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来週の相場見通し(9/19~9/23)

1.はじめに

今週はかなり厳しいマーケットになった。その要因は2つある。1つは米国コアCPIの予想外の強さ、そしてもう一つは米国の代表的な運送業者であるフェデックスの業績下方修正である。前者のインフレに関しては、それほど懸念する必要はない。CPI後の市場の動きは過剰反応である。しかし、後者のフェデックスの問題は、懸念材料である。(詳しくは後ほど)

来週はFOMC、日銀金融政策決定会合、スイス中銀の会合もあるいわゆる中銀ウイークである。FRBが一段の利上げを行い、スイス中銀がマイナス金利から脱却するなか、日銀にも政策変更のプレッシャーがかかるとの見通しのもとで、5月から6月と同様に円金利市場では、外国人プレイヤーの先物売りやSWAPの払いによる仕掛け的な動きが発生しているようだ。ドル円相場もレートチェックの話や、来週の日銀金融政策会合を控えて、いったん円売り圧力は弱まっているものの、いつでも145円を再トライできる射程距離にいる。来週の相場はそういう様々な思惑の中で、揺れ動くのだろう。今回は、まずは最近、よく質問されることが多い、日銀の債務超過問題について、まずは解説したい。

2.日銀の債務超過問題

よく、こんな質問をいただく。「日銀が金融政策を変更すると、保有債券の評価損益の悪化により、中央銀行の信認が失われ、とんでもない通貨安になるのではないか?」
そのことに対する答えは、「それは幻想に過ぎないが、一段の円安を進めたい投機筋にとっては、格好のプロパガンダだ

どういうことか?日銀が保有している大量の国債は、満期保有目的で保有していることから、会計上は時価評価しない。日銀も時価を公表しない。ゆえに金利上昇による評価損が、自己資本を棄損することは幻想である。これが、保有しているETFとの違いである。しかし、市場には敢えて日銀の保有債券を時価評価して、その評価損が自己資本を上回れば、「実質債務超過である」と騒ぎ、中央銀行が債務超過の国が発行する円は危ないというロジックで円売りを煽るプライヤーが必ず出てくる。従って、今のように円安トレンドが鮮明の中では、円安に拍車をかける可能性はある。

しかし、先に説明したように満期保有目的の債券は時価評価しない。従って、その勝手な「実質債務超過」を理由に格付け機関が日本国債を格下げすることはあり得ない。また、FRBは既に昨今の激しい利上げにより、保有債券が評価損に陥っている。それでも、市場で起こっていることは「ドル高」である。

では、日銀の金融政策変更で、債務超過になる可能性はないのか?いや、それはある。それは、保有債券の評価損ではなく、日銀が保有している国債等から得られる利息収入よりも、日銀が日銀の当座預金に対して支払う超過準備への利息のほうが大きくなり、実際の資金フローとして入りよりも払いのほうが大きくなる「逆ザヤ」が長期間に渡り継続し、少しずつ日銀の自己資本を削っていく場合である。その金利水準は0.2%程度と目されている。但し、ここで注意が必要な点は、その0.2%とは市場金利のことではない。日銀が日銀当座預金に支払う金利のことであり、すなわち政策金利目標金利であることだ。現在の日銀の政策金利目標は▲0.1%である。これが、プラス0.2%に引き上げられると、そういう逆ザヤになる可能性があるということだ。つまり政策金利を維持したまま、あるいはゼロ%に引き上げた上で、YCCの変動幅を50bpに拡大したりしても、全く逆ザヤにならない。日本の状況を鑑みれば、そのような懸念は相当先の話ということになるだろう。

もっとも、実際の金融政策はもう少し複雑だ。YCC政策による金融機関へのネガティブな影響を軽減するために、日銀は3段階の管理をしており、いわゆる政策金利である▲0.1%が課せられる階層、マクロ加算額と言われる0%の部分、そして+0.1%が付与されている基礎残高に分けられている。現在、基礎残高には200兆円程度、マクロ加算額には300兆円、▲0.1%部分の政策金利残高は5兆円程度しかない。今後については、コロナ融資等の終了により、マクロ加算部分の300兆円は急速に減少していくだろう。このような複雑な金融政策が行われているのは、YCC政策の副作用で金融機関の収益力が低下するのを軽減するためである。従って、日銀が金融政策の正常化に向かう過程では、この3段階の構造も変化、終了となるだろう。日銀がそもそも、金融機関に対して0.1%を付利する必要もなくなる可能性もあるということだ。政策金利目標がゼロ%なら、当座預金への利息もゼロ%になるかもしれない。この辺の議論は、政治的な意味合いもあるので、なかなか難しいところだが、少なくとも逆ザヤの0.2%への付利までには、相当な時間が必要であるということだ。

ちなみに、FRBは今年にも、この逆ザヤ問題に最初に突入することは確実だ。市場参加者の予想では、FF金利が3.5%~4%程度に引き上がると、FRBは逆ザヤとなる。しかし、FRBはその場合でも赤字にはならない。何故なら、繰り延べ資産として負債科目に計上し、将来的にFRBが黒字に回復した段階で、その負債を減らしていけば良いという会計が認められているからだ。しかし、FRBは今年中に「保有債券の評価が損失」かつ、「逆ザヤ」という初の中央銀行になる。それでもドル高傾向が継続するのか、あるいはドル安に転じるきっかけになるのかは、よく分からないが注目している。

日銀の場合に厄介なのは、この繰り延べ資産の会計処理が認められていないことだ。従って逆ザヤになり赤字となれば、自己資本は棄損する。そして、現状の法律では債務超過に陥った日銀に資本注入することができないことになってる。日銀法の改正で、日銀の独立性を高めるために、それをできなくしてしまったからだ。ゆえに実際に逆ザヤ、債務超過となれば、日銀法改正を必要として、必然的にメディアなどで騒がれることになろう。

3.米国の金利について

米国の8月のCPIが市場のインフレ%ピークアウトの期待を裏切り、予想外の高止まりとなったことで、米金利市場、米国株式とも大荒れの展開となった。3月のインフレピークアウト説はFRBの判断ミスだった。今回は市場参加者が6月インフレピークアウト説に期待を寄せていたが、今回のCPIは失望の内容だった。しかし、各種のインフレ関連指標は明確に改善しており、市場のインフレピークアウト説が消滅したわけではない。CPI後の市場の反応は債券市場、株式市場ともに過剰反応と思われる。

8月CPIは総合で前月比▲0.1%の予想に対して+0.1%となった。前年同月比では+8.3%である。より注目を集めたコアCPIについては前月比+0.6%(予想+0.3%)と大きく上振れた。コアサービス指数、コア財指数ともに堅調であるなか、特に賃料が強かったほか、中古車、公共交通機関、宿泊費も低下は限定的だった。単月データとしては、明らかにインフレは引き続き強い状況が示された。ただし、市場では「インフレに粘着性があると指摘するものの、単に家賃に粘着性があるのではないだろうか?」家賃とは、もともとそういうものである。そして、CPIのウエイトに賃料が占める割合が大きいのはよく知られていることだ。

ともかく、このCPIを受けて、市場のFF金利の織り込みは、来年の3月に4.4%、来年末で3.9%まで切り上がったほか(下のチャート)、今月のFOMCの利上げ幅も100bpの大幅利上げが3割ほど織り込まれた。

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4.米国債入札と実質金利動向

先週は、米国債の入札が注目された。結論から言えば、3年債、10年債の入札が不調に終わり、30年債入札は強い需要が確認された。CPI統計が発表された15日には、2年金利は18bpも上昇したが、入札が好調だった30年金利はなんと3bp低下したのだ。この30年債への需要が、米国の10年金利が3.5%を越えずにキャップされている一つの大きな要因だ。ゆえに、ここからの展開は30年金利の居所が重要になってくる。30年金利が3.5%から上離れて4.0%に向かうか、3.5%近辺に留まるかで10年金利の動向が決まるだろう。

さて、もう一つの注目が実質金利である。実質金利は5年も10年も100bpを超えてきた。FRBが想定する長期の実質金利は0.5%と予想されることから、1%台の実質金利は、とりあえずインフレ抑制に邁進するFRBには満足なレベルと思われる。この実質金利は、もちろん名目金利から期待インフレ率を引いたものだが、ちょっと注目したいのは、期待インフレ率が低下し始めたことだ。

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  期待インフレ率が、2%の方向に向かうのであれば、名目金利をそれほど引き上げなくても、実質金利は自然に高まることになる。FRBは利上げペースを緩めることができるということだ。そのことは市場のセンチメントを改善させる可能性があるので、ちょっと注目したい。

先行きの米国金利上昇リスクとしては、もちろん来週のFOMCで更にタカ派的になり、ドットチャートが大幅に引き下げられることはあげられる。しかし、市場の織り込みがすでにターミナルレート4.5%まで上がっているので、そのリスクは低いだろう。FOMCはイベント通過で金利低下、株価上昇となる展開を想定している。

むしろ。ここからの米金利上昇のリスク要因としては、欧州、英国の金利動向が警戒される。市場では来年7月までにECBが2.5%近辺まで利上げを実施することを織り込んでいる。(下図)欧州の実質金利が依然としてマイナス圏にあることを鑑みると、欧州の長期金利は低過ぎる可能性がある。特にドイツにおいても、巨額の経済支援が決まるなど、財政拡張政策が展開されているほか、ECBの量的引き締めの議論に対して市場は織り込み切れていないことから、欧州金利が上昇して、米金利に連動する展開は注意したい。

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5.米国株式市場について

今週は週間でS&P500は5%超の下落となった。酷い展開である。私は今週の金利市場が荒れなければ、株式市場の反発は継続すると想定していたが、コアCPI移行、市場の雰囲気は変わってしまった。さすがに米2年金利が4%を超えていき、それに連動して10年金利も4%方向へと向かうのであれば、米国株は6月の安値を更新する可能性が高まるだろう。しかし、現状では2年金利は4%に向かっているが、長期金利は3.5%近辺で推移している。よく指摘されるイールドスプレッドの考え方では、債券市場に対してS&P500の益利回りは3%以上ないと、株式市場は割高と判断されてきた。長期基金利が4%になると、そこに3%を加えた益利回りは7%にもなる。益利回りはPERの逆数なんで、PER換算すると14.2倍となる。6月の今年の安値をつけた時のPERは16倍台後半だった。予想EPSも下がっているので、単純に比較はできないものの、更なるバリュエーション調整が必要と見る向きが強まるだろう。但し、私はもうS&P500と米長期金利のイールドスプレッドが3%も必要という環境は終了していると考えている。これほど、米国債に対して投資家が倦厭する環境は過去にはなかったからだ。市場では米国債は安全資産ではなく、リスキーな資産と捉えられている。激しいインフレ環境における米国債投資と比較して、投資家が株式市場に3%ものリスクプレミアムを期待するのはナンセンスだ。現在はインフレが最も注目度の高い環境なので、そもそも債券は尺度になり得ないのではないだろうか?ゆえに、あまりイールドスプレッド的に割高、割安という判断を行うのは、危ないと考えている。イールドスプレッドは、債券市場の金利が適正なプライスで、それに対して株式市場が割高か割安かの議論をしている。しかし、その前提の債券市場の適正なプライスが、インフレ環境とデフレ環境では全く異なるということである。

さて、まずはVIX指数を確認しておこう。下のチャートが示すように、株価は冴えないものの、VIX指数にパニック的な動きは見られない。比較的、冷静に米金利の上昇を捉えていると思われる。

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次にクレジット市場であるが、投資適格債のスプレッドも1.5%という注目のラインを下回っている。 (下図)クレジット市場も安定している。

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米金利上昇とドル高により、新興国市場はどうなっているのか?下図は新興国スプレッドの推移であるが、実はこちらも安定している。もちろん、スリランカやパキスタンなど一部の国は債務問題が起こっているが、全体では、これだけの逆風の中でも耐性を保っている。

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こうしてみると、米国株式市場は、ずるずると下落する展開が継続するとは思えない。しかし、そうとも言えないのは、ここでも以前から繰り返し指摘しているEPSショック懸念が台頭してきたことである。私はバリュエーション調整は、もうそれほど怖くないが、EPSの下方修正は十分とは言えず、次の7-9月の決算を前に、そうしたEPSショックが起こる可能性があるのでは?と指摘してきた。今週は、フェデックスの業績下方修正が発表された。下のチャートは、フェデックスの株価である。まさに急落である。

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フェデックスは全米の運送を担うので、ここの業績下方修正は、景気後退を連想させることもあり、それなりに意味を持つ。このフェデックス・ショックはすでに運送関連に波及しており、20社で構成される輸送指数も大きく下落している。(下図)

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今後もこのフェデックスの業績下方修正のようなショックが、金融機関やら、半導体やらで色々と出てくる可能性が高い。市場はナーバスになってきているので、下方修正ラッシュが起こると、米金利上昇が止まっても、米国株の上値は重くなるだろう。しかし、これはどこかでは織り込まねばならない宿命でもある。米国の場合は、決算発表前にそれを過度に織り込み、実際の決算が出てくると、思ったより悪くないというパターンで、7割程度の企業の業績は上振れる。そういう展開を繰り返している。しかし、今回は英国や欧州の景気が急速に悪化しており、スタグフレーションの可能性が高い。米国のS&P500社は平均で20%以上の売り上げを欧州から得ていることを鑑みても、あまり明るい業績見通しは期待できないのではないかと考えている。その時に米金利がピークアウトして低下基調にあれば、EPSの下方修正を、PERの上昇でカバーできるかもしれないが、その際に米金利が4%に向かっていれば、ダブルショックとなる。それは回避することを願っているが、リスク要因として十分に注意したい展開だ。

6.円金利について

15日の記録的な20年債入札の不調もあり、円の超長期金利が上昇している。下の図は20年金利であるが、1%に向けてじりじりと上昇している。

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来週は日銀の金融政策決定会合がある。為替市場で145円目前まで円安が進行したこともあり、いよいよ日銀は政策変更に迫られるとの見方もあるが、日本のエコノミストで日銀の政策変更を予想する向きは全くない。私も、日銀が動くことはないと考えている。ちなみに、20年金利が上昇してくると、金融機関の保有債券の含み損拡大が懸念されるわけだが、私がヒアリングした限りでは、20年金利上昇を投資チャンスを捉えている向きが多い。20年金利が1%に向かう中では、そのリスクリターンはともかくとして、買いたいと考えている機関投資家は相応に多いだろう。いずれにしても、日銀が動かない=世界の中で唯一のマイナス金利国という状況になるため、更なる円安を実現したい投機筋からすれば、再び145円をトライする可能性は高い。そして、介入はあるのか?というのが市場の関心となる。円売り介入を実施するとなれば、1998年以来の24年ぶりとなる。しかし、忘れるべきでない歴史的事実がある。98年には6月に日米協調介入が行われ、143円からドル円は1日で136円へ低下した。しかし、翌日にはもう円安に回帰してしまい、8月には147円台まで円安が進行したのである。日米協調介入をやっても、効果は1日だったのだ。今回は、介入を行うとしても、日本の単独介入となるだろう。やればやるほど、外貨準備が減っていき、その外貨準備の不足を理由に、また円安となる。悪夢のスパイラルだ。へんに介入を行うと、日本の交易条件を著しく棄損することになるだろう。介入などしなくても、為替の円安は必ずどこかで頭打ちとなり、ずとんとポジション調整が起こる。そうこうしているうちに、米金利上昇も止まる。円安は米金利上昇だけが要因ではないが、それでも円安圧力は弱まるだろう。介入などしないのが一番いいのだ。

7.来週の相場

来週はFOMCが最大の注目となる。利上げ幅については75bpがコンセンサスだが、市場では100bpを予想する声もある。最大の注目はドットチャートだが、市場の織り込みは進んでいるため、大きなリスクイベントにはならないと思われる。また、岸田首相が今月下旬の国連総会に出席し、NY証券取引所でスピーチを行う予定だ。今年の5月のロンドンでの「Invest in Kishida」演説は、海外投資家に響かなかったものの、その後、岸田政権の分かりにくかった「新しい資本主義」は、資産所得倍増計画となり、NISA改革など具体的な方向性が見えている。インバウンドなどについてもアピールすると思われ、5月の段階よりも海外投資家の関心は高い可能性がある。いずれにしても、来週は日本が祝日の中で、様々なイベントがある。ベストシナリオは、イベント通過で、波乱がなく、金利低下で株の買い戻し、円金利低下、ドル円は膠着という展開だろうか。波乱の展開は、米金利上昇、米国株安、為替市場では円安が急進、日本政府の介入で乱高下・・・日経平均の想定は意味がないが、2万7千円~2万8千円を見ておこう。








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