見出し画像

来週の相場見通し(12/26~12/30)

1.はじめに

今年の相場は、本当に最後の最後まで何があるか分からない荒れ相場だ。今週の最大のサプライズは、日銀のYCC政策の修正である。今回は、このテーマが中心とならざるを得ないだろう。色々な方向から、日銀の金融政策の変更の経緯と今後の動向を考えていきたい。

2.日銀の突然の政策変更

① サプライズ!

今回の日銀金融政策決定会合の変更は、Blommbergサーベイにおける著名エコノミスト47名で予想した人は誰もいなかった。要するにサプライズである。何がサプライズかといえば、タイミングである。決定された「YCC政策における10年金利の許容変動幅を従来の0%を基準に±0.25%から±0.5%に拡大」という内容自体は、市場においては全くサプライズではない。いずれ、そうなるだろうと広く予想されていたものである。但し、市場では「黒田日銀総裁の任期中ではなく、次期総裁の下で行われるだろう。早くても春闘の状況を確認してからだろう」との見方が一般的であった。

② 金融引き締めなのか?

黒田総裁は記者会見で何度も、「金融引き締めではない」と繰り返した。むしろ、「YCC政策を持続可能に強化するための措置」であると強調した。確かに黒田総裁が説明するように、マイナス金利も維持されているなか、輪番オペを月間7.3兆円から9兆円へ増額し、指値オペの年限も2年債、5年債、20年債に拡大しており、金融引き締めではないとの黒田総裁の説明には一定の説得力があるだろう。しかし、翌日の新聞等では「事実上の金融引き締め」という表現が使われていたほか、海外の新聞では例えばウオールストリートの社説では「日銀が市場に屈した日」、「日銀がコントロールを失った日」などのタイトルで日銀の政策変更が取り上げられており、黒田総裁の言葉は届いていないようだ。しかし、それは当然であろう。黒田総裁の任期がこれからも継続するなら、市場はその声に耳を傾けるが、来年には新たな日銀総裁が決まる。日銀と政府の政策アコード見直し議論や、日銀の金融政策の検証作業の必要性への声が高まるなかでは、今回の措置が金融引き締めではないとしても、「金融引き締めへの最初の一歩」として捉えられるのは自然なことだろう。

③ 日銀のロジック

今回のYCC政策の修正は、日銀審議員の全員一致で決定された。また、検証作業等が行われることもなく、唐突に決定された。市場は、このやり方に違和感を持っているものの、日銀としては「政策政策を変更したわけではない」との立て付けであり、単にYCCを持続可能にすべく微修正したに過ぎないというものだ。だから、全員一致であり、市場への事前アナウンスの必要性すらないという理解だ。これまでの日銀の経緯からすると、かなり苦しいロジックではあるが、日銀としては押し通すしかないのであろう。日本銀行は、28日に先般の金融政策決定化合での主な意見を公表する。ここでの議論はじっくり見てみたいものだ。もちろん、市場にとっては円高進行等のリスク要因となるので要注意だ。

④ 何故、このタイミングだったのか?

これは完全に個人的な推察に過ぎないし、黒田総裁の任期、次期総裁への配慮など色々な複合要因であろうが、私は「為替水準がベストタイミングであったから」と考えている。どういうことか?仮に今年の10月のように為替が150円を超えて、明らかに日本経済において行き過ぎた円安リスクが語られているときに今回のような中途半端な金融政策の修正をしてしまうと、「日銀は円安防止のために金融政策を修正した」と市場に捉えられてしまう。そうなると、為替が円安に進行するたびに、日銀の金融政策が変更になるという思惑から、市場は乱高下してしまう。投機筋の関心を駆り立てることになる。為替政策は財務省の所管であり、日銀の金融政策は結果として為替に影響を及ぼすものの、為替政策のために金融政策を行うわけではない。この原則を崩壊させるリスクは大きいので、円安局面では金融政策の変更がむしろできないのである。
一方で黒田総裁は、記者会見でさらっと「米国はインフレがピークアウトし・・・」などと言ってしまっていたが、来年はFRBが利下げに転じるとの見方も強く、為替市場ではドル安円高に反転している可能性がある。例えば為替の水準が120円台の時に日銀が政策変更を行えば、一気に110円台に円高が進行することも想定される。ここ数年のドル高基調が全面的に巻き戻されている局面なら、極端に円高に振れる可能性もあるわけだ。10月に為替の水準が150円台で日本の主力輸出企業の想定為替レートが135円~140円程度だとすると、あまりに短期間の変動が激し過ぎる。従って、135円から140円台で推移していたタイミングは、金融政策の微修正を行うには最適なタイミングだったのだ。但し、黒田総裁は130円台まで円高になるとは想定していなかったことだろう。

⑤ 日銀の金融政策の微修正は成功?

これはまだ何とも言えない。海外の市場参加者が休暇から戻ってこないと何とも言えない。しかし、今のところ円債市場は全く混乱していない。一番不安定になっているのが為替市場であり、その為替市場の影響で株式市場も弱い。しかし、日銀の金融政策の影響をダイレクトで受ける円債マーケットは、秩序だった動きをしているのだ。円金利の10年は、仮に日銀がYCCの幅を±0.5%に拡大したら、一夜で10年金利の水準は0.25%から0.5%になるだろう。日銀は今度は0.5%で無制限に国債を買う必要に迫られる。これが一般的な見方であった。しかし、日銀の金融政策の当日に0.46%程度まで10年金利は上昇したものの、その後は低下している。0.5%に届いてもいないのだ。何故、こんなことになるのか?本邦投資家には、もう売るべき国債をほとんど保有いていないのだ。国債は日銀の担保繰りにも必要で金融機関は一定量は保有する必要がある。そういう担保のための国債を除くと、ほとんど日銀が日本国債を保有しており、売り物がないのだ。もちろんショートポジションを作成することは可能だが、日本の機関投資家はそもそもカネ余り状況であり、現金を何かに投資したい意向が強く、円金利を敢えてショートにすることは好まない。外国人投資家は、ショートポジションを多用するものの、現在は休暇モードであり、全ては年明けからとなるだろう。

(円金利10年の推移)

下のチャートは20年金利である。日銀のYCC政策が撤廃に向けて動いていくなら、20年の超長期がどこまで上昇するのかというのは重要になってくる。金利が急上昇しやすいゾーンだ。しかし、日銀のオペが入ったこともあり、こちらも無秩序な動きになっていない。また、日本の生目保険会社等からは、20年金利が更に上昇するなら、投資を増やしたいとの投資方針が出ており、20年金利が1.5%を超えるのは難しい展開だ。

(円20年金利推移)

地方債はどうか?東京都債の利回りは、金融政策決定会合に0.7%方向に向かって上昇した。これが0.75%程度に張り付くと、市場が日銀がYCC政策の幅を±50bpから±75bpに織り込んでいるとも判断できるわけだが、そうなっていない。今の所は、日銀に更なる政策変更を迫るような展開になっていないのだ。

(東京都債の利回り)

金利に敏感なリート市場はどうか?日銀の政策変更を受けて、東証リート指数はまずは急落した。しかし、下げ止まるとそこから反発している。株式市場が崩れて、リスクオフムードの中でも、下落の半分程度を取り戻しているのは、追加の金融政策変更を織り込んでいないという証拠だろう。このように見ていくと、日銀の今回の政策修正は、大きなパニックを引き起こしておらず、成功したと言えるだろう。但し、今の所だが・・・

(東証リート指数推移)

④ 外国人投資家の思惑

外国人投資家は、これまで日銀に何度も勝負を挑んではやられてきた。だから、円金利をショートするポジションは、「未亡人ディール」と呼ばれている。今回の政策変更が初勝利と言えるかどうかは分からないが、ようやく報われたのかもしれない。外国人投資家の長期債の投資動向は以下の通りだ。
6月に大きく売り越し、9月に再び大きく売り越した。6月から10月までに6.9兆円の売り越した後、11月には1.1兆円をショートカバーした。それでも、大きなショートポジションを維持している。ちなみに外国人投資家は、このようにいつもショートポジションなわけではない。19年度は通年で4600億円の買い越し、20年も5200億円を買い越している。今年は、黒田総裁の任期が迫る中、日銀の政策変更にポジションを傾けてきたのだ。

(外国人の長期債への投資フロー  単位:兆円)

こういう状況なため、年明け以降の円金利は再び、外国人勢がショートポジションを取ることで、日銀の金融政策を催促する相場になるかもしれない。

⑤ 今後の展開

日銀ショックの余波はまだ継続している。というか、まだ本格的に開始するのはこれからだろう。円金利は所詮は上限は0.5%となるであろうから、それほど問題はない。市場の関心は為替である。為替相場はまだ、いつでも130円割れをトライできる射程距離圏にあるため、要注意だ。日経平均株価もドル円が135円~140円のレンジ内に移行するまでは、為替が気になって、なかなか力強い反発は見込めないかもしれない。
材料としては26日に黒田総裁が日本経団連審議委員会で講演する。先般の会見のようにYCC政策の修正は、金融引き締めではないと繰り返すのだろう。28日は日銀金融政策決定会合の主な意見が公表される。来年の1月5日は10年国債の新規入札がある。1月中旬には東京都債の値決めが予定されている。そして日銀総裁、副総裁人事へと繋がっていくのだろう。次の日銀総裁が決まり、新日銀体制とその方針が示されるまでは、なかなか落ち着いた展開にはならないかもしれない。但し、為替相場を決める大きな要因は、巷で言われるような日米金利差ではなく、結局は米国の金融政策の方向性であると思われる。米国のインフレが明確に鈍化し、FRBが利上げを停止し、その後に利下げに向かうなら、ドル円は日銀がYCCを継続しても円高となるし、逆にインフレが収まらずにFRBが利上げを5%超まで継続していくなら、日銀がYCCを多少変更しても、大きな円高とはならないのではないだろうか。結局は、ドル円だけでなく、大きな「ドル高」という流れが継続するのか、「ドル高からドル安に反転」するのか。そこがポイントだと思われる。

⑥ 地域金融機関への影響

今年は銀行株に追い風が吹いた。特に地域金融機関の株は稀に見る堅調さであった。地域金融機関の株価上昇は、日銀の金融政策の修正で地銀を苦しめてきたマイナス金利が解除されるのではとの思惑や、法律改正で地銀の業務拡大が可能になったこと、アクティビストの地銀への注目、株価の割安さ、地銀の生き残りをかけた改革が加速してきたことなど、複合要因であろうが、今回はYCC政策の修正に伴う短期的なポイントだけに絞りたい。下のチャートは、東証銀行業指数であるが、今年の厳しい相場の中でも、年初荒大きく上昇している数少ないセクターであり、11月以降は売買高も含めて、一段と上昇ペースを加速させている。

私は、地域金融機関株は中長期的に、非常に面白い分野であると思う。日本が遅れてきた分野は、医療、農業、教育、金融であるが、金融以外は成長分野に転換している。大いに取り残されているのが金融であり、これから期待できると思ってる。但し、YCC修正について言えば、地域金融機関の恩恵は大きくない。むしろ決算的には、短期的に厳しくなることを指摘しておきたい。株主がその決算悪化を冷静に受け止められるかがポイントになるだろう。
まず金利が上昇すると、金融機関の株が買われやすいのは、貸出金利が上昇するのに対し、預金金利はなかなか引き上げられないため、単純に預金と貸金の利ザヤが拡大し、いわゆる銀行の本業の業績が上向くためである。また、金融機関は貸金よりも預金が多く、大量の余剰資金を日銀への預け金や有価証券運用に使っている。金利が上昇すれば、そうした余剰資金の運用の資金利益が改善することが予想されるわけだ。
しかし、まず今回のYCC政策の修正では、貸出金利はほとんど上昇しない。市場性貸出金利のベースとなるTiborの日銀金融政策決定会合後の動向が下のチャートだ。急上昇しているように見えるが、なんと0.135%から0.14364に僅かに1bp上昇したに過ぎない。銀行の過当競争も激しい中、これでは貸出金利を引き上げようがないだろう。

(Tibor6カ月)

金利が上昇して、銀行の本業収益が改善するためには、短期金利が上昇する必要があるのだ。それにはマイナス金利政策の解除が伴う必要がある。逆にマイナス金利が解除され、例えば現在の▲0.1%から+0.1%等に引き上げられると、そのインパクトはかなり大きい。短期金利も急上昇するし、日銀当座預金からも利息を得られるようになるからだ。残念ながらYCC政策の修正で長期金利だけが上昇している場合は、むしろ地域金融機関の有価証券評価損を極めて悪化させる。近年は地域金融機関が外債での実損や評価損の拡大が話題になってきたが、円債と外債では大きな違いがある。外債の場合は、逆ザヤであるほか、単純な有価証券投資のために、地域金融機関は保有している外債をロスカットする。例えば政策投資で保有している株式の益と併せて損切りしてポートフォリオリオを改善させる。しかし、円債の場合には地域金融機関は、ほとんどロスカットはせずに、満期まで保有することを選択するだろう。何故なら、まずは逆イールドでなく多少なりともインカムが得られること、そして資金があり余っており、何かキャッシュを潰するために投資する必要があるからだ。円債をロスカットして、円資金が戻ってきても、困るのだ。また地域金融機関は国債だけではなく、地方債なども大量に保有している。この地方債の評価損悪化も大きい。足元では地方債のスプレッドが拡大しており、地域金融機関を苦しめている。来年以降も日銀の政策変更への思惑が高まり、円金利上昇圧力や地方債のスプレッド拡大が続くとしよう。それでも地域金融機関は円債や地方債は保有を継続する。満期まで持てば損はしない。しかし、その過程で評価損だけは、かなり拡大することになる。この評価損の拡大を投資家が冷静に受け止めることができるかどうかだ。リートも問題だ。リートは海外投資家がこれから売り越し主体に転じていくだろう。リート売りも海外投資家にとっては、日銀と戦うディールの1つだ。そして、リートへは地域金融機関もかなりの投資をしており、リートが下落すると、これまた評価損拡大になるし、地域金融機関はリートはロスカットを検討し、それが実現損として決算を悪化させることになる。しかもリートを損切りしてしまえば、この低金利下の環境で高い配当利回りを失い、業務純益を減らす要因になるかもしれない。このように今回のYCC政策修正は、銀行の業績を改善させるというよりは、次の決算等の短期的な視点では、有価証券評価損を拡大させるものだ。地域金融機関への投資は、日銀のマイナス金利解除も見据えた長期的な視点が必要になるだろう。

⑦ 日銀のもう一つの出口戦略 ETFの行方

日銀の出口戦略の議論が盛んになるにつれて、日銀が保有する50兆円を超えるETFをどうするのか?という議論も徐々にリアルになっていくだろう。様々な案が検討されている。新しい資本主義実現会議などでは、特別基金を設立し、基金が発行する永久債とETFを交換し、日銀のバランスシートから取り除いたうえ、基金がETFを株式に現物化して、得られる配当収入を国民の金融リテラシー向上のための資金に使う案や、岸田政権の貯蓄から投資への政策の一環として、国民に無償で配布する。ただし、60歳まで売却できないなど、市場への影響を分散化させる案など、様々な案が検討されている。岸田政権は支持率が低迷しているため、何か国民が喜びそうなことをやってきそうな気もする。もちろん検討案によっては、法律改正なども必要であり、そう簡単ではないだろが、こうした議論も注目していきたい。

3.米国の23年度予算成立

米国の23年度予算(22年10月~23年9月)が、ようやく成立となった。総額で1.7兆ドルである。下の項目が注目される予算項目だ。

ウクライナとNATO加盟国への支援金として450億ドルが決定された。米国は開戦後すぐに136億ドルの支援を決めたが、すぐにウクライナが使い切り、5月に議会が400億ドルの支援が決まった。もう残っていないだろう。そして、今回450億ドルが可決されたわけだ。ウクライナは、こうした米国からの支援がなければ、到底戦争を継続できないだろう。
マンチン議員のエネルギー許認可改革案も可決された。これは、米国のエネルギー開発に関する許認可を大幅に短縮させるためのものだ。インフラ投資法案が既に通っている中、認可が進めば実際の工事に着工できるわけで、インフラ関連株価やエネルギー関連株にとっては、かなりサポ―ティブになるだろう。
SAFE Banking Actとは大麻業界が銀行から融資等の金融サービスを受けやすくするものであり、大麻関連株にはポジティブだ。

4.来週の相場

来週は年末休暇モードで引き続き閑散となる見込み。米国金利は、2年、5年、7年の入札がリスク要因だが、材料不足で3.5%~4.0%程度で膠着を想定する。株式市場は米国ではタックスロスセリング、日本株は為替市場の動向がリスク、中国は感染拡大、ウクライナ情勢もきな臭い。日経平均の予想レンジは25,500~28,000を想定している。来週のレポートはお休みします。
今年も1年、お世話になりました。皆さま、ハッピーホリデー&良いお年をお迎えください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?