見出し画像

論説「日本のトラック業はどこへ向かうのか」【安全の国をつくる】

(文責・村岡和春)


 ついに年が明けて2024年となり、日本の物流業を騒がせている問題が目前に迫った。
 2024年4月1日をもって働き方改革関連法における「適応猶予事業・業務」に指定されていた事業の猶予期間が終了し、時間外労働の上限規制が設けられる。そして、自動車運転の業務、つまりトラック運送業も時間外労働の上限規制の対象となり、これによる運送機能の低下が懸念されている。
 あまり多くの人の関心が向かず、テレビ番組やネットニュースの記事でも大々的に報じられることが少なくなった今、日本のトラック業がどこに向かうのかに注目すべきではないか。
 私は2023年10月28日に帝京大学 霞ヶ関キャンパスにて行われた「安全の国をつくる 〜モノがあっても運べない〜」で、学生からの提案を行なった。それ以降、物流問題に関する記事を追いかけており、3ヶ月が経った今、報告の代わりとして追加記事を投稿する。

対応策が日々報じられる

 2023年から徐々に「物流の2024年問題」という言葉を耳にするようになり、時間を追うごとにその機会は増えている。
 この物流の2024年問題は私たちの生活を大きく変えてしまうほどの問題であり、様々な企業や地方自治体で多くの対応策が検討、試行されており、これらを報じる記事に溢れている。
 中でも大手企業の企業間協力の記事はやはり目に留まる。2023年11月にはJR貨物とJA全農の共同で米専用貨物列車「全農号」の運行を開始する記事や、同年12月にサッポログループ物流とハウス食品が焼酎とスナック菓子の共同配送をした記事などが見られた。
 だがその一方で、テレビ番組などからは報道や特集が減り、ネットニュースでは記事自体は増え続けているものの、一度に載る記事の数が減っていたり、記事の大きさが日々小さくなっていったり、検索しなければ記事が見つかりにくくなっているなどが見られるのもまた事実である。
 当事者たちは奔走し、世間一般からは興味関心が薄れていくというどうにも不思議な状況に違和感を持ったのは私だけだろうか。そのような疑問を元に、「安全の国をつくる 〜モノがあっても運べない〜」の会内で行われた質疑応答の内容を振り返り、現在の状況と合わせて考えていきたい。

「安全の国をつくる 〜モノがあっても運べない〜」についての記事はこちらから
https://note.com/classq/n/n0111ceadd67e

会内での質疑応答

 会内では参加者から多くの質問が寄せられた。その数、40個を超えた。時間の都合上、紹介・回答を行うことができたのは関連質問を除き、9個であったが、うち4個は人材について言及するものであった。当記事では、この人材についての言及を取り上げる。
 最も初めに紹介され、注目されたのは「人材確保の取り組み」についての質問である。その回答では、一般的な求人の他に「企業イメージの向上」や「女性ドライバーの採用」、「高卒の採用強化」などが挙げられた。企業イメージについては、社名や企業ロゴ、トラックのデザインなどを変更した。また、女性ドライバーの採用については小型のトラックや車での業務などで採用を増やしているという。
 これに続いた質問が「人材育成の取り組み」についてである。ただ確保するだけでは企業に残ってくれず、しっかり育成することが重要となる。そのための取り組みとして、「若手だけでなくベテランの教育も行っている」という回答があった。私としては、この回答はとても重要なことのように思える。実際、トラックドライバーになった理由として「人間関係が面倒で」「一人で仕事をしたいから」という人も少なくない。しかし、それでは誰が若手を育てるのかとなった瞬間、企業としては頭を抱えてしまうことになり、その間にも若手は十分な教育を受けられず、離れてしまう。ただ、だからと言って強制は難しいため、ある程度対応してくれそうな人に絞って教育するのが限界とのことだ。
 その他にも資格制度や興味を持ってもらうための施策についての言及もあった。若者の車離れが進んでいき、運転免許をとる人は若者を中心に減っていく中、資格取得を仕事として認め、積極的に取ってもらうようにしているという。また、倉庫業務や事務の従業員にもトラックドライバーの仕事を教える機会を設け、少しでも多くの人に興味を持ってもらうといった施策も行なっている。
 次に、比較的話題になりやすい「外国人労働者の受け入れに関する問題点」について質問があった。これに対して、トラックドライバーの業務として安全運転や荷物を積んだり、下ろしたりする際の言葉の壁は私たちが想像している以上に大きいようで、当事者としてはリスクを取るのは難しいとの回答がされた。ただ、いずれは考えなければならない問題であるとも語った。
 「労務管理は具体的にどうしているのか」という質問もあった。これに対しては、営業所でのタイムカードの管理や配送管理責任者が時間の管理を行っていると回答された。この質問からは少し派生してしまうが、関連して荷主との交渉に関しても少し話があった。渋滞や荷待ちについてと値段交渉は非常に関係しており、荷待ち時間は交渉材料になったり、渋滞などでの遅れは逆に交渉材料にされる。また、これに付随してトラックの運転では差別化ができず、他の荷主のことや相場が決まっていることが値段交渉の難しさだと語った。ただ、最近では荷主も協力しなければ、という雰囲気もあるそうで、値段交渉について、根拠を持った数字を持って荷主がサプライチェーンの末端への交渉を行うことも増えてきているのだという。

最近の動向はシステムばかりで中身は見ていない

 紹介した以外の質問でもその多くは「人材」に関することが多く、会内の関心は「トラックドライバー」にあった。その一方で、日々報じられているのは「物流システム」がほとんどであると私は感じている。
 企業間協力や大手企業の取り組み、異業種との協力などとても素晴らしい取り組みが報じられているが、それらは全て「物流システム」への施策に他ならない。確かに、現状では中長距離の運搬が最も大きな課題となる物流の2024年問題では、これらは最重要に思える。しかし、本当にそれでいいのだろうか。
 私は今回の会前の取材や会での講義やワークショップ、その後の動向などを見ていて、物流の2024年問題の本質は「システムの問題」などではなく、システムの運用の先にある「人材の問題」であると考えている。
 多くの業界が人手不足に苦しむ中、物流システムの改新ばかりを進めていったところで、次の担い手がいなければ所詮は一時凌ぎに過ぎない。なぜなら、物流システムを最後に動かすのは人間なのだから。そのような一時凌ぎばかりの対策を行なっていけば、2030年に予想されている運べなくなる荷物が30%という現実がもっと早くに来てしまうようにも私は思えてしまう。
 物流は国家の血液そのものであり、その流れが機能不全を起こそうとしているにも関わらず、国会で大きな議論が行われていない状況を私たちはどう捉えるのか。
 この問題は「危機」とも言える問題であり、静観すべきでないと私は考えているのだが、かといって当事者でもない私たち一人一人ができることなど残念ながら限られている。だからこそ、せめて私たちは関心を持ち、これからの日本のトラック業がどこに向かうのか、注目すべきである

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?