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スマブラのメイン曲で学ぶラテン語⑤

お久しぶりです!大学の勉強に追われてヘトヘトになってましたが、暇を縫ってラテン語の楽しさを布教したいと思います。今日はスマブラの歌詞の後半に(やっと!)入ります。前回は「動詞の変化」について詳しく話しましたが、今回は「名詞の変化」がテーマになります。

歌詞

Spēs omnibus, mihi quoque
Terror omnibus, mihi quoque
ille

解説

spēs:「望み」という意味の名詞です。


omnibus:日本語で「オムニバスCD」みたいな言葉あるじゃないですか?あれ、この単語から来てます(なんと、身近なラテン語!)原形はomnisで「全て」という意味です。omnibusはこのomnisの複数・与格で「全ての人にとって」という意味になります。

——ん?与格??「全ての人にとって」??どういうこと??

「与格」というのはおそらく多くの人にとって聞き慣れない言葉ですね(ヨーロッパの言語に詳しい人なら知ってるかも)!第一回でもちょっと触れましたが、ラテン語の名詞は、なんと、変化します!その変化形それぞれに「なんとか格」という名前がついているわけなんですね。既に第一回で出てきた表を使って紹介してみます。

patria「祖国」→主格
patria「祖国(呼びかけ)」→呼格
patriae「祖国」→属格
patriae「祖国」→与格
patriam 「祖国」→対格
patriā「祖国から」→奪格

このように、ラテン語の名詞は用法に応じて変化しちゃいます。日本語の「が」とか「の」とかと似てますね!

まず、主格は「主語になる形」です。例えば「少女歩く」という文の「少女」はラテン語だと主格となります。(spēsも主格ですね)。

主格は「は」「が」

呼格は文字通り「呼びかけ」です。「おーい、そこのお嬢ちゃんよ!」の「お嬢ちゃん」はラテン語だと呼格になります。「ああ神!」とかもまさにそうですね。

呼格は「よ」

属格は「属する格」、つまり何かしらの名詞に付いてそれを修飾する格です。日本語だと「…の」になります。『ハリーポッターと炎のゴブレット』の「炎の」は、ラテン語だと属格になります。

属格は「の」

与格は「…に」「…にとって」という意味です。「グッバイ!それじゃ、僕にとって君は何?」の「僕にとって」はラテン語だと与格になります。(この与格が今回のomnibusにも相当します!)

与格は「に」

対格は英語でいう目的語になります。「彼はりんごを食べる」の「りんごを」はラテン語だと対格になります。第一回に出てきた「そして彼は祖国を救ったのだった et patriam servāvit」の「祖国を」も対格でしたね!

対格は「を」

最後に奪格は「…から」という意味で、「日本からアメリカへ行く」の「日本から」はラテン語だと奪格になります(「アメリカへ」は対格になります)。

奪格は「から」

mihi:「私」という名詞は、ラテン語を知らない人でもおそらく皆知っているハズ。——ego(エゴ)です!日本語でも「エゴイズム」とか言いますよね。あれは元々、ラテン語の「私」という意味の名詞なのです。mihiはegoの与格で、「私にとって」という意味です。

quoque:「…もまた」という意味です。英語だとalsoになります。

なので、「Spēs omnibus, mihi quoque」を文字通り訳すと

望み、皆んなにとって、そして私にとっても。

になります——うーん、どゆいみ??

まあとりあえず、先に進んでみましょう。後からわかってくるハズ!

terror:日本語でも「テロリズム」とか言いますが、これもまたラテン語のterrorから来てます(ああ、かくもラテン語は身近!)。「恐れ」という意味です。残りは全文と一緒なので、「Terror omnibus, mihi quoque」で、

恐れ、皆んなにとって、そして私にとっても。

になりますね。

——ん?!結局この文、何が言いたいの?!

うーん、良い質問ですねぇ!(池上彰風)

僕自身、この文章、どこで切れるか正直よく分からないんですが、結局、主語は、次のilleなのです。illeは一見初めての単語に見えますが、実は最初に出てきた「Audī fāmam illīus 聞け、名声を、彼の」の「illīus」の主格が「ille」なのです!(illīusは属格)。動詞は書かれてないんですが、英語でいうbe動詞と思われます。

なのでこの文章は、

望みであった、皆にとって、私にとっても。
恐れであった、皆にとって、私にとっても——あの男は。

という意味になります。ラテン語は英語と違って、主語を文の最初に置く必要がないんです!このように最後にあってもOKです。

練習問題

Q. 次の日本語をラテン語に訳せ。

⑴薔薇の名前

単語

・rasa(主格), rosae(属格)「薔薇」

・nomen(主格)「名前」

⑵生命の水

単語

・aqua(主格)「水」

・vita(主格), vitae(属格)「生命」


………



答え

⑴ 「薔薇の名前」なので、「名前」が主格で、「薔薇」が属格ですね!なので答えは

rosae nomen あるいは nomen rosae

です。あの有名なウンベルト・エーコの小説のラテン語訳(!)ですね😸

⑵これも同様に、「水」が主格で「生命の」が属格です。なので答えは

vitae aqua  あるいは aqua vita

です。これは、第一回で紹介した河島先生の本によれば、「アルコールや強い酒のこと」を意味するそうです、面白いですね!

ちなみに「プレーステーション vita」はこのラテン語のvitaから来てます(なんと!)。また「アクア」も色んなところでみかけますね。「アクエリアス」も元はこのaquaですし、水族館を意味する英語の「aquarium」もです。このように、ラテン語をかじってみれば身の回りの言葉がより鮮明に見えてきます!

今回は「名詞の変化」と「格」をご紹介しました。これがあるおかげでラテン語の名詞はひと目で「これは主語だな」「これが目的語だな」とわかるわけなのです。スマブラの歌詞も残りもわずかになってきて寂しいですが😭、また次回もお楽しみに!

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