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来週の相場見通し(2/12~2/16)①

1.はじめに

株式市場が沸いている。米国、日本の株価上昇は目を見張るものがるが、下のチャートのように世界的に株価は堅調だ。MSCIワールド指数は、今週ついに史上最高値を更新した。

(MSCIワールド指数)

また、米国経済の好調さばかりが語られるが、新興国が堅調なことも明るい材料だ。ウクライナ戦争、中東ガザでの戦争、そして紅海の情勢悪化などの様々な不安があるなかでも、新興国は驚くほど好調だ。下のチャートは新興国スプレッドであるが、非常に安定している。

(新興国スプレッド)

こうした状況のなかで、生成AIや最先端半導体への投資が、驚異的なペースで進み、市場に新たなフロンティアを産み出している。しかし、株価のあまりの好調さに、市場経験が長い人ほど、揺り戻しが懸念され、どこか気持ち悪さを感じたり、押し目買いを待っている間にどんどん上昇してしまうことで、何か乗り遅れた感に苛立っているのではないだろうか。
債券投資家もややフラストレーションが溜まっているはずだ。FRBやECBの利下げ開始は、目の前に迫っている。しかし、始まりそうで始まらないもどかしさ。コンサートが始まる前に、定刻になってもスターがなかなか登場しないことがある。暗闇でスターの登場を待ちわび、じらされている。そんな状態だ。今回も幅広い観点から、今の相場をチェックしておきたい。何かのお役に立てれば嬉しい。

2.米国市場の状況

① 商業用不動産問題

まず、ここから始めよう。ニューヨーク・コミュニティ・バンコープの決算から市場でもざわつき始めた商業用不動産問題と、金融不安である。下のチャートのように、同行が決算発表において最終赤字となり減配を決定すると、市場では米国商業用不動産の動向や、中小金融機関の破綻を警戒する事態となった。ムーディーズが同行の格付けをジャンク級に格下げしたこともあり、強い売り圧力に晒されている。

(ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ)

市場が商業用不動産に一定の不安を感じる中、同行だけではなく、問題を抱える個別行は株式市場で強烈に売り込まれている。下のチャートは、KKR不動産ファイナンストラストの株価である。

(KKR不動産ファイナンストラスト)

日本のあおぞら銀行が米国商業用不動産関連の損失で、最終赤字に陥り、本問題が日本にも飛び火した。

(あおぞら銀行株価)

さて、この問題は、個別行の独自の問題であると指摘する人と、これは金融不安に発展する大きなリスク要因の可能性があると警戒する人がいる。私の見立ては、「米国の中小銀行は数が多過ぎで、もともと再編や合併は必要であり、商業用不動産問題から、今年は個別行の再編が進むかもしれない。しかし、これはネガティブではない」というのが、まず基本的な考えだ。その上で、商業用不動産問題は、次のように捉えている。「リスク要因であるものの、既に市場ではこれを昨年の3月の金融不安以降、夏場までにさんざん議論してきたことであり、サプライズがない。そして、現実的に一部の地域での商業用不動産は大きな問題を抱えているものの、決して全米規模ではない」ということだ。ましてや金融不安については、大手銀行への波及経路が限定的であり、商業用不動産ローンは、中小金融機関に集中していること、更には既にFRBや財務省などの当局が、この分野への警戒を怠らずに注視しいることを鑑みると、金融システム不安を巻き起こすリスクは極めて小さいと考える。下のチャートは、KBW銀行指数だが、昨年3月の状況とは程遠い。

(KBW銀行指数)

最大手のJPMの株価は史上最高値近辺で推移している。(下図)

(JPM株価)

商業用不動産の急落に脆弱な大手行と見られているM&Tバンクの株価は売られたものの、既に下げ止まっている。

(M&Tバンク株価)

また、下のチャートは米国のCMBSの中で格付けが低いBBBのスプレッドの推移である。商業用不動産問題が深刻である場合には、このスプレッドがワイドになると考えられる。昨年3月の金融不安時には、スプレッドが跳ね上がっているが、足元ではむしろタイト化している。これは意外ではないだろうか?市場で騒がれている状況と、実際のマーケットは違うのである。

(CMBS 格付けBBBのスプレッド)

また、金融不安に発展するリスクが高まっているなら、最も脆弱なハイイールド債の市場に何らかの兆しが出るはずだ。しかし、下のチャートのように、ハイイールドスプレッドは警戒域の500bpを大きく下回る安定ぶりだ。

(ハイイールド・スプレッド)

こうしたことを総合的に鑑みると、あまり心配はないだろう。むしろ、問題のある個別行への激しい売りは、今の市場のフラストレーションを感じさせる。スケープゴート的な売りである。冒頭にも述べたが、株価が上昇していることは嬉しいのだが、ほとんど調整局面のないこの上昇に対して、市場参加者は何となく気持ち悪いのだ。だからこそ、逆説的にまだ上がるのかもしれない。そうした気持ち悪さの副作用として、弱い株、問題のある株は必要以上に売られやすいムードなのだと思う。

② 米金利の動向

米金利がじりじり上昇している。下のチャートは米国10年金利であるが、1月の金利上昇(赤い枠)と、2月の金利上昇(緑色枠)は少し状況が異なる点に注意したい。どういうことか?

(米10年金利)

下のチャートは10年金利のタームプレミアムである。1月は大きく上昇していることが分かる。1月の金利上昇の主要因は、1月として過去最高を大きく更新した企業の起債である。要するに需給の問題だ。もちろん2月も過去最高を更新しそうな勢いで起債は継続している。しかし、下の緑部分のようにタームプレミアムは大きく上昇していない。むしろ、今週の米国債の入札は、3年債、10年債、30年債ともに旺盛な最終投資家の需要が確認され、市場に安心感をもたらした。

(10年金利タームプレミアム)

それでは、何故米金利は上昇しているのだろうか?それはFRBのタカ派メッセージである。しかし、このメッセージとは、「3月の利下げの可能性が低い」というようなものではない。それはほとんど意味がない。そうではなく、FRBから「中立金利上昇」に対する議論が、再び取り上げられていることだ。中立金利は昨年の夏から秋にかけて盛り上がったテーマである。サマーズ元財務長官などが「中立金利は1.5%~2%程度に引き上がっている可能性」を指摘し、一方で元IMFのチーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏は、むしろ中立金利は低下基調にあるとして、市場ではこの議論の対決が注目されてきた。

ところで、下のチャートはオレンジ色が市場が織り込んでいる先行きのFF金利であり、青色が昨年12月のFOMCにおけるドットチャートの中央値である。よくニュースでは、「市場は利下げを織り込み過ぎている。今年の6回の利下げはあり得ない」などと報じられる。それはあくまで24年の金融政策に限定した話だ。下のチャートのように、26年までの金融政策の織り込みを比較すると、実はFRBのドットチャートのほうが、市場よりも「深くて長い利下げ」を示しているのだ。私は、米金利は低下していくと考えているが、その理由の1つは24年の利下げが後連れしても、市場は25年の利下げを深く織り込むと考えるからだ。そして、それはFRBがそういう道筋を示しているからだ。しかし、中立金利が上昇していることがFRB内のコンセンサスとなり、利下げサイクルが「浅くて短い」ものになると、長期金利はあまり低下しないことになる。そういう意味で、FRB内の中立金利の議論は、利下げの開始時期よりも重要なのだ。

しかし、結論から言えば、市場はFRBの中立金利議論を勘違いしているように思える。どのメンバーも「短期的な中立金利」が上昇している可能性を指摘しているだけで、「長期の中立金利」が明確に上昇していると指摘する人はいない。ましてやFRBの主流派であるパウエル議長やニューヨーク連銀総裁などは、長期の中立金利は上昇していないとの立場だ。どうも、短期と長期の中立議論が市場では整理されていない印象を受ける。ゆえに、中立金利もそのうち落ち着くことだろう。米金利は引き続き大きく上昇する展開は想定していない。当面はレンジ内の動きになりそうだ。

最後にCPIの年次改定は、波乱がなかった。そういう意味でも、今週は米金利は上昇しているものの、一連の入札を全て堅調で乗り切り、このCPIの年次改定も消化した。来週はCPIがあるものの、米国債投資にとっての投資環境は改善しているだろう。現時点では、市場は3月の利下げを20%ほど織り込み、5月の利下げを7割、6月までの利下げは100%想定している。年末までは4回の利下げが100%織り込まれている。以前は6回の織り込みであったことから、2回ほど修正されたということだ。当面は、この織り込みが継続していきそうだ。

(FF金利の先行きの織り込み)

③ 米国経済動向

米国経済動向で気になるものを取り上げておこう。まずはISM製造業とISMサービス業の支払価格の急激な上昇だ。

水準的にはインフレ加速を懸念するものではないが、伸びの大きさはちょっと警戒が必要だ。これは紅海の情勢悪化により、喜望峰ルートを余儀なくされており、輸送コストの増加が顕在化していると思われる。早く、この地域が安定することが望まれる。

次に景気へのムードだが、米国景気に対する楽観的なムードは拡大している。米景気サプライズ指数は下のチャートのように力強く上昇している。

(米景気サプライズ指数)

コンファレンスボードの120人のCEO調査では、米国景気への楽観的な見通しが過去2年で最高になったとも報じられている。株式市場だけでなく、企業経営者も米経済に強気なようだ。アトランタ連銀のGDPNOWも非常に強い状態を維持している。(下図)

(アトランタ連銀 GDP NOW)

さて、米国予算局(CBO)が最新の経済予測を発表したので、取り上げておきたい。まず米国の財政赤字であるが、下の表のように2034年に向けてどんどん拡大していく。しかし、GDPもしっかり伸びることから、GDP対比では6.1%程度にしか悪化しない見通しだ。

また雇用については、24年は非農業部門雇用者数は84千人ペースに落ち、失業率は4.2%へ上昇する見通しのようだ。10年金利を4.6%と想定しているのは高過ぎるように思える。

また、FRBの利下げについてはCBOは24年の第二四半期からスタートする前提のようだ。下のグラフであるが、この見通しだとFF金利は大きく下げるものの、長期金利の低下は鈍く、逆イールドが解消される見通しのようだ。

最後に、米国経済の注意すべき点であるが、1つはクレジットカードの延滞率の上昇、そのことによる米国個人消費減速への不安である。確かに青いラインであるクレジットカードの90日以上の深刻な延滞率は上昇している。水準的にはまだそれほど高いわけではないが、クレジットカードローン残高は過去最高であることや、クレジットカードだけでなく、BNPL決済も増えていることを鑑みると、チャートが示すよりも深刻な可能性があり、若年層などの弱い個人は苦しんでいることが推察される。

次に米国における格下げの状況を示したのが下のグラフだ。23年は格下げが大きく増加した。やはりFRBの強烈な利上げの影響は、実体経済の弱いところには効いている。FRBの利下げが遅れると、その影響はこういうところに顕在化してくるだろう。

(格下げ)

それでも欧州の状況と比較すれば、米国経済は非常に好調だ。明日は欧州経済を取り上げるつもりだ。

④ 米国株

米国企業の決算発表が進んでいる。今回の決算は、やはり生成AIや最先端半導体の強さが如実に表れている。昨年末のマイクロン・テクノロジーの決算で生成AIの明るい見通しが語られ、そのバトンをTSMC、ASML、スーパーマイクロ、マイクロソフト、アームへと引き継がれてきた。もちろん、メタやアマゾンなどのプラットフォーマーもこのストーリーを盤石にしている。大トリを飾るのは、もちろんエヌビディアである。
なぜ、この分野がこれほど驚異的に強いのだろうか。どのCEOも口を揃えて、「まだほんの入り口」であると語る。それは、この生成AIを爆発的に成長させる土壌が既に存在しているからだ。スマホが登場したときは、スマホは、何もない市場を開拓していった。ガラケーを駆逐していくプロセスである。これに対して、生成AIは世界に存在するスマホやPC、電気自動車などあらゆるハードをそのまま利用することができる。毎年スマホは10億台以上、パソコンは3億台弱くらいは販売されている。この生成AIは、スマホの登場よりも比較にならないインパクトをより短期間で引き起こすのだろう。恐らく、我々もアナリストもこのスピードについていけない。

さて、S&P500の23年4QのEPSの伸びはは引き上がっている。そして、その先についても総じて堅調な見通しだ。

(S&P500)

昨年10月からの予想の変化を示したのが、下のグラフだ。テクノロジーが牽引しながら、全体が上方修正されてきたことが分かる。

次にラツセル2000を見てみよう。ラッセル2000は23年の第4四半期が業績の底になりそうだ。24年以降は現時点では、回復の年になると見込まれている。

(ラッセル2000)

ちなみに、ラッセル2000の昨年の10月からの変化が下のグラフだが、こちらもテクノロジーが好調である。米国株は高値警戒感はあるものの、無理やり悪材料に注目して弱気になるのは危険だ。調整局面はいつでも起こり得るが、米国経済、米国の起業業績ともに強い。更には数カ月後には、FRBの利下げドラマも開演する。その先には、米国大統領選という大きなテーマが控えているものの、まだこの株式市場の気持ちの悪い上昇は継続しそうだ、

(ラッセル2000)

さて、最後に米国は大統領選関連だ。州の裁判所がトランプ氏の出馬資格を認めなかったりして、連邦最高裁に持ち込まれている。米国大統領選については、あらためて詳しく取り上げるつもりだが、1つだけ確かなことは、今の最高裁であれば、基本的には伝統を無視するような判決はしないということだ。憲法の拡大解釈もしないだろう。すなわち、トランプ氏は最高裁に持ち込めば、自身が不利になることは、まずないと考えておくべきだ。
下の表は米国最高裁のメンバーだ。上も人ほど保守派色が強く、下にいくほど、リベラルになる順番で並べた。9人のメンバーの内、6人は保守派であり、そのうちの3人はトランプ氏が大統領時代に任命している。トランプ氏は91の罪状で4つの裁判を抱える。はっきり言って、大統領選前に決着がつくことはないため、トランプ氏の共和党大統領候補への道を直接的に阻むものではないだろう。但し、間接的には膨大な弁護士費用と、裁判への時間はトランプ氏にとって大きな負担となることは間違いない。

さて、今回は2回に分ける。明日以降は、ドイツの厳しい状況と、日本について取り上げる予定だ。良い週末を!


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