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スマブラのメイン曲で学ぶラテン語①

※ 誤り等気づかれた方はコメントかTwitterのDMで指摘していただければ幸いです。

スマブラの世代

僕らの世代(大学卒業したばかりの人たち〜今の高校生ぐらい)の中で、小中高生の時にスマブラを一度もやったことがない人はいない、と言っても過言ではない——もしかしたら過言かもしれないけど——、それぐらい流行っていましたよね(………よね?)。少なくとも僕自身はその当時、スマブラに没頭していたし、なんなら今でも地元に帰ると必ず友達と集まって誰かの家でスマブラします(マジ)。

それでなんでスマブラの話をしているかと言うと、スマブラの歌ありますでしょ、ゲーム立ち上げたらなり始める、あの何言ってるかわかんないやつ。ターリララーイリイリウー♪みたいなやつです。あれ、実はラテン語なんですよ。知ってましたか?!僕は知りませんでした。さっきYouTube観てたらスマブラの歌の動画が出てきて、あ、スマブラやんと思って観てみたら、あ、これラテン語だったんだ!と気づきました。スマブラ始めてから10年越しぐらいに知った事実に正直興奮が隠せないです。ここでスマブラと僕が勉強してるラテン語が繋がるとは!

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解説

と言うわけでスマブラの歌詞を解説しちゃおう、と思います。おいおいちょっと待て、どうしてお前はそんなことをするのだ?スマブラのラテン語を解説するって、一体何がどう役立つのか?——と言う声が聞こえますね。確かに、おしゃることはごもっとも。そのような読者の声は、無視するわけにはいきますまい。きっちり答えましょう!

動機:多くの人にラテン語に興味を持って欲しい!そしてあわよくばラテン語を学び始めて欲しい!

これが僕の希望(野望?)です。シンプルに、「ラテン語は楽しいぞ〜」と言いたいのです。美味しいチョコ食べて、友達に「このチョコ美味しいよ〜」って勧めるのといっしょです。

本記事のメリット①:ラテン語の特徴を概観できる。

「ラテン語って名は聞いたことはあるけどどんな言語かは正直知らないな〜でもちょっと興味あるな〜」と言う人は結構いるんじゃないかと僕は踏んでいます。そういった、言わば「潜在的学習者」みたいな人たちへのアピールなのです。まあそんな大層な単語あるか知らんけど。


本記事のメリット②:話のネタになる

どう「役立つか」?!を今ちょっと(2分ぐらい)パソコンの前で考えてみたんですけど、これぐらいしか思いつきませんでした(ごめんなさい!)。でもラテン語について知ることは楽しいことだし、楽しいことは良いことだよね。「面白きことは良きことなり!」とタヌキが笑っている声が聞こえます。

とまれ、前置きはこれぐらいにして、早速ラテン語の世界に入っていきましょう。めくるめく古典後の世界へ!レッツゴー!

歌詞

ここからラテン語と英語の対訳を見ながら歌を聴くことができます(※ただし後述するように、この動画は英訳とラテン語が必ずしも対応してないのでご注意を!)。

個人的にはこの動画は歌詞ついてないんですが、声と画が美しくて好きです。

Audī fāmam illīus
Sōlus in hostēs ruit
Et patriam servāvit
Audī fāmam illīus
Cucurrit quaeque
Tetigit dēstruēns 
Audī fāmam illīus
Audī fāmam illīus
Spēs omnibus, mihi quoque
Terror omnibus, mihi quoque
Ille
Iuxtā mē
Ille iuxtā mē
Sociī sunt mihi
Qui ōlim virī fortes
Rivalesque erant
Saeve certandō pugnandoque
Splendor crēscit   
(歌詞の引用元はこちら)fmamが全てfamamと短音になっていたのと、dēstrunsがdēstruensになっていたのは筆者が長音に直しました。

こちらがラテン語の全文です。ん?読み方がわからない?安心してください、ラテン語は皆様のよく知っているローマ字読みすれば大丈夫です

まず最初に、冒頭のところを歌ってみましょう。

Audī アウディ fāmam ファマーム illīus イッリーウス

これを抑えて聞き直してみると「おお!確かに言ってるわこれ」と納得いただけたのではないでしょうか?この調子で全部ローマ字読みしていけば余裕で全部歌えます(マジ)。ただしやっぱり歌なので、長短は多少ずれることがありますのでご了承を。

冒頭部分をできるだけ語順通り、ラテン語に忠実に直訳してみると、

聞け、名声を、彼の。

となります。(歌詞カッコイイよね!)

誤訳?

ところでこのスマブラの歌の歌詞をネットで検索してみると、なぜか「決まった日本語訳」が出てきます。さっきあげた英訳もそうですし、日本語の翻訳そうです(例えばこれ)。

この訳では「あの人の噂を聞いたことがある」となっていて、主語がまるで「私」みたいに訳されてますが、原文のラテン語では明らかに違います。ラテン語のAudīは命令形という形になっていて、「(あなた、)聞きなさい」という意味です(英語にするとYou, listen!)。なぜこのように「決まった日本語訳(しかもラテン語に不従順な訳)」がネットに流布してるかは不明です。(※このサイトの方は正しくも「audīが『私は聞いた』と訳されてるが、文字通りの訳は『聞け』である」と指摘しております。偉い!)

僕の予想ではラテン語に訳される前の段階、つまり日本語の段階では「あの人の噂を聞いたことがある」だったんだけど、それをラテン語訳した方(山下太郎さんという有名な方です)が命令形でこの箇所をラテン語訳したんじゃないかなあ、というのが推測ですが、確証はないです。知ってる方はこっそり教えて下さい。

次の文章行ってみましょう!

Sōlus ソルス in イン hostēs ホステース ruit ルイト           

ここ結構早口で歌ってるみたいです。聞き取るのむずいですが、ソーs・テス・ルイーっtって感じで歌うとっぽくなります。

では単語の解説行きましょう!

solus:日本語でも「ソロプレイ」とか言うじゃないですか、あれはこのsolusから来てます。「一つの」「一人の」と言う形容詞です。ここでは「一人の男」の意味です。
in:「…の中へ」。
hostes:英語の形容詞hostile「敵意のある」がこの単語から来てます。「敵」と言う意味の名詞です。
ruit:ruōと言う動詞の三人称単数完了形です。

ん?三人称単数完了形?!おいちょっと待ってくれ、なんだそのよくわからない言葉は?そうやってあんたらは専門用語を出してくるから言語を学ぶのはヤなんだよ——まあまあそうカッカせずに、ちょっと聞いてみてくださいな。そんなに難しいこと言ってないです。

三人称は「彼」とか「彼女」とか「それ」を指します。ちなみに一人称は「私」、二人称は「あなた」です。もう既にご存知だったかもしれませんね。

単数は「一つ」と言うことです。逆に複数は「二つ以上」と言うこと。

完了形は時制のひとつです。「完了」と言うからには「動作の完了」を指します。なので三人称・単数・完了形「彼/彼女一人が…をし終えた」と言う意味です。ね、簡単だったでしょう?

ラテン語の特徴

ここにラテン語のお茶目なところがあります。ラテン語の特徴の一つは——ここで突然発表します——動詞が変化することにあります!つまり、数(単数or複数)によって、そして時制によって、形が変化します。

なんじゃそりゃ!、そんなややこしいものごめんだね、お断りさ!——ちょっと待って、行かないで!(嘆願)、そんなに難しくないんです、と言うか今は別に覚えなくてもいいです。へぇ、ラテン語って動詞が変化する言語なのね〜面白いね〜と聞き流して下さい。

と言いつつもう少し解説しちゃいます。当たり前ですけど、僕らの使う日本語って主語が「私」でも「あなた」でも「彼」でも動詞って基本変わらないじゃないですか。(例えば「私は歩く」「あなたは歩く」「彼は歩く」うん、変わらないね)

でも日本語の敬語を例にとってみると、(目上の人に対し)「(私が)伺う」、(目上の方が)「(私のところに)いらっしゃる」など、主語によって動詞が変化することがあるじゃないですか。そう言う感覚とラテン語の動詞が変化するのも似たようなものだと思って飲み込んでください(無理がある?いやそんなことない!)。

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この文の直訳:一人の男が、敵たちの中へと、駆けて行った。

それではガンガン次の文章行ってみましょう!

Et エt patriam パトリアム servāvit セルウァーウィt          直訳:そして彼は祖国を救った。

Et:「そして」と言う接続詞。英語でいうandです。
patriam:女性名詞patria「祖国」の単数、対格です。

むむ?対格?と皆様はお気づきになったことでしょう。ここでお待ちかね(?)ラテン語の特徴第二弾を言っちゃいます——それは名詞も変化すると言うことです。

この辺でだいぶ「潜在的学習者」たちが打ちひしがれる様子が目に見えます。なんだよそれ……全部変化するじゃん……そんな変化ばっかりして何がしたいんだよ?ラテン語さんよ。

気持ちはわかります。が、落ち着いて見てみるとそんなに変なことは言ってないことに気づきますでしょう。再び日本語を見てみますと、例えば「祖国」が文の主語の時(あんまり「祖国」と日常では口にしないけど)、僕らは「祖国」と言いますよね?それと一緒で、ラテン語は「この名詞は主語だよ!」と言うのが名詞の変化で一眼でわかるようになっているんです。便利ですよね。そんな風に一眼でわかるようになっていることを示す表をお見せします。

patria「祖国
patria「祖国(呼びかけ)」
patriae「祖国
patriae「祖国
patriam 「祖国
patriā「祖国から

なんだか高校の時の古文文法を思い出しませんか?(四段活用とか未然形とか已然形とかナントカカントカ…あれとノリは一緒です)。これで名詞が変化することは十分に(?)納得いただけたかと思います。(※ちなみに一段目で出てきたfāmamを見返してみましょう。今のあなたはもうお分かりですね?そう、これは単数対格だったのです!)今はさらっと「名詞ってこんな感じで変化するのね」と知ってもらえればイイです。これを頭に入れていただいたあなたは今、ラテン語の深淵へと一歩足を踏み出しました。

続き!

servāvit:servō「保つ」「救助する」と言う意動詞の三人称単数完了形です。ここまで読んでくださったあなたなら、もう見覚えがありますよね?そう、さっき出てきたruitと全く同じ数(単数)&時制(完了形)です。「彼が…した(し終えた)」の意です。

この文の直訳:そして、(彼は)、祖国を、救ったのだった。

まとめ

ほんの三行だけの解説でも結構いろんなことが分かったんじゃないでしょうか。それでは今日の復習をして、今日は終わることにしましょう。まずラテン語を歌います。

Audī fāmam illīus. アウディ ファマーム イッリース
Sōlus in hostēs ruit ソーs テス ルイーっt(だいぶ端折られてる)
et patriam servāvit. エt パトリアム セルウァーウィt

次に歌いながら各単語の意味を思い出してみましょう。思い出せなかったら上の解説に戻ってみてね。

※僕のカッコつけた訳も載せておきます。カッコいいので。

汝、聞け、かの男の名声を。                     その男は一人で敵たちの中へと駆け入った。
そして祖国を救ったのだった。

声に出して歌っているうちに、ラテン語が体にじわじわ染み入ってくるーーそう意識してみて下さい。じわじわ効いてくるハズです。

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こうしてみるとただの「ターチャララー♪」だったあのテーマソングが、 “Audī fāmam「汝、聞け…」”と言う、きちんと意味を持った言葉として認識できるようになっているんじゃないでしょうか。どうです、感動的ではありませんか?


このように、一般的にはもはや話されてはいないために、「死んだ」言葉と称されがちのラテン語ですが、実は今も僕らにすぐそばにある、「生きている」言語なのです——これが今日僕が伝えたかったことです(急に真面目)。読んでいただきありがとうございました!

推薦図書

これで興味を持ってくれた方の為に、僕が個人的に勧める、もっとラテン語が学べる本を紹介します。

まず、河島思朗(監修)『ラテン語練習プリント』です。これは僕が大学入ったばかりの時、「ラテン語がしたいです」と今の指導教官である教授に言ったらまず最初にやるよう勧められた思い出深い本です。完全に独学可能で、「とりあえず、書いて書いて、ラテン語の基礎を抑える」ことを目的としています。今日解説した名詞や動詞の変化もこれでバッチリ学べますよ!

※ちなみに著者の河島先生は僕の在籍するICU出身でありまして、学会の帰りか何かでご一緒した時に電車の中で僕に大学院に関してのアドバイスもくださりました、親切な先生です。

次に中山恒夫(著)『標準ラテン文法』です。これは僕の大学では授業の教科書として使われていました。とてもコンパクトに必要なことがまとめられていて便利です。また同じ著者のより充実した『古典ラテン語文典』もあり、こちらは文法の説明がより詳しい他、ラテン語の読み物も収録されていて、併用すると便利だと思います。



※「ラテン語を多くの人に届ける」と言うコンセプト上、この記事は無料公開しております。が、筆者は苦学生の身でありますので、↓の「サポートをする」をクリックし、投げ銭をしていただきますと、続きを書く励みになります。よろしくお願い致します。


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