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「キン肉マン」を愛し、あの炎上でなんかちょっと正気に返っちゃった「日曜24時の駄菓子屋少年」の気分的総括

「昔のほうがよかった」というのは老害の常套句です。そしておおむね、過去を美化する錯覚でもあります。

だって今のほうが、医学も料理もずっといいもの。

ただひとつだけ明らかに「日本は昔のほうがよかった」ということがあって、それは「子供の主役感」だと思っています。

かつて、日本の子供たちは消費の王者でした。

いまでは想像もつかないですが、17時から20時まではずっとアニメをやっており、街にはおもちゃ屋があふれ、駄菓子屋が交流所として機能し、CMは子供向けおもちゃやゲームの宣伝にあふれておりました。

もちろん体罰やいじめなどは当時のほうが多かったので、「昔の子供のほうが幸せだった」とはいえませんが、少なくとも消費活動において子供は大きなマーケットでした。


その、社会の4割(いまは約1.5割)を占めた80年代の子供たちの話題の中心はなんといっても「週刊少年ジャンプ」でした。

ジャンプが放送された翌日はその話題でもちきり。その黄金時代のジャンプの中でもとくに子供たちの話題をさらった、娯楽の王者オブ王者こそが「キン肉マン」でした。

とはいえ、純然たる人気だけで言えば「北斗の拳」のほうが爆発力はありましたし「ドラゴンボール」のほうが質量ともに上だったといえるかもしれません。

しかし「キン肉マン」が子供たちにとって唯一無二の存在となりえたのが累計1億8000万個を販売した「キン消し」であり、登場人物を一般からの公募で決めるという前代未聞の「超人募集」だったのです。

これにより当時の子供たちは、超人たちに常に触れることでキン肉マンへの愛着を深められましたし、公募で採用された超人についても「おれが育てた」という感覚で新キャラに対して最初から一定の思い入れを持てたのです。(余談ですが、私はいま、YouTubeでビジネスをしており、このあたり大いに学ぶべきことがあるように思います)

なおかつ当時のキン肉マンは「推しについて語り合う」とか「続きが気になる」というしかけがめちゃくちゃうまく、話題が尽きなかったのです。

つまり当時の「キン肉マンファンたち」は、日本中の小学生男子たちの「最大コミュニティ」を形成していたのです。

そしてキン肉マンは1988年に最終回を迎え、その幕をいったん閉じます。

と、ここまでだったら「昔の子供たちの間で一世を風靡したマンガ」で終わるところなのですが、キン肉マンの凄さは2012年からの、24年ぶりの連載再開にもあります。

この2012年からの再開版は「猛烈なキン肉マンのファン」という東大卒の、敏腕編集者がサポートについたことが大きな特徴であります。

つまり「俺たちの代表」ともいえるファンが無限の愛と知識を作品に注入したのです。
そんなの面白くなるに決まっているじゃないですか。

実はその前にも「キン肉マン2世」というキン肉マンの子供世代を主人公にした作品があるにはありました。しかしこれは、キン肉マンや往年のヒーローを老いさらばえさせたことで賛否両論が分かれる作品でした。あのころあこがれたヒーローのたるんだ腹とか見たくないです…。私個人としてもあまり好きではなく、作者自身もあまりいい評価を持っていないと聞きました。

しかし2012年から連載された再開版は違います。キン肉マンが、当時のままの姿で現れ、いちばん見たい試合を見せてくれたのですから。

野球でいえばイチローが、松井が、野茂が、サッカーで言えばカズが、釜本が、中田が、本田が、20代の全盛期の姿で戻ってきて、「ちょっと俺たち世界を獲ってくるわ」とウインクしてくるようなもので、そんなの涙が止まらるわけないじゃないですか。

なんなら敵側も全盛期の姿であり、ノーランライアンやボンズ、ジダンやインザーギやクライフが甲子園球場だの国立だので手ぐすね引いて待っているようなものであり、視聴率はとうぜん、100%なのであります。

そんな、当時キン肉マンに熱狂した少年たちもいまやアラフォー。就職氷河期でもがき、苦しみ、年齢を重ねてきた歴戦のおっさんたちです。

出世した人も、しなかった人も、ひとしく人生の甘さや辛さを味わい、その結果としてのいまを受け入れて日々を過ごしております。

薄い髪、出た腹、たまるストレス。しかし、日曜夜0時、キン肉マンがWEB公開された瞬間だけはあのころに戻れるのです。

課長も社長も派遣もクリエイターもサラリーマンも無職もひとしく、「駄菓子屋の前でキンケシで遊ぶガキ」に戻り、Twitterで和気あいあいと騒げたのです。

職場や友人や家庭でキン肉マンについて話せるわけもなく、Twitterだけがコミュニティのありかとなっていたのです。

かくして、日曜0時のTwitterトレンドはここ数年、キン肉マンが常連となっていきました。

あの半沢直樹と並んでキン肉マンがトレンド入りしてるんです。令和2年ですよ。

しかし、その情勢はこのツイートで変わりました。

私もレスしておりますがが、これについては作者が正しいと思います。

画像の権利を持つのは作者や出版者であり、そのスクショをネットに上げるのはお行儀がよくないのはとうぜんです。

そして私以外の人も納得してる。スクショを上げるのはみな、いっせいに手控えました。

だって読者、おっさんだから。そりゃあ一部はマナーの悪い人もいるかもしれませんが、いい意味でも悪い意味でもお子様はいないコミュニティなので、そのあたり物分かりがいいのです。

ネタバレも、けっして悪意でやっていたわけではない。「うおおおおおキター」と興奮があふれ出していただけなのです。

そしてなんといっても、作者のゆでたまご氏は、私たちの世代の生ける伝説のような漫画家であり、その言葉は重いのです。

問題はそこから先です。

これもわかるけど、「だったらトレンドとか上がらなくなるけど、いい?」というところまで覚悟しているか疑問で。「話題にしてほしいけど、SNSに書いてほしくない」って、お前それいいとこどりしか考えてない?と正直思いました。

こっからの経緯は、下記が詳しい。

作者は「すくなくとも3日はネタバレをまて」と言い、そのネタバレと感想の差もあいまいで、どこまでが悪質か、どこまでが善かの線引きがわからないままに法的措置をちらつかせられ…。

こわっ。

週刊プレイボーイ編集部もそれに同調。「文章によるものを含む悪質な著作権侵害やネタバレは、刑事告訴、損害賠償請求などの法的手段を講じることもある」

ジャンプ+編集長も同調。「ジャンプ+でもキン肉マンを連載していますが同じ気持ちです」

で、これにより何が起きたかというと、キン肉マンがいっせいにトレンドから消えたのです。

作者がFacebookで「Facebookにくらべ、Twitterは便所の落書き」と言っちゃったのもよくなかったです。

お前、Twitterトレンドに上がったの、喜んでドヤってたんちゃうんか…。

それにとどまらず、ジャンプ+のほかのマンガの感想もいっさい、ネットにあがらなくなったのです。当然だよね。こわいもんね。

ってか、ネットファンと作者は、敵と味方ではないのです。味方がほとんどなんです。そこを初手で法的措置をちらつかせ、まるっと敵認定されて、「ああ…俺たちのあの熱狂は作者には迷惑でしかなかったのねー」と冷や水をぶっかけられた気分なのです。

作者の正解ムーブとしては「みなさんのおかげで盛り上がってます」と前置きしたうえで「スクショはやめてね。正直ネタバレはうれしくないけど、みんなのことを信じているよ!」だけでよかったんちゃうんか…。友情パワーはどこ行ったんや…。


これまで日曜24時にスクショを上げてたような、キン肉マンガチ勢の人たちの心理としては「作者の考えは尊重したいし、訴えられるのこわいし、なんかすねたし、冷めたし、もういいや」といったところではないでしょうかね。

「いいおっさんたちがマンガですねるとか、怖がるとか馬鹿じゃないのwww」と思う人もいるでしょう。

そうなんです。「いいおっさんの俺たちが、キン肉マンで熱中する必要があるのか?」と正気に返ってしまったんです…。

これは賛否両論あると思うんですが、ネットで、コミュニティビジネスで生きている人間からすると、コンテンツの一部をファンに上げてもらえるのって、実はめちゃくちゃありがたいことなんですよ。

もっというと、話題になる、そのこと自体がありがたい。

だって世の中は楽しいものであふれているんです。

ゲームも、YouTubeも、お笑いも映画もたくさんある。24時間の奪い合いの、過当競争。

キン肉マンを見なくても時間はいくらでも潰せる。そんな中で、かつて80年代に子供だった人たちがキン肉マンに熱狂し、毎週Twitterトレンドにまでさせる。(そしてそのあと、ちゃんとお金を落とす)

これはものすごい財産だったわけで、なくすのは本当にもったいなかったなと思うんですよね…。作ろうとしてできるもんじゃないですよ、本当に。

80年代にアニメや映画やグッズで宣伝に巨額投資するところからスタートしているコミュニティなので。

ただ、ネタバレを言って訴えられるのは怖いので、もう話題にすることはないと思います。

そして、ネタバレとかそういうこと以上に、WEBのファンが信頼されてないんだなあみたいな寂しさとか、そういうのひっくるめて、めんどう臭くなっちゃった。

ということで、Twitterに存在していたキン肉マンコミュニティは壊滅しました。

単行本は買うかもしれません。買わなくなるかもしれません。ただTwitterで推すことはないでしょう。

コアファンの少なくない数はアンチになったり冷めたりし、残ったファンも訴訟を避けるためツイートは手控えるのは確かでしょう。そして目にする機会が減ります。

もちろん、すべての権利は作者と出版者にあり、ファンがコンテンツの一部を切り取ってを勝手に広めるとか、宣伝になるぞ!とうそぶくのは盗人猛々しい行為です。

権利は作者にあるといわれたらそりゃそうですよね、なんです。

「だからもうなんかいいや、キン肉マンは」が日曜24時に熱心にキン肉マンを読んでつぶやいていた、いちコアファンの心情だったりします。


金の卵(トレンド)を産むガチョウを殺してお腹を割いて、そこから金がでるかどうかは…まだ誰もわからないです。

ただひとつだけいえるのはキン肉マンの主題歌の歌詞「愛する友の眼差しが倒れるたび傷付くたび俺を強くする」とか「ああ 心に愛がなければスーパーヒーローじゃないのさ」ってのを聴くだけで涙を流せた私はもういなそうだなあ、といったところです。


以上、よろしくお願いします。


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