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地平線を濃く染めた

昨晩の会話は、私たちの記念日をいつにするか決めることだった。ポーランド生まれイギリス育ちの彼は、五歳で渡英したため、もはや英語が母語と言っても過言ではない。「きっと台湾や日本では、単語の意味がわかってなくてもシンプルに見た目がかっこいいからタトゥーにした人がいるように、ヨーロッパでもか、かんじ?がかっこよく見えるから入れ墨にした人がいるわけだよね」と。もし漢字一文字で入れるとしたら何がいいかなと冗談で聞いてくる彼。Deep Lを開き、敢えて日英ではなく日波翻訳にした私。「野菜で一文字だと何がある?Potato? Carrot?」「それだと馬鈴薯、人参だから漢字一文字ではないな…」日本では野菜はカタカナかひらがな表記が一般的で、台湾だと繁体字を使うことを教えつつ、豆や米は可愛いから入れるなら豆で決まり…。

「告白の文化がないから、いつ正式に付き合い始めたのかよくわからないね」とここ最近気になっていたことをポーランド語に翻訳して彼に見せたら、後半しか理解できないとのこと。「ほら、日本や台湾では付き合ってくださいって相手に伝える告白の文化があるんだよって前言ったじゃん、they’ve got this confession culture」「あ〜それのことね!宗教的な何かかと思ったよ。それなら僕がスキーホリデーから戻ってきた後かな」「まだその時トライアル期間だと思ってたんだけど」「付き合ってたと思ってたよ」「そう?私がこの関係性を口頭で聞いた日にするのは?」「誕生日に初めて一緒に日帰り旅行に行ったから誕生日は?(ニヤリ)」「えー被っちゃう…」「プレゼントを減らす作戦だった(笑)母が僕の二日後誕生日でさ、こうちょっと間が欲しかったよね」最終的に記念日にしたい日をそれぞれいくつか決めて、次回会うときに話し合うことになった。

今年の誕生日一発目の通知を目にした私は目を疑った記憶がある。なぜなら、メッセージを送信してくれたこの人とは時差ですれ違って友達にすらなれなかった人、だから。心の、左奥に、ギュッと、坪数は思い出二人分あって、そこに今も、在住している。

気づいたら瞼を横断し、地平線を深く染めていた。きっとこの人は引っ越すことなく、たまに旅に出ることがあっても、家賃を払い続けるんだろうな。

話がかなり飛んでしまうけれど、きっと高校時代の友人の結婚式で会うことがあるかもしれないけど、たぶん何も話せないし、話さないんだろうと思うと少し痛いけど、少し笑って何もないことにするんだろうね。

記念日は3月の、初めて丸一日を一緒に過ごした日にするか、5月のこの関係性を確かめた日にするか、もう少し幸せな悩みに悩まされたいと思う。

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