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モノがあっても運べない【安全の国をつくる】第6回開催

 社会を支え、血液とも呼べる日本の「物流」が、2024年4月を目前に深刻な問題を抱えている。
 2023年10月28日(土)帝京大学 霞ヶ関キャンパスにて、「安全の国をつくる 〜モノがあっても運べない〜」が開催された。ゲストとして、南日本運輸倉庫株式会社の石川健太郎氏と川島啓靖氏にご登壇いただき、講演された。また、帝京大学 法学部 法律学科 4年の小林才貢と帝京大学 経済学部 経営学科 3年の村岡和春が指定討論者として、それぞれ事前取材を元に議論を行なった。


「物流の2024年問題」とは

 最近、様々なメディアで2024年問題と耳にすることが多くなった。特に「物流の2024年問題」は多くのメディアで特集が組まれるほどに。
 「物流の2024年問題」とは、2024年4月からトラックドライバーに対し、時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適応されることで、輸送能力が低下するという問題だ。現状、トラックドライバーは人手不足に悩まされており、そこに追い打ちをかけるかのような法規制に対応を迫られている。

取材では驚きの連続だった

 今回新たな取り組みとして、開催事前に指定討論者の学生が、昭和物流株式会社様と首都圏物流事業協同組合様に取材のご協力をお願いし、現場や現場に近しい方々のお話を聞いた。
 学生は取材を通していく中で、概要やいくつもの論点を掘り下げていき、「なんか変な問題だな」という感覚を抱いた。
 物流の2024年問題は唐突に出てきた問題ではない。それまでのトラックドライバーの過労死事件や若手の人手不足といった問題に対して立てられたのが、今回の働き方改革関連法や改正改善基準告示である。改善をするための施策が、なぜか業界をさらに苦しめることになる、この違和感がたまらなく不思議である。
 最も衝撃的だったのが、半年前の時点で一部のトラックドライバーは「物流の2024年問題」を認識さえしていないという事実だった。また、時間外労働の上限規制は同時に給与に上限ができるということにも繋がり、それを聞いたトラックドライバーの3割が「トラックを降りる」と答え、2割が別業界へ転職を希望すると答えた。
 このような事実を得る一方、すべてのトラックドライバーが「物流の2024年問題」に困っているわけでない、という話も聞けた。特に、特定エリアのみで配送をする小型トラックや宅配便などはほとんど影響を受けないという。
 こうして得た事実を整理し、それぞれ論点を絞って【安全の国をつくる】の当日へと挑んだ。

管理や経営者は深刻に捉え、取り組んでいる

 石川氏から「物流の2024年問題」の概要と南日本運輸倉庫株式会社での取り組みについて、お話いただいた。チルド・フローズン系を専門とし、運送だけでなく倉庫管理もされているということで、「一番おいしい状態でお届けします」という企業使命についてから始まった。
 実際の取り組みとしては、「物流はネットワークが命」という言葉から全国共同配送についての説明があった。倉庫の業務にも人を雇っていることからトラックドライバーに限らず、人材不足に対する取り組みなど、多くの課題を抱えつつも取り組みを進めているという。また、荷待ち時間の問題や業界としての手当に関する商習慣などの問題提起も行われた。
 やはり「物流の2024年問題」は運送業界を悩ませているのは間違いない。特に、ドライバーも困ってはいるが、何よりも管理や経営者の方が深刻に捉えているようにも感じた。

学生からの提案

 学生からは二つの論点が出された。一つ目が荷主とトラックドライバーの協力について、二つ目が若者への運送業のPRについて、であった。
 一つ目については、大手コンビニエンスストアの事例を元に、荷待ち時間の削減をすることによる効率化を図って、運輸能力を改善していくべきである、という論点である。現実として、トラックドライバーの平均荷待ち時間は約4時間にもなるという。さらに、荷待ち時間は決してお金になることはないため、効率化を図るべきであるという意見もあった。
 二つ目について、「物流の2024年問題」を人手不足が原因であるとし、各運送業者が業務改善を図っていくことを想定し、そうしていく中で若者の取り込み方を見直すべきである、という論点である。若者が求めていることと現在多くのインターネットサイトでアピールされている仕事の魅力がマッチしておらず、だからこそ若者は入ってきてないとするものだった。
 この二つの論点は一見的を外しているようにも思えるが、それぞれの学生は「物流の2024年問題」の原因を模索し、それに対する提案としてそれぞれの論点が打ち出された。

活発な質疑応答

 講義と学生からの論点の打ち出しを終え、質疑応答へと入ると、答えきれないほどの質問が寄せられた。人材確保のための具体的な取り組みや労務管理について、若者の人材育成、外国人労働者についてなど、様々な話題が飛び出た。その中でも、特に興味深い話題については別記事にて詳しく記載したいと思う。

チームワークでさらに考える

 その後、参加者は講義、学生からの論点の打ち出し、質疑応答を経て、チームワークへと取り組んだ。チームワークのテーマが「若者が就職したくなる運送業にするためのアクションプランを考える」であった。チームワークの時間の後に各1分間の発表と質疑応答も行われた。そこでは、ゲストのお二方も関心されるような発表であった。
 参加者は3チームに分かれ、アイデア出しから始まり、アクションプランを考えていく。各チームの参加者は学生と社会人混合であり、学生の専攻も異なる。そうした中で、多様なアイデアや意見が飛び交い、チームごとの特色が出るような成果物が発表された。

私たちは「物流の2024年問題」を考え続ける必要がある

 この会の目標として、「物流の2024年問題」を共に解決へ向けて考えていく、と設定した。
 もしこのまま有効な対策がとられない場合、2030年時点で現在の約30%の荷物は運べなくなるという。果たしてこれは運送業界のみの問題だろうか。
 私はこの会を通して感じた答えは、断じて否である。
 これまで私たちは無意識に物流を蔑ろにしていたのかもしれない。〈送料無料〉という言葉なんて本来あり得るはずはない。大抵、商品の中に組み込まれているか、あるいは物流を担う業者に対して値切りをしているかだ。実際、定められているはずの標準運賃が守られているケースなど大手のごく一部のみだという。
 これは私たちが知らぬ間に価格へと関心を持たなくなり、安ければいいという考えのみで選んだ結果なのかもしれない。
 だからこそ、これからも考え続ける必要がある。
 そして、2024年4月を迎えて変化が明確になった頃、再度こういった考える機会を設けて振り返り、次なる議論を展開することこそ、必要なのではないだろうか。

(文責・村岡和春)


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