建てられるのは魅力だな』
『ええ、隆起した地表の狭い崖とか川の上とか、
そういう不自然な場所は選べないし、
選べても更地にするのにお金はかかるけど、面白いシステムよね』
『何っ、金がかかるのか?
じゃあさっきあった空き地に建てればいいじゃないか』
だがそこは狭く小さな邸しか建てられないので
近くアパート等が建つだろうと言うアレッタ。
節約したいデルフィーノはバイカにドンと話した方がいいのではないか
と言っているが、賛成は得られない。
『別にいいじゃねぇか。景気よくいこうぜぇー?』
『でも…小さな邸でも別にいいじゃねぇか。
まさか物置小屋ほどでもあるまいし、余計な金がかかるぞ』
『何がそんなに心配なんだよっ。皆で豪奢な邸に住めるっていうのに…。
それ以上反対するならオレが議論の相手になるぜ』
そのゲーム世界での節約に対するのはゲーム世界の楽しみ。
よってデルフィーノはそれに両手の平をみせて降参の意思を示したが、
彼は都会へでてアルバイトを始めたばかりでお金が無いらしく
それも分かって欲しいと、アレッタとバイカを納得させる。
そうして北と西へと道がつづくT字路の手前まで歩くと
リッキー達を迎える一同。
ひらりと片手をあげ今日も自信の漲るアンの隣に立つのは、
上がブラウン下が紺色のスーツに身をつつむ
薄っすら青い黒髪を横分けにしたエルネスト・カンターレ。
彼は大勢で歩いてくる仲間達に頼もしさを感じたようで
リッキーと話すキアーロには挨拶のみとし、カツミに拳をつくる。
『いいねぇダイド!これなら撃ち合いになっても勝てるぜ』
『ハハッ、負けるなんて言われるよりはいいが、何で分かるんだ?
ここで壊滅すればそのまま店を奪われるから
その恐怖で萎縮する可能性があるし、
何人か逃げだして総崩れになるかも知れねぇのに』
『いいや、オレには分かるのさっ。戦いは勢いだからな』
そうこのガラミールでは身を守れなければ商売に成功しても殺され奪われ
足元を見られ、結局稼ぐのも難しくなるが、
エルネストいわくそれを防ぐにもまた実力だけでなく威勢が必要らしく、
それにはカツミの両脇に立つリカやバイカもつよく頷く。
だがそんな彼彼女らに振りむき大声をだすのはドン・キアーロ。
大体リッキーが大声を出していたので内容は聞いていたが、
それにはファルコやアバードが言う。
『おいおい嘘だろ、バネズがファミリーからぬけた?
…本気かよっ。誰にも相談しないでか?』
『そりゃあ自由だが、誰かあいつを虐めてないだろうな?』
聞いて笑うのはキャメロン。バネズをかばうのはギャスマンだ。
『アハハハッ!そういえばあいつ影薄かったよねぇ。
ファミリーで人付き合いするのが怖くなったんじゃない?』
『いいや、皆に色々訊いていたから、
私達がただの大人しいファミリーではなく
悪と戦う集まりだと、気付いたんじゃないか。
仕方ない。許してやろうドン』
『ああ、心配しなくても怒ってはいない。だが気になってな…』
だが気になるのはやはりファルコやバイカそれにデルフィーノも同じだ。
『オレには何も訊かなかったぜ。
それに色々聞いていたなら何でビオーラでファミリー入りを決めたんだ?
やっぱり怪しいんじゃねぇか』
『ピジュンって多分、鳩だよな。だから大人しい奴だったんじゃねぇか』
『ああ、そうかもな。
でもピジュンがそのまま鳩なら、
バネズと合わせて鳩羽鼠(はとばねず)だぜ。
それって紫を帯びた鼠色の事だろ。
だから裏切り者のネズミ野郎だったりしてな。ハハッ…!』
勿論、鳩羽鼠と言われてもそういう色もあったかと思うくらいで
キアーロやリッキーには何も浮かんでこなかったが、
前にでてきたのは壁に寄りかかっていたレットーラ。
カツミはそんな彼を見て
憶測でもいいから話してほしいと思い、まっさきに訊く。
『何だ?確信を持てなくてもいいから、教えてくれ』
『いいや…そういえば曲事団の奴ら、掲示板を見るかぎり
普通は名と姓以外にある通称をそのまま名として登録していたようだが、
その中にラットっていただろ?もしかすれば知り合いかと思ってな…』
聞いてしばらく祝砲を撃つリカと、人差し指を立てるリッキー。
『おおっとー!オレはレットーラの意見に100Grかけるぜー』
『ああ、きっとそうだ…!
オレ達は三百以上いる奴らにとって脅威ではないが、
それをはっきりさせる為にも、奴を送り込んできたんだ。そうに違いねぇ』
そう実のところこの推理の半分は正解。バネズはラットの友人で、
死んでしばらくは自分のキャラクターも作らず休んでおり、
掲示板で彼彼女らと揉めた仲のいいラットのため
適当に今のキャラクターを作って潜入し
危険はないと判断したので消えたのだが、当然そこまでは分からない
ファルコ、ペスカーラ、エルネストの言葉には熱がこもる。
『じゃあデルフィーノの言うとおりネズミ野郎じゃねぇか!
何とか調べられれば、オレが行って殺してくるぜ!』
『まあ待てっ。奥地まで行って調べればお前の命が危ない』
『だがファルコの気持ちも分かる。許せねぇ。
誰か奴に偽物の宝石か何か、売りつけられてないだろうな?』
だがそれを止めたのはキアーロだ。
『いいや、放っておけ。リッキーが正しければ、
危険はないと判断されたんだ。良かったじゃないか。
大体オレ達はエゼットを助けたかっただけなんだから、邸造りが先だ』
そう言ってレットーラを呼んだ彼だがその前まで走ってきたのは
淡い水色のカーボーイハットとそれに近い色のコートを着て
合わせた灰色のマフラーで鼻先まで隠したナイト・ミラー。
彼が言うにはレットーラばかりに仕事を任せては申し訳ないという事で、
それにはカメーリャとギャスマンも頷きながら言う。
『ええ、私もそう思っていたところだわ。そうしましょうよドン。
アロマでもいいんじゃないかな』
『私も彼女に賛成だ。…いいや、何でも意見した方がドンの為に、
ひいてはファミリーの為になると思って…』
聞いて喜ぶキアーロ。
『ああ、よく言った…!私は嬉しいぞっ。三人ともいいソルジャーだ』
それに画面を前にほほ笑むのはミラー。彼はキアーロやカツミ達を
善良と信じてファミリー入りしたのでその喜びは強く、
そこでカメーリャも北の通りで自転車に跨るソルジャーのシン・クラークを
見つけたので、それをキアーロに教える。
そう若い印象で小柄なシンは一見菊の花のように尖った金髪でそれは短く、
黒いままの後ろ髪は長く伸ばして風になびかせ、
上に緑と薄緑でチェック柄になった長めのワイシャツを着て、
下は膝までの黒いレギンス。
実はその腿に結わえられたピストルが自慢の彼女は
邸について詳しく、途中から話を聞いていたので忠誠の証しとして
キアーロの手に口づけてすぐ、それを説明する役を引き受ける。
『ええ、大丈夫。これ以上無理だと思ったら、アバードに代わるから』
聞いて安心したのはそのアバードとアロマ。
二人は嫌な気はしないどころか、今は聞き手にまわりたいようだ。
『オレはドンって柄じゃあないから邸の建設に関しては
基本的な事ばかりで、あまり詳しくはない』
『私もアバードと同じ。基本ばかりだったら、つまらないもの』
よって皆に囲まれたシンに拍手するキアーロ達。
シンは人差し指をたてるとまず
初めて邸を建てる場合には登録と基本的な外観や内装が無料だと教えた。
『そして造れるのは三階までで、地下は一階まで。
壁や床の模様それに絨毯、椅子、テーブル、また階段の種類から配置、
浴室やプールそれにキッチンの種類まで自由に決められるし、
普通はファミリーの人間でも島にくればその自宅か
邸の庭からのスタートだけど個室も造ることができて、
そこはドンの意思次第で優遇したい仲間の私室にも設定できるよ。
つまりそのソルジャーの自宅代わりだね』
とそこまで聞き質問するのはロッコ。
『とても楽しそうだけど、浴室とキッチンは飾りだろ?』
『飾り?冗談でしょう。
浴室はシャワーだけにもできるけど、それは気力の回復を速めるし、
極たまに陥る軽度な状態異常の冷えや火照り、
それに疲労や不快感なんかを消せるよ』
そう言われても残念がらないロッコ。
彼は純粋なゲーマーなのでキアーロと二人いいねを連発し、
ドンの威厳を心配するレットーラを苦笑させ、
代わりに鍵の心配をするのはアレッタ。
彼女はやはりとても真面目なようだ。
『私が住んでいたのは比較的安全なオンオーズで、
ファミリー入りしたのが最近だから、何も分からなくて。
でもみんなと会える場所の鍵なら持ってもいいね』
だがそんな彼女にシンは鍵も必要ないと言って話をつづける。
『だから心配もいらない。
邸に入れるのはドンが許可した個人とファミリーだけだし、
それも庭までとか、玄関までと決められる。許可されていない者が入ると
侵入扱いになってストリート中に聞こえる警報が鳴るかも知れないし、
扉や窓を壊して中に入るしかないから時間がかかって、
その時には自損する可能性だってある。
機銃で撃たれれば、大ダメージを受ける事さえあるんだから』
『へぇ、でも許可されていない人物は、どうやって入るの?』
『二度警告があった後、それでも侵入するを選ぶの。
監視カメラがあると撮影されちゃうけど。
そして、ここからがまったく来島したばかりの奴らには分かり辛いけど、
元々自分達の邸だから戦いやすいことと
便利な設備があること以外の利点も、教えておこうじゃない。
そうねぇ…まず初めは、建てるだけで
ファミリーの仲間一人一人の命を守れるという事。
つまりファミリーと直接戦うよりその邸を破壊したり、
一連金庫から金を奪ったりする奴らもいるから、
その可能性や現実そのものが命を守るということね。
それで次が、仲間に変わらぬ絆を確認し合える場を与える事。
つまり私室や各店のVIPルームの他に居場所が無い、なんて声に応えるのね。
最後が出入りを制限できることだけど、ファミリーの人間だけとか、
ドンやカポが認めた仲間だけで、会うことができるでしょう?
だからパーティーも楽しめるし、重要な会合があっても安心なの』
そこで言ったのはロッコとファルコ。二人もどちらかというとアバード同様
自分をドンやカポの器ではないと思っているようなので
個人的に学ぶつもりはなく、今日をいい機会だと思っているようだ。
『邸を破壊させない為には、
造るのが義務づけられてる防衛棟っていう場所を強化して、
その奥にある紋章を守るんだろ?』
『金庫から金を奪う?物騒だなぁ…。
まあ奪う側になってみれば楽しみだろうが』
『ええ、防衛棟は様々なシステムで強化できるから、
そのファミリーの人間が誰も島に顔を出していないからって、
攻略は簡単じゃあない。
ただその紋章を破壊されれば…ファミリーは壊滅。ボンッ!
邸を建てなおすのにも時間はかかるけどデータは残るから、
少しずつかつての威容を取り戻していくのも楽しいかも知れないね。
ファルコが心配で仕方ない一連金庫の設置も義務付けられているから、
罠や特別な作戦が無いかぎりはそれもなるべく、奥にする事っ』
また続けて質問するそのファルコ。
『じゃあ…紋章を破壊されたら何もかも吹っ飛ぶのか?怖いなっ』
『いいえ、消防署が近いとすぐ消火活動が始まるし、
何もかもは吹っ飛ばない。家具も含めて修理する事もできるよ』
またカメーリャがその防衛棟へはどうやって行くのかと訊いたので
シンはそれに、内部に設置義務のある半透明の盾に入ることと教え、
二人の会話はつづく。
『防衛システムって、もしかして映画の古代遺跡にある罠みたいな感じ?
だったら楽しいけど』
『アハハッ!うん、罠みたいな感じだけど、
紋章や金庫を狙う奴らから見れば、全然楽しくはないよ。
一部屋ずつ突破するとしてもシステム破壊には特技と、
工作機器が必要になるから、いつファミリーの人間やその仲間
がかけつけるかって心配になるからね。それにもしも返り討ちにあったら
それだけで恥ずかしいでしょう?だから狙われるのは、
まだ弱小か強化不足のところがほとんどで、
後はよほど敵対している組織や内通者があるかだね。
じゃあ私はここまでっ。後はアバード教授の講義を受けてね』
その愛嬌のある彼女に拍手しながら出てきたのはアバード。
今回のレットーラは楽で仕方ないようでカツミやリッキーと
酒を飲むカウンターを設置するべきかどうか話し、
キアーロはシンの才能に驚き褒めているが、彼女は首を振る。
『だって自分で家具を置いたり部屋を飾ったりするのは、楽しいでしょう?
それなのに自慢にはならない。楽しんでいるだけなんだから』
『いいや友よ、それにしても凄いっ。意外な才能を見つけた。
是非これから邸を建てるオレにも助言してくれ』
そう彼女は実のところ掲示板で邸のアドバイザーとしての仕事を募集して
一件で500Gr稼いだ事まであるのだが、それを聞いてさらに驚くキアーロ。
それにアバードも、じゃあ続きも頼もうかな…と冗談を言って
また彼女に説明役を譲ろうとしているが、既にやる気はあるようだ。
『ああー、まずシン・クラーク、
一応準備する時間を与えてくれてありがとう。
でも実はオレが知っている邸の設備や防衛システムなんて
半分くらいだと思うんだが、それでもいいかな?』
勿論それに拍手するキアーロ達。
リッキーは指笛を吹いてその説明をうながす。
そのアバードが説明した邸の設備や防衛システムは以下。

ベッド・一台80~2万Gr
気力の回復は遅いが、寝ながらセーブすると二十四時間かけ
ゆっくりと回復し、次回全快した状態から開始できる。

シャワーと浴槽・一ヶ所450Gr~
着替えに時間はかかるが気力の回復は早く、
使用してセーブすると二十四時間かけゆっくりと回復し、
次回全快した状態から開始できる。また高級な浴槽など一部の品からは
日に一度多くの経験値が得られ、
シャワーのみの良いところは入浴に比べ、短時間で済むところ。

車庫・一ヶ所560Gr~
主の所有する車を飾る空間。ライトアップや回転、
複数台あるなら切り替え表示など様々な機能を付けられるが、
資金に余裕が無いなら車庫として使うだけのスペースを用意すればいい。

電話・一台200~1,200Gr
ファミリーが占有している店であれば出張売買が可能。
勿論私室にある物同様に個人同士の会話にも使えるが、
私室や電話ボックスにあるものは出張売買が不可能。
カポでも商売する側が安心できないせいか、利用は邸に限定されている。

ポスト・15Gr~
色形は勿論のこと保存できる内容の数と耐久力が違う。
様々な報せを受け取れるが破壊されると中にある手紙は散乱し、
消失する危険がある。

テレビ・一台29Gr~
邸に居ながら島内外のニュースが見られる。
それは六から十二種類の一部か全てが更新され、繰り返されるのみだが
その事件や政策の発表がプレイヤーに与える影響は大きく、
たとえば火山が噴火してそのニュース一色になった時にも
全ての内容が同じではないので見る意味はある。
他アニメ、歌番組なども見られる。

防犯カメラ・一台250~3,120 Gr
誰も居なかったとしても侵入を録画し、その者達の
ファミリー名、通称、名前、獲得経験値、
顔写真、立ち姿を見る事ができるカメラ。
壊されたとしてもそれまでは録画されるので、
ファミリーの人間はそれを繰りかえし見て全員の画像をクリックし、
そのステータスを見ることができる。
つまりテレビがあればその画面で見る事も可能で、
無いならモニターのそばに居る何人かだけが見られる。
最低限の機能であれば安価な事も人気の秘密。
邸の上空を旋回するもの、より広範囲を監視するもの、
庭にある何かを傷つけた者を発見すると射撃するもの等、
様々な種類がある。

投擲妨害器・8,000~3万Gr
邸の敷地内に設置すると範囲内で炸裂弾と火炎瓶という
投擲兵器が使用できず、そこが落下地点となった場合にも
作動しなくなる。高級品の一部は破壊できない。

再現素材・3,000Gr~
大きく豪華な邸ほど費用がかかり、増築した部分にも
強制的に施す事になるが、荒らされるあるいは放火される等した時には
金をかけず、少しずつその破損や汚れを消し去る。
また破損や汚れを消し去るタイミングも
設定可能であり、荒らしている者が帰った後や、
無意味だと分からせる為その荒らしている最中になどと、ドンの思惑次第。

訓練場・一ヶ所2,500Gr~、
最低八マス以上の距離を必要とするが、射撃訓練場を造れば僅かながらも
安全に経験値を貯められる。またその種類の銃を使った場合に有利となる
熟練という特技を得るのに必要な回数を満たす場ともなり、
的がある分ただ岩や柱を撃つよりは高い経験値を得られ、
縦横共に最低四マス以上の広さを必要とするが、
銃撃戦を行ったり格闘したりする空間も造れる。
また当然ながらこの訓練場内での模擬戦では死なないようになっており、
的や機能も様々。

サンドバック・一つ11~1,790Gr
この世界のサンドバックも高性能で、吹き飛ばされてもすぐ元の場所に戻る
あるいは反撃してくるようにも設定可能。
ただし一番安価な物は丈夫でもズダ袋。

家主の私室出入口・0Gr
邸に設置義務のある出入口。どこにでも設置可能で
中にドンの私室を造れる。
邸を買うとそれまでの自宅にあった全ての物はここへ移され、
その時々で炸裂弾やビックナイフあるいは肖像画など…
あくまでドン個人に対する特別で多様な贈呈品が付いてくる。

邸用金庫・一台110Gr~
ファミリーの者であれば私室の金庫との出し入れにも使う事が可能。
防衛棟にある一連金庫とは違うので中にある金は決して奪われないが、
安価なものは一度に送れる額が少ないなど、不便な部分もある。

放送設備・一台1万2,400Gr~
邸の外に声を届ける為の設備。当然中から叫んでもいいのだが
その声は小さく、高価なものを使えば一方的であるとしても
市町村を幾つかに分けたうちの一つである、領域全体に声を届けられる。

カバードルーム・一部屋300Gr
入らなければ部屋の中を見られないようにする設備。
店では買えず邸や防衛棟の建設画面で設定する。

墓地・一ヶ所750Gr~
一杯になった時には拡張も可能であり、
たまに霊魂となった手下が話しかけてくる。
また仲間だったプレイヤーの墓も建てられ
それはそのまま別れや思い出を表す。
費用は広さに応じた額となるが値段の上がり方は小幅。

以下より防衛システム

防衛棟護衛…
攻撃は単調だが主に銃で敵を蹴散らす人型ロボット。
数種類あり一部屋に三人まで置ける。
見た目は人そのもので攻撃も油断できず、
しかも周囲にプレイヤーがいるとき防衛棟内を自由に移動するが、
その動きは遅く、装甲は脆い。

門…
時間によって一定の耐久力を回復する門。
つまり合計ダメージが回復量を上回らなければ、
いつまで経っても先へは進めない。
無人の機関銃を備える事もできるがその分高価となり、
安価なものには時間稼ぎするだけで回復できない門、
やや早いと思いながらも破壊して通ると二枚目が出てきて挟まれ、
大きなダメージを受ける罠の門等もあるが、突破が容易。

防衛棟用防犯カメラ…
これが何故必要かというと、友人でも邸を荒らす場合はあり、
複数侵入したならその中でも誰が防衛棟を攻撃したかを確実に知る為。

警報…
その時島に居るファミリーの者達に敵の襲来を告げる装置。
居ない者にもメッセージを送る機能や、懐柔と恫喝の文を自由に入力し
それを繰り返す機能を備える事はできるが、いずれも高価となる。

隠し通路…
出入口となる盾の印とは別に防衛棟の奥に入って、戻って来られる通路。
また設置できるのは紋章と一連金庫より奥に一ヶ所のみだが、
時には侵入者を挟み撃ちにする事にも利用できる。

防衛棟カバードルーム…
入らなければ中が見れない部屋。これを複数用意すると
目的が金だろうとファミリーの壊滅だろうと、攻略が困難になる。
初回のみ何部屋分でも無料でこのカバードルームにできるが、
それから増やした部屋については有料となる。

パニックルーム…
主に偽の金庫や紋章を置く、あるいは防衛棟護衛を潜ませたりする
防衛システム。これを使う事で実際より手前に金庫があるように見せ
誘いだす事などが可能。他入った瞬間から何人分でもその全気力を奪い
一定時間回復できないようにするものや
壁にある火炎瓶が割れるような仕掛け等も備えられるが、
その分高価となる。

一連金庫(いちれんきんこ)…
ファミリーの団結心を高め、本土の上流階級や富裕層を安心させ、
全マフィアの欲望を島の中で満たす為の金庫。
そう防衛棟で設置義務があるのは紋章とこれのみであり、
中にはドンをはじめファミリーに属す者達の財産が置かれ、
そのせいで誰かに開けられた時には
それぞれ2,000Grを奪われてしまう仕組みとなっており、
額が十分であればただ持ち去られるのみで
全てを売っても2,000に達しない者の財産もそこまでで済むが、
金庫にある金が1,999Gr以下だった者からはまず所持金が奪われ、
その後は優先順位により…
私室に設置された家具の中にある物、装備中の武器、アイテム欄にある物、
携帯電話、着ている服、身に付けている装飾、設置された家具そのもの、
特権、車、改造銃、金銀や宝石などのいくつかが自動で換金され、
2,000Grに達するまで奪われてしまう。また補足だが、
服が奪われた場合には予備が用意され、
一度破られたこの金庫は七日間安全で、
その時には紋章の心配だけしていればいい。

そしてその説明に舌を巻くのはデルフィーノやアロマそれにシン。
三人はアバードが謙遜したのでしっかりした情報は無いのではと危ぶんだが
心配し過ぎだったようで、彼は最後に注目すべき点を教える。
『そう金庫を破られた時、
一番最後に金銀や宝石が自動換金されるのは流石だ。
つまりそれさえ買っておけば金庫を破られても安心だと言いたいのさ。
このマフィアズライフの運営らしいよ』
『じゃあそろそろ良いんじゃないか?』
そう言ったのはカツミ。リッキーやレットーラそれにファルコも促すので
キアーロは早速建物に近づきまずその土地を買い上げる操作にうつったが、
そこへ東から走ってきたのは一台の黒塗りの車。
バタンッ!
すぐに降りてきたのは四人の男女でその先頭にいる大柄な男は
ブラウンの髪に青がかった黒の中折れ帽子をかぶり、
同じ色のベストとロングコートを身につけその腕をまくり、
そこから小さな棘が付いた二つの腕輪を見せた、いかにもな強面。
しかも口に葉巻をくわえたその大柄な男だけは他三人をおいて
キアーロのすぐそばまで来たので、カツミ、ファルコ、リッキー等も警戒。
すぐ二人の所へ走ったが、そんな彼らに落ち着くように言うキアーロ。
勿論過剰反応の結果余計な争いを生んでは善良とは言えないが、
特にこの暗黒街においてはゆっくり考えている間などなく、
大柄な男は口をひらく。
『何だ、ここに邸でも建てるのか?』
『ああ、そうさ。あんたらはこの辺りに縄張りを持つファミリーか?
だったら仲良くしようぜっ』
キアーロはそう返したがその握手に応じないばかりか、
黙って西へと歩き去る男女。
勿論悔しいキアーロだったが追って反応を求めるのも狭量と思い、
その後二度つづけて呼びかけたのも忘れることにして、
話題を邸の建設へともどす。
『まあ…あいつらは、ちょっと気になっただけみたいだな。
それよりお待ちかねの邸を建てようぜっ』
だが、大柄な男とその仲間が画面の見切れるところまで行った頃には、
カツミ、ファルコ、そしてキャメロンやバイカ
更にはデルフィーノまでが怒り、声をあげる。
『何だあの態度は?!キアーロを侮辱してるじゃねーか!
ちょっと行って話してこようぜ』
『ああ、不愉快だね。ダイドがそう言うなら話す必要もねぇよ!』
『邸を豪華にする資金も手に入るし、丁度良いじゃないっ』
『尾行して一人になったところを狙えばいい。
忙しくても一言くらいは詫びていくよな?』
『まあ、はっきり言っちまえばネットゲームっていうのは
精神の世界だからな、態度こそ大切なんだよっ。
プレイヤーが四人もいて無視はない』
だがその五人の前にたち塞がったのもキアーロ。
また彼に代わって皆に言うのはその後ろに立った
リッキー、アレッタ、ペスカーラだ。
『まあ落ち着け。気持ちは分かるが全員…素性を隠してやがる。
つまりあの霊園やパーティー会場にいた奴らの仲間さ。
無闇に突っ込むと、帽子に穴があくぜ?』
『実は仲間が危ないっていう可能性もあるし、大目に見ようよ』
『オレも頭にはくるが、初対面で喧嘩するのは、賢くないぞ』
だがカツミはそれを聞いてもオレとファルコだけでも行かせてくれと
食い下がりレットーラとアバードを苦笑させ、
キアーロは冷静なアレッタとペスカーラに
内輪話を仕掛け何とか邸の話題に戻せないかと言っているが、
そんな時東から現れたのは、
黒いハンチング帽に薄紫で長袖のワイシャツを合わせた
ソルジャーのコーテル・イリカ。
そうキアーロ達には彼がゆっくりと歩いてきたので
落ち着いているように思えたが、その口はすぐ
セインが殺されたという驚くべき事実を告げる。
『何っ?セインって、うちのソルジャーのか?』
思わず言うカツミ。
セインが殺された時の状況や相手の素性や数等を詳しく聞けば、
彼やキアーロにはセインからの手紙が届いているはずだというが、
二人が手紙を整理するのは稀で島では皆重要なことは
電話で話すものだとばかり思っていたようで、
衝撃を受けた他同様言葉もなく、その疑問にはアロマが答える。
『いいえ、手紙を書く人も多いの。
何故ならこっそりファミリーをぬけていたり、実は裏切っていたりして
その告白をする時、それに照れくさいけど感謝を伝える時なんかは
面とむかって言い難いでしょう。だからそういう話なら何度も聞いたわ』
その間も一同は戦歴を確認し、
確かにセイン・スゾーが血の×印をつけられた事で抗争が開始され、
今は1点を奪われた状態であると知ったが、
その更新を察するには戦歴の画面へ行く為のボタンが
いつもよりやや赤く艶めいているのに気づくしかなく、
そこでキアーロに言うのはキャメロンだ。
『こんなの分かる?!
これはいくら人気ゲームの運営にでも、言っていいんじゃない?』
『ああ、オレも見なかったな。
ただきっと運営から言わせれば、オレとカツミの自宅にあるポストには
貴方のファミリーに所属する仲間が殺されました、
という報せが来ているだろうし、大目にみてやれ』
『じゃあその通知と戦歴だけが抗争を知らせるって事?
それは…現実味もいいけど、不親切過ぎると思うな』
『ハハハッ!
確かに一部のゲームなら問題になりそうな事だが、
多分運営はプレイヤー達の仲間が殺されたという重要な報せを
よくゲームで目にする様々な格好いいマークで
知らせたくなかったんだろう。そして、もしもそれがあったなら
それを見たプレイヤー達は大分落ち着いた状態で会合へでる事になる。
つまりマフィア映画にある、
仲間から抗争の開始を告げられる興奮も、それを小耳にはさんで
急に見ず知らずの人間と話す楽しみも無くなるからだろうなぁ。
勿論落ち着くことには十分いい面もあるが、
この世界の神とも言える運営が創造したかったものとは、違うんだろう』
『…ああ、つまりここは巨大暗黒街だからって事ね』
『あっ!そういえば、何だか街の奴らの態度が違うなぁ…ていう
あの緊張感も味わえなくなるな!』
そうしてキアーロ達が納得したようなので話をつづけるコーテル。
『だが、ソルジャーの一人が死んだだけだ。落ち着けよっ。
抗争を始めたもののそれからずっと休戦状態だとか、すぐ和解しただとか、
奪った点を返上したなんて話はいくらでもある。
それにあいつの事だから、他に敵をつくって
その個人的な理由で殺されただけで、
オレ達の稼ぎには影響ないんじゃないか?ハハッ!』
聞いてアバードに内輪話を仕掛けるレットーラ。
『そんな言い方しなくてもいいのにな。大体にして抗争が始まったんだし、
セインは仲間じゃねぇか。オレ達の人生を単なるプレイだと思って、
馬鹿にしてるんじゃねぇか?』
『うーん……嫌な奴と断定はできないが、
あの言い方だと善良なファミリーらしくはないな』
だがアバードの言うとおりそれだけで人格を判断できないキアーロと
彼を見習いたいカツミは真面目に話す。
『ああ、遅れてきた事は気にするな。
だがセインはこれからどうするつもりだ。
またファミリーに戻ってくるんだろ?
手紙を読めば分かるのかも知れないが…』
『あいつの炸裂弾が悪党共の店に投げられる日を楽しみにしてるんだぜっ。
敵は全員素性を隠してたのかよ?』
『戻ってはくるが、少し時間が欲しいと言ってたな。
だが安心しろっ。あいつの分も稼ぐからさ。
オレは大人だが、ゲームは得意なんだぜ?
パパ見てよ!最高記録だよ!バキュンバキュン!
それに…パーカーやトレーナーを着ていた奴らは
素性を隠していなかったらしいが、
そのステータスを見れたのも死ぬ前の一瞬だけだったらしいから、
そこから調べるのは無理だし、まずどうやって稼ぐか話し合おうぜ。
セインなんて放っておけばいいのさ』
『いいや稼いでも奪われちまったら意味ねぇだろ。お前こそ落ち着け』
そう言ったのはリッキー。
あるいはコーテルが突っかかってくると思っているが、
彼にとって心配なのは寧ろ内輪話によってドンにたしなめられる事であり、
そのやや不穏な雰囲気を察したキアーロは、自然に話題をすすめる。
『一体どこのどいつがうちのタフガイを殺した?
何か情報は無いのか?!どうだレットーラ、アバード、ペスカーラッ。
奴が何の理由もなく殺されたなら、しっかり償わせるぞ!』
それに意欲をとり戻したレットーラとアバード。
『ああ、やっぱりオレは…霊園とパーティー会場にいて
素性を隠していた奴らが怪しいと思う。
多分金で雇われただけじゃなく、記者っていうのも嘘だろうからな』
『だが他にもオレ達を襲ってきそうな奴らならいるぞ。
グランファミリー、曲事団、鉄パイプ男とその仲間。
当然レットーラが言うのはそいつらが素性を隠していた
という意味だろうが、憶えがあり過ぎるねぇ。
だってバネズはラットの知り合いなんだろ?
だったらあいつらの可能性もあるが、それだと素性を隠して
じわじわと圧力をかけてきたのは映画に出てくるマフィアみたいで、
曲事団らしくはない…!そこが不思議なんだよなぁ。
ああそうだ、奴らと協定を結んでいるファミリーかもな』
それに言うのはアレッタとリカ。
『ええ、悪のファミリーなら全部怪しい。
みんな忘れてるけど、ドンはバレンティーノとも親しいじゃない』
『ああ、EAがらみで抗争を仕掛けられたなら、
今奴らとパンゾベルダを取り合っているコルボも怪しいな。
大体その記者の正体が分かればいいが…
このガラミールで自分から殺し屋やってますなんて言うのは、
正義の殺し屋だけだからな』
『じゃあオレの古巣もあり得るってことか』
そう言って銃を出すリッキー。それに責任を感じて欲しくないキアーロは
大ファミリーでもダグロート、ルッソ、ショットガン22等と
敵の多いバルラムならもう少し賢く立ち回るのではないかと言っているが、
暗い話に嫌気が差したキャメロンは明るく、
だが迷惑なことを言い出す。
『そういえばロッコの姓、ウルバーノでしょう?スパイだったりしてね』
『ええっ?止めてくれよ~。何で急にウルバーノがでて来るんだよー』
『だってウルバーノも悪じゃない。私達の存在が面白くないかも』
『あいつらとは一度この同姓で盛り上がったけど、
悪のファミリーだと分かってからは会わないようにして、
住む町まで変えたんだぜ?』
それを聞いて少し落ち着いてきたリードとペスカーラは笑ったが、
カツミやファルコはやはり腕輪の男を追っておけばよかったと悔しがり、
そんな二人にキアーロとレットーラが念を押す。
『もういいダイドブレインズ。その結果、お前達に何かあったらどうする』
『問い質しても正直には言わないぜ』
だがそこで言ったのはカツミ。
『言うかも知れねぇじゃねーか。
だって奴らは百か二百のファミリーかも知れねぇだろ。
だったら数の上では余裕さ。そりゃあオレ達は怖がったりしないぜ?
でも相手から見れば小さなファミリーじゃねぇか』
『ああ、そういう事か…』
そう口にしてしまったレットーラだが、キアーロは言う。
『それでも大柄な体や腕輪だけで調べるなんて、無理だろう』
『調べられる』
そうアロマが言ったので彼女を見る一同。
勿論レットーラやペスカーラにも無理ではないが当てにする情報源が違い、
この件に対する自信もなく、キアーロは彼女と話す。
『別に気にするな。カツミにも言ったが、お前の命も大切だ。
大体これも重音主さんの教えにあるが、
どうにもならない決断に後悔なんて無いのさ。
つまりこの場合お前達の安全を優先すべきだ』
『それは…その通りね。でも安全に調べられるわ。
あの腕輪の事、どこかで聞いた憶えがある。そう確か…スマッシャーとか
プローバのヘビーレインなんかのギャングがたまに付けている装飾だけど、
それ以外にも…確か…誰かがあれを』
『だが一人では許可できない』
そう言われ、まだキアーロやカツミなどとはよく話していないだろう
ベティー・ゲートを紹介するアロマ。
突然自分の名を呼ばれ驚いたベティーだが、
黄色に白い花柄のノースリーブを着てジーンズをはいた彼女は
長い白髪を揺らしてキアーロの前まで歩き、
そこでスナイパーライフルを手に言う。
『ええ、いいわっ。護衛なら私とこのSRに任せなさい!』
それに皆が改めてステータスを見ると彼女は、
もう六十はこえているだろう笑顔の似合う女で、
その胸に光るのは先がハートに形作られた薄桃色のネックレス。
とても爽やかな印象だが、実はベティーを知るアンは
リッキーやカツミあたりが心配するかも知れないと、補足する。
『でも彼女はただ見た目が格好いいだけじゃない。
南部では知られた傭兵で、あちこちのファミリーで活躍し過ぎて
狙われたんだけど、その度に上手く逃げちゃった事でも有名なの』
そう南部では有名らしいが、リッキーはアンが詳しい理由も訊く。
『実は前西部にいたとき彼女が敵側につくかも知れない
という情報があって調べたの。その時思ったわ。
きっと私が狙っても上手く逃げられて、後で殺されるってね』
『ハハハッ!それなら安心だっ』
『だが二人だけだと、まだ不安だな』
そう言ったレットーラが仲間を見回すとファルコが手をあげたが
血の気が多過ぎるという理由で止められ、
結局コーテルが行くことに決まり、その彼と話すキアーロ。
『大丈夫か?お前までセインみたいな目に遭ったら…。
アロマやベティーはガラミールに来て長いから、
よく二人の言うことを聞くんだぞ』
『ありがたいね。
でもいいんだ。オレも仲間らしいところを見せないとなっ』
『そうだコーテルっていう名前、別のゲームでは使ってないだろうな?
本当に酷い奴もいるから、もしも揉めたら別世界でもやられるぞ』
そうどこまでも心配するキアーロだが
コーテルが手をあげてアロマ達と共に去ると邸の建設にもどり、
それを見守るカツミ達。だがその間キアーロと同じようにアロマを心配するデルフィーノはバイカと話す。
『なあ、オレ達二人もアロマについて行こうか?』
『うーん…ちょっと心配し過ぎなんじゃないか。調べるだけだぜ』
『ああ、だがドンの言った酷い奴って言葉で心配になってな』
『まあ何かあったら復讐して、傷ついた仲間を労わるだけだ。
そしたら戻って来るぜっ。強引なのはよくねぇけど、
待ってるって言われると嬉しいもんさ。
ドンもそうだけど、お前も苦労してそうだな』
そう二人がそんな会話を交わしている間に
シンやアバードから助言を受けた邸の建設は進み、
南は今一同が集まる大通り、北は裏の細道へと通じ、
高い煉瓦塀で囲まれた庭が完成。
その南側には古く味のある二段になった黄金の噴水が置かれ、
沿うようにオリーブが植えられた煉瓦塀にある細い板を組んだベンチは
西に二台、北に一台。そこから庭の北口を挟んで東側には邸の裏口があり、
黒木の壁に沿って南の玄関へむかえばその途中がやや薄暗く、
ランプのかけられた車庫。
玄関の扉は観音開きで鉄を思わせるほど黒く艶めき、
入るとすぐ奥行きのある大広間となってそこには
中央に銀の燭台がおかれた長い黒木のテーブルと
王冠のような形の背板で溶けたチョコレートを思わせる椅子があり、
その奥にあるのは小さな暖炉。
その右手から北への廊下にある小部屋は浴室やトイレになっているようで、
暖炉のすぐ左にあるのはドンの私室入口。
そこから更に左奥にはキッチンが造られ、
それを見たカツミは早速邸のテーブルにつく皆に食事でもしようと提案し、
ペスカーラとアレッタも座りながら言う。
『そういえばまだ何も食べてなかったな。
二十四時更新までに食事しないでいると経験値が減るし、早く食べようぜ』
『ペスカーラこの前もリゾットじゃなかった?好物なの?』
『安い割に獲得経験値の高い料理をだす店があって、
これはそこのリゾットさ。今度紹介するぜ。
ついでに言うが、頼んでから出てくるのも速い。
ただ店はちょっと…外れの方にあるが』
『じゃあオレは一服させてもらおうかな』
そう言って一応はドンにことわり煙草を吹かすのはバイカ。
他ファルコ、リード、リッキーも心からくつろぎ、談笑する構えだ。
『ああ、良いねぇ。オレは初めてソルジャーになるから
ここからこの邸が自分達の家になると思うと、わくわくするねぇ』
『早速メーツベルダに引っ越すぜ。
オレ達の縄張りだって言いながら、歩きたいからな』
『ハハッ!そのついでにしっかり稼げよ。当然、掟を守りながらなぁ』
だがキアーロはこの幸せが誰のお陰であるのか忘れず
暖炉を背に立ちあがり、テーブルに手をつきながら言う。
『ああ、レットーラ、ペスカーラ、わが友よ…!よくやってくれた!
この縄張りのほとんどはお前達の努力によって、勝ち得たものだっ。
だが、その時協力してくれた奴らをファミリーに入れなくて、いいのか?』
『いつか紹介するよ。大体奴らには相応の礼をしてあるから、
気にしないでくれ。じゃあ善良さに…!』
その隣でワインを飲むレットーラを指さしながら言うのは、ペスカーラ。
『まったく同感だ。
はっきり言ってファミリーの掟にもある善ってやつは、時として難しいが、
まず仲間を思いやるのが最低限だから、ファミリーを大切にしよう』
それには皆がひそかに頷き、はっきりと拳をつくって見せるのはカツミ。
その両隣りにはカメーリャとデルフィーノが座り、
改めてメーツベルダについて話している。
『ここは市長の邸もあるダチカールのすぐ隣だから、
善良なファミリーとしては最高ね』
『ああ、街並みは美しいし、何故かは知らないが
時々ビッスーディの大臣が乗った船がきて、景気が良くなるらしいからな』
『それはこのメーツベルダがディダインの侵攻当時に中立で、
終戦後にもまず一番にアポロン・ウェイが降りたった町だからよ』
『ああ、だから今でも大臣はここへ来るのか』
『そう。このメーツベルダの港に着いた市長はまずここから手をつけて、
十分栄えてしまってからダチカールの方に、役所や自分の邸を建てたのね』
それに政治が苦手なカツミが難しい話になったと思っていると、
言うのはエルネスト。
『じゃあカメーリァ、メーツベルダの意味を知ってるか?
安息の町っていう意味だぜ』
『残念、知ってる。悪いけど島の歴史のことなら私が一番のようね。
北にある砂浜の東側には今も一杯500Grのコーヒーをだす店があって、
毎回大臣とその一行はそこでくつろぐの。これ知らなかったでしょう?
それに、場所は知らないけどこの町のどこかには、
その大臣達や島に駐屯する将軍達の別荘もあるらしいよ。
時々発生する掃除のウチゲーは報酬が高いって言うし、
やっぱり歴史の勉強は役に立つよね』
だがコーヒーの値段に不快感を表すのはデルフィーノ。
せっかく彼は想像よりしっかりとした邸に満足だったものを
庶民の敵とも言うべき贅沢に嫌気が差したようで、
それは人情派のカツミも同様。エルネストは
そのコーヒーのお陰でメーツベルダの景気が良くなっていると言ったが、
カツミはそれ以上どうせ忘れてしまう政治の話を聞きたくないようで、
怒るデルフィーノに断って防衛棟の話をするアンとアバードの隣へ。
『悪いな。だがオレそういう話苦手だから』
『頭にくるよなー』
『いいや…そういう事じゃあないが』
だが早速聞いてみるとやはりアンとアバードの二人は、
自分好みの話をしている。
『そういえばアバード、防衛棟を造る時ドンにアドバイスしたでしょう?』
『ああ、いずれにしても部屋や庭をあまり豪奢にはできなかったが、
防衛棟には結構な金をかけたぞ。内部の詳しい情報は
ドンやダイドと話し合ってから、皆に教えるべきだとは思うが…』
『オレは教えてもいいと思っていたが、
今アバードに言われてみると、慎重さも必要に思えるね。
でもオレやアンは、ファミリーが心配なだけなんだ。
守るのに障りがない程度には、教えてくれよ』
『ダイドに賛成っ。臆病と言われても安心して戦える方が、有利だわ』
『…そうかじゃあまずは、防衛棟が完成するまでの期間についてだな。
それはついさっきから丁度七日かかるから、
どんな強敵が攻めてきても防衛棟に入ることさえできず、
紋章を破壊するのは無理だ。そしてその後も
初回サービスに付いてくる四分一の門(しぶんいつのもん)
という防衛システムが、敵の前に立ちはだかる。これは知ってるか?』
『十全の門ならきいた事あるぞ。
とても頑丈でそう簡単には突破できないって、誰かが言ってたな』
『あっそれ、2万Grの門でしょう?
大ファミリーでも設置を躊躇うっていう。
十人で撃っても破壊するには六時間はかかるらしいね』
『その四分の一の耐久力を誇る門が、四分一だ。
だからどんなに大勢が来ても一時間半は耐えられると思われがちだが、
アンの言う十人で六時間という見込みはあくまで、
皆来島したばかりの奴らが普通の銃を使った場合だから
本当はもっと早く破壊できるはずだが、それで十分とも言える。
何故なら結成したばかりのオレ達さえ、
いくつかの防衛システムを設置したからな。
敵がその罠に上手くはまれば…。でもこれで、少しは安心できたかな?』
それに両手のひらを見せるカツミとアン。実のところその罠とはまず
入口から道が左右と真ん中の三つに分かれている事で、
十二ある部屋は全て入らなければ中が分からないカバードルーム。
部屋や通路で埋めてゆけばそれだけで金がかかるので
沢山という訳にはいかなかったが、初回のカバードルーム設定だけは
何部屋にでも無料なのでこれは惜しみなく、
左を選んで二番目と一番奥の部屋はたった一発だがどこからともなく
対武器炸裂弾や火炎瓶が投げ込まれるパニックルーム。
右を選んで一番目の部屋では警報が鳴り、そこでは
キアーロとアクイラ・バレンティーノが親しいことが文章となって示され、
同時にファミリーの仲間それぞれの携帯電話には
侵入を知らせる着信が届くようになっており、
一番奥も火炎瓶が投げ込まれる部屋。
真ん中の道を選んだ先は手前が金庫室、
奥が紋章の部屋でその二部屋の前にはアバードの説明した
四分一の門が設置され、その前に六人の防衛棟護衛がならんで
敵を見るなり一斉射撃するというもの。つまり資金不足の今は
どのように造ってもやや頼りないものになってしまうのだが
カツミとアンを安心させたいアバードは、
完成までの七日間は無敵という事実をくりかえし、
仮に二人が口をすべらせても困らずむしろ敵への抑止力になるだろう
警報装置にある仲間への着信機能の存在のみを伝え、説明を終えた。
すると仕方のない事とは理解しながらも防衛棟のほとんどを秘密にされ
小さな不満を覚えるアン。カツミも頷きながら
その繰り返される何故という言葉を聞いていたが、
諦めたアンはアバードへ門についての疑問をぶつける。
『用心深くていいとは思う。
けどその門っていうのはどの種類にも、対建物炸裂弾が有効なんでしょう?
それに特技のシステム破壊も使えるって聞いたことがあるよ』
『おおーやっぱりタラントと戦ったソルジャーは違うねぇ。その通りだ。
だが対建物炸裂弾は高額で沢山もってるのは大きなファミリーだけだし、
システム破壊の際におこなうタイピングゲームだって、
一度でも失敗するとその特技の使用者にかぎっては、
七日間は対象つまりこの場合、門を破壊できなくなる。
だからそんなに心配しなくても大丈夫だ』
『よし、上手くやってくれたようだな。
はっきり言ってオレもアンと同じようにちょっと不満だったが、
よく考えると防衛棟の詳細を誰にどこまで教えていいのかは、
考えるべきだよな』
聞いて納得したのか今度は銃の話をはじめるアン。
『そういえばベティーの持ってる銃、
あれちょっと色や形が変わってたよね?』
『ああ、あれはそのベティーに聞いたんだが、
改造スナイパーライフル威力向上撃貫(うちぬき)だ』
『おお、それならオレも知ってるぜっ。
撃貫の他には、先写(さきうつし)と頑鉄(がんてつ)があるんだろ?』
それに頷くアバードいわく先写はステルス機能のある銃で、
自分が立つ場所かその周りならどこへでも隠せる上
ジェイルにも持って入れる銃で、死んで漁られても
調べ上げられなければ見つからず、金庫を破られても換金の対象にならず、
特技である状態の通知を使い自分のアイテム欄を見せ武器を持っていないと
偽ることも可能な代物。また頑鉄は極限まで強度を上げられた銃で
どれほど殴るのに使っても壊れず、
その時相手に大きなダメージを与えられ、
対武器炸裂弾さえ効かないという代物であり、
その値段を予想したアンに対してカツミとアバードは彼女以上に驚く。
『きっと6,000Grくらいするよ』
『えっ?ハハハッ!』
『それは高過ぎるだろー?』
『いいやだって普通のスナイパーライフルだって
2,500くらいするんだよ。じゃあ威力向上で、撃貫だからさぁ…。
奪うとか、奪った奴から買ったかも知れないけど』
聞いたリカはますますベティーが頼もしく思えたようで、カツミに言う。
『じゃあダイド、
ベティーは仲間の護衛にも、敵のカポを殺すのにもいいな』
『ああ、まったく。その役はオレが…と思っていたが、
考えてみればダイドブレインズの立場があるから、
あまりオレが体を張るのもなぁ』
またそれに言うのはギャスマンとレットーラ。
『そういえば聞いた話だが、
メーツベルダにはこの邸の近くにあるモーテルが一軒、
後はホテルが一軒しかないんだろ?だったら客間も必要なんじゃないのか』
『ああ、鋭いな。
別に客間は無くてもいいが、相手が大物だとか、
狙われている奴だったら会うまでの間に待ってもらうのは、
ホテルの方がいい。警備も居るからな』
またその事でキアーロから訊かれたリカは、西の外れとはいっても
ダチカール側なので寧ろ栄えている場所に建つホテルは
元リザードマンの人間が経営していると教え、それにはミラーも言う。
『前あの大通りの南側に邸を構えていた
ストレイトファミリーの奴らは寧ろそいつらと上手くやって、
大事な客をわざわざそっちのホテルに泊めていたらしい。
だからドン、オレ達もそうすべきじゃあないか?』
聞いて頷くキアーロと、ストレイトファミリーで思い出したのはリカ。
またその素朴な疑問にもキアーロが答える。
『そうだあいつらの残党も、何人か呼べないか?
いい奴もいるらしいからな。でも食い扶持が減るかな?』
『呼べるな。バネズだって居なくなった。
だからそうやって他にも何人かファミリーから抜けると…
思っているからではあるが』
その思考で十分だと言うレットーラだが、
一部ギャスマンの意見には否定的なことも言う。
『だがそこにあるモーテルのストーリアだって、捨てたもんじゃあない。
週に700は稼げるし、地下にある大部屋は
パーティーや会合のために貸し切れて、その利用料は所有者なら無料だぜ』
それを初めて知っておどろくギャスマンと、
無料という言葉に感動するデルフィーノ。
『それはっ…素晴らしいじゃないか!』
『無料でパーティー会場を借りられて、誰にも邪魔されないのかよっ。
すげぇぜ!でも待てよ。既に予約があったら諦めるしかねぇな』
だが首を振るレットーラ。
『いいや、所有者はその予約してた奴に詫び料を支払うだけで、
利用権を獲得できる。店主もいい奴で話してて退屈しないが、
そういう意味でも評価できるんだ』
『じゃあ今から行ってみようぜっ』
そう言ったのはリカ。彼女は皆が楽しそうに話しているのを聞いて
そのストーリアに強い興味を持ったようで、
キアーロが呼びかけるのも待たず次々と立ちあがり、
邸をでるカンパネッラ。二十人以上いる彼彼女らが
ぞろぞろと歩いて来たのでT字路にいて押売りをしていた女も
北の通りでむしゃくしゃしているという理由で
誰彼かまわず挑発していた男も消え、
辺りにはひと時の平穏が訪れる。そこでキアーロに走るミラー。
『なあドン、当然ああいう奴らは追い出すよな?
勿論心を改めるなら考えてやってもいいが、色々落ち着いてから…』
『ああ、その為のオレ達だ。だから胸を張って生きるぞ。
そうオレ達はそうしてこそ、人生を楽しめる』
そしてそんなキアーロの前に現れたのは大きな駐車場。
T字路からも見えるほど近いそこは北へゆく通りの西側にあり、
大部分はアスファルトだが、それぞれの部屋の前は
大きく区切られた白いタイルで埋められ、
淡い赤の煉瓦壁に並ぶのは黄色に白いダイア型の扉。
奥の北側で光る筆記体の看板の下が受付の入口らしく、
レットーラが言うには、そこからCの字を描くようにして先にあるのが
地下への階段だ。
『そう受付から反対まで歩いたあの辺り。
だからオレも何度か泊まってやっとあの階段は何だって訊いたのさ』
それを面白いと思いエルネストに言うファルコ。
『ああ、最高だぜ!ただのワルでしかないお前には分からないだろうけど、
これがゲーマーにとっての浪漫さ』
『ハハッ!何言ってんだ。オレにだって分かるぜっ。
確かにオレは元不良だがその前からずっとゲーマーだったんだ』
その話題にアレッタが、取引にも使えるとしながらも
揉めた場合逃げにくく微かでも恐怖を煽るそこへ
取引相手が来てくれるかが問題だと現実的な話をし、
リードやロッコが頷いていると、また新たな提案をするのはカツミ。
そう彼は邸を建てた記念にボスコで食事しようというのだが
反対する者もなく、一同は再びT字路へ。
だがそこで当然のようにアロマ達にも電話したカツミが、皆を止めた。
『待て待て行くな!ちょっと待ってくれ!そのまま…!』
『どうした?』
訊いたのはレットーラ。画面上の印象ではあるが
台詞からどうやらそのカツミが一生懸命なので、注目が集まる。
『おい…嘘だろ!
敵の正体が分かって、アロマが帰って来るらしい。
それで、T字路の真ん中にいるなら、そこから動くなと言うんだ』
『だからそれは何故だ?
おいっファルコ、エルネスト、まだボスコへは行くなよ』
『くそ、どうせ行けねぇよ…!』
『どうしようかなー。めでたい記念日には、もっと楽しく過ごしたい』
言いながら両手をあげ少しずつ後じさりする二人と、
それに北の通りと西の通りにも目を向けるキアーロ達。
ミラーが画面を引いて見たところT字路の東西と北それぞれには
四、五台の車が道を塞ぐようにして停められ、
その前後にもまた大勢の男女が銃を構える。
瞬間その一人を調べるともう一度おどろく彼。
そうその所属を示す部分にはクーパーファミリーとあるのだ。
その事実にキャメロンなどは画面を前にして手に汗をかき
銃をだす事さえも躊躇い、
アレッタは予備のマシンガンを改めて二丁と確認。
リードは仲間を助ける為にも相手の中に知り合いがいないか探し、
ミラーはその数をざっと百以上と見て、画面のまえで静かに腕を組む。
すでに彼は素性を隠しているがそれも後の抗争を有利に導く為だ。
『ギャハハ!ごきげんようっ。初めまして…で良いのかな?』
『お前古いぜ。やあ、殺しに来たよ。何もかも諦めなぁ。
これくらいでいいんだよ』
当然そう言ったのはクーパーのソルジャー達。
それを聞いてストーリアの駐車場前にある街灯で
餓鬼のように両腕を折りまげて笑うのは、緑の中折れ帽子とスーツに
黒いワイシャツを合わせた男。
また東に建ったばかりのカンパネッラ邸の前には、
灰色のボーラーハットからぞろりと長い白髪を垂らし、黒のスーツを着て
そのやや長めの袖から地面へ向けライフルを出した眼光の鋭い男が立ち、
西の通りをふさぐ者達の先頭でキアーロ達を指差して歌うのは、
紫や赤など派手な中折れ帽子とスーツの女達。
『羊を見つけたわ!』
『羊を見つけたわ!血の香りがする!』
特に彼女達とその後ろに立つ男女は銃を振りまわし、
あるいは先頭に飛びだして身を低くかまえ帽子の下から睨むなど、
今にも襲いかからんばかり。
つまり今はこの中にいない殺し屋ストラーノさえ
あのアロマが見せられた投稿の後クーパーに鞍替えしただけであり、
キアーロはそんな敵達を睨みながらまず、用件を訊く。
それに北の通りから現れたのは、
白いスーツに同じ色の中折れ帽子をかぶり、
その後ろから僅かに金髪を見せ、
紫のシャツに黒いネクタイを合わせた小男。
人垣を割って歩いてきたその横にはあの腕輪の大男もいたが、
彼はその前に片手をだし、自分で話すと意思表示する。
『オレがロブスト・クーパーだ』
言いながら布でナイフを拭くドン・ロブストに叫ぶギャスマン。
『何っ、ロブスト・クーパーだって?!冗談だろっ!』
当然他の仲間も驚いているが、
キアーロはこの明らかに敵対的な行動に笑って話す訳にもいかず、
また誤解もあり得るので努めて真面目に話すしかない。
『それは驚いたが…用件も聞きたい』
『オレの知り合いを殺しただろ?
だから詫びを入れてもらう為に来たんだ。
それでぇ…その誠意さえ見せれば、
服従と5,000Grくらいで許してやろうと思うが、どうだ?』
『憶えがない。
それにもしもお前の話が事実だとすれば補償金は分かるが、服従とは?
それは無理な話じゃあないかな』
だがそれに内輪話で言うのはカツミ。
『おい心配するな。訊かなくていいっ。
はっきりふざけるなと言っていいぜ』
『だがそれだとこうして内輪話をして策を練る時間が稼げない』
『あ…ああそうかぁ。オレって単純だなぁー。
今も来るなら来やがれって言っちまうところだった。悪い』
『いいや、気にするな。喧嘩ならそれでいい。
そう真の戦士とは、理由さえあればどんな相手とも戦えるものだ』
その緊迫した状況に西から走ってきたのはアロマ達。
特にアロマはキアーロのすぐ後ろまで来ると、遅かったかとつぶやく。
『いいやお前はせっかく賢いんだから、この壁もぶち破るぞ。
勿論大変だが、悪党相手なら面白いじゃないか』
聞いて唖然とするレットーラとアバード。
だがそのレットーラはキアーロの落ち着きに何か策があると思ったようだ。
『当然策は練る。だが正直オレも…驚いてる。一体どうするつもりだ?』
『逃げる。それしかないな。だからどうやって逃げるかだ。
密かに電話する事ができればアクイラにかけるが、それも無理だからな。
あっ…実世界の電話番号を訊いておけばよかったかなー?
だがそこまでの仲じゃあないし、危険もある』
『それにしても落ち着いてるな』
『ああ、これも重音主さんの教えにある。
覚悟のない人達でも事故や事件に遭う。その大きな痛みと恐怖。
彼彼女らでもそれを乗りこえるのに覚悟のある私は、
どれほどの痛みと恐怖に、堪えられなければならないのか…』
『どれほどだ?』
『できるだけだ…!』
そこで叫ぶドン・ロブスト。
『相談してもいい案なんて出ねーよ!…だが心配するな。
誠意だぜオレ達が求めてるのはぁー。服従はそれとなくでいい。何故って?
屈辱が滲んだ方が楽しめるだろ~~?!ハハハハッ!』
聞いて笑い出すクーパーのソルジャー達。
どこからか銃声が聞こえたのでリカはつい銃を出したが、
その瞬間彼女にもアロマの思考が伝わる。
『そうかっ。大通りへ出るしかない駐車場に戻ったり、
もっと進んで広い逃げ道が東西の二つになってしまったら不利だから、
ここへとどまれと言ったのか。やっぱりアロマ頭良いじゃねーか!
その調子で考えようぜっ』
『フフッ…!』
それに思わず噴きだしたアロマだが彼女にはまだ動揺があり、
代わりに思考するのはやはりレットーラ、アバード
それに新しく入った中ではデルフィーノだ。
『う~ん…特技の道を塞ぐは人二人分の幅まで有効だから、
アロマはここへ来るまでにも通っただろう沢山の路地さえ危険だと、
判断したんだろう。それに逃げるならやっぱりロビンソンの縄張りがある
ゲデル等にすべきだが、生き残る確率を上げるためには、
西にも逃げる人間が必要だな』
『ああ、わざとロビンソンを頼ると叫びながら逃げるのもいいな。
それに射線上と標的の近くにいると巻き添えを食らうから、
奴らも同士討ちを避けて撃たなくなる瞬間があるはずだっ。
だからみんな路地裏や店の出入口を使って、上手く逃げるぞ』
『それも重要だが、オレはまずアロマの情報を聞きたい。
まずそれからだ。そこに手掛かりがあるかも知れないからなぁ。
一体何でオレ達は囲まれてるんだ?』
よってその当然の疑問に答えるアロマ。
『ええ、実はカツミとリッキーがボスコで殺した鉄パイプ男あれが、
ロブストの知り合いらしくて…』
『そう…なのか。
だがその時は、逆に二人が殺されていたかも知れないんだろ?』
『そう、まったくの逆恨みなんだけど、
あの腕輪のサンドロ・コールノを筆頭にクーパーには
どうしようもなく好戦的な奴らばかりが揃ってるの。
だから、まず和解は無理だと思った方がいいわね』
聞いてサンドロを見るデルフィーノ。
当然その視線には気づいていないだろうが
サンドロはカンパネッラに向かって手招きし
何度もかかってこいと言っている。
『危険人物発見だな。
オレも悪党がいたら退治してやろうとは思っていたが、
こうも不利な状況とは…。いいやだが、仲間は思ったより多いか』
『何とかしてサンドロだけを殺せてもなぁ』
そう言ったのはアバード。そうして彼彼女らがサンドロを見ていると
彼はロブストに鉄パイプ男を呼ぶよう提案しているようだ。
『まっ、いつも通りだが、今回も余裕だ。
ニキアスも呼んでやろうじゃねぇか』
『それはいい案だぜっ。さすがサンドロだ。
ニキアスには結果だけ見せりゃあいいと思っていたが、
どうせならオレ達の強さとこいつらの情けなさを見せてやろう。おいっ!』
よって彼に言われ内心自分で呼べばいいと思いながらもニキアスに電話する
クーパーのソルジャーだが、その好機をカンパネッラが見逃すはずはなく
レットーラは言う。
『そうだなじゃあ今考えたんだが…
金縛り作戦っていうのを、やってみようぜ』
そうレットーラの言う金縛り作戦とはつまり
金目の物で釣った敵にその仲間を巻き込ませ全体を崩すもので
今カンパネッラにいる中でその単に欲望でない
様々な感情を刺激するものを用意できるのは、
キアーロなど複数の仲間から所持金を預かったアバードとレットーラ、
それに特技によって偽の金塊を造れるエルネストと
たまたま友人から宝石を預かっているロッコ。
彼らとその所持金や金塊などの一部を預かったアレッタ達は
八方のソルジャーに内輪話を仕掛け、
そのそれぞれの敵に口外し難い金銭的事情をつくって
それで縛り絡めるように勢を乱すのである。
そうそれには実のところ逃走開始まで発砲を躊躇わせる役も必要となるが、
話し合った結果たとえばアバード等は、さりげなく自分とペスカーラ
それにカメーリャ、ミラー、コーテルを逃がすだけで
つまりはその五人以外を撃つだけで大金が手に入ると信じ込ませ、
逃げた路地裏の角から敵の背中に向かってしばらくは発砲し、
レットーラは勿論の事ほかエルネスト達や、ロッコを連れて逃げるリカ達、
そしてアレッタ達のグループも
後で金をやるから自分達を殺さないで欲しい、
友人に宝石を返せたら礼はする等と泣きつき、
全力疾走した後路地裏で発砲するのはアバード達と同様。
上手くいけば敵は互いに不審や怒りを募らせ
あちこちで混乱が起きると予想された。またそこでロブストと交渉しながらレットーラの話を心地よさげに聞いていたキアーロは、
失ってもいいのは残り6点なので
皆それぞれ逃げのびる事がファミリーの貢献になると、念をおす。
『だから生きようっ。そして後悔しても心配するな。
どうせいつから数えても大体百年後には、楽になれる』
聞いて言うのはレットーラ。
『さすがオレ達のドンだ。
オレなんて興奮して7点まで奪われてもいいと誤算してたぜ。
それじゃあ壊滅しちまう』
それを受けてひそかに頷いたキアーロだが、
今の時代むしろ皆馬鹿ではなく、仕掛けた時あまり仲間を貶すと疑われ、
誰か一人でもロブストに教える者があれば
全て失敗に終わるのではないかと心配し、それにはアバードが言う。
『いいや、任せてくれドン。その辺りもしっかりと解決する。
とにかく今話し合った結果ドンとダイドはアン、ベティー、
それにレットーラが護衛すると決まった。
だからそのグループは敵の攻撃開始までの時間をかせぐ為に
口実をつくって、怪しまれないようになるべく
ロブストとサンドロに近づいてくれ。そう奴らにしてみれば、
後で流れ弾が当たったと言われるのが恐ろしくて
二人への誤射は許されない。そして合図があったら後は逃げるだけだっ』
またそこで言うのはファルコ、レットーラ、ペスカーラ。
『よし!じゃあキアーロ達がゲデルへ行けばいい。
オレ達は路地裏からの攻撃が終わったらなるべく散って、
生き延びるんだ!』
『ああ、だが路地裏からの射撃は、絶対じゃなくていい。
敵の乱れを大きくする事が目的だから、身が危うくなる前に逃げるんだ。
心配するなっ。たとえばアバードが率いるグループは
西側のソルジャーに作戦を仕掛ける事になっているから、そっちに逃げる。
つまり作戦にかかった一部の敵達はむかって来るアバード達を撃てずに、
遠くにいる別なグループを撃たなければならなくなるんだ。
それでも危険はあるが、交渉が無理なら賭けてみるしかないっ』
『いいねぇ。落ち着くように言う奴もいるだろうが、
作戦にかかった奴らは慌てて説明するんだから、面白い事になるぞ』
そこで画面をまえに髪を撫でながら質問するのはアロマ。
『じゃあ後は…ドンの心配をどうやって解決するかね。
だって私もよく理解できるわ。誰か一人でもロブストに言ったら、
皆殺しにされるだけじゃない?』
だがそれにも答えるレットーラ。
『ああ、だがそれも考えてある。
そしてそのドン・ロブストに対する作戦はお前とリッキーに任せる』
『…へぇ』
『その時お前は裏切るのさ』
その言葉に一瞬戸惑うアロマ。実のところ彼女はここへ来るまでの間、
カンパネッラが見込み違いのファミリーだった場合
死を共にして後悔するのではないかと考え、
まだよく知らないドン・キアーロへの忠誠は揺らいでいたのだが、
それを繋ぎとめたのがカンパネッラの曲事団との対峙や、血の掟。
そうそれを思い出したからこそ彼彼女らは情けなく悪に屈さず
したたかに戦うだろうと結論付けられた訳だが、
そんな彼女にレットーラは続ける。
『いいかそれでも、キアーロの心配はもっともだ。
だから初めはクーパーに入りたいというより、自分の誇りを保ちながら、
それとなく命乞いするくらいがいいんじゃないか。
当然お前の知性は信じる。だから臨機応変に対応してくれ』
『じゃあ仕方ないが、オレも命乞いかな?』
そう訊いたのは勿論リッキーだが、首をふるレットーラ。
『いいや、バルラムでならしたリッキーが命乞いなんて、怪しまれる。
だからリッキーは奴を説得する役目がいい。
そうバルラムで好戦的だった時代があるんだから
ドン・ロブストの気持ちも理解できるとか何とか言って
話を聞いてもらうのさ。確かにキアーロはドン・アクイラと親しい。
だがもしもロブストがそれを知っていても
個人的な付き合いなのは事実だし、
EAが助けにくる頃には全部終わっているからと、話を引き延ばしてくれ』
そう実のところEAは、罪なき者に対し
暴力や恫喝を続けなければ出てこないのだが、それは当然。
ここはガラミールであり、たまたま喧嘩になった、
冗談に強く言い返したなどという事に走りまわっていたのでは
むしろ人々の支持は得られず、それも思い出しながら言うリッキー。
『うーん…そんなに得意な事じゃねぇが、無理でもねぇな』
『だろ?
それに苦肉の策だが切り札もある。それはバルラムさ。
そうタイミング次第だがオレ達の命乞いや
金で逃がしてもらうのが知られて、
どうしてもロブストがカンパネッラを潰すと言った時には、
じゃあオレはバルラムに戻るしかねぇのかよ?とでも、訊いてみろ。
噂によるとあいつは狂暴だが一応ドンになるだけあって、馬鹿じゃあない。
きっとリッキーが本気でバルラムにもどる可能性も考えるぜ。
そうなればEAと善良なファミリーを相手にして
その上バルラムにも敵をつくる事になるんだ。
それに、金を使って逃げるオレ達が情けなすぎて怪しみだしたら、
こう言ってやろうぜ。
実は数日前にファミリー入りした奴らがほとんどなんだ』
『おお、逃げきれる気がしてきたっ。希望が湧いてきたぜ!
ゲームのルールにある地位じゃねぇがオレは一応コンシリエーレだからな、
スターソルジャーはお前で決まりだ』
『えっ?それは突然だな。オレはもっと活躍してからでも良かったが…』
それに納得した一同だが、今迄EAの商売を手伝うだけで
抗争に巻き込まれた経験のないリードと島に来たばかりのデルフィーノは
不安そうに話す。
『死んで雑魚相手にもびくびくしなきゃあならないのは、辛いな。
今迄は悪い奴らを見つけたら怒鳴りつけてやったのに』
『ああ、敵が多過ぎるよな…。
オレは屈強さも低いし、生き延びる自信なんてないぜ』
そしてそんな二人を勇気づけるのはファルコとアレッタだ。
『大丈夫さっ。今アバードから聞いたらリードは
リッキーと同じグループじゃねぇか。それにエルネストも器用そうだし、
お前自身だって頼りにされてるんだ。死んでもまた一緒に戦おうぜっ』
『それを言うなら私とデルフィーノのグループには、バイカもいる。
それにシモーニもいい人そうで、今も落ち着いてるよ』
聞いて手をあげ、実は自信を示しているシモーニ。
彼は仲間達の中で特別一人だけ着ている燕尾服を話題にされることも無く、
口数が少ないことも相まって今迄声をかけたのはアバードとキアーロ
そしてアレッタのみ。よってデルフィーノもよろしくと返しただけだが、
そのシモーニは言う。
『車に乗って逃げるのは駄目か?』
聞いてレットーラやアバードなども思考したが
素早く答えたのは実のところ車についての知識に自信のあるファルコ。
『難しいな。だって標的にされた複数が一台に乗ると
その車がそのまま新たな標的になってしまう。
そしてその車はもしかすれば、パンクしたり、運転手が死んで止まったり、
爆発したり、廃車になって捨てることになるんだ。
当然死んだ者にかまわず運転を代わることはできるが、
大体にして乗るまでの間に大勢の敵が近づいてきて撃たれるか、
車が爆発してそこから逃げることになれば、被害は大きくなっちまう』
『でも、いけるんじゃない?』
そう言ったのはキャメロン。それはゲームの仕様次第なので
他も気持ちは分かるが、ファルコは首を振ってかえす。
『いいかオレ達は、百以上の銃に囲まれてるんだ。
人と車どっちが狙いやすいか、考えてみな。
レースゲームの要素は無いから車はそれほど速くない。
だったらまずは路地にでも逃げた方がましさ』
聞いてそれはもっともだとしながらもたとえば合図が今だ…では
すぐ何か仕掛けてくると気付かれ反応されるだろうと言うのはレットーラ。
それにデルフィーノは一瞬でも油断させる為にも
合図をオレ達の負けだ、にするよう提案し、
それは遅過ぎればロブストが総攻撃の命令を下すだろうと警告。
それでも危ぶむキャメロンとギャスマンに彼は
自分も心配だからこそ考えているんだと前置きし、
初めからクーパーファミリーは抵抗されるとは思っていないという
楽観的な見方も示す。
だがそれも納得できない二人とその疑問に答えるデルフィーノ。
『分からないわ。何で?』
『オレもまだ不安だが…もしかすれば奴らが、
大ファミリーだからじゃあないか。
だって今のオレ達にとっては逃げることが最優先だが、
クーパー達にしてみれば、後でどうにでもなる。だろう?』
『ああ、それもある。
そして他にネットゲームをやっていれば分かるが、
囲まれた方はその場をやり過ごせても後のプレイがあるから、
相手の心象が怖くて逃げられないんだ。
だからきっとオレ達も同じだと思ってるぜ』
じゃあ今逃げてもいい事なんてねぇだろ。そう思ったのはコーテル。
彼は既に冗談めかしカメーリャに二人だけで逃げようか等と言っていたが
その彼女は不安にかられアレッタに相談。
よってアレッタはコーテルを勇気づけその逃走を止めていたので、
事なきを得ている。そうたとえたった一人でもただ逃げてしまえば
味方への動揺は大きいのだが、そこで忘れてはならない事を言うアバード。
『ああそういえば…これはドンに頼まれたから言うが、
壊滅しない為にどうすべきかは話し合っても、
壊滅したらどうなるかを整理していなかったな。
そう忙しさをいいわけに理由を説明しない組織は多いが、
島に来たばかりの奴もいるだろうし、このカンパネッラは違う。
納得させると、意識や意欲が全然違うんだなぁこれが…!だから言うが、
予想される壊滅後の困難とは邸が荒らされる事と、
ファミリーとしての全機能が停止する事、
それに元の所属数を集められず味方が減る事と、
再結成の時に2,000Grの登録料を取られる事、
そしてオレが一番忘れてほしくないのはたとえ一時でも、
ファミリー所有になっている全店を失う事だっ。
よーし分かったら気合い入れるぞ』
『じゃあ残る問題は逃げた後にあつまる日時と場所だな』
言ったのはナイト・ミラー。
先に言われたアバードだが彼はそのとおりと言ってミラーを指差し、
カツミが明日の15:00丁度にバルナの礼拝堂に集まってはどうか
とすすめたのでそれに賛成するキアーロ。
『オンオーズのダチカタルがいいと思ったが、
バレンティーノの酒場は調べられているかも知れないし、
クーパーの縄張りにも近い。だから一度見ただけでしかも
ここにいる皆が知っているゲデルの礼拝堂か。
ロビンソンの縄張りでEAの勢力圏でもほとんど中心だ。さすがダイドッ』
『いいや、まぐれだ。
オレはレットーラやアバードの半分ほどしか考えられない』
だがむしろそのレットーラ達を頼もしく感じているカツミが皆に確認すると
その二人とエルネストは既に内輪話を仕掛け、
アレッタは交渉の布石としてまず親しくなろうと微かに怯えを見せながら
三人と談笑。リカとロッコは今から内輪話を仕掛けるようだが、
少しも挫けずに言う。
『じゃあドンとリッキー、
それにアロマは話を引き延ばしてくれよ。よろしくな。
しっかり作戦が決まらねぇうちに動いたら失敗すると思ってなぁ』
『今からでも宝石の魅力があれば、簡単だぜっ』
そして数分後…
知性派のアロマからそれとなくファミリー入りを乞われ、
名の通ったマフィアリッキーとじっくり話していたロブストは
その背中にニキアスを迎え、サンドロと彼を歓迎。
実のところはじめは私室でニュースを見ながら電話のベルを
無視していたニキアスは、ロブストとサンドロに
本土ではダイアモンドの需要が高まり坊主頭が人気だと教え、
そのダイアモンドをいくつ買うか、
また本土からくる買い手の印象を良くするために坊主頭にするかどうか
悩んでいたと説明し場を沸かせたが、
その手にふたたび鉄パイプが握られると更に注目をあつめる。
そうニキアスは上下黒のスーツに真っ青な髪を立ちあげ、
背丈はサンドロとロブストの間くらいだが目は下から覗き込んで卑しく、
肩幅がひろく厳つい印象で、その言葉にも威圧感がある。
『ヘッヘッ!じゃあどっちにするか決めろ』
だがリッキーはこれをチャンスと考え
ロブストとの会話でかすかに怯えを見せ、ニキアスと話すのはカツミだ。
『でも…決めるって何を?』
『だからお前とリッキー、どっちがオレと勝負するんだ?』
『ああ、確かにこのガラミールに生きる者として、気持ちは分かる。
だが一体どうやって勝負する?お前は生き返ったばかりで弱いだろうし、
無理してもいい結果にはならねぇぞ』
『…勝負って、手を出していいと思ってんのか?』
つまり手を出したら仲間を殺すという意味だろうと思い、
話をつづけるカツミ。
『なるほどそういう事か。だがオレの話も聞いてくれ。
あの時先に手を出したのはお前だし、
その数秒前にもお前は、一人殺してるんだぞ?
こっちの身にもなってくれよー』
『じゃあ怖かったって言うのか?』
『そりゃあそうさ。オレみたいな男にだって、恐怖くらいある。
お前にだって少しはあるだろ』
『無いねぇ。このガラミールで生きるオレにそんなもの』
『そうか、だがオレにはあった』
『知らないねぇ、そんな事っ』
『だからほんの少しでいいから考えてくれ。
あまり怖過ぎても嫌われちまうから、損ばかりするんだぜ?
仲間が仲間じゃなくなる。これはどんな大物だって怖がる事さ』
『ちょっと待て』
そう言いながらロブストに経緯を確認するニキアス。
危険でやや哀れな雰囲気のこの男が最も恐れているのは、
今も西側を固めるあの派手なスーツの女達。そのグループ名を
冒涜するなどの意味を持つバイオレイトという四人にも
馬鹿にされたくはなく、サンドロとも仲良くやりたいと考えており、
東側に立つあの灰色のボーラーハットからぞろりと長い白髪を垂らした
クラゲという通称の殺し屋にも、狙われたくないのは当然。
そういった考えからロブストに幾つか確認しているようだが、
その間もカンパネッラの作戦は少しずつ進み、
たとえばアバードとエルネストは多い時には一度に三人か四人と
切り替えながら内輪話を進めている。
『じゃあお前らはドン・キアーロを裏切るのか?』
『ハハハッ、違うさ!そんな奴はお前らだって嫌いだろ?
当然何人かは今もオレに危険だから止めてくれと言っているが、
ドン・キアーロなら上手く逃げるだろうし、
死んだって彼との友人関係は変わらない。
掟に黙ってファミリーをぬけるなとは、書いてないんだっ』
そしてそれはエルネストにあっても同様で彼は若干、
気圧されたように装う。
『金を?』
『ああ、その代わりもしも別な奴にオレ達が殺されても、
後であまり酷くしないで欲しいんだ。
正直なところ…お前らは怖いって噂だからな』
『オレは金に興味がない。カポになりてぇんだ』
『そ、そうか。
だがカポになりたいならロブストに金を持っていけよ。それが一番だ』
また合図する機会をうかがっているキアーロも
ロブストが攻撃を命じる危険を考え、仲間に準備を促す。
そうついさっきまで一度に沢山の情報を頭に入れたのだから
忘れてしまう事もあるだろうと、今一度皆が合図をおぼえているか確かめ、
だがそれを言ってしまわないよう、そして誰かに言わせないようにしながら
ロブストの問いに答えるのも中々大変だ。
『5,000は高いかなドン・キアーロ?』
『ああ…正直、今のオレは払えるだけ持っていないし、
仲間はそんなオレを気遣ってくれるんだ。何とかならないか?』
だがそこで叫ぶニキアス。
『てーめぇー!!何ごちゃごちゃ言ってんだ!!
オレが嫌われる可能性なんて少しもねぇじゃねーか!!』
『何っ、お前本当に分かってるのか?』
言いながらニキアスを落ちつかせるため
内輪話に切り替えようかと迷うカツミ。だがそうなると
キアーロが合図するタイミングを失う可能性があるので、彼は続ける。
『そう確かにお前らは大ファミリーで三つの町を支配しているが、
味方はどこの組織だ?』
『そりゃあお前…』
『まあ待て。歴史にあるマダキはとっくにお前らの仲間になって
他はやり合うか話し合うかしてどんどんでかくなったはいいが、
オレ達みたいな小さなところを相手にしてどうする?
EAは全体で千六百人以上だから少ないがお前らの半分くらいはいるし、
それにスピアバレイやエルダースが加勢したら?大変な事になる…!
その原因はお前じゃないかも知れないが、もしもこの事がきっかけで
善良なファミリーが怒ったなら、印象はそうなるんだぜ。
もっと言えば、同じ悪だって信用できない…!バルラムは?パボーネはっ?
お前らがコルボと仲がいいなんて話も、聞いた事ねぇぞ』
『だから吸収していくんだろうが』
『それはそうだ。
だがオレ達は一応善良なファミリーだから、さすがに吸収はあり得ない。
つまりよく考えるとだが…無駄だし、ちょっと危険じゃあないか?』
そうして今迄人から聞いた情報をまとめてニキアスに吹き込むカツミ。
聞いて不安になったニキアスはそこでもう一度ロブストと話し、
その顔はすぐサンドロに向いたので今度は彼の話も聞いているようで、
キアーロはここぞとばかりにゆっくりとカツミのすぐ後ろまで歩く。
だがそこで叫ぶロブスト。
『おいちょっと待て!…とりあえずそこを動くんじゃねぇ』
『いいやドン・ロブスト、大切な話があるから聞いてくれ。
オレ達の……オレ達の負けだっ』
そこで一斉に走りだすカンパネッラファミリー。
何だ何だと彼方此方から声があがる中
キアーロのグループが目指すのは二、三十メートル先の東側にある
カンパネッラ邸の裏口にも通じる路地であり、
ドン・ロブストはアン、カツミ、それに続いてレットーラと
自分のすぐ脇をすり抜けてゆくので
早まった仲間の弾から逃げたのかと思ったが、
ついさっきまでカンパネッラを一ヶ所に圧していた状況は一変し、
驚いてしばらく。
どうやらこれまでの抗争のように自分が何一つしなくても手に入るはずの
圧倒的勝利は、見込めないと判断。
ドドドドッ ボーンボーンッ ドドドドドドドッ!
ソルジャーには既に撃ちはじめる者もいたが、
ロブストは二人の手下をだすと同時に振りむくと、
既に手にしていたライフルを撃つ。
ダァーーン ダンッ ダァーン!
その内一発はキアーロをかばうようにすぐ後ろを走っていた
ベティーに命中。
『逃がすなキアーロを狙え!!
撃て撃て!撃っていいんだよ馬鹿野郎共ぉー!!』
カツミと並んでいたアンも撃たれたベティーを見習おうと一瞬足を止め
キアーロの後ろへ。
だがやはりロブストのそばにいるキアーロ達は撃てないという思考は
ここへ来てすぐのクーパーファミリーの間でも囁かれていたようで、
そのお陰もあって路地へと消える五人。撃たないだけでなく
撃つのを止める味方さえいると知ったクーパーファミリーは
徐々に混乱し、それに加えデルフィーノが薦めた
…オレ達の負けだという合図も効果的でただの一瞬とはいえ
そのキアーロから放たれた敗北宣言を耳にしたクーパー達は気を許し、
ある者は画面を前に目を糸のようにして笑い、またある者は銃をしまい、
またある者は手に酒をだす等と大きな隙をつくった恰好。
ロブストも内輪話によってアレッタとエルネストに仕掛けられた者から
報告を受けていたが、逃げたいのは当然だろうと、返しただけだ。
『くそ野郎共がぁ!』
その怒り狂うドン・ロブストの為にもサンドロは一切そちらを見ず、
路地に向かって撃ちつづける仲間のすぐ後ろで予備の銃であるSRを構え、
その先で予備のショットガンを撃つのはベティー。
実のところロブストの一発以外にも二発撃たれていた彼女は
もはやこれまでとキアーロ達を見送って
とにかく一番近くにいる敵を撃っていたが、
一人二人殺したところでその後ろには次々と新手が現れ、
もどって来たアンが自分の前に立たなければ、死んでいたところ。
対してサンドロも既にキアーロを逃がし、
せめて一人くらいは殺して威厳を保とうと思っていただけなので
アンが目の前の味方に火炎瓶を投げつけても笑っていたが、二発とも失中。
『くっそ…!』
その原因は既に反対側にある路地裏のかどへ逃げていた
アレッタ達の援護射撃とアンの前にまたベティーが出たことで起きた
二人の移動だったが、クーパーファミリーの者達は
ただベティー達を殺せなかっただけでなく
その標的である二人のすぐそばまで戻ってきた
キアーロ、カツミ、レットーラの一斉射撃を受けてばたばたと倒れ、
中でも一人腹を押さえてしりぞく者は何と味方であるサンドロに撃たれる。
パンパンパン パーンッ!
その二丁のピストルに倒れ血を吐くソルジャー。
『うぐっ…!』
『似合いの最後だぜ腰抜けがぁ!』
そこで背中に帽子を押さえたドン・ロブストを迎えたサンドロは
すぐ彼と共に狙いを路地へとうつしたが、
既に遠くはなれた所から絶叫するのはレットーラ。
『ハハハッ、今だー!逃げろー!!』
そうこうしてキアーロ達が逃げられたのは勿論
このレットーラの考えた金縛り作戦の成果。
初めから明らかに小勢のカンパネッラが幾重にも囲む必要はないと
侮られていた事もあるが、今もT字路を中心とした彼方此方では
クーパーのカポやソルジャーが欲にとり憑かれ、情に囚われ、
その不可解さに困惑しあるいは怒り、その結果罵り合うか
もっと酷いところでは、殴り合いにまでなっている。
『おいどこ狙ってやがる!!』
『うるせぇちょっと待て!』
『いいやファミリーの為だ!後で説明する!』
『逃げられちまう!何やってんだ!』
『てめぇ裏切りやがったな!!』
『撃ち返さねぇなら死んじまえ!』
『わ、訳って何だよ?後で仲間に囲まれるのは御免だぜー』
『じゃあどっちにすればいいのさ!もう勝手にしてよ!』
それでも一番羽振りが良さそうに見えたかどうかは分からないが
逃走開始直後の発砲によって、カメーリャが死亡。
上手くベティーを助けたアレッタのグループでも一番後ろを走っていた
黒いボーラーハットとロングコートのチャーチが殺され、その彼彼女らには
街灯前で笑っていた緑のスーツと中折れ帽子の男ジャック・イビリードが
対建物炸裂弾を投げ、その特殊とも言える効果で
上から煉瓦が落ちてきたので
アレッタはキアーロが居なくなるのを見計らってすぐ、逃げるよう指示。
アバードのグループが逃げた西側はバイオレイト達の恐ろしさに
比較的落ち着きそのせいで援護射撃はできなかったが、
クーパーでは作戦にかかった愚か者とも言える二人への粛清があったので、その分時間を喪失。
真っ先に路地裏への角を曲がったバイオレイトを援護しようにも
粛清の記憶は新しく、巻きぞえを食うか巻き込んでしまう危険を考え
なかなか彼女達に近づけず、結果アバード達と銃撃戦を繰りひろげたのは
主にそのバイオレイトの四人のみ。
それに勝てると思ったコーテルはまだ仲間達に並んでさえいないというのに振りむいて銃を出したがそこで撃たれ、死亡。
残りは路地の奥で道を塞いでいたクーパー達が集まったのも無視して
アバードの車に乗って横道へと入り、辛くもその場を後にした。
一方真南の路地へと逃げ
その奥にある三つのドラム缶から撃っていたエルネスト達も危うかったが
彼彼女らは所持金をばらまき、
それらは調べなければ少額だと分からないので時間をかせぐ事ができ、
無事全員が脱出。エルネストのグループを相手にしたクーパー達は
手にして画面上に出てきた1ti、2tiという表示に怒り、
その欲にかられた者は忠誠心のある者と衝突し、
東南の路地へ逃げたリカのグループでは
ファルコが腹を撃たれて移動速度が落ちたアロマを助けようと、
大通りに出てマシンガンを発砲。だが間に合わずにアロマは死に、
ファルコは次の標的が自分だと分かっていたので
悔しさを声にしながら一列に並んで構えていたリカ達の元へと疾走し、
大勢のクーパー達が彼を追ったが
その後ろから前の味方に構わずマシンガンを乱射したのは
実のところ悪いプレイヤーの邪魔をしたくてファミリー入りしていた
タツカ・サイジョーという女。黒いワイシャツとスカートに
灰色のロングコートを羽織り長い黒髪を結った彼女の登場によって
その流れ弾に当たったクーパーのソルジャーは死亡し、
当然のように仲間から責められるタツカだったが、
直後その真後ろには隠れていたクラゲが現れ、彼女は反応もできぬまま
そのライフルによって死亡。
リカ達はその小さな混乱を利用し四方へと散り、それから間もなく、
実はボスコの西にある通りを北へゆくとすぐ地下鉄の入口があるのだが、
そこへ辿り着いたキアーロ達。
アンはベティーを守る為にどの病院へゆくのか訊ね、
カツミが画面を引くとその南側には、走るギャスマンが映る。
よって当然のように速く速くと叫ぶカツミやベティーだったが、
ギャスマンはそのすぐ後ろまで猛スピードで来た車から降りる
四人に撃たれ死亡。キアーロ達も慌てて改札への階段をかけおりた。
またその後カンパネッラの縄張りは
邸も含め残ったイビリード達に荒らされ、ストーリアは修復完了まで休業。適当に破壊を楽しんで邸をでたイビリード達は
ヒーズアウトやフクジンにも火炎瓶を投げ奇声を発していたが、
そこで逃げる仲間を撃ちながら歩いてきたライアン・ロスとその仲間
約四十人に遭遇し、メーツベルダから撤退。
つまりカンパネッラはEAのお陰で
比較的小さな被害を受けるにとどまったのである。
そうたった今その事実を知ったのは、
意表をついて町二つ分しか離れていないフーグルックの改札で降り、
その近くにある病院の待合室で、アクイラに事情を説明していたキアーロ。
後ろの受付には看護婦が立ち周囲をカツミ達に固められているが、
彼の不安は大きい。
『本当に、なんて言ったらいいか…!
あんたがあれほどやり合うなと言ったのに…』
『いいさ、悪いのは今度もまたクーパー共だ。
ライアンだってイビリード達が逃げたから、傷一つ負っちゃあいない』
『だが…さすがにあんた達だけじゃあ。
スピアバレイやエルダースは、動けないのか?』
『ああ、うちもそうだがスピアバレイは
コルボとの抗争に忙しくて手が離せないし、
エルダースはドーニャ・レベッカが不在なんだが、
寧ろ明日は必ず来るらしいからその判断を待ちたいと言ってきた。
だがこれからのカンパネッラ邸周辺では、
クーパー達を見つけ次第始末していいと言ってあるから、安心しろ。
もう戻っても大丈夫だぞ。ハハッ…!』
それに謝意を述べるキアーロ。
またアクイラいわくフォンターナのドン・ローザはとても高尚な人物で
簡単に人を信用しないので彼らも今は動けないらしいが、
キアーロの人格とクーパーの横暴さを知れば
少なくとも味方してくれるのは明らか。
ただカンパネッラとしても、メーツベルダで集まった場合
その居場所は早々と知られ、町から出るのは難しくなり、
自由が制限されるのでやはり町の外で待ち合わせたいらしく、
それはアクイラにも伝える。
『じゃあしばらくは目立たない場所にいて、
危なくなったらすぐメーツベルダへ帰るんだな。
この事はロビンソンにも伝えてあるし、
クーパー共が来てもお前らはまともに相手にせず、
パーティーやポーカーなんかを楽しんでいればいいさ。
大船に乗った気でいろ』
『そのEAだって、銃の数ではクーパーの半分だっていうのに…
オレ達のせいで』
『ああ確かに、銃の数ではクーパー達が上だ。
だが仲間の為に死ねるソルジャーの数では、EAが上だ。
だからこれからも何かあれば遠慮なく言ってくれ。
いい奴らを見捨てて、何がEAだっ。そうだろ?』
聞いてもう一度礼を言うと電話をきるキアーロ。
彼がアクイラから言われた事をそのままカツミ達にも伝えると
ベティーは拍手し、レットーラは画面を前にして、にやりと笑った。
少し複雑過ぎたか。実のところ彼は今になって
分かりやすく手順の少ない策ほど成功しやすいと思いだし、
張りきってしまった自分を戒めていたが
それでも何とかなってしまうのが楽観、強引さえ、余裕や剛勇とする、
マフィアの島の面白さではないだろうか。



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