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[コラボレーション対談]ソル・ポニエンテ 小坂退三シェフ× CLASS GLASS 西川慎

CLASS GLASSウェブサイトのProjectページでもご紹介している、山陽小野田が誇る銘店とガラステーブルウェアを制作する、飲食店とのコラボレーション〈洋食編〉。今回は、「ソル・ポニエンテ」小坂退三シェフとCLASS GLASS 西川慎による、コラボの裏話をご紹介しましょう。

ともに焼野海岸に位置する、CLASS GLASSの工房も兼ねる「きららガラス未来館」と、新鮮な海の幸を活かしたスペイン料理を楽しめる「ソル・ポニエンテ」。ガラスのファサードが美しい建築は、どちらも隈研吾氏の手によるものです。「食文化とガラス文化を通じて、このエリアを一緒に盛り上げてきた」とCLASS GLASS 西川が語るように、旧知の仲。ごく自然な流れでコラボレーションがスタートしました。

ソル・ポニエンテのためのガラステーブルウェア / 西川 慎

― 制作スタート時には、どんなやり取りがありましたか?

CLASS GLASS 西川「まず、どんな皿だと料理を盛り付けやすいか。サイズと種類について小坂シェフにお尋ねしました。今回は、作家性を出しすぎず、料理が盛られたときにはじめて完成する作品にしたいと考えていたんです。」

小坂シェフ「最近のレストランでは、大きい皿に、ちょこんと盛るのが主流。皿が小さすぎると昔っぽくなるので、ある程度の大きさは必要とお伝えしました。新しいブランドですし、新しい感性で盛り付けた方がいいので。それから、形のバリエーションがあること。でも、リクエストしたのはそれくらい。基本的には料理するときと同じで、与えられた素材に対して、そこから自分なりにどうするかを考えていくタイプなんです。」

CLASS GLASS 西川「それで言うと、僕もまったく同じ。言われたことは守りつつ、あとは任せてというやり方です。だから、あまり事前に細かく相談はしませんでしたよね。やはりお互いにプロフェッショナルなので、情報がありすぎるとかえってやりにくい。基本的なルール、例えばガラスの場合は割れにくいとか、こぼれにくいとかを守った上で、少ない要素をもとに、“相手は何を欲しているのかな?”と考えていく。」

小坂シェフ「注文をつけすぎず、双方自由にやってうまくいくのがベストですよね。だから今回も、できあがった作品を見てから、盛り付ける料理を考えていきました。」

― コラボレーションにあたり、意識したのはどんなことでしょうか。

CLASS GLASS 西川「僕にとって『ソル・ポニエンテ』は、よく訪れていて、どんな雰囲気か、どんなテーブルかまでわかっているレストラン。素材を生かした素朴なスペイン料理であることもふまえて、今回に関しては、奇をてらわず伝統的な技法を使うよう心がけました。お店が提供する料理や環境に思いをはせるうちに、人が手でつくるゆえに生まれた『吹きガラス』の技法が、一番合うと思ったんです。そこで、モールという、型に入れて吹いてから膨らまして形を整えていく方法を選びました。もちろん、型を使うといっても工場でつくるものとは、まったく違うやり方です。」

小坂シェフ「今回のガラス作品に料理を盛るにあたって考えたのは “きれいだな、この作品を邪魔しないようにしないと”ということ。僕はわりと行き当たりばったりな性格なので、ガラスを見た印象に合わせて、そのときの感覚やお店にある素材をもとにメニューを決めて盛り付けていきました。例えば、平皿なら、波型の陰影がきれいに出ているので、そこを隠さないようにするとか。深めの器なら、ガラス越しに見たときの印象も意識するとか。」

CLASS GLASS 西川「“邪魔しないように”というのが、お互い共通していますね。僕も食材やシェフの邪魔をしたくないという気持ちが強かったので。ガラスの歴史をさかのぼるほど、作品である以前に、器としての機能が重視されていたと感じます。工業製品と工芸製品が分かれる前ですね。だから、実際に使う器としてつくるのであれば、伝統的なスタイルが合うと思ったんです。自分の作品をただ見せたいだけであれば美術館に飾ればいいけど、あくまで『ソル・ポニエンテ』の空間や料理と一緒にお客さまに楽しんでいただくことが大切なので。それを受け止めていただけたのが嬉しかったですね。」

小坂シェフ「実は、オールガラスのテーブウェアに盛り付けをするのははじめてだったんです。だからどういう仕上がりになるか想像がつかなかったんですけど、結果的にすごくきれいにできた。お互いがそういう気持ちを持てていたのがよかったのかなと感じます。」

― 今回、手がけられた料理のポイントについて教えてください。

小坂シェフ「ふだんお店で使っている素材をもとに、色や高さのバランスを意識して構成しました。ある意味では、いつも『ソル・ポニエンテ』でお客さまにお出しするときと同じ考え方。そこにプラスして、自分が捉えた皿の特徴を生かせるように気を配りました。今回作った3品には白やグリーンなどの爽やかな色みのものが多かったから、デザートのプレートでは、あえて赤や茶などの濃い色を取り入れて変化を出すようにしました。一皿ごとの色彩や食後感と同時に、コース全体のバランスとそこから生まれる食後の余韻を大事にしているので、そうしたところも表れていると思います。」

CLASS GLASS 西川「僕が誰かと仕事をする上で大事にしているのは、相手のプロフェッショナル性。できればお互いに近しい感覚で仕事できると、一番きれいにまとまるんじゃないかな。小坂シェフがいつもの食材や、ふだんのやり方で料理をしてくださったように、相手が自分らしく描けるキャンバスをつくりたいんです。今回で言えば、最高水準の技術を最大限に用いながらも、あくまでトラディショナルな透明のキャンバスをつくった。相手のことを考えずに自己主張だけで作ったものって、僕はいいと思えないんです。たとえば、ガラスの美しさだけを主張して真っ青な器をつくっていたら、そのままではこんなに“おいしそう”とはならなかった気がします。」

小坂シェフ「たしかに盛り付けていてとてもやりやすかったですし、そうなるようにしてくださっていたんだなと感じます。でも、もし次の機会があるなら、それこそ青や黒のガラステーブルウェアに挑戦するのもいいかもしれませんね。その場合は、数日前から料理を考える必要がありそうですが(笑)。今回のように、“いつも通り”とはいかないと思いますので。」

― 今後は、どんなことに取り組んでみたいですか?

小坂シェフ「今回はお互いにやりやすく動いたところもあったので、今度は逆にお互いが好き勝手やってみるのも面白いかと思います。とんでもなく個性的な皿を持ってきてもらって、そこに対してどう料理でアプローチするかとか。いろんなことをやっていかないと、自分自身が変わっていかないので。他の方とコラボするなかで無理難題を突きつけられた方が、いろいろ考えて工夫するかもしれません。」

CLASS GLASS 西川「そうですね。今回は、誰にとってもある程度、扱いやすいものを目指した部分もあるので。もし、よりセッション性を高める場合は、自分がどんなガラスを一番きれいだと思っているかや、自分がどんな料理を最もおいしいと思っているかの掛け合わせに重きを置くといいかもしれません。ただ突拍子もないことをやるのではなくて、あくまでガラスや料理へ真摯に向き合う中で行うイメージですが。」

小坂シェフ「それは大事ですね。僕も奇をてらったものは好きじゃなくて。やっぱり、最終的にはお客さまに提供して、食べていただくのが大前提なので。自己満足の方にいくのではなく、お客さまに喜んでいただける範囲の中で、いろんなことにチャレンジできたらと思っています。」

CLASS GLASS 西川「まったく同意見です。見たことがないものをやればいい、というわけじゃないですよね。真摯に向き合った結果、すごく値段が高くなったり、めちゃくちゃ重くなったりして扱いにくくなる可能性もあるけど(笑)。ただ、根本的には見せつけたり押し付けたりするものではなくて、スッと食べておいしさを感じられて、さらに、よく見たらガラスもきれいね、と思っていただけるのが理想です。それが一番、難しいですけどね。」


ソル・ポニエンテ 小坂退三シェフと、CLASS GLASS 西川慎