見出し画像

【ダークメルヘン】軽く狂った感じのお婆さんと気まぐれな訪問者

(序) 
 村の外れの大きな一軒家に、軽く狂った感じのお婆さんが住んでいました。
 軽く狂った感じのお婆さんが、いつから村で暮らし始めたのか、詳しく知る人は誰もいませんでした。
 村人たちとの交流も避け、家から出て来ることも滅多にない軽く狂った感じのお婆さんは、どうやら1人っきりで、その大きな家に暮らしているようでした。
 村人たちは時折、軽く狂った感じのお婆さんに家族がいるのか、あるいはいたことがあるのか、そんなことを噂にし、尾鰭を付けた面白い話が出回ることもありましたが、真相を知る者は誰もいませんでした。

※※※※※
(一)  
 軽く狂った感じのお婆さんは、天気の良い日になると、広い庭を散歩するのが大好きでした。
 そんな軽く狂った感じのお婆さんの庭に、最近やって来るようになった気まぐれな訪問者……。

 それは、2羽の子ピンク鳥🐦🐦でした。

 2羽はまだ小さいので、人間の言葉を話すことはできません。
 アラ? そんなことを言っている間に、今日もまた2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちが、親ピンク鳥🐦の目を盗んで、軽く狂った感じのお婆さんのお庭にやって来たようですね。

 パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ~ッ🐦🐦

 2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、軽く狂った感じのお婆さんの庭に植えられた木の枝から枝に飛び移り、心地良い止まり木を探しているようです。
 軽く狂った感じのお婆さんは、2羽に気付くと、優しそうな眼差しで、その小さな訪問者の動きを観察し始めました。
 それから軽く狂った感じのお婆さんは、ノソノソと1本の大きな木に近付き、そしておもむろにその木の幹をバンッ!と叩きました。

 ヒュッ! ヒュッ!

 すると、木の枝の陰から2本のロープがもの凄い速さで飛び出し、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちの両足に絡み付きました。
そして、、、

「ピヲ~ッ ToT🐦」

「ピヲ~ッ ToT🐦」


 何と、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、仲良く並んで木の枝に逆さ吊りにされてしまいました!
 軽く狂った感じのお婆さんは、2羽を一瞥すると、ノソノソと緩慢な動きで家の中に戻り、暫くすると、また庭に戻ってきました。
 軽く狂った感じのお婆さんの右手には、鉄のハンマー🔨が握られていました。
 逆さ吊りにされた2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、すっかり怯えてしまい、ピヲピヲと騒がしく囀っています。

「こりゃこりゃ、誰かと思えば、何とも可愛らしいお客さんじゃないかえ。フォッフォッフォッフォッフォッ。年を取ると、歯の嚙み合わせが悪くなって、このように不気味な魔法使いみたいな笑い方になってしまうわい。ほんに、困ったもんじゃ。フォッフォッフォッフォッフォッ」
 軽く狂った感じのお婆さんは不気味に笑い、逆さ吊りにされた2羽のうち、1羽の子ピンク鳥🐦を左手で軽く包みました。
 そして、鳥🐦に優しく語りかけました。
 「それにしても、お前たちは、何とも可哀そうな鳥🐦🐦たちじゃ。わしは、どうにかして、お前たちをこの厳しい世界から守ってやりたいのじゃが。オーイオイオイオイオイ」
 今度は、軽く狂った感じのお婆さんは、2羽を見下ろし、涙を流し始めました。
 そして、その直後、軽く狂った感じのお婆さんは右手を振り上げ、鉄のハンマー🔨を子ピンク鳥🐦の頭に振り下ろしました。

🔨ゴンッ!
🐦ToTピヲ~ッ


ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 子ピンク鳥🐦は、急に鉄のハンマー🔨で頭を叩かれたのですから、堪ったものではありません。
 痛さのあまり、ピヲピヲと鳴き(泣き)ながら、ピンク羽もバサバサと抜け落ちる勢いで、逆さ吊りのまま軽く狂った感じのお婆さんの手の中でバタバタと暴れました。
 そして、軽く狂った感じのお婆さんは、暴れる1羽を手放し、もう1羽のピンク鳥🐦を同じように左手で軽く包みました。
「ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦」
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
 もう1羽のピンク鳥🐦も、この直後に自分に降りかかるであろう悪夢を察知したものか、ひどく怯えた目で軽く狂った感じのお婆さんを見つめ、軽く狂ったような勢いでピヲピヲと鳴き(泣き)、バタバタと暴れ始めました。
 そして、やはり……。

🔨ゴンッ!
🐦ToTピヲ~ッ


ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 軽く狂った感じのお婆さんは、逆さ吊りにされた2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちを悲し気な目で見下ろし、淡々と諭します。
「人間の世界は、本当に汚いものじゃ。どこもかしこも、足の引っ張り合い、正に両足の吊るし合いじゃ。お前たちのような世の中の道理も分からぬ若い鳥🐦🐦たちが、無邪気にピヲピヲと囀り、人間たちの視界をパタパタと飛び回っていてはいかん。いつ『焼き鳥』にされてしまうものか、わしは心配で心配でならぬのじゃ。これで人間の恐ろしさが分かったじゃろ。オーイオイオイ」
 軽く狂った感じのお婆さんは、またもやさめざめと泣き始め、ひとしきり泣いたかと思うと、逆さ吊りにされた2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちに向き直りました。
「おい、お前! わしの言うことが、ちゃんと分かったのかい?」
「ピヲ🐦」
「おい、お前はどうなんだい!」
「ピヲ🐦」
「全くお前たち……ピヲ🐦ピヲ🐦と返事だけはいいんだからの。さあ、お行き!」
 軽く狂った感じのお婆さんは、2羽の子ピンク鳥たち🐦🐦の両足を縛っていたロープを解きました。

「ピヲ~ッ ToT🐦」

「ピヲ~ッ ToT🐦」


バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバ田端バタバタ~ッ🐦🐦
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、恐ろしい思いをしたせいか、ピンク羽も舞い散る勢いで、バタバタと飛び去りました。

※※※※※
(二)  
 春うららな昼さがり。
 今日も、軽く狂った感じのお婆さんは、お気に入りの庭でスクスクと育つ草木を満足気に観察して回っています。
 するとそこに……。

 パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ~ッ🐦🐦

 アラ? いつぞやの2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちではないですか!
 2羽のクチバシには、幸運を運ぶと言われる四ツ葉のクローバーが咥えられています。
 2羽は、軽く狂った感じのお婆さんの近くの止まり木にパタパタパタ~ッ🐦🐦と舞い降りました。
 どうやら、前に軽く狂った感じのお婆さんに世の中の道理を教えてもらい、その後で命を助けてもらったことのお礼がしたくて、プレゼントを持って来たのでしょうね。
 確かに、村人には気味悪がられている軽く狂った感じのお婆さんですが、2羽にとっては命の恩人に違いありません。
 軽く狂った感じのお婆さんは、2羽に気付くと、途端に笑顔になりました。
「おお! 何と、またお前たちかえ。元気そうで何よりじゃ。今日もまたええ天気じゃのお。フォッフォッフォッフォッフォッ」
 軽く狂った感じのお婆さんは、近くの木の幹をバンッ!と叩きました。

 ヒュッ! ヒュッ!

 木の枝の陰から、2本のロープがもの凄い速さで飛び出し、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちの両足に絡み付きました。
そして、、、

「ピヲ~ッ ToT🐦」

「ピヲ~ッ ToT🐦」


 何と、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、またもや仲良く並んで木の枝に逆さ吊りにされてしまいました!
 軽く狂った感じのお婆さんは、嬉しそうに2羽を見下ろすと、懐から鉄のハンマー🔨を取り出し、前回と同じように2羽の頭に順番に振り下ろしました。

🔨ゴンッ!
🐦ToTピヲ~ッ

🔨ゴンッ!
🐦ToTピヲ~ッ


ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦🐦
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、頭を鉄のハンマー🔨で叩かれたのですから堪りません。
 あまりの痛さに逆さ吊りのままバタバタとピンク羽舞い散る勢いで、のたうち回っています。
 軽く狂った感じのお婆さんは、痛さで暴れ続ける2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちを優しく見つめ、語りかけました。
「この年で、家族も友達もいないわしにとって、お前たちのような若い鳥🐦🐦たちから、このような贈り物をもらえるとは、何とも嬉しいことじゃ。何とお礼をしてよいか……オーイオイオイオイオイ」
 軽く狂った感じのお婆さんは、ひとしきり泣きじゃくった後、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちを見下ろしました。
「贈り物は、ありがたくもらっておくとするかの。わしは、お前たちにいったいどのようなお礼をすれば……。おおっ! そうじゃ! お礼にお前たちを逆さ吊りから解放し、その命を助けてやるぞ。お前ら、それでどうじゃ?」
「ピヲ🐦」
「おい、お前はどうなんだい!」
「ピヲ🐦」
「そうかそうか、喜んでくれるかの?」
「ピヲ🐦」
「これで、おあいこじゃの?」
「ピヲ🐦」
「相変わらず、ピヲ🐦ピヲ🐦と返事のいい鳥🐦🐦たちじゃ」

 軽く狂った感じのお婆さんは、満足気に頷くと、逆さに吊るされた2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちの頭に再び鉄のハンマー🔨を振り下ろしました。

🔨ゴンッ!
🐦ToTピヲ~ッ

🔨ゴンッ!
🐦ToTピヲ~ッ

ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦🐦
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

「その頭の痛みを決して忘れるでないぞ。さあ、お行き」
軽く狂った感じのお婆さんは、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちの両足を縛っていたロープを解きました。

「ピヲ~ッ ToT🐦」

「ピヲ~ッ ToT🐦」


 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ🐦🐦
 バサバサバサバサバサバ鯖サッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、命の恩人である軽く狂った感じのお婆さんの方を振り返りもせず、ピンク羽が舞い散る勢いで飛び去りました。

※※※※※
(三)  
 雪がしんしんと降る、寒い冬。
 このところ、寒さのせいもあってか、軽く狂った感じのお婆さんは体調が優れず、2階の寝室で何日も寝たきりの状態が続いています。
 そこに……。

 パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ~ッ🐦🐦

 いつぞやの2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちが、またもやお婆さんの庭にやって来たようです。
 2羽は、軽く狂った感じのお婆さんの家のベランダの手すりに並んで止まり、窓の隙間から心配そうに寝室で眠るお婆さんの様子を窺っています。
 世の中には優しい人間と怖い人間がいることを2羽に教えてくれた軽く狂った感じのお婆さん。
 2羽は、軽く狂った感じのお婆さんのことを優しく、そしてときに厳しい先生のように慕っているのかもしれません。
 やがて、軽く狂った感じのお婆さんは、窓の外から自分を心配そうに見る2羽に気付きました。
「おお! お前たちは!」
 辛そうにしていた軽く狂った感じのお婆さんは、2羽を見ると束の間元気が出たのか、布団からノソノソと這い出て来て、ベランダに通じる窓へと歩いてきました。
 そして、窓枠をバンッ!と叩きました。

 ヒュッ! ヒュッ!

 ベランダの陰から、2本のロープがもの凄い速さで飛び出し、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちの両足に絡み付きました。
そして、、、

「ピヲ~ッ ToT🐦」

「ピヲ~ッ ToT🐦」


 何と、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、仲良く並んでベランダの手すりに逆さ吊りにされてしまいました!

ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦🐦
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 またもや鉄のハンマー🔨で叩かれることを恐れたのものか、逆さ吊りにされた2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、ピンク羽舞い散る勢いでバタバタと暴れました。
 軽く狂った感じのお婆さんは、ガラガラと窓を開け、逆さ吊りにされた2羽を嬉しそうに見下ろしました。
 しかし、その後で、軽く狂った感じのお婆さんは、実に哀しそうな顔で2羽に語りかけました……。
 
「もう、わしは長くないかもしれぬ。もはや、お前たちの頭を鉄のハンマー🔨で叩いてやれるほどの気力も体力も残されておらぬ。どうか許しておくれ。ああ、それにしても、人間の世は、とかく生き辛い。わしも、いっそお前たちのように自由な鳥🐦に……ああ……自由な鳥🐦に……」
 そう言って、軽く狂った感じのお婆さんは寂しそうに、それでいてどことなく安心したかのように微笑むと、急に大きく息を吸い込みました。
 そして……そのままバタッと崩れ落ち、そして二度と起き上がることはありませんでした。

「ピヲ~ッ ToT🐦」

「ピヲ~ッ ToT🐦」


ピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲピヲ~ToT🐦🐦
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ~ッ
バサバサバサバサバサバサバサッ🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶🪶

 軽く狂った感じのお婆さんが倒れた哀しみからか、それとも自らに訪れた運命を察知したことによる絶望感からか定かでありませんが、2羽の子ピンク鳥🐦🐦たちは、逆さに吊るされたまま、ピンク羽が舞い落ちるほどの勢いで激しく暴れました。
 それから、その2羽が生きたまま逆さ吊りから解放されることはありませんでした。
 2羽は、軽く狂った感じのお婆さんの最期に優しく寄り添う天使だったのかもしれません。

(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?