最期

父が逝った。

その日は突然やってきた。
いつもと同じように時折目を開け
手を動かしていた。

昼過ぎ、急に呼吸音が変わった。
「下顎呼吸や。」
Spo2がどんどん下がっていく。間違いない。
看護師がやってきて酸素マスクを付ける。
「かえって苦しくなるんじゃないの？」
聞いても止めてはくれない。病院ルールなのか？

Spo2は戻った。家族に連絡をする。
看護師はいない。
私は酸素マスクを外した。
Spo2は下がらないままだった。
「いらないやん。」
でも家族が来るまでの時間を稼ぎたかった。

兄、母、叔母、従兄弟が来た時には容態は落ち着いているように見えた。病室には看護師も医師も来ない。そういえば延命処置はしないと決めていたな。医療者は介入しないんだな。

呼吸、血圧が落ち着いたままだったので、病室には私と兄、おばが残った。弟は遠方の為夜遅くにしか来られない。「今日は大丈夫かな。」
そんな気もしながら父の手を握っていた。しかし、叔母だけは「〇〇(弟)を帰らさなあかん。」と言い切った。

4時半過ぎまで心電図もSpo2も何も変化は無かった。

なんとなく呼吸が少しゆっくりになってる？そういえば手も動いてない。「ほんまやな。」兄がそう言った時-----------------------------、突然呼吸が止まった。
「お父さん？」「親父！」「兄さん！」
その時が来たらそっと見送ろうと思っていた。でも あまりにも急すぎた。
「お父さん、まだあかん。」
「兄さん、私をおいていくんか。」
「まだ〇〇(弟)が来てない。待ってあげて。」
私たちは肩を揺すり手を握り声をかけ続けた。
弟とLINE電話を繋ぐ。まだ時々呼吸をする。心臓は動いている。まだ生きてる、まだ聞こえてる。
「お父さん、お父さん。」
弟の声が響く。


少しずつ心臓の動きが弱まりフラットになっていった。それでも私たちは声をかけ続けた。
何を言ったのか覚えていない。ただただ父を呼んでいた。

全てが止まったのは16:46。
医師が来て死亡確認をしたのが16:49。
父は逝ってしまった。

少しも苦しむことのない静かで穏やかな最期だった。