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念願のSCHMUCK入選そして"Herbert Hofmann賞"受賞

コンテンポラリージュエリー分野最大のイベント《ミュンヘンジュエリーウィーク/通称シュムック》が2月28日から3月3日にドイツで開催されました。
コロナパンデミックの影響を受け、ここ数年間はイベント数や来場者数も大幅に減少していましたが、今回はコロナ禍以前のような盛り上がりをみせていました。
特に今年はピナコテーク・デア・モデルネでの企画展の一環で神戸芸術工科大学の展覧会が催されていたり、CJSTの巡回展示やその他のグループ展示、公募展関係なども含め、例年以上に多くの関係者が日本から現地へ訪れていたと感じました。

ピナコテークでのオープニング風景


さて、今回は自分のことについて少し書こうと思います。

表題にもありますが、私は長年《SCHMUCK》という公募展に挑戦してきました。この公募展はミュンヘン市/バイエルン州の応用芸術や手工芸を紹介する機関(Handwerkskammer für München und Oberbayern)が主催しています。約60年間続いており、コンテンポラリージュエリー分野では最も名誉ある公募展だと言われています。そして美術史家で長年バイエルンの美術工芸界を支えてきたHerbert Hofmann博士の功績を讃え、1973年からはHerbert Hofmann賞の授与が始まりました。
特徴的なのは、入選者を選ぶ審査員が“毎年一人”という点です(賞に関しては別の5名)。秘密裏に選ばれた審査員が独断で全ての入選者を決定できるというシステムは、他の公募展ではあまり聞いたことがありません。しかしながら、各年毎に審査員の趣味趣向が色濃く現れ、(プラスに捉えれば)唯一無二の公募展になっていると言えるかもしれません。また違う視点から見れば、これまでの動向や過去作をリサーチするといった“入選のための対策を練れるような公募展ではない”と言えるでしょう。
例年の応募者数は600〜900人前後で、ちなみに今年は630人(51カ国)以上の応募があり、その中から61人の作家(ユニット含む)が選出されました。

私は東京で彫金を学んでいた時にこの公募展の存在を知り、「いつか自分も入選したい!」という気持ちで応募を始めました。記憶にあるのは卒業制作で作った作品を2013年に応募したのが初めてだったと思います。その後コロナで中止となった2021年を除いて10回応募しましたが、今回まで一度も入選することはありませんでした。※2018年は若手部門のTALENTEに推薦していただき入選しました。
海外での活動歴や展示歴も長くなり、周囲からは「あれ?入ってなかったっけ?」と言われ、日本の作家友達やミュンヘン美術院のクラスメイトたちの入選を見届ける悔しい年が続いていました。

今年選ばれた審査員はドイツ出身の作家Norman Weber(ノーマン・ウェーバー)氏でした。2024年のロエベクラフトプライスでファイナリストに選ばれていたり、フリードリーベッカー賞受賞など近年評価が高まっているジュエリー作家の一人です。ミュンヘン美術院の大先輩ですが、私は授賞式でお会いするまで個人的な面識はありませんでした。
ここで、彼が今回選出した作品について語ったインタビュー記事が《Klimt02》というプラットフォームに掲載されているので少しご紹介します。大変光栄なことに例として挙げている3作家のその1人に選んでいただきました。

〈原文・抜粋〉
One of the most important sujets in jewellery is the question of self-expression and external image. Munich-based jewellery artist Takayoshi Terajima tackles this intimate topic by using the latest technology. Every day, he feeds an imaging AI with personal information about himself. His place of birth, height, eye colour and other details are all requested in his application for a residence permit in Germany. He then asks the AI for a portrait of the person described. Although he works with the same keywords every day, the AI generates a different image every day. Finally, the artist works a metal surface by hand and covers it with a pattern of small, teardrop-shaped indentations. In this way, he gives the piece his own signature and ultimately turns it into a genuine self-portrait.

*ジュエリーにおける最も重要なテーマのひとつは、自己表現と外的イメージの問題である。ミュンヘンを拠点に活動するジュエリー・アーティストの寺嶋孝佳は、最新テクノロジーを駆使してこの身近なテーマに取り組んでいる。彼は毎日、画像処理AIに自分の個人情報を入力している。出生地、身長、目の色、その他の詳細はすべて、彼がドイツでの滞在許可証を申請する際に求められるものだ。そして、AIに似顔絵を依頼する。彼は毎日同じキーワードで作業するが、AIは毎日異なる画像を生成する。最後に、作家は金属の表面を手作業で加工し、小さな涙型のくぼみのパターンで覆う。こうすることで、彼は作品に自分のサインを与え、最終的に本物の自画像に仕上げるのだ。
※DeepLで翻訳

https://klimt02.net/events/fairs/schmuck-fair-2024-internationale-handwerkmesse-munich


その後、協会がメインビジュアル作品を選出して一般公開するのですが、こちらも驚くことに自分の作品を選んでいただきました。まさかのカタログの表紙になったのです。これは大変名誉なことで感激していましたが、それと同時に「カタログの表紙に選ばれた作品はホフマン賞を獲れない」というジンクスを知っていたので、今回の受賞者は自分ではないなと考えていました。10年以上挑戦してやっとの入選、そしてカタログの表紙というだけで正直自分の中では満足していました。

2024年のカタログ


そして授賞式当日。
ホフマン賞の受賞者はセレモニー中に初めて発表されます。一人目の受賞者としてスペイン出身のアーティストが壇上に呼ばれ会場が盛り上がる中、二人目の順番で自分の名前が呼ばれスクリーンに作品が映し出されました。一瞬タイトル画面に戻ったのかなと思ったのですが(メインビジュアルに選ばれていた関係で常にスクリーンに作品が映っていたので)、まさかの自分が選ばれていました。事前に全く知らされていないので本当にサプライズでした!
ステージに上がって周囲を見渡した時、初めて自分が受賞者なのだと認識できて嬉しさが込み上げてきました。あっという間の出来事だったのでほとんど覚えていませんが、これまでに経験したことのない貴重な体験でした。

授賞式の様子

今年の審査員は、
・Dr Markus Eder氏/ピナコテーク・デア・モデルネに常設のジュエリーコレクション室を持つダナー財団の代表
・Prof Karen Pontoppidan氏/ミュンヘン美術院の学長兼ジュエリー科教授
・Dr Stefan Kraus氏/ケルンにあるコロンバ美術館館長
・Andrea Mignucci氏/ジュエリーコレクター
・QUEEN Lizzy氏/インフルエンサー、ミュージシャン、アクティビスト
でした。
各審査員が数票の投票権を持ち、1回目の投票で5票もしくは4票で残りの1票の理解を得られた場合に受賞者が確定し、受賞者が3名に達しない場合(ほぼ決まらないそうです)には話し合いが行われたのち2回目3回目の投票で残りの受賞者を選出するという方式をとっているようです。嬉しいことに私は1回目の投票で即決したと教えていただきました。
受賞者の選出理由についてもKlimt02に記事が掲載されていたのでご紹介します。

〈原文・抜粋〉
The artist's portrait is created by an imaging AI and changes every day - based on the most recently entered biographical information. This high-tech image is printed on aluminium, which is then transformed into an ornament using traditional craft techniques, primarily engraving. Its sparkle is reminiscent of traditional jewelry work with precious stones. The oval shape, which has been used for centuries to frame portraits, is also traditional. The portrait is only visible from certain perspectives, which adds to the mystery and playfulness of the object.
Takayoshi Terajima's brooch was recognized for its perfect combination of impeccable craftsmanship, its aesthetics, which is based on a clear concentration and the reduction to a few classical elements.
And not least because of his artistic commitment in a discussion about one of the most important topics in our society: a technological revolution of historic proportions that will challenge our societies more than any technological innovation before. It is about the relationship between artificial intelligence and "creativity", which is of importance for the future development of the arts and crafts, but also goes far beyond this and affects labour markets, business models and our life in general.

*アーティストの肖像画は画像処理AIによって作成され、最新の入力された経歴情報に基づいて毎日変化する。このハイテク画像はアルミニウムにプリントされ、彫りを中心とした伝統工芸技術によって装飾品に生まれ変わる。その輝きは、宝石を使った伝統的なジュエリー作品を彷彿とさせる。何世紀にもわたって肖像画の額縁に使われてきた楕円形も伝統的なものだ。肖像画は特定の視点からしか見ることができず、それがオブジェの神秘性と遊び心を高めている。
寺嶋孝佳のブローチは、非の打ちどころのない職人技と、明確な集中に基づく美学、そして古典的な要素を最小限に抑えた完璧な組み合わせで評価された。
それは、歴史的な規模の技術革新であり、これまでのどの技術革新よりも私たちの社会に大きな試練を与えるものである。それは、人工知能と「創造性」の関係についてであり、芸術や工芸の将来の発展にとって重要であるだけでなく、それをはるかに超えて、労働市場、ビジネスモデル、そして私たちの生活全般に影響を及ぼすものである。
※DeepLで翻訳

https://klimt02.net/events/award-givings/winners-herbert-hofmann-prize-2024-internationale-handwerksmesse

私のように何回か応募しているけどまだ入選していない方もこれから応募を始める方も、SCHMUCKという公募展はかなり運によって左右されると思います。ですが諦めずに挑戦していけばきっといつかは入選できるはずなので、皆さんも是非応募し続けてください。

次回は、ホフマン賞を受賞した作品について解説しようと思います。どのような紆余曲折を経て今回の作品に変化していったかなど、少しでも作品を理解する参考になれば幸いです。

ホフマン賞のトロフィー(コンテンポラリージュエリー分野を牽引した巨匠のヘルマン・ユンガー氏がデザイン)

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