【こわくないホラー小説/赤いランドセル】
「まただ」
ミツコは、背筋が寒くなった。
新宿の占い師のところから戻ってくると、あのランドセルが玄関の前に置かれていた。
まもなく、ユウカがアフタースクールから戻ってくる。問題を抱えた子供たちの通う真昼のアフタースクールである。
「嘘でしょ」
ミツコはランドセルを手にすると、階段を駆け下りた。
全てはユウカのためだ。
母子家庭。
明るかったユウカが、不登校を続けている。ユウカの様子がおかしくなったのは、このランドセルのせいなのだ。
捨てなければ。ミツコはランドセルを呪物のように扱った。
「戻ってこないで」
ミツコは赤いランドセルをマンションの一階のゴミ捨て場に投げ入れた。
誰にも見られていない。
走ってその場を離れる。
このランドセルは、メルカリで購入した。「未使用」と書かれていたが、あれは嘘だったのだろう。
きっと持ち主の少女は、死んだのだ。
両親は子供の遺物を捨てられないとも聞く。
きっと思いが籠もったランドセルを捨てられずに、メルカリに出品したのだ。
だから、あの赤いランドセルには、死んだ少女の怨念が籠もっている。
「断捨離して。そうすれば、道は開ける。ユウカちゃんも学校に通えるようになる」
新宿の占い師の言葉が蘇ってくる。
妖しげなものは、ほとんど捨てた。
だが、あのランドセルだけ捨てられなかった。
捨てても、捨てても、戻ってくる
「嫌」
ミツコは部屋に戻ると、頭から布団を被ってしまった。
勘弁して。
私が何を悪いことをしたって言うの。
どうやらミツコは、そのまま眠ってしまったらしい。
「ねえ」
少女の声。
悪い夢をみているのかしら
違う
何かに肩を掴まれた。ミツコを揺さぶってくる。
布団の脇に、少女が立っている。
少女だ。少女の幽霊。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏
「ママ」
聞き覚えのある声。
「ママ。アフタースクールから帰ったよ」
ユウカだった。
ユウカは、見覚えのあるものを背負っている。
あの赤いランドセルだ。
捨てても、捨てても戻ってくる、呪われたランドセル。
「……ユウカ。もしかして、そのランドセルって?」
ミツコは、声を失っている。
「うん。ママが捨てる度、私がゴミ捨て場から拾ってきていたの。スクールの先生が使えるもの捨てたら、もったいないお化けが出るって言うから」
Vサインを出しているユウカ。
ユウカの明るい笑顔が、全ての呪いを解いていった。
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