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1000文字(パロディ小説)/猿の手(あの話だよ)

「なまら“呪われてる”らしいべさ」
 漁師は、言った。 
 
 机の上には、猿の手。

 北海道の漁村。釧路。この何もない町は、廃村同然。
 デパートも潰れ、観光客もいない。

 ヒゲだらけの漁師はいいヤツだが、酒を飲むと幾ばくかセコくなる。
 漁師は、この“猿の手”を売りつけるつもりだった。 
 
「これ、300円で買わないか」
「300円?」
「缶チューハイを買うんだ」
「そうか。缶チューハイならあるよ」
 主人は、冷蔵庫の缶チューハイを注いでやった。
 
「猿の手というらしいな」
「猿の手?」

「ああ。三つ願い事をかなえてくれるらしい」
「うさんくさいな」
「うさんくさい?」

「呪われているのに、なんで人間の願いなんて叶えてくれるんだ。そんな、呪いなんてあるわけないだろ」
「それもそうだ」
 漁師は、バカらしくなった。

「売りつけようとしてすまん」 
 お詫びに、漁師はサンマの活き造りを作っている。
 酒盛りが始まる。

 二人はすっかり忘れてしまい、猿の手は、下駄箱の上に放置された。

 事件は起こった。
 その家の子。ミチコとミチオ。
 男子と女子、二卵性の双子。
 
 あだ名は、二人ともミッチー。
 あだ名のことで、たまにケンカするが仲良し。
 
「これ聞いたことあるべさ。お猿さんの手だ」
 猿の手に気付いたのはミチオ。

 ミチオはミチコを呼んだ。近所の稲荷神社まで来ている。
 ミチオは、その猿の手にどんな願い事をするか、まだ決めていない。
 
「猿の手?」
「そうだべさ。願い事を3つ叶えてくれるんだべさ」

「ひどい」
「ひどい?」
「うん。お猿さんが、可哀想」
 ミチコは泣き出した。
 もっともだった。ミチコは動物好きで、やさしい女の子だった。

「お稲荷さま」
 ミチコは、すぐに猿の手を掴むと、願い事を早口で言った。

「①猿を生き返らせて、あげて。②一人きりは可哀想なので、相方の猿も、お願いします、③廃村になったこの町が、再び観光客で賑わいますように」

 ミチコは3つの願いを一気に言った。
 猿の手をポンと投げるミチコ。
 
 猿の手は、境内の裏側に落ちた。 

「キキッ」
 猿の声がした。
 神社の裏側から猿が。
 猿は、数百匹はいそう。
 
「猿をどうするのさ?」
「猿をトレーニングさせるの。お猿さんが、自活できるように芸を仕込むの」

 ミチコとミチルは猿を大切に育てて、日光江戸村にも劣らないような“猿の観光地”に育てた。
 廃村同然だった町にも、賑わいが戻ってくる。めでたし。

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