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来週の相場見通し(8/8~8/12)

今回は、身内に不幸がありバタバタしているので、簡易版でポイントだけお届けしようと思う。前回のレポートでは、「現在の市場での主役は米国株であり、米国株の上昇トレンドはかなり強い。一方で金利や為替はポジション調整主体の動きであり、深追いは危険だ」ということを書いたが、今週はそれを確信するような1週間だった。この流れは、引き続き継続中である。そして、現在の市場ではFRBの先行きの利上げ見通しと、市場の利上げ見通しにかなりギャップが生じており、来年の利下げを織り込む市場は楽観的過ぎると指摘してきた。そのギャップは依然として大きいが、強い雇用統計を受けて市場のほうが訂正モードに入り始めた。まずは雇用統計から見ていこう。

1.米国雇用統計と利上げの織り込み変化

7月の米国雇用統計は非常に強かった。非農業部門の雇用者数の伸びは予想の25万人程度の2倍以上となる52.8万人の増加となった。失業率は3.5%に更に低下した。市場を驚かせたのは賃金の伸びが予想の前月比+0.3%に対して+0.5%も伸びたことだ。前年同月比では+5.2%である。労働参加率は62.1%と低下し、労働市場の逼迫さを示した。文句のつけようのない強い労働市場の状態である。米国は2四半期連続のマイナスの成長率でテクニカル・リセッションとなったが、この強い雇用は実際にはリセッションには遠い状態であることを示している。下のチャートは、米国の求人件数である。足元でやや低下してきているとはいえ、依然として1千万件を超える求人があるのである。ちなみに2010年代の平均は約5百万件であり、通常時の2倍の求人件数が維持されている状況だ。但し、景気が強いから労働市場が堅調という教科書的な要因よりも、実際には米国の人口動態(ブーマー世代の引退)とコロナによる人生観の変化に伴う自発的失業者の増加という供給サイドの要因が大きいことは注意しなければならないだろう。

(求人件数推移)

次に市場の利上げの織り込みの変化を見ておこう。週初の8/1時点での利上げ織り込みでは、年末までに3.3%弱まで利上げした後、来年末には2.6%台への利下げが見込まれていた。(下図)

(8/1時点の利上げ織り込み)

それが雇用統計後は、来年の3月までに3.65%近辺まで利上げし、その後年末までに3.1%近辺まで利下げをする織り込みに変化している。この1週間で利上げの織り込みが、ずいぶんと上方修正されたことになる。それでも、まだ来年の利下げを織り込んでおり、楽観的な状況であることに変わりはない。

(雇用統計後の最新の利上げ織り込み)

ちなみに前回のFOMC後にFRBのメンバーが色々発言しているが、基本路線は4%近辺までFF金利を粛々と引き上げ続けることを主張している。賃金インフレが加速していることもあり、来週のCPIやミシガン大インフレ期待などのインフレ関連指標は大注目となるだろう。米長期金利は6月に3.5%近辺まで上昇した後、7月には2.5%台まで100bpも低下したが、さすがにFRBが4%程度まで利上げをする姿勢を示している中、10年金利の水準は低過ぎる。2年金利と10年金利の逆イールドは常態化しているが、このスプレッドがマイナス50bp程度まで拡大していくと想定すると、2年金利がとりあえず3.5%へと上昇し、10年金利が3%台前半、30年金利も年金やALM需要を受けて3%程度というのが目安ではないだろうか?もちろん、FRBはバランスシート縮小を同時に進めており、何かあれば金利は急上昇する可能性もある。金利について言えば、リスクは上昇方向にあるだろう。

2.サプライチェーンの改善

賃金インフレは強いが、コロナで分断されたサプライチェーン問題によるインフレ圧力は改善が顕著になってきた。市場の注目度の高いISM関連の物価は下のチャートのように大きく低下してきた。ISM製造業の支払い価格は60まで低下したが、これは2010年代の平均が約57程度であることから、コロナ前の平均値に戻ってきたことを示している。

(ISM製造業指数のインフレ項目)

ISM非製造業でもトレンドとしては低下基調であり、改善している。但し2010年代の物価の平均は約58弱に対して、まだ72と乖離しており、製造業に比べると改善は遅れているようだ。

(ISM非製造業のインフレ項目)

3.米国株について

5日までにS&P500社のうち、432社が決算発表を終えた。前半は金融機関の決算で苦しんだが、結果としては77.5%の企業が予想を上回る好決算を発表した。4-6月の利益について、4月の段階では6.8%の増益率が見込まれていたが、決算前の7月には5.6%まで下方修正された。しかし、5日時点で9.2%の増益率に上昇している。しかも、この中には金融の▲21.2%も含まれている。事業会社だけなら、もっと強かったということだ。米国株は「持たざるリスク」が意識されている。このところの米国株の上昇ペースは速いとはいえ、まだまだ年初から売られ過ぎている優良銘柄は多い。米長期金利に上昇リスクがあるものの、6月に3.5%まで経験済みのため、3%程度の長期金利上昇では米国のグロース銘柄は動じないだろう。当面は米国株の上昇局面は継続すると思われる。但し、期間限定だ。次の決算発表はものすごく注目されることになるだろう。何故なら、これだけ景気後退などが意識されながら、EPSの下方修正はほとんど生じてこなかったからだ。次の決算時には米国はともかくとして欧州などは景気後退に陥っている可能性も相応にある。従って次回の決算前には、思惑からEPSショック(大幅下方修正)が生じる可能性がある。今は決算発表がほぼ終わるというタイミングであり、当面は業績への関心は消えるため、足元の強いモメンタムは崩れない。しかし、期間限定であることは念頭に置いておきたい。

4.日本株について

日本株のEPSとBPSが切り上がっている。今年の日経平均株価は、下げ局面でPBR1.1倍が何故かサポートとなってきた。ここまでの決算発表を受けて、PBR1.1倍は26,700円近辺まで上昇している。つまり、2万7千円を割り込むことは、以前よりかなり難しくなっている。海外投資家の7月の日本株の現物と先物の買い越し額は1.7兆円を超えた。(下図)もちろん、岸田政権になってから最大の買い越しである。

(海外投資家の日本株フロー)

日本株の2万8千円台から2万9千円台は、昨年からの塩漬けポジションの戻り売り需要が強いゾーンだ。但し、2万8千円台で底固めをして、じりじりと上昇していくのがメインシナリオだ。但し、ここまでは米国株よりも日本株が優位な展開で推移してきたが、ここからは日本株が一進一退、米国株の上昇に劣後する展開になるかもしれない。海外投資家にも日本の投資家においても、岸田政権の内閣改造、党役員人事、安倍元首相不在の影響、補正予算、安全保障など、そろそろ岸田政権の仕事内容に注目する時間帯に入っていく。岸田政権に親中路線、財政健全化路線が目立つと、海外投資家の失望を招く可能性もあるだろう。

5.台湾リスクについて

ペロシ下院議長の台湾訪問の強行により、台湾海峡に緊張が走っている。今回は、これをじっくり取り上げようと思ったが、今回はポイントだけ指摘しておく。今回のペロシ下院議長の訪問は、中国のメンツを潰したわけだが、そのおかげで中国は「実」を取った。中国にとって、極めて都合が良く、台湾にとっても日本にとっても、米国にとっても不利な状況を招いたというのが私の理解だ。まず、今回のペロシの訪問は議員外交であり、政権の意向とは無関係だ。従って、中国としてもこれで米国とドンパチやることはあり得ない。米国は「一つの中国」の原則を堅持している限り、中国側としては、それほど大きな問題ではない。但し、ペロシの訪問までに中国は米国に対して、採算忠告してきた。直前には習近平とバイデンの電話会談まで行っている。それでもペロシが訪問してしまったことから、中国はメンツを潰されたということになる。しかし、中国はメンツを失ったことで、「軍事演習の名目で台湾を6方向から取り囲んで、海上封鎖をする」という最もやりたかった演習を行うことができた。何もない時に、こんなことをしたら大問題になるだろう。しかし、ペロシの訪台への報復としての軍事演習なら、西側も動けない。この軍事演習は脅威である。何故なら台湾はエネルギーの98%を輸入に依存する国である。今回の軍事演習は7日までの数日間とされているが、中国は気に入らないことが起これば、今後は何度も今回のような海上封鎖を行うだろう。例えば、軍事演習とはいえ、これが1ヶ月間継続されたら、米国はどうするのだろうか?台湾は干上がっていく。半年も継続されたら、米国は中国に武力介入するのだろうか?あくまで、中国は軍事演習という立場だ。我慢できなくなった台湾が中国を攻撃すれば、戦争を開始したのは台湾ということになる。中国は、今後、この台湾を取り囲む期間を少しづつ長期化することで、米国や西側の動向を試すことができる。危なくなれば、軍事演習を終えて引き上げるだけだ。どこまで、米国に覚悟があるのかを試せるのである。今回のペロシ訪台は、そういう意味で台湾のためにも決してプラスになる行為ではないだろう。短期的には中国の軍事演習が7日で終わればリスクオンになるだろう。しかし、中長期的な台湾リスクは以前より高まった。

6.来週の動向

来週に日本株は底堅い展開を予想している。もちろん、中国の軍事演習が7日で終了することが条件だ。これが延長されたりすれば、リスクオフとなる。基本シナリオは、台湾リスクの後退からリスクオンで、米国のインフレ関連指標と長期金利の動向が注目となる。しかし、例え長期金利が上昇しても、一時的にはグロース株の下落要因とはなるものの、すぐに買い戻されるだろう。米国株と中国株ともに上昇する展開となれば、日経平均株価も売りをこなしながら、2万8千円半ばまで上昇すると思われる。但し祝日をはさむこと、夏休み休暇になること、岸田首相が10日にも内閣改造、党役員人事を前倒して行うと報じられていることから、その辺で上下に振れるかもしれない。日経平均のレンジは27,750円~28,600円を想定している。

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