CASE 2 孫悟空の心臓病について心臓専門医が解説
第2回ケースカンファレンスは鳥山明氏が産み出したスーパーヒーロー孫悟空です。
今回は心臓病を患った時の悟空に焦点を当てて内科医が考察して行きたいと思います。
Case2 孫悟空 診断:激症型心筋炎、急性心不全
【症例】30歳男性
(※各イベント時の悟空の年齢を記載しているブログを参考にしました)
【主訴】胸痛、労作時息切れ
【現病歴】
<患者背景>
惑星ベジータ出身のサイヤ人。乳児の時に地球に飛ばされ、ど田舎のパオズ山で祖父の孫悟飯に育てられた。とある満月の夜におおザルに変身し、孫悟飯を踏みつけて殺害後、独居となる。その後ブルマとの出会いをきっかけに仲間を増やしながらドラゴンボールを探す旅に出る。亀仙人の元で修行を積み戦闘力を上げていく。その後健康体で過ごすが、ピッコロ大魔王やベジータ、フリーザとの戦いで複数回の多発外傷歴あり。
<今回のエピソード>
人造人間19号との戦いの最中に胸痛と息切れ、冷汗を自覚し救急搬送。
未来から来たトランクスの話によると、ウイルス性の心臓病を患うことになり死亡してしまうという情報あり。
【既往歴】
・おおザル化の既往
・過去複数回の多発外傷歴
・24歳 魔貫光殺砲により死亡。その後ドラゴンボールで復活。
・幼少期からの過食症(治療歴なし)
【生活歴】
飲酒歴なし 喫煙歴なし
【内服薬】
仙豆(頓服) 1個 体力消耗時内服
(難しい用語が入ってきますが解説を加えます)
【バイタルサイン(=生命徴候 生命が維持されているかどうかを示す)】
血圧 80/45mmHg, 脈拍 133回/分 , SpO2 85%(室内気(=酸素吸入なし))
【理学所見(=診察所見)】(妄想)
<聴診>
心音 Ⅲ音(さんおんと読みます=急性心不全の所見)
呼吸音 coarse cracklesあり(=肺が水浸しのときに聞こえる所見)
<触診>
下腿浮腫あり(足が浮腫んでいます=心不全の所見です)
【血液検査】(妄想)
白血球 18000 ヘモグロビン 10.4
CRP(炎症マーカーです) 6.7↑↑
BNP 8000(心臓の負荷の程度の指標) ↑↑
心筋トロポニンT(心筋のダメージのマーカーです) 2.5↑↑
【胸のレントゲン】孫悟空のレントゲンのイメージ
多分こんな感じ 心臓が大きくて肺が水浸し
【心電図】多分QRS幅が広くて心筋伝導障害の所見
【心臓超音波検査(=心臓の動きをリアルタイムで観察します)】
心臓収縮力は通常の1/4程度。ほんの少ししか動いていないイメージ。
【診断】
#1 劇症型心筋炎
#2 急性心不全
(※医師はカルテを記載するとき、一般的に#(ナンバーサイン)を使って患者の問題点をリストアップします)
この状況に対応する時の医師の気持ちとしては、「やばい、死ぬかも」という言葉に集約されます。
しかしそんな不安もトランクスが持ってきた薬で一掃されます。
上記診断にて直ちに治療を開始。未来のトランクスが持ってきた薬剤(抗ウイルス薬??)で治療を開始し、数日で完治し退院となった。
悟空の心臓病について考察
<病気の一般的事項>
劇症型心筋炎はウイルスが原因であることが多い。
☆簡潔にいうと、心臓が風邪をひく病気です。教科書的には数日から数週前に胃腸炎の症状が出ることもあります。
風邪というと大した病気に聞こえませんが、僕らが熱を40度出して動けなくなるのと同様に、心臓が40度の熱を出してへばっているのをイメージしてください。心臓の筋肉がむくみ、心臓のポンプ機能が通常の半分以下に急激にへばってしまいます。
やがて全身に血液が回らなくなり多臓器不全になります。全身に血液を回すためにはECMO(人工心肺)を適用して集中治療が必要になる症例も多いです。全身の血液循環を機械に任せて、心臓の風邪が徐々に良くなってくるのをじっと待つのです。
風邪が長引けば心臓移植まで考えないといけません。
そして僕らがどんなに全力を尽くしても救命できないこともあります。
ちなみに悟空がこの状態で搬送されたら、僕だったら気管内挿管してECMO入れて集中治療室にぶち込みます。
尚、今回の劇症型心筋炎は、心臓疾患の中でも狭心症や心筋梗塞などと比べると頻度的には多くはないです。ちなみに狭心症や心筋梗塞は心臓を栄養する冠動脈が動脈硬化により狭くなったり詰まったりする病気です。原因としては糖尿病や高血圧、コレステロール、喫煙などが原因となることがあります。これらについては今後のケースを通じて解説していきます。
教訓 孫悟空と私からのメッセージ
✓心筋炎は心臓の風邪。ウイルスが原因であることが多い。
コロナウイルスと心筋炎の関与も報告あり(JAMA Cardiol 2020年9月)。
✓心不全について知っておこう。
日本に120万人。これから高齢化が進み増え続ける。
心臓のポンプ機能障害不全で多彩な全身症状を起こす症候群。
心不全は必ず何かしらの基礎心疾患がある。
例えば、心筋炎もそうだが、弁膜症や虚血性心疾患は高頻度。
心不全の基本的な症状を知っておこう!!
次回のケースカンファレンスは?
次回の話題も心臓病です。
Case1で取り上げた夏目漱石の小説「それから」に登場したモテモテヒロインの「三千代」です。彼女は若くして心臓弁膜症をわずらっていました。
お楽しみに!
参考資料
日本循環器学会ガイドライン 急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン
JAMA Cardiol 2020年9月
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