CASE 10 ベートーベン 肝硬変 絵に描いてよくわかる肝硬変の病態! レバーを焼くときは弱火でじっくり!
(※この記事は3分で読めます)
みなさんは焼肉好きですか?
レバーは弱火でじっくり焼くと美味しく焼けますね!
と言うわけで、今回はじっくり焼いたレバー(肝硬変)のお話!
肝硬変(焼きレバー)は長期にわたる肝臓の炎症で引き起こされます。
気分を害されたレバー好きの方、申し訳ございません(>人<;)
注意!!
「慢性的な肝臓の炎症(慢性肝炎)」と「外部から熱を加えることによる肝臓の炎症(焼きレバー)」では病理学的所見は全く違いますので厳密には「肝硬変≠焼きレバー」です。本記事ではイメージしやすいように”炎症で硬くなる”という広い意味で捉え「肝硬変=焼きレバー」とさせていただきました。実際は違いますので勘違いなされないようどうぞお気をつけを!
CASE 10 ベートーベン 診断:肝硬変
【症例】56歳男性(1770-1827)
【主訴】腹部膨満感、黄疸、足の浮腫み、吐血
【現病歴】
ドイツ生まれの作曲家・ピアニスト。幼少期からモーツァルトを目標とし音楽活動を続けさまざまな名曲を生み出してきた。
ワインを好んで飲んでいた。
50歳の時黄疸(体が黄色くなること)が出現。
53歳の時に第九交響曲が完成したが、翌年の54歳の時に鼻出血と吐血を起こした。その後足の浮腫が出現し、腹水も貯留してきた。
54歳から55歳にかけて最後の弦楽四重奏作品130番、132番を作曲していたが、苦痛を和らげて作曲に集中するためにワインを大量に飲んでいた。
腹水貯留は徐々に増え4回ほど廃液する処置をしている。
【既往歴】
聴力障害
慢性下痢
【診断】
#アルコール性肝硬変
#聴力障害
【経過】
黄疸の出現とアルコールを好んでいたことから何らかの肝障害が存在し、さらに吐血の既往があることや腹水貯留もあることからアルコール性肝硬変と診断した(注意: 現代医学ではそんな短絡的に確定診断してはいけません)。
晩年は肝性脳症から昏睡になり、56歳で永眠。
考察
<肝硬変の一般的事項>
●肝臓の役割
・肝臓は体の中で一番大きい"工場"です。タンパク質と胆汁を合成し、有害物質な代謝産物を処理(アンモニアの無毒化)を行います。
・肝臓は脾臓、膵臓、腸から流れてきた血液を"門脈 "と呼ばれる下水道を介して肝臓内の中心静脈へ運び肝臓内で処理します。
●肝硬変になると
・長年の肝臓の炎症により硬い繊維に変化させます。その結果中心静脈が周囲から徐々に圧迫され、狭くなります。
・中心静脈が狭くなると、その上流の門脈で血液の交通渋滞が起こり門脈内の圧力が上がります。これを門脈圧亢進と言います。
・渋滞がひどくなると血液が逆流し、さらに上流である脾臓はパンパンに腫れます。
・また、渋滞に巻き込まれた血液は別の迂回路を通ります。迂回路の一つに胃食道静脈があり、胃食道静脈がパンパンに張ってしまうと、ところどころで血管の瘤(こぶ)を作ります。これを食道静脈瘤と言いとても脆弱です。破裂すると食道内に出血し吐血します。(下図参照)
●肝硬変の原因
1. C型肝炎ウイルス 50%
2. B型肝炎ウイルス 10%
3. アルコール 20%
4. NASH(非アルコール性脂肪肝炎) 3%
5. その他
●肝硬変の症状
数年間の初期の段階では症状が出ない時期が続きますが、何年も放っておくと進行し肝臓のタンパク質合成機能やゴミ処理機能が低下してきます。また肝臓への門脈血流障害による症状も出始めます。
症状の例)
浮腫み、腹水、黄疸(肌が黄色くなる)、痒み、女性化乳房、精神異常(肝性脳症)、食道静脈瘤(破裂すると大量吐血します)、易感染性 、脾臓の腫大
●肝硬変の合併症の一つとして肝臓がんになるリスクが高くなります。これは重要なポイントです。
<ベートーベンの場合>
『ベートーベン大辞典』(平野昭ほか訳 平凡社 1997年)によると、解剖の結果肝臓の萎縮や硬化が認められたそうです。
ベートーベンはワインをこよなく愛していたことから、日常的にワインを飲んでいたとされアルコール過剰摂取により肝硬変に至ったと推察されます(参考資料2,3/諸説あり/アルコール性肝硬変を否定する論もある)。
黄疸の出現は肝障害を示唆するものであり、吐血は食道静脈瘤が破裂したためであると考えられます。
そして晩年は昏睡状態となり肝性脳症が進行していたと考えられます。
ちなみにベートーベンは、若くして聴力障害も患いました。先天梅毒という説や、ワインの甘味料に使用された鉛を摂取したことが原因という説もありますがそれはまた別のお話。
ベートーベンと私からのメッセージ
・肝硬変は肝臓の炎症の成れの果てであり、一度肝硬変になったら元に戻すのは困難です(レバーを焼いたら元に戻りません)。つまり、肝炎にならないようにする・肝炎の初期の段階で発見することが重要です。
・症状が乏しいこともあり自分が肝炎になっていることに気づいていない人もたくさんいるとされています。
・ウイルス性の肝炎(B型・C型肝炎)に関しては健診で引っかけることもでき、早期発見・早期治療により肝硬変への進行抑制が可能です。
・アルコールによる肝硬変は20%程度であるが、酒好きは要注意です。
・肝硬変は”肝臓がん”のリスクを上げます。
・焼肉屋でレバーを焼くときは弱火でじっくりと!
参考資料
1.『ベートーベン大辞典』平野昭ほか訳 平凡社 1997年
2.『死因を辿る 大作曲家たちの精神病理のカルテ』五島雄一郎著 講談社+α文庫
3.『ベートーヴェンは肝硬変』上野幸久著 未來社
4. yearnote 2022
次回予告
特集第2弾を挟み、CASE 11はレゲエの神様 ボブ・マーリーの皮膚癌です!!
お楽しみに!!
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