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ラテン語・ギリシア語読解テクニック研究

英文読解テクニック

僕に英文読解の特訓をしてくれたのは、予備校の先生だった。彼独自なのかあるいは他人から学んだのか知らないけどが、その先生はわれわれに英文読解のテクニックを授けてくれた。その方法は、名詞節を[ ]、形容詞句・節を( )、副詞句・節を< >のそれぞれの記号を用いてマークする、というものだった。そうすることでパッと見ただけで文章の構造が分かる仕組みである。簡単な例を出すと、 I think that Tom is going to the park. という英文があれば、

  I            think [that Tom is going to the park].
(S)           (V)                       (O)

のようにマークすることで「私は(S)」「考える(V)」「…ということを(O)」と分かる算段だ。もちろん、このような簡単な文ならわざわざそんなことをしなくても文構造を理解するのに苦労はないだろうし、ましてや英文に慣れている人ならこんなメソッド自体そもそも必要ないかもしれないけど、僕のように「そこそこは読めるけどきちっと読めない」レベルの生徒には良い方法だったと思う(僕自身も、大学生になってからは個別指導なんかのアルバイトではこの方法で指導していた)。

古典語の読解

大学に入ってから僕はまずラテン語、次いでギリシア語を始めた。これら古典語の授業では、一語一語の正確な分析が求められる。例えば先生が「 "Cogito, ergo sum." の cogito を説明して下さい」と仰ったら「動詞 cogito の直説法能動相一人称単数現在、意味は「考える」です」という呪文を唱える必要がある。恐らく大学でのラテン語・ギリシア語の授業はこのやり方で初歩文法を教えるのだろう。もちろん、ラテン語・ギリシア語を読む際にこの「細部まできっちりと読み込む」のは基本のキだが、実際に原典を読む際に文章の構造が「パッと分かる」ような工夫はできないだろうか、と考えた。そこで僕は英文読解のメソッドを思い出した。予備校の先生に教わった、英文を読むときに使っていたメソッドを応用し、ラテン語・ギリシア語を読むのに役立てられないだろうか?と考え、実際に試してみた。

ラテン語での実験

今回はラテン語で試してみる。出典はキケロー『スキーピオーの夢』(山下太郎著『ラテン語を読む』を参考)から。

Post autem apparatu regio accepti sermonem in multam noctem produximus, cum senex nihil nisi de Africano loqueretur omniaque eius non facta solum, sed etiam dicta meminisset. Deinde, ut cubitum discessimus, me et de via fessum, et qui ad multam noctem vigilassem, artior quam solebat somnus complexus est. (6. 10)

見てお分かりのように、一文が割と長く文構造を取るのは難しい。そこで、文構造の把握のために必要なステップを考えてみた。

1. 文の主要素(主語と述語)を見つけてハイライトする
2. 副詞節・句を< >で、形容詞節・句を( )でそれぞれマークする

こうすると次のようになる。

スクリーンショット (22)

こうすることで文構造が分かりやすくなったと思う。まず最初の文は post autem apparatu regio accepti が分詞に導かれる副詞節となっているので < > で括った。(訳:「その後さらに王のもてなしを受けて」)

sermonem in multam noctem produximus がこの文の主節。produximusによって主語が「私たち」、動詞が述語が「続ける」ということがわかる。sermonem は対格だから produximus の目的語。in multam noctem は副詞句なので本当は < > で括るところだけど細かくやりすぎても見にくくなるので避けた。(訳:「私たちは夜遅くまで話を続けた」)

cum senex nihil nisi de Africano loqueretur omniaque eius non facta solum, sed etiam dicta meminisset は cum によって導かれる副詞節で「…しながら」の意。文の主語は senex 、述語は loqueretur と meminisset なので「老人は話し、追憶しながら」がこの cum節 の主要素。(訳:「老人はアーフリカーヌスの事以外は話さず、彼の全て、(つまり)行為だけでなく発言をも追憶しながら」)

Deinde は単に副詞で「それから」。ut cubitum discessimus は ut に導かれる副詞節。ut節中の discessimus で主語が「私たち」、動詞が「退く」ということがわかる(ここは簡単なのでハイライト省略)。(訳:「眠るために私たちが退いたとき」)

me は対格なので何らかの動詞に支配されているのだけど、ここから me を修飾する形容詞句が始まる。et de via fessum「旅のために疲れ」et qui ad multam noctem vigilassem 「夜遅くまで起きていた」→「私を」。

somnus complexus est がこの文の主要素。somnusが主語で complexus estが述語「夢が捕らえた」→「私を」。

artior quam solebat は somnus にかかって「いつもより深い」(訳:「いつもより深い眠りが、旅のために疲れ、夜遅くまで起きていた私を捕らえた」)

☆ 

「ラテン語・ギリシア語をスラスラ読めるようになりたい!」の一心で読解メソッド開発を試みた。私見だけど、古典語をやる人たちは語学に明るい人が多いので敢えてこのような方法を用いずともスラスラと読めてしまう人が多いのではないだろうか。もしこのような読解テクニックがきちんと確立されれば学習者の助けになるだろうし、教える人の教授法としても使えるのではないだろうか。是非ラテン語・ギリシア語の学習者や教鞭を執っていらっしゃる先生方のご意見等を賜りたいと思う。

「ギリシア語やラテン語を広める」というコンセプトのもと活動しております。活動の継続のため、サポート、切にお待ちしております🙇。