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望まひろのこと ~ 340.29m/s 解散に寄せて ~ (#014)

望まひろ というアイドルがいる。
昨年から、私の心の支えとなっている一人だ。
彼女がステージから降りる時を迎えようとしている。
想いの丈を言葉にしたい衝動に駆られ、このnoteを書き始めた。

望まひろは「340.29m/s(ソニックメートルパーセコンド、愛称ソニパ)」というグループのメンバーだ。しかしいわゆる〈推し〉とは一線を画す。私の中で特異なポジションを占める、唯一無二の存在。これからそのことについて、私の心境と、彼女と辿ってきた道のりを書き綴っていきたい。

ボーイ・ミーツ・ソニパ

ソニパとの出会いは、2021年5月15日。滋賀の石山U-STONEにて行われた対バンLIVEだった。きっかけはオタクのチェキツイート。カッコイイ雰囲気のアイドルが写ったチェキを見かけた私は、見ず知らずのアカウントにも関わらずリプを飛ばして、グループ名とメンバー名を教えてもらった。

どんな人なんだろう。どんな曲を歌うんだろう。煽りはするんだろうか。声は。キレは。その人を一目見たくて、対バンメンツに恵まれていたこともあり、初めて滋賀のライブハウスへ足を向けた。同じ関西圏とは言え、滋賀まで行くのはプチ遠征。この好奇心が、私とソニパを出会わせた縁だった。

2021/05/15 ソニパと出会ったLIVE

初見にして、LIVEは充分に楽しんだ。曲の雰囲気とか、オタクとアイドルの掛け合い・関係性みたいなものに主現場・Zsasz と近いものを感じて、とても居心地のよい時間だった。チェキ券を売っていた初対面のおじさんに「Zsaszと対バンして下さい!絶対相性イイです!」と売り込んだぐらいだ。このおじさんこそ、運営会社ドリームファクトリーの中林社長であることは、後ほど知る。

特典会では真っ先に、例のチェキツイのメンバーの所へ行った。
当時黒髪ショートの、葉月みわ。
クール系に見えたその人はとても気さくで話しやすくて、ユーモアもあって、いい意味で予想を裏切られた。なんというか、会話の呼吸がすごく合う。しかも私がアイドルにハマるきっかけとなったZsaszを同じく推しているオタク仲間だということもわかった。好きな曲の好きな歌詞を挙げてくるぐらいのガチオタ。こんなにも合う人っているのか!
みわは、Zsasz以外で初めての推しになった。

葉月みわのこと

ソニパの元メンバー・葉月みわ

みわは友達にいたら一生付き合えそうな、とても居心地のいい人だった。色んな話をした。Zsaszの話。ソニパの話。演劇の話。アニメの話。カフェの話。バイトの話。他愛もない話。何を話しても時間を忘れたし、話題は尽きなかったし、肩の力を抜いて楽しめた。

みわは優しい人だった。自分のことを弱いと思っていて、だからこそ人の弱さや傷を理解する想像力を持った優しい人。それをユーモアで前向きに変える力を持った人。脱力感溢れるイラストと自虐の利いたコメントがとてもとても好きだった。

イラスト描きます企画があって、貴重な機会だからと参考写真を厳選しているうちに〆切を過ぎ、ついに機会を失ってしまったことがある。何をやってるんだおれはバカか、と今でも思っている。描いてもらったらそれをアイコンにしようと思っていた。失ってしまった幻のアイコンに相当するものでないとアイコンを変えられない、変えたくないから、今でもずっと私はアイコンを変えられないままでいる。

悔しくてずっと保存してある募集画像

楽しいことも悔しいこともたくさんあって、みわについて想いを馳せると筆が止まらない。思い出がいっぱい。

ある日、そんなみわが、脱退を決めた。

理由は、身体にできた腫瘍の手術。そして、自分がアイドルでいることへの違和感に耐えきれなくなったこと。ずっと葛藤を抱えながら、頑張って、その時まで続けてきたんだと思う。

葉月みわは、Zsasz以外で初めてできた推しだ。「初めて見たものを親と思う」的補正もあるZsasz以外に目を向けさせてくれた彼女は、いかに私にとって大きな存在であったか。

そのみわが、アイドルを辞める。
初めて推しがアイドルを辞める。
どん底に沈むような喪失感に襲われた。

私も演者の端くれだから、こういった加入脱退や「いろいろある」的なことは世の常と思っている。そういった演者の機微的な部分に、ある程度慣れてはいるし、想像力も多少は働く。だからこそ余計、ダイレクトに落ち込んだ。遅かれ早かれ避けられないことだったろうし、みわが自分を大切にするために今できる精一杯の選択だったんだろうなと思いながら一方で、オタクとしては沈み込んだ。

出会えた期間、約半年。
今数えて、愕然としている。半年しかなかったのか。1~2年は過ごした気がする。
それぐらい、推していた。

葉月みわ画の絶妙にユルいソニパメンバー


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Shangri-Laでの再会

Shangri-Laの特徴である内装シャンデリア

みわが去った翌々週、私はライブハウスにいた。梅田Shangri-La。箱フェチの私が一度訪れたいと切望していたライブハウスで、当時好きだったグループばかりの対バンがあったのだ。みわが抜けたソニパは、望まひろ・糸生りとの2人体制での出演。一方のQuubiはデビューしたばかりのフレッシュな顔ぶれだった。2週間前のQuubiデビューLIVEに居合わせていた私は、初めてデビューに立ち会ったアイドルグループだったこともあって、親のような気持ち。アイドル側の物語というか、アイドル人生的な側面に思いを馳せてしまう対バンだった。

みわ脱退後初めて行ったソニパLIVE

ソニパのLIVEは、なんと表現するのが適切かわからない気持ちだった。元々、まひろ・りとの2人体制でデビューしたグループだ。歌もダンスもオタクに届く、ちゃんと楽しませてくれるステージングではあった。けれどやっぱり、みわがいないのをとても寂しく感じたし、引きずられまいと無理やり前向きに努めるもやはり引っ張られてしまう2人とオタクとの姿に「あぁ、アイドル現場だなぁ」と感傷に浸った。

どんな顔をしていいかわからないまま、まひろとりとの特典会に並んだ。1~2回程度はこれまで話していたものの、ほぼずっとみわにばかり行っていたため、数ヵ月ぶりの接触。

一種のお礼参りだった。

みわの脱退からしばらく、望まひろは、緑のアイテムを身につけていた。葉月みわのメンバーカラー(望まひろは紫、糸生りとはピンク)だ。それと言わぬまでもさりげなく、葉月みわの存在を身にまとって、まひろはソニパを続けていた。「私がもっと何かできていたら…」なんてことも言っていた。

緑のラババンを腰につけてLIVEするまひろ
右はりと、左はみわ生誕Tを着たまひろの手

りとはりとで、持ち前のユーモアとキャラクターを活かして、元気づけるツイートを連発した。誰も暗くならないように、暗くなってしまった人が顔を少しでも上げてくれるように、軽妙洒脱なそれらは私の救いとなってくれていた。

私の番がくると、2人とも名前を呼んで、私の心中を気遣ってくれた。しばらく接触に行っていなかったにもかかわらず。どちらがよりツライとか、条件が違うので比べられないけれど、彼女たちももちろん辛くてやるせなくてそれを誰にも言えない立場にもかかわらず。なんて優しい人たちなんだと思った。慈愛に包まれた。ソニパは思いやりの人ばかりだ。

ソニパはオタクも治安がいい。みわを失って、離れてしまった人もいる。一方で、同じ人を失った者同士、緩やかにだが、みわ推しオタクの繋がりができた。今も別現場で仲良くさせて頂いている。

現場の空気を感じて、まだ離れるワケにはいかないな、もうしばらくソニパに通って、みわが残したものをちゃんと見届けて、それからにしようか、なんてことを考えた。

5人体制・新衣装でのアーティスト写真

ソニパは2人体制で活動を続けながら、新メンバーを迎え5人体制となり、アー写も新しくなった。新メンバーも曲を覚えなければならないので、この曲は5人で、この曲はまだ2人で、と出番の中でも体制を変えながら少しずつ披露される曲が増えていった。葉月みわ作詞曲の「我♡INEED!!」をはじめとして聴けなくなった曲もいくつかあったが、だんだん「元のものをちゃんと引き継いだ、新しいソニパ」が形成されていった。

その様子をSNSで見守りつつも、私は現場を離れていた。正確に言うと、行けなかった。
「こんなのはソニパじゃない」と思ってしまうのが嫌だった。どんな気持ちで行って、どんな顔で会えばいいか、わからなかった。

けれど私は、またソニパの現場に足を運ぶことになる。
思えば、Shangri-Laに行って現場を感じ、まひろ・りとと話したことが「みわがいないソニパに行く」というターニングポイントになっていた。

QUATTROの新体制ワンマン

3ヵ月ほど経った、2021年12月28日。
私は 梅田 CLUB QUATTRO にいた。
ソニパ5人体制のお披露目を兼ねた、東名阪ワンマンツアーのファイナル。新たな門出をちゃんと見届けよう、最後に巣立ちを見送ろうみたいな気持ちと、単にまひろ・りとに会いたい話したいという気持ちで、参戦を決めた。

この頃にはオタクも気持ちを切り替え、メンバーももちろん抱えるところはあるだろうけど目の前のことに向き合って、全力で5人体制のソニパを受け入れてもらうべく活動していた。

私もウジウジするのはやめて、なるべくすっきりした気持ちで見守ろうと思っていた。完全に切り替えることはできないけれども、変えられないものは変えられない。まひろが、りとが、どんな覚悟でソニパを続けているのか、わからないなりに思いを馳せて、こちらも相当の覚悟で居合わせようという気持ちだった。

発表当初は3人体制で立つ予定だった

この日初めて私は、ソニパのLIVEで紫を振った。
葉月みわは、緑担当。オタクというのは変なもので、推しへの操を感じて、ソニパで緑以外を振るのに抵抗があった。
けれどLIVEを観ていて、これは振らねば、と思った。

まひろは、みわのことを忘れない私も、だからまひろは〈推し〉とは違うと言う私も受け入れてくれたし、変わりゆく状況も、離れるオタクも、新参のオタクも、混ざりきる前の雰囲気もすべて包み込んで、色んなものを抱えてそれでも笑って、ソニパの大黒柱としてステージに立っている。小さい身体にそんなものを背負っていながら、ステージ上の望まひろは、美しかった。頼もしかった。とても人間として強い生き物のように感じた。

ちっちゃくて愛らしくて頼もしい、望まひろ

特に脳天を殴られるようにガツンと来たのが「僕らが紡ぐこれからのうた」。アイドルとオタクの関係性を歌った、望まひろ作詞曲だ。
別noteでも言及したが私はあまり歌詞から入るタイプではない。ソニパの歌詞もほとんど知らなかった。
この歌を、まひろが書いた。目の前にいる、小さな身体で精一杯みんなに勇気を元気を癒しを力を与えるこの人が、この歌を、書いた。そして、今こうやって、届けてくれ、私の心は動かされている。
私はここから、ソニパの歌詞をちゃんと聴くようになった。

メンバーカラーの幟と5人体制のソニパ


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望まひろは〈希望〉になった

頻度はそう高くなかったものの、度々ソニパのLIVEを訪れては近況報告を兼ねて、まひろに会いに行った。

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