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来週の相場見通し(10/11~10/15)

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今日は、まずこのグラフからスタートしよう。外国人投資家の現物と先物を合計した日本株の売買状況だが、9月第5週はなんと1兆7千億円を超える売り越しとなった。菅前政権時に、週間で最も株が売られたのが5月の第2週目であるが、その際が1.1兆円の売り越しだった。つまり、岸田総裁誕生後には、菅前政権の最悪期よりも、更に売り込まれたということだ。唯一の救いは、まだ岸田氏はこの段階では総裁になっただけで、総理には就任していないので、この売り越し記録は菅前政権にカウントされる。もちろん、この株価の下落は、岸田政権への失望感だけが要因ではなく、欧米株ともに売られており、むしろ海外要因が主因であるが、それでも岸田総理に問題がないかと言えば、そうでもない。その辺は後述する。
さて、米国株は、ナスダックが9月の高値から7%超の下落となり、S&P500は一時5%超の調整となった。日経平均株価は、9/14の高値30,670円から2万7千円台まで9%を超える下落となった。とりわけ先物ベースでは、一時2万7千円も割り込んでいる。但し、米国株式市場は、米金利上昇、インフレ懸念などの中でも、しっかりと買いは入っている。今年の2月以降、S&P500は5%を超える調整がないまま上がり続けていたので、このまま反発できるなら、今回の下げは「良い調整」になったと評価されるだろう。米国株の強さの秘訣とは、多様なプレイヤーが凌ぎを削っていることだ。つまり、急落する局面でも、米国市場では必ずそれに立ち向かう、リスクを取るプレイヤーが自然と溢れてくるのである。いわゆる「落ちているナイフ」を喜んで掴もうとするプレイヤーが多数いるのである。こういうマーケットは、恐らくは米国市場だけだと思う。

米国の政治面でもいくつか進展があった。米国議会では12/3までのつなぎ予算が成立し、ぎりぎりで政府閉鎖は回避された。これも毎度の光景である。これまでのパターンだと、12/3にも決まらず、今度は1週間だけのつなぎ予算を成立させるなど、小刻みに伸ばして、なんとか年内に本予算を成立させる流れとなるだろう。一方で、老朽化資産に対する1兆ドル規模のインフラ投資法案等は政治的な駆け引きの中で折り合いがつかず、下院民主党のペロシ院長がは採決の目途を9月末から10月末まで1ヶ月延期した。そしてバイデン政権の目玉政策である格差是正や再教育などを中心とする「人への投資」は、従来の3.5兆ドル規模から、1.9兆ドル~2.5兆ドルに減額修正される見込みで議論されている。このことは市場にはポジティブだ。何故なら3.5兆ドルもの巨額の投資を行うためには、財源が問題になり、バイデン政権は株式含み益への課税や、相続税の強化など富裕層を対象とした課税強化を検討せざるを得ないからだ。これが2兆ドルに規模が縮小するなら、財源の問題も小さくなるので、株式市場にとっても、債券市場にもポジティブなのだ。(短期的に)

債務上限問題も、12/3まで480BNドルの引き上げが承認された。この措置により当面のデフォルトリスクは後退した。しかし、民主党と共和党の対立は継続しており、あくまで一時的なリスク要因の後退であり、来月は再度、この問題が浮上する。それでもデフォルトリスクの後退と、やはり両党ともギリギリになるとこの問題を最優先に対応してデフォルトは回避する姿勢が確認できたことから、米国株式市場が息を吹き返す大きな要因となった。

さて、 世界的に資源価格、エネルギー価格の上昇が加速している。経済活動再開に伴う需要増加に加えて、サプライチェーンの問題や、急速な脱炭素の流れの中で供給不足が顕著となっており、市場ではインフレ率の再加速と長期化、そして最近は「スタグフレーション」という言葉を目にする機会が急に増えている。年初から天然ガスは一時6倍、石炭価格も3倍に上昇した。下のチャートは天然ガスだ。直近ではプーチン大統領が、天然ガスの安定に貢献する姿勢を示したことで急落しているが、それでも年初から見ると強烈な価格上昇である。しかも、まだ冬場は来ていない・・・

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石炭価格(下図)も、ほぼ同じようなチャートである。

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但し、これほどエネルギー価格が上昇する中でも、米期待インフレ率はこれまで安定推移してきた(下図)。(黒線が期待インフレ率、オレンジ色が米国の長期金利) これは、「インフレは一過性」というFRBの見解を市場が信頼してきた証と思われる。しかし、今週はその期待インフレ率がじりじりと上昇基調となっている点は要注意だ。

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さて、市場では「スタグフレーション」に陥るリスクが騒がれているが、現在のFRBは1970年代の「インフレ・ファイター」ではなく、むしろ「デフレファイター」に変化しており、供給制約からのインフレに対して、中央銀行の利上げは効果がないことを熟知している。下の図は米国の利上げ(黒線)とCPIのチャートである。スタグフレーション時代は、1970年代の2回のオイルショックの時期が有名であるが、とくにインフレファイターとして有名なボルカーFRB議長が活躍した1980年代前半は、CPIの上昇率よりも政策金利を引き上げ、インフレを退治している。その代わり、経済には短期的に深刻なダメージを齎した。

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また、上のチャートでは、2010年代はとにかく政策金利を低位に抑えていたこることがよく分かる。それでもコロナ前までは、インフレ率はほとんど上がらない状態が継続してきた。ディスインフレの社会が基調路線なのだ。そうした中で、中央銀行にとっては、「インフレよりデフレのほうが恐ろしい」というのが共通認識となっている。インフレは、それが需要サイドからくるインフレなら中央銀行が利上げをすれば、経済を冷やすことで鎮静化できる。しかも理論上は政策金利に天井はなく、無限に引き上げられる。供給サイドからくるインフレへの対応は難しいが、それは中央銀行の役割ではなく、政府の役割である。また供給サイドの問題というのは、民間企業が営利を求めて行う企業活動により、勝手に解消していきやすい側面もある。(原油価格が高騰する状態が長期化すれば、どこかの民間企業が再生可能エネルギーを開発する)テクノロジーの進化も供給サイドからのインフレを抑制する効果がある。これに対して、デフレからの脱却はかなり難しいのだ。中央銀行は、極端な金融緩和を継続するしか選択肢がなくなる。政府は財政を大判振る舞いするべきだが、各国ともに財政を悪化させたくないマインドは強い。民間企業の価格競争力に向けた熾烈な競争や、新たなイノベーションも、デフレを加速させてしまう。日本が良い事例だが、デフレはなかなか厄介なのだ。現在の世界の中央銀行は、日本の事例を研究し尽くし、それを熟知している。従って、インフレは起こるが、インフレを抑制するために経済を破壊する選択肢は取らない。つまり、インフレと不況が同時進行するスタグフレーションは発生しにくい。FRBも政府もインフレは容認しても、不況は放置しないのだ。
まだ、米国株も日本株も不安定な状況が継続している。この状況はいつまで継続するだろうか?私は一つ目のハードルは、来週の12日に米3年債と10年債の入札、そして13日の30年債入札だと考えている。9月の入札は、過去最高の堅調な入札となり、投資家の米国債需要の強さを確認させた。すなわち、金利低下に寄与した。来週の入札は、インフレ懸念が再燃し始め、スタグフレーションという言葉が目立ち始め、実際に期待インフレ率が2.5%を超えてから初の入札となる。水準的には10年債で1.6%台、30年債で2.1%台という魅力的なレベルにあるが、債券投資家はどういう判断をするのか?この入札が仮に失望の入札となると、米国10年金利は1.7%台に上昇する可能性がある。そして、今年の米金利のピークである1.78%に急接近してしまう。その水準を上抜けると、2%台が見えてくる。さすがに、株式市場はこの急激かつ水準的にも目新しい金利の上昇に耐えられなくなるだろう。一方で、この入札が好調となった場合には、米金利の上昇は収まり、ポジション調整も巻き込みながら、1.5%台を中心としたレンジに戻るだろう。株式市場は金利の安定を好感して、上昇しやすくなる。来週は、まずは入札に注目だ。

2つ目は、やはり来週のCPIなどのインフレ指標だ。期待インフレ率が安定推移してきたのは、市場がFRBを信頼してきたからだ。そのCPIは夏場をピークに前月比ベースでは鈍化してきている。これはFRBの見立て通りだ。そのCPIが前月比ベースで再度加速を始めてしまうと、市場のFRBへの信頼は揺らぎ始める可能性がある。それは、期待インフレ率の上離れを意味し、結果として米金利上昇に繋がる。

3つ目は10月下旬以降の決算動向である。今のところ、米国第3四半期の決算の増益率見通しは29.4%、第4四半期も21.7%まで引き上げられている。小幅ではあるが、未だに少しづつ切り上がっている。企業収益の強さが示されれば、インフレ圧力を企業が価格転嫁た工夫により対応できていると市場は判断するだろう。日本企業の決算も、もともとの見通しが保守的であることや、先般の日銀短観の大企業DIの改善、想定為替レートが107円台という状況を鑑みても、上方修正の可能性が高く、決算発表により徐々に買い戻される展開を予想している。日本の衆院選については、あまり株価を押し上げる効果はないかもしれない。むしろここからは、具体的な補正予算の中身と、岸田政権の具体的な政策が注目されてくるだろう。


岸田政権は、①化学技術立国、②経済安全保障、③デジタル田園都市国家構想、④人生100年時代の不安解消を成長戦略に掲げた。自民党幹事長には甘利氏が登用された。甘利氏に近い山際氏が経済再生担当相、新設の経済安全保障担当相にも甘利氏に近い小林氏が任命された。この布陣を見る限り、この岸田政権は経産省寄りの政権だ。しかし、市場は誤解している。市場では、岸田政権に財務省の臭いを感じて、警戒しているのだ。確かに岸田総理は、いくつか間違いを犯している。鈴木財務大臣の登用、金融所得課税の見直し、四半期決算開示の見直し、分配なくして成長なしのキーワードなどだ。政治とは、優先順位である。限られた政治リソースを、いかに正しい優先順位に使うかが肝であろう。しかも、岸田政権は来年の夏には参院選を控える。時間はあまりなく、早期に結果を出さねばならない。来年の参院選でねじれてしまえば、岸田政権は継続しても、政策は何も進まなくなる。まず、麻生前財務大臣の義弟で緊縮路線の鈴木財務大臣の登用は、市場に不安を与えている。何故なら25年のプライマリー・バランスの黒字化の堅持をきなり表明したからだ。岸田総理でさえ、総裁選時には財政再建の旗は降ろさないとしながらも、まずは経済対策だと言っていた。しかし、鈴木財務大臣の25年のPB黒字化堅持を実現しようと思うなら、もう来年には財政緊縮路線を取らねば、到底実現できない。金融所得税と四半期決算問題は、もちろん改革の必要性はあるものの、今やるべきものではない。優先順位としてはかなり低いはずだ。高市早苗政調会長は、金融所得課税の問題は、日本が安定的に2%の物価目標を達成した後の問題だと言っている。そして四半期決算開示は、米国でもヒラリークリントンも大統領選の公約として検討したり、トランプ政権時代にも取り組もうといた。議員から法案として提出されてもいる。しかし、現在世界で議論されている国際最低法人税率と同じく、単独で行えば株価が暴落するリスクがある。こういった問題は、少なくとも先進国で共同で対応しなければならない。従って、米国でさえ四半期決算見直しは頓挫している。こんな厄介な問題を、岸田政権は今取り組むべきではないのだ。時間がないのだから。そして、最後に「分配なくして、次の成長なし」のキーワードだが、これは野党が叫ぶスローガンであろう。分配政策は重要だ。しかし、同時に考えるべきは、日本は既に「脱成長先進国」であるということだ。日本は「失われた30年」と指摘されるように、世界と比較して、極めて低い成長を続けてきた。とりわけ、この10年は日本の国際的なプレゼンスの低下、日本人の貧困化は目立つようになってきた。望んだわけではないが、とっくに日本は脱成長路線を歩んでおり、それを何とかしなければならないのだ。分配なくして、次の成長の前に、まずはしっかりとした成長をコミットしてくれないと、市場が失望するのは当然だろう。こうした一連の流れは、岸田総理は「政治音痴?」と思わせてしまう。

しかし、私はこの岸田政権のキーマンは甘利氏であり、経産省寄りの政権になると考えている。鈴木財務相に、それをひっくり返すパワーはないと思うし、麻生前財務大臣も党副総裁となることで、その政治的なパワーは少しづつ低下すると思う。11月の文芸春秋で矢野財務次官が、異例のコメントを出して、今話題になっている。財政健全化を強く求める内容だ。これも結果的には、恐らく国民の批判を浴び、逆効果となるだろう。甘利氏、そして経産省が打ち出す「新機軸」をテーマとした戦略的な投資は徐々に出てくるだろう。これは昨今の時代の流れとも一致する。そうなれば、海外投資家の日本株への見直しは進むと思う。来週はインフレと米金利が注目となるが、日経平均の予想レンジとしては、27,600円から28,800円と一進一退の展開を想定している。








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