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来週の相場見通し(6/14-6/18)

 5月の米国雇用統計において非農業部門雇用者数は55.9万人の伸びとなった。順調な雇用の回復が確認されたものの、市場予想の67万人には及ばなかった。米国雇用統計後には、金利がじりじりと低下している。何故金利が低下しているのだろうか?それは、「ついに金利上昇に賭けたプレイヤーが、耐え切れなくなった」からだ。年初から米金利は80bp近く上昇した。米国のワクチン普及、経済正常化、インフレ率の上昇、バイデン政権の巨額の財政政策による国債増発、FRBの金融正常化スケジュール前倒しの思惑から、市場では先行きの金利上昇シナリオを描くプレイヤーが多かった。今でも多いだろう。年末までに米長期金利は2.0%を超えるという予想が目立つ。株式市場と異なり、債券市場や債券先物市場のメインプレイヤーは、基本的にはプロである。ヘッジファンド等が中心に、先行きの金利上昇を見込んだ米債先物のショートポジションが長期間に渡り高水準で維持されてきた。しかし、この1ヶ月ほどそういうプレイヤーは非常に苦労してきたはずだ。何故なら、インフレ関連の強い経済指標が発表されても、米国の名目金利も、期待インフレ率も上昇しなくなったからだ。これは、彼らには歯がゆかっただろう。そんな金利上昇を期待するプレイヤーにとって大きな希望の一つが、先般の雇用統計であった。何故なら、4月の雇用統計は予想の約100万人の非農業部門雇用者数の伸びに対して、実際は26.6万人という衝撃的な乖離のある数字が出た。これだけ予想とブレるとなると、5月の雇用統計も大きくブレても不思議ではないし、前月の数字も大きく上方修正される可能性もある。米国雇用統計を機に、再び金利上昇が再開するシナリオに期待したのだ。しかし、実際には5月の雇用統計は、予想よりも下振れた。前月の数字の修正も小幅に留まり、ちょうどいい感じの適温な雇用統計となったのだ。雇用統計がサプライズとならなかったことで、積み上がっていた債券先物ショートポジションが巻き戻され始めた。まだ、金利上昇のビューを修正したわけではないものの、ポジションをいったんクローズする動きが加速している。これが、今回の金利低下の主因である。

米国雇用統計は、これかれも注目されるだろう。しかし、まだ米国労働市場の真の姿は見えない。何故なら、米国では学校の再開はまだ半分程度であり、子供の世話をしなければならない親御さんはフルに働けないからだ。また、失業給付の上乗せ措置もまだ半分程度の州で行われており、意図的な失業者が多いからだ。よく、現在の米国では「働くよりも、失業給付を貰ったほうが有利」みたいは説明がされるが、とてもそんなもんじゃない。働くより2倍の給付がもらえると言っても過言ではない状況なのだ。なにしろ、全米平均で週に600ドル以上の給付が支給されているのだ。これを時給換算すると19ドル弱であると言われている。米国の最低賃金の7.25ドルを大きく上回るのだ。これなら、働かないことを選択する人が多いのは当然である。米国はワクチン普及で経済活動が正常化する中で、こうした人為的な要因から一時的ではあるが、異常な労働市場の逼迫が起こっている。マネックス証券の岡元さん(米国株のプロ)が紹介されていたが、コネチカット州のマクドナルドの店舗では、なんと時給32ドルが提示されているとのことだ。4月の求人数は統計開始以来の930万人というもの凄い状態。しかし、失業率は6%弱もあり、まだコロナで失われた雇用は740万人もあるのだ。
市場では、こうした労働市場の逼迫が持続不能であると分かっており、期待インフレ率は5/12の2.56%から一時2.32%まで大きく低下した。6/10の注目されたCPIは総合で年率5%、コアCPIでも3.8%という高い数字が発表された。しかし、米国の名目金利は、この日でさえも大きく低下した。マーケットのムードは、すっかり「FRBとは戦うな」というものに変化しているようだ。当面は米金利は上昇しにくい中、レンジ内(1.35%~1.65%)で膠着する見通しだ。来週のFOMCでも、テーパリングについては地ならし程度に留まるであろう。ところで、そのテーパリングについて、市場ではこのところ、米国債を後回しにして、まずはMBSから開始するのでは?みたいな議論がある。FRBは米国債を毎月800億ドル、MBSを400億ドル購入しているが、最近の米住宅市場の堅調さから既にMBSを購入する理由に乏しく、まずはMBSだけ購入ペースを減額し、米国債をそのままとする議論である。もしも、こういう議論がFRBでされていることが明確になると、米金利はもう一段と低下するかもしれない。また金利が安定してきたことで、投資家の債券投資(イールドハント)への意欲も増してきている。外国人は、利回りの高い中国国債への関心が高いようだ。中国国債の保有残高は2カ月連続で過去最高を更新している。米債券も他の債券と比べれば、未だに極めて魅力的な水準と、キャリーが得られるカーブがある。金利が安定し、投資家が債券投資を再開し始めると、米金利はなかなか上がらなくなるだろう。


さて、バイデン大統領は6/11から英国でのG7に参加し、14日にはNATO首脳会談、15日には米EU首脳会談、16日にはプーチン大統領との会談に臨む。英国のジョンソン首相との会談では、「新大西洋憲章」を発表した。大西洋憲章とは、1941年に英国のチャーチル首相と、米国のルーズベルト大統領との間で交わされた共同宣言だ。ジョンソン首相は、チャーチルを深く敬愛し、バイデン大統領はルーズベルト大統領を尊敬している。なんとも茶番にも見えるが、こうしたアピールも今の政治には必要なのか。EUとの会談では、トランプ前政権が発動した鉄鋼・アルミニウムへの関税を撤廃する方針だ。そうしたバイデン大統領の外遊は今回が就任後で初となる。高齢のバイデン大統領にとっては、会見等で疲れを見せたり、弱い姿を晒すリスクがある。もちろん、厳格なコロナ対策が取られているが、何事も100%ということはない。そんな点も注意して見ていかなければならない。バイデンの高齢リスクを市場は忘れている点は、今後のリスク要因の一つだ。

 バイデン政権の大型インフラ投資案は、共和党との協議が難航している。民主党は財政調整法により強硬に法案を成立させたい意向もあるが、民主党内でもマンチン議員が反対している状況。現在は増税を伴わない9,000億ドル規模の小型のインフラ投資案が超党派で議論されている。いずれにしても、バイデン政権の法人税の21%から28%への引き上げは既に消滅しており、S&P採用銘柄にはプラス効果となる見込みだ。
バイデン政権は、100日以内のサプライチェーン見直しの結果を発表した。貿易ストライクフォースや、サプライチェーン作業部会が新設され、半導体、EVバッテリー、医薬品、レアアースの分野で政府が一段と積極的に関与することになる。また上院では「対中競争力強化法案」が可決された。これは市場にとって重要なものである。トランプ時代の関税の応酬における米中対立は、株式市場にとって「ネガティブなもの」だった。関税合戦は、両国ともに疲労させるものだからだ。しかし、バイデン政権における米中対立は、株式市場にとって「ポジティブな影響」となる。なぜなら、その戦いは補助金投入による産業育成競争だからだ。米国も中国も半導体分野やAIなどの先端技術に巨額の投資合戦を展開している。このことで、米中の先端分野は欧州や日本を大きく引き離すことになるだろう。この米中対立は、「大国による力の論理」で、競っている両国が強く豊かになり、財源力に乏しい他国が窮乏するのである。このポイントは極めて重要だ。

 欧州では6/6にザクセン・アンハルト州で州議会選挙が行われ、メルケル率いる与党のCDUが圧勝した。注目の緑の党は第6位と伸びなかった。ドイツではワクチンの接種加速により、足元では与党の支持率が再び上昇基調にある。このままの勢いを保てれば、9月の総選挙では与党が有利となる可能性が高い。
日本では東京オリンピックの開催が確実となってきた。これにより、衆院解散の日程については、9/5パラリンピック閉会後に臨時国会を召集、今年度第一次補正予算を成立させ、9/28(大安)に告示、10/10(先勝)に投開票が濃厚になってきた。ところで、最近は3Aという文字を頻繁に新聞等で目にするようになってきた。安倍前総理、麻生財務大臣、甘利税調会長の頭文字のAが3人集まって「3A」と呼ばれる。この人たちが、新たな議員連盟やら何やらを設立し、その最高顧問に安倍、麻生氏が就くパターンが目を引く。日本の政治の腐臭が漂っている。もっと若手、新しい風は起きないのか!と感じてならない。

 さて、来週はFOMCが注目となるが、テーパリングについては、市場が慣れてきているため、金利急上昇→株価急落の可能性は低い。米債のレンジは1.35%~1.65%程度で膠着を見込む。米国株式市場は材料難の中でも史上最高値近辺で推移しており、地合いが強い。但し、来週は18日に先物やオプションの清算日が重なる「クアドルブル・ウイッチング」となるため、少し警戒が必要か。日本株は6月後半からのワクチン接種の加速、配当金再投資や株主総会でのガバナンス改革等を受けて、緩やかな上昇基調を見込む。75日と100日移動平均か29,100円〰200円にあり、ここを抜けるかどうかがポイントだろう。株主総会は、足元では東芝問題で騒がしいが、本来今回の株主総会は、東証再編前の企業の方針が示される注目の株主総会であり、企業からの前向きなこれまでと異なる発信を期待したい。日経平均は28,600円~29,500円を予想する。


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