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アカデミー賞候補解説『パワー・オブ・ザ・ドッグ』


半年間球根から育ててきたラナンキュラスが咲きました。やっと、やっと!

28日のアカデミー賞発表に向けて、少し映画解説をしてみようと思います。

『ドライブ・マイ・カー』は言うまでもなく傑作なので、他の作品の見どころを。

Netflix映画の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、今期最多の11部門12ノミネートはただごとじゃない。

私の感想としては、ものすごく斬新。難解だけど、じわじわ後からくる味わい深さと痛さ、目に焼きつく画角ひとつひとつの美しさも忘れられない作品です。ただ、暗い。暗いけど美しい。そこがいい。

Netflixで見られるので、この記事を最後まで読んでみて興味をもったらぜひ見てみてください。

・サスペンス好きな方
・人間ドラマ好きな方

にはおすすめしたい映画です。
が、私にとっての良い映画の基準もお伝えしておこうと思います。

・没頭できる映画
・感情の起伏の振れ幅が大きい映画
・忘れられない映画

これが私の基準なので、ハッピーエンドでなくても、トラウマ級につらい映画でも、良い映画はあると思っています。

それをふまえて、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の見どころは、

・荒野の絶景
・時代の変わり目の断絶
・謎めいたラストの恐怖
です。

・荒野の絶景
牛と馬とカウボーイ、砂地と岩山、風景がとにかく美しい。どのシーンも美しい。衣装もセットも光の加減も土埃さえも。お洒落なカフェのモニターで放映されてそう。

・時代の変わり目の断絶
兄はカウボーイ。西部劇、馬乗り、デニムとネルシャツ革ベストでガサツな男尊女卑。弟はスーツで自動車に乗る紳士なビジネスマン。
舞台は1920年代のアメリカ・モンタナ州。(その頃日本は大正時代)
前時代を引きずって新時代に進めない兄の苦悩と、そんな兄を軽蔑の目で見る弟の断絶が人を巻き込み広がっていく展開の痛さを感じながら、時代の移り変わりの目撃者となる面白さ。

・謎めいたラストの恐怖
ガサツな旧態依然のカウボーイと繊細なアカデミストが、衝突し、歩み寄り、物凄いスリルから一気に急展開する。
ここは難解なので、洋画を見慣れていないと何が起こったのかわからないまま終わってしまうかもしれない。洋画を見慣れている私も、急展開に起こったことが信じられず、見終わった後に「あれがああなって、あれが起きて、最後に彼があれしたってことは、そういうことだから…うわーまじか、そういうことか、怖いわ、しばらく立ち直れないわーそれも愛か愛なのか」と、整理してからじわじわ色々な感情が込み上げてきてゾッとする恐怖を感じました。

悪意と良心と愛と憎しみと悲しみが溢れ出して、最後には驚きと斬新な展開の末に、静かにどん底の恐怖に陥れてくれる作品です。
ただ映像は始終美しい。

「ピアノ・レッスン」で女性監督として初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジェーン・カンピオン監督の仕事だと思うと、リスペクトも増します。ここまで喜怒哀楽の楽以外全部載せみたいな心持ちと、この時代の女性の立ち位置の難しさもきちんと描いてくれて、ありがとう!美しきどん底に落としてくれてありがとう、という気持ちです。

主演のベネディクト・カンバーバッジは独特のクセがあって、性格の悪い役が多いのですが(マーベルのアベンジャーズシリーズのドクター・ストレンジなど)、史上最高レベルに嫌な役に完全にハマりきっていて、そこにも感嘆したのでした。

最後に、Netflixの配信映画の可能性という面でも注目です。

広島市内で映画館を運営する序破急のサイトでは

アメリカの映画界は劇場の興行収益が減収するので、ネットフリックスなどの配信に対しては、きびしい目を向けています。
このネットフリックス作品が、初めての作品賞を取れるのか、どのような評価を受けるのか、そこがまた大いに興味深い見どころになってきています。

https://johakyu.co.jp/recommended/

コロナ禍の状況をふまえ、そして審査する会員も刷新されたアカデミー賞、発表が楽しみです。


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