腐女子映画図鑑番外編・日本版ポスター詐欺を許すな【ダニエル】
昨年、いつものようにTwitterのTLを特に何も考えず眺めていたところ、とある映画の宣伝ツイートが流れてきた。
物憂げな表情で窓辺に佇む二人の美青年。妖しくも美しい……欲望と狂気……。BLだろこれ。筋金入りの腐女子である私は、いつか見よ〜などと思いつつ、結局劇場公開中に足を運ぶことはなかった。
そして約一年後。noteで腐女子映画図鑑なるもの(他記事参照)を書き始めた私は、今まで見ようと思って手をつけていなかったBL映画たちを見始めた。この「ダニエル」もその一つである。YouTubeの予告編とか見るになんか不穏そうだけどまあイケメン同士の絡みが見られるなら多少怖くてもいっか〜というノリで再生ボタンを押した……が。ん? なんかこれ……違くない? 最初は主人公たちの青春パートが入るのかと思いきやのっけから不穏全開。なんかこれ思ったより暗……暗いっていうかもうこれ…………ホラーじゃん……
ホラー映画だった。
全編鑑賞後、なんとなく気になって本国版ポスターを調べた私は衝撃を受ける。
やられた……………………
日本版ポスターもうこれ完全に詐欺じゃん!? キラキラ爽やかイケメン二人を出しとけば腐女子が釣れるとでも思ったのか!?(正解)本国版のポスターは正々堂々「怖い映画ですよ」と主張しているというのに……お前……お前さぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
上半期1のダマされた!! を体験しガックリきているところではあるのだが、それはそれとして作品としてはめちゃオモロだったのでここからは普通に感想を書いていきたい。
ダニエル(原題:Daniel Isn't Real・2019年・R15)
おおまかレビュー(ネタバレなし)
画面のキモさ ★★★★★
エロ度 ★★★
グロ度 ★★★
鬱度 ★★
まず改めてこれだけは声を大にして言っておきたい。この映画はBLではない。全然男同士の肉体的な絡みとかないし、なんなら男女のベッドシーンがある。ポスターに釣られた私のような愚かな腐女子(いるのかな? いると信じたい)諸君の期待に応えるような内容ではない。
主人公のルーク(マイルズ・ロビンス)の両親は母親の精神疾患が原因で別れ、幼き日の彼はその寂しさを埋めるようにイマジナリー・フレンド(空想上の友達)のダニエルを作り出す。ダニエルはルークと想像の中でスカイダイビングをしたり箒を剣に見立てて遊んだり、常に一緒にいて彼の味方であった。ルークの母親も幼児によくある空想遊びだと温かく見守っていたのだが、ある時ルークがダニエルに唆されて母の飲み物に大量の薬を盛った事件をきっかけに「ダニエル」の危険性を認識する。ルークは母に命じられて空想の中の「ダニエル」を人形の家に閉じ込め、それ以来彼の姿を見ることは無くなった。月日が流れ、大学生になったルークは大学の寮から実家に一時帰省するのだが、彼の母親の精神疾患は悪化し、激しい発作を伴うようになっていた。刃物を持って暴れる母親に困り果てていたその時、ルークと同じ年頃の青年に成長したダニエル(パトリック・シュワルツェネッガー)が姿を現す。
さて、★5段階評価について。何度も書いたようにホラー/スリラー映画なので、割と景気良く血が流れ、血みどろのショッキングな場面も複数存在するが、私の最も苦手とする「見てるだけで痛い!」という感じの表現はあまりなかったのでグロ度はまずまずの★3。先述したようにベッドシーンもあるがあくまで主眼はホラー描写であるのでエロ度も★3とした。特筆すべきは「画面のキモさ」である。母親だけでなくルーク自身も「存在しない人が見える」という時点で精神的に正常ではないというのは明らかなのだが、そんな彼の異常な精神状態の表現が秀逸で、見ているこちらも気分が悪くなるような映像が続く。幻覚の恐ろしさと暴力の恐ろしさの両面で確実にこちらのSAN値を削ってくる映画なのだ。
ネタバレあり感想
結論から言ってダニエルはルークの作り出したイマジナリー・フレンドではなく、さまざまな人間に近づいてやがてその意識を乗っ取り肉体を奪うヤバい寄生虫みたいな存在なのだが、ダニエルが徐々に力を持ちルークの頼れる友人という姿から逸脱していく様子が非常にスリリングだ。自分の深層心理の表れだと思っていたダニエルの行動がルークの意思と乖離し始め、薬を飲んで治療しようとしても子供の頃のように閉じ込めようとしても無意味。挙句の果てにルークの意識は肉体から弾き出され、ダニエルに取って代わられてしまう。このダニエルに肉体を乗っ取られる時の映像がとにかく気持ち悪く、ルークの精神的な世界の話だと思って見ていた立場としては「そんなんアリかよ!?」と度肝を抜かれた。音と光のオシャレな(?)気持ち悪さからクリーチャー的な直球の気持ち悪さまで、実に怖がらせの手数が多い飽きさせないホラーだと感じた。
さらに、個人的に一番盛り上がったのは、一方的にダニエルに蹂躙される映画かと思わせてからの終盤のアツい展開である。先に述べたようにルークは肉体をダニエルに乗っ取られ異空間に閉じ込められてしまうのだが、なんとかそこから脱出しダニエルに立ち向かうことを決める。二人はビルの屋上で対峙し、そこでルークが偶然掴んだ箒が剣に変わる。そう、幼き日に箒を剣に見立ててダニエルと遊んだように。オタクは伏線回収が大好きなのでこのシーンにはさすがにテンションが上がった。ホラー映画を見ていたはずが完全に少年漫画の主人公を応援している気分である。自分を支配しようとする強大で恐ろしいものとの最後の死闘。ラストシーンはハッピーエンドとは言い難いが、見終わった後には奇妙なスカッと感が残った。
以上、BLかと思って「ダニエル」を見た腐女子の感想であった。思ってたんと違ったショックからの恐怖、恐怖からの爽快エンド。期待していたものとは異なったが、これはこれで感情が揺さぶられる、なかなか楽しい映画体験ができたと思う。さらに、BLではないにせよ主人公二人はやっぱりイケメンなので目の保養になる。特にダニエルは確かに恐ろしいのだが、その中にどこか色気のようなものを纏っていて素晴らしかった。ポスターに釣られた腐女子諸君も「なんだ、BLじゃねぇのかよ」と踵を返さずにぜひ観てみて欲しい作品だと感じた。私自身も基本的にホラーは苦手なので、ああいうポスターじゃなかったらこの作品とは出会えていなかったと思うとあながち悪いもんでも…………
…………いや、やっぱり詐欺はいけないと思います。
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