【小説】#ギャング・ギャング・ギャング(ショートショート)
「1、2、3」
俺は、胸の内で数を数えている。
銀行強盗。
ヤクザから買ったコルトが、ジャケットのポケットに入っている。
一世一代の賭け。
強盗が上手くいったら、外の展示スペースに停めてある「空飛ぶバイク」で逃げる。
『米デトロイト・モーターショー』で話題となった空飛ぶバイク。
昨夜のうちに、実際に飛行できるよう手を加えた。
時速100キロ。
これでは、警察も追ってくることはできない。
意表を突いた高跳びである。
「1、2、3」
数えているのは、客の数。
俺を含めて3名。
――列に並んでいる男(スキンヘッド)と、ソファーに座っている男(労働者風)。
邪魔をするヤツなどいない。強盗開始。
二十五歳くらいの女性従業員が、座っている窓口。
向かって歩いていく。
女優のような美貌。
強盗も絵になりそう。
「おい」
突如、怒鳴り声が聞こえた。
スキンヘッドの男だった。
「おい。美奈子。これが何かわかるか?」
男が、美貌の職員に絡んでいる。
「やめてください」
男は、液体を入れたガラス瓶を見せつけている。
(硫酸だ)
俺はすぐに合点がいった。
恋愛上のトラブルから、スキンヘッドが職場に乗り込んできたのだ。
それも、硫酸を持って。
「おい。待て」
俺は、スキンヘッドに声をかけた。
「何だよ、お前」
「うるさい」
男を羽交い締めにする。
ガラス瓶が床に落ちて、シューシューと焼ける音。
劇薬である。
「逃げろ」
女性職員に、声をかける。
男が、何をするかわからないので、逃げた方がいい。
『ゴオオオオォン』
続けざまに、爆音が鳴った。
もう一人の労働者風の男が、炎に包まれている。
灯油を被って、自ら火をつけたらしい。
「元従業員として、ブラック銀行へ抗議する」
メッセージを叫ぶ労働者風の男。
職員が消火器を噴射する。
火が消えない。
スプリンクラーが作動。店内が水浸しになっていく。
スキンヘッドも、労働者も、犯罪を計画してやってきたらしい。
俺と、一緒である。
ともかく危ない。
俺は、男を突き飛ばした。女性職員を連れて走り出す。
「逃げよう」
俺は、空飛ぶバイクに跨った。
プロペラが回り出す。
「私、スキンヘッドにストーカーされているの」
「危なかったな」
バイクが飛翔を始める。
炎に包まれる銀行。見上げているスキンヘッドの男。
「アナタは、命の恩人ね」
銀行強盗がヒーローになってしまった。
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