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東の海

【記録◆2023年5月24日】②

 時折、「山が近く見える日」があります。山肌に指で触れそうなほど。

 そんな場所に住み続けていると、海を見るのは特別な体験になるのです。
 数十年の人生で海を見たのは、ほんのわずかな回数。

 車椅子で遠出をするとき新幹線の多目的室を車椅子席にしていただくと、窓があるのは富士山のほうだけで、海は見えないから。


[高塚山展望台]

 熊野灘に突き出た岬にある展望台です。
 駐車場から高塚山山頂まで、樹々に囲まれた長い坂道を上りました。

 途中で力尽きそうになって、二本杖を交互に前へ出すのではなく、前方に二本出して漕ぐようにしたら再び進めたのでした。
 目的があると様々な方法を考えつきます。

 円盤のような形の「白亜の展望台」の真下からは何も見えません。
 螺旋階段を上がって円盤を一周すると、360度の景観を得られました。

 でも、濃い色の東の海ばかり見ていたのです。右手の先には何もない、と知っていたから、広大な太平洋との繋がりを感じながら。

この先には何もない

 正面から左半分は多島海で、近くに美しい砂浜も見えました。

正面
多島海
砂浜

 海の浅い部分は滝壺のような色。

真昼の滝壺のような色

 東の海をみるのは初めて。真昼でも眩しくなくて、美しい色を心ゆくまで眺めていられます。

真昼の海

 無料の双眼鏡で発見した島を目でも見て違いを楽しみ、
「カメラには写るだろうか」と考えて、ズーム機能を使いました。

双眼鏡で見えた白波

 双眼鏡で見てから目で見ると、見えなかった所が目でも見えます。
「聞こえにくい耳でも歌詞を知っている歌は聴き取れる」というのと同じ。

双眼鏡で見えた小島

 目には見えない島が輪になって、「カゴメカゴメ」をしているよう。

左端の小島に白い灯台

 螺旋階段を下りるとき壁にあった地図に気づき、来た道を戻るのではなく海に沿って走ろうと考えました。

[豊浦海岸]

 海沿いの道を走っても、樹々の間から一瞬、海が見えるだけ。
「どこかに開けた所もあるはず」と信じていたら急に風景が変わりました。

 砂浜に下りる階段がすぐそばにあったから、二本杖で慎重に下ります。
 だんだんと海に近づいていき、波打ち際で止まりました。

正面
左側
右側

 このまえ砂浜を歩いたのは、何十年前でしょう。
 素足で歩いたのはたぶん40年ほど前。

 清流の傍でも素足にはなれません。
 脚が不自由だと靴や靴下の着脱が難しいため。

 他の動画は全て強い風の音がまさっていて、こちら向きで撮った動画だけ波の音がわかります。

寄せてくる波

 ステッキチェアを椅子の形に変えて、低い波を眺め続けました。

 わずかに高いだけでも怖さを感じます。気づかないでいるうち波打ち際が自分に近づいてきてしまったみたいで。

 瀧は、落差がどれだけあっても、水量が多くても、飲まれてしまうことはありません。飛沫がかかる所では、ずっと飛沫がかかるだけ。
 滝壺に落ちないかぎり引き込まれることもないのです。

 海だと引き込まれてしまうような感じがします。
 どんなに低い波も、海の方へ引いていくためでしょう。

岩山の向こうにも砂浜

 左の岩山の向こうに、展望台から見えた砂浜の端が写っています。
 帰宅後に地図と写真を見るまで気づきませんでした。そちらの砂浜に続く道は、地図にも見当たりません。

 展望台でも、砂浜でも、帰る時に他の方たちがいらっしゃいました。
 それまでは誰も居なかったのでした。

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